テレス04「イテッ、いてえって!! 折れたら治療費請求するか……あ、あががが……!?
アリス02「ああ、災害扱いで出してやろう。貴様のぬるい噴火口のな。
この年端もいかぬ少女に どんな無体をしようとしていたんだ? テレス」
テレス05「もー、いい加減やめてくださいよアリスお嬢、俺がロリコンじゃないのはアンタもよく……あぎゃ!?」
クリス05『アリ、ス……? この方のお名前なのかしら……』
アリス03「前科者がなにを言ってもホラにしか聞こえん……な!」
テレス06「グアッ! も、もう俺若くないんでさ、ね、この辺でロープ、ロープ!
ほ、ほら その子に聞いてみてくださいよ、俺はただ……」
クリス06「あ……! あ、あのわたくし……わたくし、この方に無体を強いられそうになったのです!!」
テレス07「げ!? あの、ちょっと、お嬢ちゃ、」
クリス07「どこかに連れ去ろうとしましたわ!
わたくし、胸が震えてそれだけで呼吸が止まってしまうほど恐ろしかったのです!
あなたが来てくださらなければ、わたくし、わたくし……!!」
アリス04「だ、そうだが?」
テレス08「このバカ!!
俺は貧民町をウロチョロしてるいい服来た子供がいるから、てっきり道にでも迷ったのかと、」
クリス08「嘘ですわ! わたくしの身包みをはいで、小銭でも手に入れようとしたのでしょう!
卑しい臣民! 恥を知りなさい!!」
テレス09「うっせーなお子様!
ね、アリスお嬢、わかるでしょ? 俺悪くない、超悪くない。だけど、この世間知らずのガキがね、」
アリス05「そうだな、法には反しない」
テレス10「でしょ? あ……? ア”ーーーーッ!?」
アリス06「……が、徳には反する。神にその御名を賜った時より誓ったはずだ。『信じて徳を守り』、」
テレス11「ケホッ……『道を外れることなかれ』ー? それがなんなんですか?」
アリス07「簡単だ。お前のような人相の悪い男が急に話しかけてついていく子供がいるか? お前はその時点で失策している」
テレス12「な!? ちょっとお嬢、DVだけでなくパワハラまでですか、それともあてつけですか! 俺泣いちゃう!!」
アリス08「やめておけ、中年の涙ほど醜く汚らしいものはない」
テレス13「よよよ……」(泣くポーズ)
アリス09「ところで、娘」
クリス09「あ! は、はい……」
アリス10「この糞の言う事も一理あるのは確かなのだ。
何が目的でここに来た? ここは若い娘の遊び場にしては、少々物騒な場所だ」
クリス10「わ、わたくしは……その……」
アリス11「ん?」
クリス11「わたくしは……あなた様に会うためにここまで参りましたの!!」
アリス12「は?」
テレス14「へ?」
アリス13「待ってくれ。初対面……だと思うのだが」
クリス12「ええ、でもわたくしはあなたを知っていました、ずっと前から!!」
テレス15「てめ……!」
アリス14「待て。……知っていた、とは?」
クリス13「夢で……夢でいつもお会いしていましたの」
アリス15「夢?」
クリス14「ええ、穢れなきたまゆらの真黒きお髪、青光の銀鎧。わたくしが求めていたのは、まさしくあなた様なのですわ」
テレス16「……お嬢、いけませんや。このガキ、ここがイカれてやがる。お華族さまの思春期にはよくあることらしいですが」
クリス15「お黙りなさい、盗人風情が。
わたくし、こちらの騎士さまとお話をさせていただいているのです、わきまえて慎みなさい!」
テレス17「……ね? イカした頭してやがる」
アリス16「まさか……”眠り巫女”か? その系図の……?」
クリス16「まあ、ご存知でいらっしゃったなんて……! 感激ですわ」
アリス17「名前だけだが。なら、女史はユング家の?」
テレス18「げ……それって地方の悪徳宗教、」
クリス17「その卑しい口を塞ぎなさい、せめて騎士さまがそのお口からお言葉を発していらっしゃるときには
……改めまして、騎士さま。ユング家が三女、クリスティーと申します
お察しの通り、”眠り巫女”の血を継ぐ神女ですわ」
アリス18「事態までは飲み込めんがな……では
はじめに聞こうか。その騎士さま、というのはなんだ?」
クリス18「あ……! ああ、いやだわ、わたくしったら! お気を悪くしないでくださいませ
わたくし、あなたの姿を朧げに見てはいたものの、その御名すら知らないでいたのです。
わたくし、夢のあなたを呼ぶすべを知りませんでしたの。
だから、騎士さまと、そう呼ばせていただいていたのです
会ったら一番にお名前を伺おうと……なんてことでしょう、胸がいっぱいで言葉がすべって空回りばかりです」
テレス19「あーあー、なんとなくわかりましたよ。
つまりこちらのお嬢さんは神託篤き巫女さま、それでアリス嬢の夢を見てはるばるここまで、なるほどなるほど。
で、お華族さまのまどろっこしい喋り方はこっちも嫌気がさしちゃうんですのよ。
用件を言え用件を。何しに来たの? ねえ?」
クリス19「下郎が……。あの、アリスさまとおっしゃるのですか?」
アリス19「ああ」
クリス20「わたくしはクリスと、クリスとそうおよびください、アリスさま」
テレス20「あのー……もしもし?」
クリス21「ええ、そうですわね、下郎。あなたの意見、そう悪くはありませんね。
アリスさまにお手を長く煩わせるのはいけませんわ。せっかくお会いできたと思い、はしゃぎすぎてしまいました」
テレス21「マセガキが……」
クリス22「なにかおっしゃって? それとも小鳥のさえずりかしら?」
テレス22「……コケコッコー」
アリス20「クリス、続けてくれ」
クリス23「では……アリスさま。あなたさまの道行きの言葉、お伝えいたしますわ。
『白き刃をその身に宿し、陰湿なる光を胸に秘めたもの すべは整った、帰れよ我が地に、我が従属』」
アリス21「ふむ……」
テレス23「へ? なんだそりゃ、ポエム?」
クリス24「神なるお言葉は韻をふみ美麗を尊しとするものです。下郎には理解できぬかもしれませんが」
アリス22「いや、私も今ひとつなのだが」
クリス25「神なるお言葉はその神官すら難解と嘆くもの……恥じ入る必要などございませんわ」
テレス24「お前さ、都合いい性格っていわれない?」
クリス26「まず、『白き刃』これは自刃を意味していることが多くありますの。
白きは装束にかかっているわけですわね。本人に死期が近い場合もこれですわ。
『陰湿なる光』、光はだいたいにおいて、「願い」「希望」の意で使われますわ。
陰湿なる、ですからそれは「野望」「暗い望み」に近いもの。普段は決してださぬ、心の奥底に秘めた火山」
テレス25「それいつまで続くんだ? 結局なによ?」
クリス27「コホン……『我が地に』、大地は「母」「女性」「母体」などを表すことが多いのですが
「我が」が男性詞ですので、この場合の対象は……「父親」や、「権利者」」
アリス23「つまり……殺されそうで胸に野望を秘めた者に、権利者が戻れと言っている?」
テレス26「わけがわかりませんぜ」
クリス28「……わたくしも詳細まではわかりませんの。
アリス様のご事情を詳しくてありましたら、推論もできたでしょうけど、お姿しか存知ませんでしたから。
しかし、ある映像が頭の中に流れ込んできたことがあるのです。一番身近に感じられた夢ですわ」
テレス27「それ先に言ってくれよ……」
クリス29「コホン! ……アリスさま、栗毛で巻き毛で、髭の長い恰幅のいい男を存じていらして?
赤一色の下品な軍服を着込まれていて、」
アリス24「ふむ……覚えがあるのが何人かいるが」
クリス30「まあ、そうでしたの、たしかその男、勲章のように模様が刻まれた金ボタンがついていましたわ。
そうですわね、特定はおいておくとして……その男は、アリスさまへ兵を差し向けようと命令なさっていましたわ
鋭く汚らしいお声で! アリスさまに……あ いえ、あの、はっきりとは聞き取れませんでしたのよ
けど わたくし、今までそういった系統の黙視をしてみせましたこともございますの。
あれは嫌らしいたくらみの目ですわ! そうに決まって……」
(off)
テレス28「お嬢……」
アリス25「ん?」
テレス29「これ、どうします?」