とある世界の残酷歌劇 > 終幕 > 04

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無数の羽毛が舞い散る、まるで映画のワンシーンのような光景。 フィルムをそこだけ切り取ったように白の欠片が宙で静止していた。 それは異界の存在が本来あるべき姿だろうか。 普遍的な流れから取り残され、未元物質は世界に浮かぶ染みのように白のノイズを放つだけの存在となっていた。 まるで時間が停止したよう。 「確かに『未元物質』はこの世のどんな素粒子でもない、全く別世界のものかもしれない。  でもこれは、普通の物質に『未元物質』を混ぜて性質を変化させただけの99%が既存の物質。  たった1%ごときでこの世の常識っていう、いわば世界そのものなんかを破れるはずがないじゃない」 「だったら――!」 放たれた三度目の光撃は、矢張り御坂には届かなかった。 「またそれ? どうして私に効かないのか不思議?  自分のそれがどういうものなのかも分かってないの?  じゃあ教えてあげる。……単純な話、それが凄く常識的な素粒子だからよ」 御坂が『未元物質』に直接干渉できる理由は、たった一つ。 『未元物質』が素粒子としての体裁を保っていて。 そして、彼女に対しては致命的な欠点を持っているからに他ならない。 御坂はどうして垣根がそれに思い当たらないのかと不思議そうに首を傾げ。 「アンタのそれ――電荷があるじゃない」 一言、そう言った。 「電荷があるなら私の能力が効く。クーロン力が働く。  だから私は、アンタの『未元物質』に対抗できる。たったそれだけの話よ?」 それは素粒子の持つ性質の一つ。 酷く常識的な、単純な物理の問題だった。 素粒子が電荷を持っているなら帯電もするし、クーロンの法則に従い荷電粒子に干渉が生まれる。 何の変哲もない酷く簡単な物理。この世界の根本を構成する一要素の話。 そして御坂は電磁を統べる超能力者だ。 ただその身に雷電の属性を纏っているというだけで彼女の支配下にある。 世界を構成する最も小さい存在要素――素粒子。 万物の最小極点にすら御坂の力は干渉する。 即ち――彼女はこの世の条理そのものに干渉し得る、と。彼女はそう笑う。 物理法則を超越することが適わぬ未元物質は、彼女の属性を帯びざるを得なかった。 故にそれは致命的な弱点となる。 だが――と垣根は瞠目した。 「ふざけんなよテメェ!」 そんなことがあっていいはずがない、と。 けれど同時にそれ以外にないだろう、と。 矛盾した感情が衝動のままに吐かれる。 「それは――『超電磁砲』なんかじゃねぇだろう!」 予知めいた、ある種の確信。 彼女の紡いだ言葉は彼女の持ち得ないものだと垣根は覚る。 「それは――御坂美琴なんかじゃねぇ――!」 垣根は感情をそのままに、吐き出すように彼女に吼える。 「ええ、これは――私なんかじゃない――」 御坂は感情など綯い交ぜに、たおやかに彼に微笑する。 「その力は――」 「この力は――」 そして唱和するのは、皮肉にも二人にとって最も忌まわしい言葉。 抗えぬほど深い因果によって糾われた、単極しか存在しない禍福の鎖。 「「一方通行――――!」」 超能力者、第一位。 学園都市の頂点に君臨した最強最悪の能力者の冠する名だ。 ―――――――――――――――――――― 「なーに不思議がってんのかなー」 給水塔に腰掛けたフレンダは投げ出した足をぶらぶらと揺らしながら目を細める。 「結局、滝壺がどうしてあんな妙な能力を持つ破目になったのか。  『暗闇の五月計画』がどうして発足したのか、まさかアンタが分かってないはずないでしょうに」 能力者に別の能力者の演算パターンを埋め込み、能力そのものを改造する。 その計画には何も『一方通行』だけが用いられたわけではない。 「そもそもが、よ。結局あれは私の能力のせいで生まれた計画だもの。  他人の頭の中をフォーマットする私の能力があったからこそあの計画が立ち上げられた。  私の能力の本質は頭の中の統一化。ただ、もしそこで元の能力を残したままフォーマットだけ変換したらどうなると思う?……もちろんタダじゃ終わらないわ。  新しいフォーマットに合わせ演算パターンの最適化が行われ、能力は斜め上にぶっ飛んだものになる。  結局、どうして私が『アイテム』にいたのか。麦野だけじゃ単純に他の連中に対抗できなかったってのもあるけど、そういう経緯もある訳よ。  絹旗は『一方通行』のフォーマットが埋め込まれたけど、滝壺の『能力追跡』の元には私の『心理掌握』の形式が使われた。  だからあんなトンデモ能力になったのよ。『心理掌握』形式に耐えられるヤツなんてほとんどいなかったけど、あの子は見事に適応してみせた。  体晶の相性がいいのも当たり前じゃない。素体は別だけど、結局あれの精製方法も私から来てる訳なんだし」 つまり――今の御坂は――。 「『心理掌握』でミサカネットワークのログから解析した『一方通行』の演算パターンをカスタマイズして組み込んだ『超電磁砲』。  超能力者の奇数番台三人を複合した能力者……足りない地力の演算力はネットワーク経由で妹達に代理演算させて補う。  そのお陰で今や『超電磁砲』は『一方通行』とも互角の強度になっているって寸法か」 第七位はまぁ別格だけど、とフレンダは、眼下、給水塔に背を預けるように立つ金髪に肩を竦めた。 「何? 結局、アンタも見物?」 「そんなところだにゃー」 「物好きね」 返された言葉に適当に相槌を打つ。 二人の視線は交わされず、その先は宙を舞う双の超能力者へ向けられている。 「今日は青髪ピアスくんじゃないんだな」 笑いを堪えるような土御門の言葉にフレンダは向ける事なく苦笑を返す。 「結局、あんまりリソース裂きたくないんだけど……それともそっちの方が好み?」 「いーや」 ごん、と後頭部で給水塔を叩き、土御門は言う。 「最後くらいはなしでいいんじゃねーの」 「……せやね」 「その嘘くさい関西弁も」 「うっさい」 はは、と土御門は見たこともない級友の表情を想像して笑った。 失われたあの眩しい日々が戻ってくることはない。 三人は元より、残された二人もこれが最後となるだろう。 土御門にはそういう漠然とした予感があった。 きっと今日で全てが終わる。 二人の視線は決してお互いの方に向くことはない。 今、土御門に彼女の姿は生のままに認識できるだろう。 だからこそ、きっと見られたくないだろうと土御門は意図して彼女を視界から外した。 「そういえばな」 土御門は変わらず、いつもの平凡で退屈な教室での会話のような口調で言った。 「あの子らはちゃんと保護されたぜぃ」 「そ」 「おいおい。礼の一つくらいあってもいいんじゃねーのかにゃー」 素っ気ない少女の答えに土御門は冗談めかして言った。 こういうやりとりも最後になるだろうと心の片隅で思いながら。 「嘘。ありがと」 「おう。お安いご用だ」 だから、と土御門は笑う。 ――自分たちは酷く間違っている。 最初からそんなことは分かっている。だがどうしようもないのだ。 踏み出さずにはいられず、逸る足を止まることなどできはしない。 そして何より――過ちを自覚しながらもどこか望んでいる自分がいる。 だから諦観しながら関与する。 だから後悔しながら切望する。 だから墜落しながら疾走する。 「だから――杞憂することはない。好きにやれ」 「……うん」 掠れた声は震えているようで、けれど確かなものだった。 「ところでさ」 「んー?」 「……結局、そこで見物するのはいいけど、パンツ覗かないでよね。スカートなんだから」 「オマエがメイド服だったら考えるかにゃー」 ―――――――――――――――――――― 「な――――」 マンションの一室、窓に張り付くように手を押し当て、遠くに見える光景に黄泉川愛穂は絶句していた。 「何の冗談じゃんよ、これは――」 窓の外、彼女の視線の先にあるのは爆発と白雷、そして眩いの閃光の軌跡だ。 夜空の暗幕を切り裂くように光が描かれる。 きっととてつもない轟音が響いているのだろうが距離があるために僅かにしか届かない。 それが逆に妙なシュルレアリスムを生み出してしまっていて、白昼夢のような不確かさの中で黄泉川は遠くの光を見ていた。 「超能力者よ。あなた、ついこの間見たでしょう」 一方、ソファに座ったままの芳川桔梗はようやく冷めたコーヒーの入ったマグカップをゆっくりと傾ける。 ガラスに反射する彼女は、つまらない映画でも見るような視線を夜景へと送っていた。 「雷光……第三位、『超電磁砲』ね。  もう一方は、順当に行ってれば『未元物質』かしら。第二位」 「そんな事を言ってるんじゃないっ!」 黄泉川の怒声がリビングに響く。 「単なる能力者の喧嘩とかいう次元を超してるじゃんよ!  この距離でも分かるようなレベルなら、今、あの下では間違いなく……!」 「ええ。巻き込まれた運の悪い連中が死んでるでしょうね」 鬼気迫る剣幕で自分を睨みつける友人の吐露を、芳川はそよ風程度に聞き流した。 達観しているような、そもそも興味もないような彼女の様子に黄泉川は奥歯を噛み締める。 そして同時に、足早に芳川へと歩み寄り、そのまま力任せに胸倉を掴み上げた。 強引に身体を揺さぶられるが予想していた動きだ。 直前にマグカップはテーブルに置いた。被害はない。 「アンタは……! あの惨状を見て何も思わないじゃんかよ……!」 「心外ね。私だって教師を志してた時期もあったんだし、心を痛めてるわよ」 のうのうと平時と変わらぬ様子でそんな言葉を吐く。 どうして自分の口からはこんな冷めた言葉しか出ないのだろうと芳川は思い、気付く。 何という事もない。既に自分は諦めてしまっているのだ。 睨み付ける黄泉川に目を合わせようともせず、ぼんやりと遠くの稲光を眺める。 「でも私たちに何ができるの? まさか警備員が鎮圧する? 冗談じゃないわ。  あれは戦争よ。超能力者なんて、それは一つの国同士が戦ってるようなものよ。  そんなのを、精々が対テロ程度にしか対応できない連中がどれだけ集まっても何もできないわよ」 「――っ」 芳川の言葉は客観的な事実だ。 学園都市の警備員には戦争級の対抗手段もあるが――それは外国、外敵用のものだ。 内部、能力者を想定した鎮圧兵器ではあの二人は止められない。 もしもこの街にそれを止められる手段があるとすれば、ただ一つ。 「そうね……あの子なら止められるでしょうけれど」 虚空に向けられた呟きは届かない。 もう、全てが手遅れでしかない。 ―――――――――――――――――――― 「――なるほど。そういう事か、アレイスター。これで軌道修正って訳だ」 虚空に向けられた呟きは届かない。 「つまりこれは、何もかもが手遅れで、もォどうしようもないンだな」 ―――――――――――――――――――― [[前へ>とある世界の残酷歌劇/終幕/03]]        [[次へ>とある世界の残酷歌劇/終幕/05]]

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