壊れた蛇口


作者:ミハエル◆/K9sTWStcc

A 絵描きの旅人 穏やかで人見知りをしない
B 初老の男 朗らかで陽気
C 酒場の店主 特に特徴のない脇役,Bと兼ねるのも有り

※これはAの視点で進む小説みたいな形式をしています。
ですので、Aは殆ど心の中の声、みたいな台詞です。ただし、
A_00『台詞』
と書かれている部分は、Aが発言している台詞です。
また、Bは全て発言してる台詞です。

読みづらいでしょうが、どうかお付き合いくださいm(_ _)m


【タイトル】壊れた蛇口

A_1「梅雨の平原はとても静かだ。雨の降る静かなノイズの様な音、蛙の鳴く声、耳には入ってくるのだけれど、心を逆撫でしない。心地よい、まるで聴こえてこないかの様な音が、僕は好きだった。旅をして一年が経とうかと言う頃、僕はそこにいた。ぐずついた一本道の水溜りを避けながら、次の町を目指す。周りは雨で灰色がかって、遠くが滲んで見える。あとどれ位先なんだろうか? そう思いながら小さな丘を登って見ると……。」
A_2『民家?』
A_3「丘の下にポツリと一軒、こんな町外れの、しかも人通りの少ない場所に。中々立派な屋敷、とまではいかないが、小奇麗な造りをしている家だった。一見何処にでもある農家だが、周りには農地がない、不思議な家だった。丘を下って前を通ると、家の横で人がしゃがんでいた。」
B_1「ふぅ、困ったなぁ……」
A_4「そう言って立ち上がり、伸びをしているその人は、少し頭の後退した初老の男だった。良く見てみると、蛇口が壊れて水が止まらなくなっている。どうやらこれを直していた様だ。」
A_5『お手伝い致しましょうか?』
B_2「ん? おぉ! 済まないが、頼むよ! どうにも頑固者でね、はは。」
A_6「近くに行って良く見てみると、蛇口の元を閉める金具が歪んで、緩くなっていた。」
B_3「子供たちにね、やられちまったのさ、はは。近頃言う事聞いちゃくれなくってな。口をすっぱくして言ってるんだが、馬の耳に念仏でなー。ものは大切にしろ!ってな。……どうだい、直りそうかい?」
A_7『えぇ、なんとか……。お子さんは何人くらいいらっしゃるんですか?』
B_4「そりゃもう沢山さ! やんなっちゃう位沢山さ! でも……みぃんな可愛いもんだよな、子供ってのは。だから尚更さ。親の言う事は聞いて欲しいもんだねぇ……。にしてもあんた、手際がいいねぇ。何してる人なんだい?」
A_8『僕は絵を描きながら旅をしてるんですよ。といっても、絵だけじゃ路銀が尽きてしまうので、行く先々で人助けと称してお金を貰っているんです』
B_5「へぇー! 偉いね! 絵描きで万屋かー! 兄さん、あんた将来偉くなるよ!」
A_9「今偉いのか、これから偉くなるのか、何だか良く判らなくなったが、悪い気はしなかった。」
A_10『はい、多分これで当分は大丈夫だと思いますよ』
B_6「はー! 凄いね! もう直っちまった! お礼に何か……、っと今金がねぇんだった。あの山に生ってるスイカがまた旨いんだが、今日はもう子供たちに食われちまってな……」
A_11『いえ、お構いなく。それより、僕は応急処置をしただけなので、ちゃんと直すなら工房の人に頼んでくださいね』
B_7「いや、兄さんが来てくれたから、もう大丈夫だよ」
A_12「その言い方は、はっきりと確信している人の、落ち着いた喋り方で、何故だか納得してしまいそうになった。」
A_13『でも……』
B_8「大丈夫だって!」
A_14「そう言うと、急に雨が止んだ。今まで分厚く被っていた雨雲が、彼の声に呼応する様に、空という舞台から幕へ下がる役者の様に、四方へ散っていった。それはとても、とても不思議な光景だった。」
B_9「な! 空だってそういってる!」
A_15「日の光が待ってましたとばかりに大地に射し込み、雨水の滴る大地が輝く。そして、後退した頭も。」
A_16『ま……眩しい』
B_10「がっはっはっはっは!」



A_17『では、晴れた事ですし、僕はこれで……』
B_11「そうかい? なんかお礼しなくて良いのか?」
A_18『えぇ、本当に』
B_12「そうか! じゃ、また会った時は梨食わしてやるよ! 梨!」
A_19『あはは、有難う御座います。では……』
B_13「またな!」
A_20「そういって僕はその不思議な家を後にした。旅をしていると、色々な人に会う。優しい人、不幸な人、面白い人、しっかりした人、死んでしまった人。皆、また会おう、そう言ってくれるが、実際に再会出来た人は一人も居なかった。でも、この人とは、必ずまた会える、そんな気がした。
   少し歩くと直ぐに町へ着いた。すると、町はてんやわんやの大騒動になっていた。とりあえず宿を探して荷を置き、酒場で晩を食べるついでに何があったのかを聞いた。酒場の店主によると、裏山で土砂崩れが起きたそうだ。」
C_1「凄いのなんのって! どどどだぁぁぁー! って! びっくりしたよ! 多分、最近やり始めた山の開拓計画ってのがいけなかったんじゃないかなぁ? あれはちょっと乱暴な感じがすると思ってたんだがよ。」
A_21「死者は出なかったそうだが、このまま雨が続けば町が飲み込まれてしまうかもしれない、そんな折急に雨が止んだので皆急いでふもとから友人の家に荷を移しているのだそうだ。僕は話を聞いた後、さっき会った人の話をした。壊れた蛇口、言う事を聞かないが可愛い子供達、直した途端に止んだ雨。一通り話し終えると、店主は笑った。あそこに家なんかないよ、と。そんな筈は無い! そう言うと店主が僕をなだめる様にこう言った。」
C_2「そういやぁ、あそこには祠があったな、なんでも、古い神様が住んでるそうだよ。もしかしたら、神様が俺たちに山を大切にしろって言ってるのかもな。」
A_22「僕もそんな気がした。店主は町長にこの事を話して、開発を辞める様に言って見るといった。次の日、僕は町を発つ前に昨日の道を引き返してみた。小さな丘の下には、やはり祠があった。その祠には、瑞々しい梨が供えられていた。旅をしていると、色々な人に出会う。再会できた人は一人も居ない。でも……」
B_13「またな!」
A_23「あの声を思い出すと、また会える様な気がした。」



【あとがき】
こんな長い台詞誰が読んでくれるんだろう……。
初シナリオ投稿です。