不器用なピアノ


作者:118 ◆fkrTovHYGs


BGM:落ち着いた感じの出来ればピアノの曲。
読み方:ご自由にどうぞw

一人の老教師がピアノに座っている。彼は、そのピアノの鍵盤を触りながら、あるひとつの鍵盤を叩いた。その音は、誰も居ない夏の音楽室にとてもよく響き――そして、なじむ様に消える。

老教師は、もう一度その鍵盤を叩く。今度は先よりも少し弱く。そして、鳴り止まぬうちにもう一度、さらに弱い音を叩いた。老教師の顔から涙が伝って落ちた。
30年前、教師は変わった。新人教師に生徒と触れ合う楽しさを知ってもらうため、生徒に自分が今までしてきたことを若き教師に任せた。生徒が様々な問題を起こす中、その歯止めを掛ける役割を買って出た。生徒となかなか仲良くなれず、生徒が理解できず。苦しんでいた彼は一人の女子生徒に会った。その少女は私にひとつの質問をしてくれた。

「先生の中にある言葉をどうすれば私達は聴けますか?」

少女はその不器用な教師を見ていた。生徒が人一倍好きで、生徒が影で言っている悪口も耳を背けることなく聴いて泣いていた教師を。それが自分の役割だと日に日に痩せていく教師を。
 本当はまだ自由を教えてあげたかった。肩を叩いて励ましたかった。笑いながら、まだ一緒にスポーツをしたかった。でも、それはもう彼の役割ではなかった。彼は、少女に言った。

「君は音楽が得意な子だったね。私が書いた詩を歌ってくれないか?」

少女は、頷いた。そして、私が書いた詩を得意なピアノで弾き、歌ってくれた。彼女の弾く曲はやさしかった。彼の詩もまた、やさしかった。
 聴いた生徒は自然と落ち着きを取り戻した。不器用な教師は元気を取り戻し、時々笑うようになった。そして、月日が流れ――

ピアノの前に座る老教師の前には詩が書かれた紙が置かれていた。追悼の詩。それは、途中文字を滲ませた軌跡を残しながら、しっかりと書かれていた。そして、彼はこの詩に曲をつけようとしたのだ。だが、ピアノを奏でることは彼には出来ない。分かっていた。このピアノは彼女が弾いていたピアノなのだから。でも、彼はここにいる。椅子に座り、鍵盤を何度も叩き。弱く奏でるそのしわしわの指は、最後に大きな不協和音を両手で奏でた。

「私は何をしてあげられるのだ」

彼は、鍵盤をにらんだ。私は、最大の友人に何もしてあげられないのか。
その時、置いてあった紙が落ちた。そこに涙が落ちた。落ちた文字が色を変えた。
「楽しかった」
そして、声が聞こえた気がした。
「あなたは今、自分の気持ちを素直に言える。曲に乗せなくても ―― 先生、私は楽しかったよ」

線香の香りが広がる中。彼は、心を声に乗せはじめた。

【あとがき】
一応、感動もの・・・を書いたつもりですが、いろいろと削ってしまったので伝わるかどうか少し自信ないです orz
伝わってくれて、何か感じてくれたらなぁと思います。