カバンの持ち主


作者:wikiの人◆SlKc0xXkyI

男:ケチな泥棒
オッサン:どんくさそうなオッサン

男01「ん? 俺が何してるのかって?
   そうだな、その質問に答えるために、始まりから教えてやるよ。
   いつだったか、俺はカバンを盗んだのよ。
   タクシー乗り場を通りがかった時、どんくさそうなオッサンがいてさ。
   そいつが大事そうにカバンを抱えてたわけ。
   俺はピーンときたね。あのカバンには金目の物が入ってる!
   で、タクシーが来て、オッサンがそれに乗ろうとした時だ。
   ずっと抱えてたカバンを、オッサンはつい片手で持っちまったのさ。
   盗るなら今しかない! 俺はカバンを引っ手繰って、一目散に走ってやった!
   今でこそケチな泥棒だが、昔は陸上やってたからな。誰も捕まえられやしない。
   でもよ、驚いたのはそっからだ。
   なんとオッサン、すげぇ形相で追いかけてきやがる!
   死に物狂いってのはああいうのだって理解したね。
   何せオッサン、本気で走ってる俺に追いつきやがったんだから!」

オ01「(息を乱して)お、おい、返せ! それは大切な物なんだ!
   金か、金がいるのか? 金なら払う、いくらだ!?
   いくらでも払うから、それを返してくれーッ!!」
男02「うおっ……腕を掴むんじゃねぇよボケッ!!」

SE:打撃

オ02「ぐぶっ! う、うぅ……い、痛い、血が出てる……歯が折れた……。
   酷い奴だ、なんて酷い奴なんだ……。
   でもいい、許す。何をしても許そう。
   だからそれを、大切なんだ、返してくれ」
男03「お、おお……」

男04「なんつーか不気味だったね。
   思いっきり顔面殴ってやったんだぜ?
   歯も折れて、口からだらだら血を流してるのに、許すってなんだよ。
   もうカバン返せとか言ってる場合じゃないだろ、どう考えても。
   だが、そこで俺は確信した!
   オッサンがそんな風になるぐらい、カバンの中身には価値があるってな!」

男05「あー、あのな、オッサンよぅ。
   このカバン、俺のなんだ。分かるだろ?
   あんたのカバンだって言うなら、証拠を出してくれ」
オ03「証拠……? 何を……何を言ってるんだ、君は……」
男06「いや! オッサンの気持ちはよく分かる!
   カバンを盗られたんだろ? 酷い奴がいるもんだよな、許せねえ!
   だけどこのカバンは俺の物なんだ。
   似てるカバンとか、よくあるよな。そういうのだ。
   オッサンには同情するが、人のカバンを自分の物にするのはいけねぇな」
オ04「あ、ああ……君は、言うのか……?
   そのカバンが……中身が、自分の物だと……言うのか」
男07「ああ、そうだとも! このカバンも、中身も! 全部俺の物だ!!
   何か文句あるか!?」
オ05「いや、ない……ないよ、ちっともない……。
   そうかそうか……そうだったな、それは君のカバンだった……。
   カバンも、中身も。何もかも君の物だったね……」

男08「ぶつぶつと呟いて、オッサンはふら付きながら引き返して行く。
   さすがに取り返すのは無理だって、やっと理解したみてぇだな。
   俺は勝ち誇ったように笑い、カバンに目を落とした。
   どんなお宝が入ってるのか、早いとこ確かめてみなくちゃな!」

男09「さーて、何が出るかな、っと。
   …………ひっ、あああああああああああああああああ!?」


男10「で、俺は今日もタクシー乗り場に立ってるわけさ。
   あのオッサンと同じように、このカバンの新しい持ち主を見つけるためにな。
   あ? カバンの中身は、結局何かって?
   教えてもいいんだが――あんた、ハンバーグが食えなくなる覚悟はあるかい?」


終わり