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夏と死と少女

女:小学生は幼女に入りますか? 名前はナツミ、お転婆っこ
男:あ~あ~ぁ 中学1年生~♪ 名前はアキオ、本の虫


女01「あーきーちゃん! あきちゃーーーん!!」
男01『その声に目を覚ます。開きどおしの窓からの日差しが、もうまぶしい。
   慌てて腕時計を確認したが、そう遅いわけでもなかった』
男02「アーァ……なんねえ、ナツ。まだ朝の六時やないけ」
女02「せやかて あきちゃん! ここ私有林て看板に書いてあったやないの。
   遅うなると管理人のオッチャンとか来るかもしれへん」
男03「ふわァ…………そういや、そうやったなあ。ナツはよう頭回る子ーや」
女03「へへッ、せやろ~!」
男04『彼女の悪知恵の回りぶりには、昨日だけで何度も助けられた。
   僕のほうが多分、頭はいい。彼女は通信簿もまるで気にしようとしない。
   紙ヒコーキ代わりにして、先生にぶん殴られていたような記憶さえある。
   が、僕は本の知識しかない。知っていても、彼女のように咄嗟に動けない』
女04「あきちゃん、はよせな。あたしはどこでもええけど、あきちゃんは綺麗なとこがええんやろ」
男04「どこでもええて、なんね。折角やし、選んだらええのに」
女05「選んどっとる場合とちゃうもん。選んだって、後がわからんなら一緒や」
男05『両親には、サマーキャンプに行くと話した。無鉄砲な従兄弟の付き添いに。
   でも実際は、彼女が僕に付き合ってくれている。意気地なしの僕のために待ってくれている。
   彼女の言うとおり、僕は遠くでないといけない。ずっと、ずっと遠くでないといけない』
女06「おるかなあ、コトボッキュル」
男06「コロボックル」
女07「コトボ……小人でええやん。テレビで見たで、寝てるうちに靴直してくれるんやろ」
男07「それはグリム童話。
   ほんまは綺麗な森の中にいるらしいわ。子供にしか姿見えへんそうやし、どこおるかもわからんけど」
女08「さよかあ、あきちゃん、もう中学1年生やもんなあ。大人は大変や」
男08『そう、中学生だ。だから森の中に妖精がいないのも知っているし、彼女も多分知っている。
   きょうびの小学生は、テレビの妖精に糸と針金がついていることくらい分かっているのだから』
女09「この山はどうかなあ。おったらええねえ」
男09『一番仲のよい従兄弟は言った。夏休みが終わったら、もう大人になるのをあきらめるのだと。
   僕は止めなければならなかった、大人だから』
女10「うーんと、9月までまだ……ひぃ、ふぅ……ん! いっぱいあるもんな!
   見つかるとこまで捜したろな、あきちゃん」
男10『彼女は、僕が命より大事にしていたレスポールを折り曲げたことも、
   一度だって逆らったことのない両親の写真をぐちゃぐちゃにしたことにも、理由を問わなかった』
女11「ナツがついとる、太鼓腹でいなっせ!」
男11「大船に乗ったつもり?」
女12「それそれ!やっぱりあきちゃん大人や、すごいなあ!」
男12『僕は大人と子供の境をふらふらしたあげく、何も持たずに逃げ出した。
   食料だってお金だっていらない、歩く足さえあればいい。歩く足が疲れたら、ただ寝そべればいい』
男13「なっちゃん」
女13「なにー?」
男14「なして、大人イヤなん」
女14「ひみつ!」
男15『僕は、彼女のお気に入りのチェックのワンピースがズタズタに裂かれていたことを知っていた。
   もうすぐ夏が終わる。同じ名のついた彼女も、季節と一緒に飛んでいく。
   大人になった秋をおいて、ピーターパンの国へ帰るのだ』

end
最終更新:2010年10月20日 17:25