アルル「ボクは元の世界に戻りたいんだ」 禁書目録「魔導師……?」

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アルル「ボクは元の世界に戻りたいんだ」 禁書目録「魔導師……?」 - (2010/10/09 (土) 17:10:00) の1つ前との変更点

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<p>アルル「……また知らない世界にきたのかな」<br /><br /> アルル「カーくんもまたどこか行ってるし……」<br /><br /> アルル「それにしても、すごい町だなあ」ポカーン<br /><br /> アルル「りんごたちの世界とすごくよく似てるんだけど、もっと『ビル』とかがたくさん立ってる」<br /><br /> アルル「それに…あれは学校かな??学校自体はどの世界でもあまり変わらないのか」<br /><br /><br /> アルル「とりあえず、情報収集して、カー君みつけて、帰る方法を見つけよう!」</p>
<p>アルル「……また知らない世界にきたのかな」<br /><br /> アルル「カーくんもまたどこか行ってるし……」<br /><br /> アルル「それにしても、すごい町だなあ」ポカーン<br /><br /> アルル「りんごたちの世界とすごくよく似てるんだけど、もっと『ビル』とかがたくさん立ってる」<br /><br /> アルル「それに…あれは学校かな??学校自体はどの世界でもあまり変わらないのか」<br /><br /><br /> アルル「とりあえず、情報収集して、カー君みつけて、帰る方法を見つけよう!」</p> <p> </p> <p> </p> <p>アルル「とりあえず、このあたりの探索かなあ?けど世界のことは人に聞いてみないとわからないよね」トコトコ<br /><br /> アルル「けどなんて聞こう?ここってどのあたりですか、かな?だとしたら地図見つけなくちゃ」<br /><br /> アルル「…それだと怪しまれるだけかな……記憶がなくなったことにしてしまうとか」<br /><br /> アルル「うーん…それはちょっとそれで心配かけたら申し訳ないかなあ。素直に『ボク異世界から来ました』って言ってしまおうかな」<br /><br /> アルル「ダメダメダメ!それはただの変な人だから…うーん、どうしようかな」<br /><br /><br /> ??「あの、もし?失礼ですが多少お伺いしたいことがあるのですけどよろしくて?」<br /><br /> アルル「あっ、はい!?」<br /><br /> ??「風紀委員ですの。あなたは誰の許可でここにやって来られましたの?」<br /><br /> アルル「へっ、え??」</p> <p> </p> <p>アルル「あの、ボクここに来るの初めてで…あっ、ここどこ?<br />      あとジャッジメントって…本名じゃないよね?君の名前はなに?」<br /><br /> 黒子「……訳の分らぬ質問攻めも大概にしてくださいまし。ですが名乗るだけ名乗っておきますと、わたくし白井黒子と申します」<br /><br /> アルル「へえ、可愛い名前だね!くろこって言うんだ。よろしくね」<br /><br /> 黒子「ですからいい加減にして下さいと!<br />     基本的に誰かの許可無く立ち入ることが許されないこの『学舎の園』に貴方が居る理由をお聞きしていますの!誰からのお誘い合わせで此方へ?」<br /><br /> アルル「あぁ……ボク、違う世界から来たから、分からないんだよね。だから誰からも招待されてないし、ここがそのマナビヤノソノのどこかもわからないんだ」<br /><br /> 黒子「その話を信じろと?ふざけないでくださいまし」<br /><br /> 黒子「大体この科学の街で違う世界の話を持ち出す時点で貴方の頭脳が知れますわよ。風紀委員第177支部に連行いたしますが文句はございませんわね?」<br /><br /> アルル「あるある!すごく文句あるって!!だって本当なんだってば!<br />      科学はボクの時代じゃたぶん物凄く遅れてるけど…ほら、このアーマーだってここの人たち全員使ってないじゃない!<br />      けどボクの時代じゃ身を守るために必要なものだから付けてるんだよ…って、おわあぁ!?」<br /><br /><br /> 唐突にアルルの反論の言葉は途切れた。黒子が強制的にアルルを連行したからだ。<br /> 『空間移動』でもの言う暇も逃げる隙も与えず、80mずつ支部へ移動する。<br /> 彼女らが転移していく近くの者たちは彼女らを確かに視界に入れたが、それもほんの一瞬だった。瞬きひとつしたら……とまでは行かないものの、1秒はかからずにまた彼女らの姿はかき消える。<br /><br /> その姿を見つけたのは、黄色いウサギのような生き物だった。額には赤い宝石が埋め込まれていて、太く短い尻尾がわずかにぴょこんと揺れる。<br /><br /> 「……ぐ?」<br /><br /> 見間違えたのではなかっただろうが、駆け寄ろうとしたらその生き物の主は既にそこから消えていた。だからカーバンクルは間の抜けた声をあげることしか出来なかったのだ。</p> <p> </p> <p>これは一から全部説明して分かってもらうしかないか、とアルルは抵抗をやめた。<br /> 未知の空間移動に怯えたわけではない。彼女は以前空間移動を経験したこともあり、だからこそ空間移動中に干渉を行えば術者に大変な負担がかかることを知っていたからだ。<br /> いくら突然連れて行かれたとしても、先ほどの黒子という少女が攻撃に入る様子はなさそうなら彼女を傷つけることはやめておこう、と。<br /><br /> (そういえば、シェゾはどこにいるんだろう。サタンはこの様子に気づいてるかな)</p> <p> </p> <p> </p> <p>風紀委員第177支部。彼女たちがやってきたそこでは何人かの学生たちが忙しそうに動き回っていた。<br /> アルルは最初、もともといつも忙しいものなのだと思っていた。だが隣の黒子を見るとそうでもないらしく、「何かありましたの?」と近くにいた眼鏡の女性に声を掛けていた。<br /> その女性の奥のほうでは花飾りを付けた少女が懸命にキーボードを叩いていたが、元の世界とこの学園都市の文明の発展度は著しく開きがあるために、それが何をしているのか、アルルにはわからない。<br /><br /> 固法「謎の女性が現れたらしいわ。髪は水色の長髪、年齢は20前後、身長は170程度、服装は…チャイナドレスを動きやすくした感じといえばいいかしら。<br />    言動が変だから声を掛けたら一人変なこと言って逃げたらしいわ」<br /><br /> 黒子「はあ。それで彼女の捜索にあたっていますのね。言動が変、とは?」<br /><br /> アルル(……それって)<br /><br /> 固法「別の世界からやってきたとの主張をしているそうね。学園都市のことも知らぬ存ぜぬで通していて<br />     能力とレベルを聞いても何それ?と。ええと、偽名くさい名前なら名乗っているのね。確か」<br /><br /> アルル「ルルーじゃない!?」<br /><br /> 突然アルルが会話に参加したことで二人の会話は途切れた。<br /> 大声を出した余波として沈黙が漂い、支部の人たちの視線がいっきに彼女に集中する。しかし黒子と固法の驚きは彼女ら以外の支部のものとは別だった。<br /><br /> 固法「……え?」<br /><br /> 黒子(別の世界と申す方がこの子以外にもう一人……?それに、あの冗談ではなさそうな言動…しかし…)<br /><br /> アルル「ボク、アルルって言うんですけど…ボクも別の世界から来たんです!ええと…けどどうやってそれを証明しよう…?<br />      とりあえず、ボクとルルーはそこの世界のともだちなんだけど、うーん……」<br /><br /> 固法「それで白井さんが連れてきたのね、ルルーさんで間違いないわ。<br />     けど、あなたが別の世界から来たというのはにわかに信じられないわ。数年前には異世界から来たと主張して無能力者の冠を無くそうとしたスキルアウトたちだって居たのよ」<br /><br /> アルル「…そっか。けど、ボク…!!」<br /><br /> そこにぽつりと投下されたのは黒子の声だ。<br /><br /> 黒子「アルルさんとやら」<br /><br /> アルル「え、なあに?」<br /><br /> 黒子の心の中に引っかかっているのは、彼女が使用しているアーマーだ。確かに異世界を装うために作るくらいは出来るものの、使い古した感じは服装に違和感を感じさせない。<br /> それに、不本意ながら自分は恐ろしき風紀委員だということで知られているが、スキルアウトではないのならあのなれなれしく話しかけてきた様子も理解できてしまうのだ。<br /> 2割くらいなら彼女の言うことが本当だと思える気がする。その物語に引っかかってやりますわ、と彼女は思った。<br /><br /><br /> 黒子「あなたが居たと主張される『世界』の事、お聞きしてもよろしくて?」</p> <p> 支部の端っこで、4人掛けのテーブルに3人の女がつく。…といえば人聞きはいいが、悪く言えば喚問そのものだ。アルルの隣に黒子が座り、彼女らに向かい合って固法が腰掛ける。<br /><br /> アルルは出来る限りの言葉を用いて説明をした。<br /> はじめに簡単に自分について説明した。過去に2回、別の世界に飛んでしまったことがあり、そのうちの一度がこの世界に非常によく似た世界だったこと。<br /> 自分が居た世界はもっと森や山や川にあふれていて、モンスターと人間が共存していること。「ぷよ」と呼ばれるモンスターたちがその飛んだ世界に降ってきて困ったこともあったとも伝えておいた。<br /> 半魚人たち、耳の長い小人、よくわからないゾウやなすびのモンスター、魔法使いの一族。<br /><br /> と、そこで黒子は遮った。<br /><br /> 黒子「……魔法使い、ですの?」<br /><br /> アルル「あっ、魔導について話してなかったか…ってことは、この世界って魔導は存在しないの?さっきのテレポートはなあに?あれすごく精密だったから驚いちゃったんだけど」<br /><br /> 魔導とやらは存在しませんわ、と黒子は答えて、続きを促した。自分の空間移動が褒められたことは確かにうれしいが、論点はそこではない。<br /> そして、彼女がこの際空間移動について語らなかったのは一つの理由がある。<br /> 彼女はこの街で初めて自分と話したらしいのが、記憶に残っていたのだ。もし、万が一それが本当ならば学園都市のことを知る筈がない。だから学園都市についての話題が出たらその時点で学園都市内の人間とみなし、不法侵入罪で拘束する。学園都市の話題を出さずに彼女の話の正誤や矛盾を確かめる。そのつもりだった。<br /><br /> アルル「魔導っていうのは、人やモンスターが使えるチカラのこと。それを使いこなせる人が魔導師って呼ばれてて、ボクはそれを目指して魔導学校に通ってたの。正確には古代魔導学校っていうんだけどね。<br />      魔導っていうのは体の中に溢れる魔導力を練って練って1か所に集めて発射する感じかな。いろいろあるんだけど…簡単なのはファイヤーとかアイスとかヘブンレイとか…って、ああ!?!」<br /><br /><br /> 突然アルルは絶叫する。ようやく気付いたのだ。魔導が存在しないのなら、魔導を使えばいいこと。黒子や固法も同じことを思ったようで、顔を見合わせた後アルルに言った。<br /><br /> 固法「ならアルルさん、魔導を見せてくれるかしら。出来れば何種類か」<br /><br /> アルル「わかった。えっと、じゃあガラスのコップってある?」<br /><br /> 黒子「はあ?ありますけど」ヒュン<br /><br /> 数歩歩いてガラスのコップに触れ、自慢の空間移動でそれを彼女の前に置いた。<br /><br /> アルル「あれ?テレポートは触れないと出来ないの??ボクはテレポート使えないけど、こっちの世界ではレベルによっては触れなくても出来るんだ…と、とりあえずやるね。」<br /><br /><br /> ホット!と彼女は鋭く叫ぶ。その時突然虚空から水がばっと降ってきた…いや、正確にはコップの上にのみ、熱湯が。コップの半分くらいまで注がれた湯はほかほかと温かい湯気を放っている。<br /> 続いて彼女はコールド!と叫んだ。ホット同様に虚空から現れてコップに降り注いだのは、小さな氷の塊だ。何度か落としているうちに湯気はどんどん消えていく。<br /> 最後に彼女がショック、と叫ぶと、ばちりと水が帯電してぱりぱりと電気を覆う。<br /><br /> アルル「うーん…こんなもの?」<br /><br /> 見ていた二人は言葉もなかった。</p> <p>固法と黒子は目をぱちぱちと瞬かせている。<br /> 会話の流れに任せて魔導とやらの使用を頼んだのはこちらだが、まさか本当に複数の力を使用してくるとは思ってもいなかったのだ。<br /> ホットとコールドだけなら空間移動や温度変化系能力でギリギリ説明がつくが、仕上げに電撃使いときたら驚くしかない。<br /><br /> アルル「これはごく初歩的な魔法で、わりと練習すればだれでも使えるようになる技かな。<br />      他には光出したりとか、脳みそぷー…えっと、混乱させたりする技もあるけど…って、聞いてる?」<br /><br /> 瞬き以外身動きひとつしない二人にアルルはむくれながら返答を促した。それに応じていち早く我に返った固法は「初春さん!」ととある少女の名を呼ぶ。呼ばれた初春は顔をひょこっと出して、何でしょうと答えた。<br /><br /> 固法「調べてほしい能力があるの。彼女、お湯と氷をこのコップの上に連続して投下させたわ。そのあとに発電能力らしきものまで使っている。頼めるかしら」<br /><br /> 初春「はい、大丈夫ですけど……多才能力でしたとかいうオチはありませんよね?」<br /><br /> アルル「……○に尽きる?」<br /><br /> 黒子「マルチスキルですわ」<br /><br /> 我に返った黒子が鋭く突っ込みをいれる様子を見て初春はそれはないかと推測した。<br /><br /> 初春(発電が可能で、何もないところからお湯や氷を落とす…)<br /><br /> 今までパソコンに向き合ってきて疲れた目をほぐすために目をくりくりとかいて、彼女は本格的に『書庫』の膨大なデータと向かい合う。</p> <p>固法「これで能力が見当たらなかったら正真正銘異世界から来たことになるのかしら……他の能力はどんなものが使えるの?」<br /><br /> アルル「さっき言ったんだけどやっぱ聞いてなかったのかあ…光だしたり、混乱させたり。さっきのと同系統の技で言ったら、炎の渦とか電気で一閃することも出来るよ。<br />      けどこれ以外はちょっと魔法が大きすぎてここでは使えないと思うけど」<br /><br /> 固法「外なら使える?他にも使えるなら知っておきたいわ。」<br /><br /> あの子に検索してもらってるけど、あれだけじゃしばらく時間がかかりそうだから、と固法は付け足した。<br /> 初春は真剣にパソコンに向き合っていて、指を指した固法に全く気がついていない。<br /> アルルはパソコンのことがよくわからなかったが、あれで人物を特定しているということに驚いた。学園都市にいる生徒はあっても一つの能力しか持たない、という絶対的なルールを知らないのも大きな理由だったが、あの機械の中に全員の情報が入っているとは信じられなかったのだ。<br /> アルルはパソコンに視線を向けたまま首を小さく傾げた後、会話に意識を向け直す。<br /><br /><br /> アルル「場所の広さにもよるけど、たいていは使えると思うよ」<br /><br /><br /> 黒子「外で使えるとおっしゃるなら、わたくしと戦ってみませんこと?」<br /><br /> アルル「え?うん、構わないけど」<br /><br /> 唐突に話しかけた黒子は、もちろん傷つけるつもりはございませんわよ、と予め前置きをして、謝罪の言葉とともに右手を差し出す。<br /><br /> 黒子「話の真偽はまだ証明しきれておりませんが、今の様子ですと貴方は無理に連行しなくても来て下さったかもしれませんわね。<br />     派手な連行をしたこと、お詫び申し上げますわ」<br /><br /><br /> 小さな右手は、それでも十分に彼女の警戒心が薄れたことを主張していて、また同時に黒子の口元はすこし笑っている。<br /> 愛想笑いではなく、自然な微笑みだった。瞳も先ほどの鋭さと比べると非常に優しい光を持っているように見える。<br /> それに気付いたアルルは、にこりと笑って、<br /><br /> アルル「親善試合だね!」<br /><br /> 応戦を決めた。</p> <p> </p> <p> </p> <p>黒子と固法とアルルの3人は広い第七学区をゆっくりと歩いていた。<br /> はじめ黒子は空間移動で連れていくと言ったのに対して、アルルがこの街を見て回りたいから歩かせてほしいと言ったのが理由だ。<br /> そんな訳で3人組はときどき立ち止まりながら最寄りの大きな公園までの道のりを楽しんでいる。<br /><br /> アルル「最初のところ、学舎の園って言うんだっけ?あそことはずいぶんと違うんだね」<br /><br /> 黒子「あそこは別の街と思った方がよろしいかと。女子校5つとその寮、日用必需品が売ってる店程度しかありませんが、雰囲気はだいぶ異なりますわよ」<br /><br /> 固法「お嬢様学校ばかりだから高級感が漂っているでしょう?白井さんもその学校の一つに通っているのよ」<br /><br /> アルル「へえ、すごーい!そことこことはどれくらい距離があるの?」<br /><br /> 黒子「十五回程度は飛びましたから…ざっと600から700メートルですわね。」<br /><br /> アルル「距離を短くして何回かやってるんだね」<br /><br /> アルルのことはだいぶ信頼することができそうになってきたが、学園都市の核心的な部分に触れるのは、黒子にはまだ若干の抵抗が残っている。<br /> 初春の結果が出次第全てを話そうとは思っているものの、実際に結果が出ない限りはどうしようもないから、黒子はむず痒い。<br /><br /><br /> それにしても、異世界ときた。<br /> 初対面でアルルに言い放った通り、科学の街で異世界の話を持ち出すなんて軽くぶっ飛んでいる。<br /><br /> けれど一人、そのぶっ飛んだ話を語り、証明してみせようとまでするひとが居る。<br /> アルルと名乗る、この少女。<br /> 彼女の服のポケットにも背負っていた小さなリュックサックにも、学舎の園に入ってくるときに必要になる学園都市のIDカードが見当たらない、茶髪のポニーテールの女の子。<br /> 異世界から来たと主張して、屈託のない笑顔で矛盾ひとつ無い話をぽんぽんと口に出す、この少女は。<br /><br /> 黒子(……パラレルワールド?それにしても、そんなこと)<br /><br /> 一体何者なのかと問われると、異世界から来たと言った方がしっくりきてしまうのに、非科学的すぎて理解できない。</p> <p>そんな黒子の様子をわかったのかわかっていないのか、アルルは話題を逸らした。<br /> 行き先の斜め右前を指差して二人に尋ねる。<br /><br /> アルル「あそこに見えるひときわ高い建物は何?」<br /><br /> 固法「セブンスミスト。ここら一帯ではかなり大きなデパートね」<br /><br /> アルル「でぱーと??塔とは別だよね」<br /><br /> 固法「店がいくつも一つの建物の中に入っているものをデパートと言うんだけど……あなたの世界にはなかったの?」<br /><br /> アルル「ん、買い物はほとんど商店街だったかな。ダンジョンの中にもお店はあるけど」<br /><br /> 黒子「ダンジョン?」<br /><br /> アルル「遺跡とか洞窟とかのこと。モンスターが棲みついてて、襲ってくるときもあるんだけどね」<br /><br /> さらっと恐ろしいことを説明する彼女に、黒子は思わず歩みが止まりそうになった。<br /><br /><br /><br /> ただでさえ短距離の道のりを会話しながら歩くと本当にあっという間についてしまい、公園のベンチにアルルはリュックをおろす。<br /> もう着いちゃったのか、と彼女は残念そうに呟きながら、大きく身体を伸ばした。<br /><br /> 一面野原のこの場所なら問題ないかな、とアルルは思う。黒子は出発する前に自分はかなり優秀なほうのテレポーターだと自負しているから遠慮はせずにどうぞと言っていた。<br /> 転移の優秀さは、前の世界にいたアルルも知っている。手で触れてという条件付きとはいえ、自分以外も動かせるならなおさらだ。<br /> きっと大きいものを相手の近くに転移させて動きを封じることもできるし、鋭いものを自分の身体に転移させてダメージを与えることもできる。<br /><br /> アルル(…けど、せっかくの親善試合だもんね。あっけなく負けはしないよ!)<br /><br /> 心の中でそう意志表明をしている……はずだったアルルだが、実際にこぶしをぎゅっとにぎっているから周りに感情がバレている。<br /> その様子を黒子は見やって、こちらも負けはしませんわと心の中でそっとメッセージを送る。<br /><br /> さて始めようといったところで、アルルと黒子は試合を始めるタイミングをなかなかつかめない。じゃあ始めようかと言ってもすこし照れくさくて、つい始めづらいのだ。<br /><br /><br /> 固法(アルルさんの正体がどうこう抜きに、二人ともすっかり仲良しじゃない)<br /><br /> そんな二人をすこし離れた場所から見つめていた固法は、小さく笑った。<br /> 私が合図をしましょう、と声を掛けると、待ってましたと言わんばかりのきらきらとした視線に若干気圧される。<br /><br /><br /> 固法「じゃあ行くわよ……試合開始!」<br /><br /><br /> アルルと黒子はようやく同時に動き出すことができた。</p> <p>転移なんてされたらスピード勝負ではアルルに勝ち目などない。<br /> だから彼女は速さを競うのはもともと諦めていた。<br /><br /> アルル「アイスストーム!」<br /><br /> 空間移動でアルルの背後にまわって一気に決着をつけようと思っていた黒子は、強烈な寒さに思わず動きが鈍った。<br /> 蹴り上げようとした足は、ギリギリ間に合ったアルルの技の影響で急速に凍えていって勢いは止まる。<br /> アルルは周囲360度に氷雪の嵐を起こして、近づいた黒子に対応させたのだ。<br /><br /> ようやく背後の黒子に気づいたアルルも、ゆるい勢いとはいえ至近距離からの蹴りを防ぐことはできずに立っているバランスを大きく崩される。<br /><br /> アルル「っく、ライト!」<br /><br /> 強烈な光が近くで炸裂して、アルルも黒子も視界を一時的に失う。だがその間にアルルは体制を立て直し、黒子は太腿に巻きつけた針を自分の手に移動させる。だが、それだけだった。<br /> 黒子は転移に座標を指定する必要がある。アルルの居場所がわからないのにこの針を打ち込むのは非常にまずい。<br /> 下手すれば彼女の心臓に突き刺さる可能性だって否定できない。親善試合とやらに殺人はいらないのだ。<br /><br /> そこで黒子に一瞬思考の時間が出来る。<br /><br /> 黒子(やはり多重能力者と言わないと説明がつかない……!?威力もきっと今のは牽制程度。想像以上に使用する能力の幅が広そうですわね…!)<br /><br /><br /><br /> アルル「ダイアキュート!」<br /><br /> そこに光の中から一つの声が響いた。<br /> 黒子に警戒が走る。<br /> どんな攻撃が来るか、と彼女は攻撃の方向を探すために回復しかけている視界に目を凝らす。<br /> そして影程度しかわからないけれども視界が戻った時、黒子はアルルが両手を大きく上に掲げていることに気付いた。<br /><br /> ――攻撃が来る。<br /> 急いで黒子は回避のためにもアルルの背後に回ろうとするが。<br /><br /> 知らないとはいえ彼女は致命的なミスをした。ダイアキュートは攻撃技ではないこと。そのため、先ほど手を上に掲げていたのはダイアキュートの技のためではないこと。<br /><br /> アルル「ファファファイヤーストーム!!」<br /><br /> ダイアキュートの効果は、次の呪文の威力を増幅させること。<br /> 背後にふわりと現れた黒子の周囲は高温の炎に覆われていた。</p> <p>黒子(やはり二度も背後に回っては動きが読まれてましたわね……!)<br /><br /><br /> いきなりの高温に一瞬で汗が滴り落ち出すが、この程度で動きを止められた白井黒子ではない。即座に自分の座標を移動して灼熱地獄から逃げ出す。<br /><br /> それでも、もう少し転移が遅かったらと考えると黒子は少しだけほっとした。今のが転移の限界だ。<br /> あれ以上行動が遅かったら暑さに精神がやられて転移が出来なくなっていただろう。<br /> アルルはスピードに関しては諦めていたものの、結局は完全なるスピード勝負だった。<br /><br /><br /><br /> 黒子は先ほどとは異なり、ギリギリまでアルルに近づけるよう転移した。<br /> 先ほどの氷雪の嵐が黒子に間に合ったのは、黒子が蹴りを入れるためにアルルと若干の距離をとっていたからにすぎない。<br /> それなら間に合わないようにするだけだ。<br /><br /> ほんの数センチ程度指を動かせばアルルに触れられる距離に現れた黒子は、軽くアルルに手の甲で触れる。<br /> それだけでアルルは気がつけば横になっていた。<br /> アルルはほんの一瞬こそ格闘技の一種かと思ったがすぐに状況を察する。ごく短距離の転移で横にさせられたのだと。<br /> なんだかんだでいろんな危機を乗り越えてきた彼女の状況判断能力はかなりのものだった。<br /><br /> その彼女は、黒子が針を両手に何本か持っていることに気づく。<br /><br /><br /> アルル(やばっ!?そっか、最初にテレポート使えないって言っちゃってたっけか!)<br /><br /> 素早く状況を整理するものの、横になっている自分の身体に黒子が馬乗りになっているため、なかなか立ち直れない。<br /><br /> アルル(それなら!)<br /><br /> アルル「アイス!!」<br /><br /> 黒子の針が一本ずつ虚空に消えていき、アルルの服のみを丁寧に突き刺していく。<br /> 左手だけで辛うじて発動した氷の魔法は威力もだいぶ小さくなっていたが、それでも魔法は発動した。<br /> しかしそれと同時に針は左手のリストバンドにも食い込む。<br /><br /><br /> 片方は両手足と腹部の服を針で固定された。<br /> もう片方は腕から先と足を凍らされた。<br /> 両方とも次の行動ができなかった。</p> <p>アルルは攻撃魔法は手を必要とするから拘束を解除する手段もないし、黒子は手が凍らされているために移動は出来てもそこから先が何もできない。<br /> 互いにどうしようもなかった。引き分けである。<br /><br /><br /> 黒子「……両者とも手詰まりですわね」<br /><br /> アルル「そうだね、引き分けだ」<br /><br /><br /> それを見た固法は、二人だけでは体勢を元に戻せないと知り急いで彼女らの元へ駆け寄る。<br /> 黒子はアルルの隣に腰を下ろすように転移して、固法はアルルの服に食い込んでいる針を一本一本抜いていく。<br /> そして自由になったアルルは黒子の両手足を拘束する氷を温かい湯で溶かした。<br /><br /><br /> アルル「えっと…たぶん凍傷出てるよね。ごめんね、ほんとはもっと調節して<br />      内部は水にするつもりだったんだけど、切羽詰まって強くなっちゃった。痛む?」<br /><br /> 黒子「そこまでではありませんが、多少の痺れは……」<br /><br /> アルル「わかった」<br /><br /> ごめんね、と重ねがさね謝るアルルに、黒子は腕のぴりぴりとした軽い痛みを抑えつけた。<br /> しかし、何がわかったのか、黒子が尋ねようとするとアルルは一言、<br /><br /> アルル「ヒーリング」<br /><br /> そう声を出した。すると、ふわりと淡く輝く光が黒子の両手足を包みはじめる。<br /> きれいな光だ、と黒子は素直に思ったが、直後に自分の身体の異変に驚きを隠せなくなる。<br /> 痛みは全くなくなっていた。それどころか、空間転移の影響の気疲れすらもほとんど感じないほどに体力がもとに戻っている。<br /><br /><br /> アルル「これ、回復魔法なんだ。もう大丈夫かな?」<br /><br /> 本日幾度目かもう数え忘れたが、黒子は驚いた。大丈夫を通り越して完璧な体調だ。<br /> 感謝しますわと彼女は礼を言い、固法の方を振り返って言う。<br /><br /><br /> 黒子「……これは、本当に異世界から来たのかもしれませんわね。先輩も見ましたでしょう?今の能力、全部」<br /><br /> 固法「そうね。最後のヒーリングっていうのなんて初めて聞いたわ」</p> <p>アルル「回復魔法にも、アイスとアイスストームみたいな能力の強弱があるんだよ。<br />      今のは一番簡単なものだけど、出血が止まらなかったりしたらガイアヒーリングってほうを使うことが多いかも」<br /><br /> 魔翌力を結構消費しちゃうからヒーリングばっかりだけどね、とアルルは無邪気に笑った。<br /> 固法と黒子はいよいよ信じるしかない。二人の戦闘中、固法の携帯に一通のメールが入っていたことも真偽を明かしている。<br /> 初春から、「どれだけ甘く検索かけても、やはりそのような能力は見当たりません」と。<br /><br /> ぽつりと黒子は言葉を漏らした。<br /><br /><br /> 黒子「……本当ですのね、貴方の話は」<br /><br /> アルル「信じてくれる?まあ、さすがに信じがたい話ではあるよね」<br /><br /> 固法「あなたの能力がその話を証明しているのよ、はいどうぞ」<br /><br /><br /> 完全に回復した身体で近くのベンチに腰掛け、アルルにも同様に促す。<br /> 固法もジュースを黒子とアルルに一本ずつ渡して、黒子の隣に腰を下ろす。<br /><br /> ここではじめて黒子は学園都市について語った。<br /> ここら周辺は学園都市と呼ばれる大きな街だということから、能力を開発すること、それが一人に一つしか宿らないことまで。<br /> 七人の超能力者、自分が大能力者であること、約六割が無能力者であることなども触れておいた。<br /> 途中、超能力者の件で黒子がとある一人の少女を語りすぎて暴走して固法に取り押さえられるという事態も発生したが。<br /><br /> 書庫には生徒たちとその能力がデータ化されて全て登録されていることを話すと、アルルは不思議そうな顔をした。<br /><br /> アルル「データって…テレビみたいなあれ?」<br /><br /> 黒子「テレビもデータといえばデータですわね。機械に0と1で記された暗号や赤・黄・青を読みとらせて、色や文字を表示させるのです。<br />     情報を詰め込んでいるだけなので、紙のようにかさばることもないためにこれくらいの小さなものにも膨大なデータが収まりますの」<br /><br /> アルル「へえ~、すごいや」<br /><br /> 黒子は自分の携帯電話を見せながら解説する。<br /> 常識だと思っていることを言葉で説明することは思いのほか難しいが、ギリギリわかってくれているようだ。<br /><br /><br /> アルル「これはだあれ?」<br /><br /> 携帯の待ち受けを指差して、アルルは単純に疑問を持ち尋ねたのだが、<br /><br /> 黒子「そう!これが!先ほど語りました御坂美琴お姉様ですの!この麗しき瞳と凛々しき表情ッ!!そしてこのぷるぷるの唇…!!ああん、黒子がきっと頂いてみせましょう!そして願わくは(以下省略)」<br /><br /> 黒子はマシンガントークモードに入ってしまい、少し質問したことを後悔した。</p> <p>固法は苦笑しながらアルルに告げる。<br /><br /> 固法「白井さんはこうなると止まらないから……私たちは一度支部に戻るけど、貴方も一緒に来てもらえないかしら?」<br /><br /> アルル「うん、行くあてもないし大丈夫だけど。何かあるの?」<br /><br /> 固法「先ほども言ったけど、支部では貴方の知り合いらしき女性の捜索が急がれているわ。<br />     彼女の情報を一番知っているのは貴方じゃないかしらと思って。協力を頼みたいの」<br /><br /><br /> アルルはようやく彼女のことを思い出した。<br /> 元の世界の話を信じてもらうのに精一杯で今まできれいさっぱり失念していたことに、心の中でルルーに謝る。<br /> ゴメン、今度カレーおごるから!と。<br /><br /> アルル「それならボクから協力させてもらいたいくらいだよ!<br />      ボクも元の世界に戻る方法を見つけたいから、こっちに来てる人とは早く合流したいし」<br /><br /><br /> ありがとう、と固法は笑った。<br /> そして「ほら白井さん!!」と花園の世界へ旅立っている黒子の耳を引っ張って現実世界へ呼び戻す。<br /><br /> 固法「幸い、うちの支部の近くで姿を見せているそうだからなんとかなるんじゃないかしら。<br />     もう一度情報を得なおしましょう」<br /><br /><br /> アルル「うん!」</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p>一方その頃。インデックスは一人の少年を探して第七学区をふらふらと歩き回っていた。<br /> そこまでして探す理由は、空腹に耐えきれなくなったからという単純なものだ。<br /><br /> 禁書「うう……とうまひどいんだよ用事あるからっていってお昼ご飯だけおいていっておやつを置いてかないとかありえないのに楽しい楽しいティータイムしたいんだよねぇスフィンクス」<br /><br /> にゃあ、と猫は賢く返答するが、その言葉に同意しているわけではなさそうだ。<br /> むしろ不機嫌なのか、インデックスにしっぽをむけて耳を前足でかりかり掻いている。<br /> それも、空腹に耐えかねたインデックスがスフィンクスの魚肉ソーセージを食べたからなのだが。<br /><br /><br /> そんなこんなで上条を求める一人と一匹はみた。<br /> 長い耳、丸っこいを通り越してただ丸い体、額には赤い宝石のような石がついている黄色いものを。<br /><br /> 十万三千冊もの知識を有するインデックスの頭に数え切れないハテナが浮かぶ。<br /><br /> インデックス「な……なにあれ?生き物……だよね?」<br /><br /> スフィンクスはにゃあと鳴く。<br /> 何を言ったのかインデックスにはわからないが、その声に反応して、黄色い生物はくるりとこちらを向いた。<br /><br /> ??「ぐうー」<br /><br /> スフィンクス「にゃあ」<br /><br /> ??「ぐぐぐっぐーぐぐー、ぐう」<br /><br /> スフィンクス「にゃあ、にゃー」<br /><br /><br /> 禁書「…………全然わからないんだよ」<br /><br /> いくらインデックスといえど人間語以外は理解できず、頭の中のハテナはどんどん増えて行くばかりだ。<br /> そこに、その疑問をどうでもいいと言わんばかりに、彼女の空腹感が自己主張を再開しだした。</p> <p>禁書「…けど、おなかへった」グー<br /> ??「ぐうー」グウー<br /><br /> 禁書「!!きみもおなかへってるの?」<br /><br /> ??「ぐう!」<br /><br /> 禁書「じゃあ、一緒にとうまを探そうよ。ごはんくれるんだよ」<br /><br /> ??「ぐーっ!」<br /><br /><br /><br /><br /> 改めて、上条当麻を見つけ隊、一匹(?)プラスアルファバージョンは上条の捜<br /> 索に忙しい。<br /> 空腹で倒れるまでがタイムリミットだ!いそげインデックス!<br /><br /> ……とばかりに自分を鼓舞するものの、空腹で力はどんどん落ちていく。<br /> お昼ご飯はとうの昔に消化されきっていて、胃液だけが痛い。<br /><br /><br /><br /> と、ぐーぐー鳴いている黄色い生き物が動き出した。<br /> ぐ!と一声なにやら叫んだ後、一直線に人ごみの中に走り出す。<br /><br /> ??「ぐーーーっ!!」<br /><br /> 禁書「!?待つんだよ!わたしはそこまで早く走れないし何よりおなかがすきすぎてこれ以上……」<br /><br /><br /> そんな言葉とは裏腹に黄色い生き物は人ごみに消える。<br /> 唯一の情けというべきか、スフィンクスはインデックスの隣に座り、しっぽをゆるく振っていた。<br /><br /><br /> 禁書「ううー……」<br /><br /> 何やらよくわからない出会いとその直後に訪れた何やらよくわからない別れのせいで、ただでさえ残り少なかったHPは最早ゼロ近い。<br /> インデックスは食い倒れの悪寒に震えたが、そこに二つの影が現れる。<br /><br /> ??「ぐうー」グゥー<br /><br /> ??「はぁ……カーバンクルが呼んでるからサタンさまだと思ったのにこんなちっちゃい子なの?<br />     空腹で耐え切れなくて倒れてるってところかしら」<br /><br /><br /> 別れたはずの黄色い生き物と、水色の長髪が印象的な女性が彼女の前にやってきていた。</p> <p>カーバンクルが連れてきた女とカーバンクル自身を何度か見比べて、インデックスはきらきらと効果音が出そうなくらいに瞳を輝かせた。<br /> おなかへった。<br /> 何も言わず、けれどぐぅ~という腹の音は隠せずに、インデックスは言いたいことをきっちりと伝えてくる。<br /><br /> ルルーはあまりの期待のされかたに思わず、――<br /><br /> ルルー「本来貴方を私が助けても何の得にもならないんだけど……カーバンクルが居るのなら放置するわけにも行かないのよね。<br />      あんたこの街の人?」<br /><br /> 禁書「……?違うよ。この街に来てから結構経ってるし、とうまの学生寮に居るけど、ここで育ったわけじゃないかも」<br /><br /> ルルー「まあこの街のことはある程度知ってるのね?ならいいわ。<br />      私は初めて此処に来たんだけど、何が何やらさっぱりなのよ。それについて教えなさい」<br /><br /> 禁書「…………そしたらご飯くれる?」<br /><br /> ルルー「その程度なら構わないわよ。カーバンクルも来なさい」<br /><br /><br /> ――インデックスに食事を与えてしまう。それが致命的なことになることも知らずに。<br /> インデックスとカーバンクルは抱き合って大喜びしながらよくわからない歓喜の声をあげて喜んでいる。<br /><br /><br /> ルルー「と、いうわけであんた食事出来るところに案内しなさい」<br /><br /> 禁書「…歩けないかも」<br /><br /> ルルー「はあ!?」<br /><br /><br /> とはいえ、まだ食事への道は長そうだ。<br /><br /><br /><br /> アルル・ナジャと白井黒子は不穏な状況での邂逅から一変、町の案内と人探しという小さな冒険を作りだす。<br /> 一方で、インデックスをルルーがおんぶした形で、ルルーとカーバンクルとインデックスの食事探しの短い旅は始まる。<br /><br /> この二つが交差する時はじわりじわりと迫っている。<br /> そして、それとは別の新たな交差もまた、この学園都市で始まろうとしていた。</p> <p>ルルー「ここでいいのね?」<br /><br /> 禁書「ありがとう!!はいろはいろはいろ~!!」<br /><br /> カーバンクル「ぐーぐーぐー!!」<br /><br /> ルルー「二重奏しない!ええいさっさと入りなさいよ鬱陶しい!!」<br /><br /><br /><br /> と、なんだかんだでレストラン、ウエイターさんの真ん前にて。<br /> 何が食べたいのかとルルーが聞いたら、インデックスは何食べてもいいのかと嬉しそうに尋ね返して。<br /> 普通何食べてもいいでしょと疑問に思いながらルルーが肯定の意を返したら、インデックスはメニューを片っ端から指差していった。<br /> 思わず絶句しながらもルルーはカーバンクルのためにカレーをとりあえず十皿くらい注文してから、自分のパエリアを頼む。<br /><br /><br /><br /> ルルー(……まあ、お金なら有り余ってるから問題ないもの)<br /><br /> とはいえ、カーバンクルに対抗できる程の大食いなんて初めて見たのだからルルーは驚きを隠せない。<br /><br /> 一匹と一人の食事の光景に思わず胃を抑えかけながら、ルルーはようやく本題を切り出すことにした。<br /><br /><br /> ルルー「それで、ここはどこなのかしら」<br /><br /> 禁書「んぐんぐ、ほえ?あなたはどこから、んぐっ、来たの??」<br /><br /> ルルー「それが、」<br /><br /><br /> 別の世界なのよねえ、と。<br /><br /><br /> ルルーは何気なく、買えばなんとかなる落とし物を探すような口調でとんでもないことを言ってのけた。<br /> インデックスはへえそうなんだと思いながら最後の一口のハンバーグを口に運びかけて、数秒して目の前の女の言葉を理解した後、固まった。<br /><br /> 禁書「…………………えっ?」<br /><br /> ルルー「少しばかりインパクトが強すぎたかしら。まあ私も三度目となれば驚かなくなっちゃったのよ」</p> <p>禁書「……驚かないどころの話じゃないんだよ?とうまの右手並に信じられないかも」<br /><br /> ルルー「まあとりあえず信じなさい。それで?ここはどこなのかしら」<br /><br /> 禁書「…………にわかに信じられないけど……ここは学園都市だよ」<br /><br /> ルルー「学園都市??」<br /><br /> 禁書「えっとね、『学園都市とは約230万人の学生と教師による日本国東京都を中心とした巨大な都市であり……」<br /><br /><br /> インデックスは以前調べたり聞いたことのある内容から、学園都市についてのあらゆることをすらすらと述べていく。<br /> ルルーがその言葉を噛み砕く際に何度か呼び止めたこともあったが、彼女の完全記憶能力のおかげか、学園都市の人間ではないインデックスは、それでも何一つ矛盾点や疑問点が浮かばない完璧な解説をしてみせた。<br /><br /> ルルーも、実はこの都市内にいるアルル同様に、二度目に訪れた町を思い浮かべる。<br /> 飛んできた場所は違うものの、後にアルルと合流した後に訪れた町はそういえば「ニホン」と呼ばれていた気もするし、町の雰囲気もなんとなく通じるものがある。<br /><br /><br /> ルルー「なるほどねえ……」<br /><br /> 禁書「なんか質問とかあったら答えるよ?私は一応ゲスト扱いだから答えられることはあまり多くないと思うけど」<br /><br /> ルルー「大丈夫よ。<br />      とはいえ、信じがたいわよね。チカラがほとんど全員が頭いじくらないと何かしらのチカラは使えないわけ?それも一種類だけなのね。<br />      私は使えないけど、私の周りには何種もの魔法を使いこなすやつがわんさか居るのに」<br /><br /><br /> その言葉に再びインデックスは驚きを露にした。<br /><br /> 禁書「……え?魔術師………?」<br /><br /><br /> インデックスの中では、魔術と科学は完全に分断されている。<br /> 「とうま」こと上条当麻は例外的にそのどちらにも属しているが、学園都市について話すにあたっては完全に科学サイドについてしか考えてなかった。<br /> それなのに、突然「魔法」と、魔術用語が出てきたのだから。</p> <p>禁書「……?魔術師なの?あなたの知り合いって」<br /><br /> ルルー「? 魔術師って単語は聞かないわ。魔導師、かしら。アルルっていうこの黄色い子の保護者はまだ卵らしいけど」<br /><br /><br /><br /> 禁書「…………え」<br /><br /><br /> それなのに魔法はばんばん使ってくるのに、と不平を漏らすようにルルーは、インデックスの変化に気付かず呑気に付け足した。<br /><br /><br /> ここでルルーとインデックスの「魔導師」の解釈は大きく異なっている。<br /> ルルーのいう魔導師とは何かしらの現存する魔法を使いこなすだけでなくさらなる進化を求めて改良を加えていく魔法使いである。<br /> 一方でインデックスのいう魔導師とは、原点やその写本などから学び得た知識を後世へ残していくものである。<br /><br /> どちらにせよ魔法を扱う者の中でかなり上位に立つ者、ではある。<br /><br /><br /><br /> しかし、その定義のずれを指摘することは出来るものはこのレストランになんか居るはずもなく、互いに共通した知識があるという勘違いだけがここにある。<br /><br /><br /> ただの学園都市の人間ではないインデックスには問題があった。自身の立場についてだ。<br /> 禁書目録として十万三千冊の原点を所有する彼女にとって魔導師は危険な存在だ。<br /><br /><br /> 禁書(……どうしよう、別の世界から来ただなんてあまりにも坦々と言ってたから、私の知識に無くても信じかけてたけど、<br />     魔術を知ってるだなんて…ハッタリだったのかも)<br /><br /><br /><br /> その様子にルルーは気づかない。<br /> インデックスは普段はのんびりとしているように見えても緊急時には冷静な判断を下す。その判断が命取りにならないように思考を隠すことも難しいことではなかったから。<br /><br /><br /> ルルー「そういえばアルルの名前だして思ったのだけれど、まだ名乗っていなかったわね。私はルルーだけど、貴方の名前は?」<br /><br /> 禁書「……私は、――――」<br /><br /><br /> けれど、インデックスは言葉に詰まってしまう。<br /><br /><br /> 全く別の世界が交差するというとんでもない事実がもたらす被害は大きい。<br /> 誰が悪いというわけでもなく、ただ両者に通ずる知識が不足しすぎているだけだった。禁書目録でさえも。</p> <p>ふと言葉を紡ぎだせなくなった目の前の少女にようやく気付き、ルルーは少し驚いた。<br /> あまりこの少女が名前を出せない程の理由があるように見えないのだ。<br /><br /><br /> ルルーはしばらく黙った後、敢えて何も問いたださずに話をそらした。<br /><br /> ルルー「まあどうでもいいことね。とりあえずはカーバンクルが居ることですしアルルを探したいの。<br />      あんた、この街の案内できる?」<br /><br /> 禁書「……ごめんね。とうまに何も言わずに出てきちゃったから、はやく帰らないといけないかも」<br /><br /><br /> その言葉の裏に「アルルという魔導師がもし自分を狙っていて、自分の顔を知っているのなら会いたくない」という意図があるのだが、ルルーはそこまでは気付かない。<br /> インデックス自身も彼女が悪い人だとは思っていないが、万が一を考えると危険は避けて通るべきだ。<br /><br /><br /><br /> 禁書(―――それに、何かあったらまたとうまに迷惑かけちゃうしね)<br /><br /> あの一見頼りなさげに見えるがとても心強い少年を思い出しながら、インデックスは別れの道を選んだ。<br /><br /><br /> ルルー「あ、そう。まあいいわ。けれどこのカーバンクルは頂いていくわね」<br /><br /> カーバンクル「ぐぐー」<br /><br /> 禁書「うん、また縁が会ったら一緒にごはん食べようね、カーバンクル」<br /><br /> カーバンクル「ぐー」<br /><br /><br /> インデックスは短い時間で知りあった奇妙な仲間と別れを惜しんでいるつもりなのだが、カーバンクルはまだまだ食べられるらしく13杯めのカレーに取り掛かっている。<br /> その様子をみてもう少しカレー食べようかな、とインデックスは何気なく思って。<br /><br /><br /> そこでふと単純な問題に気付いた。<br /> けれど、もしルルーの話が本当なら、とてつもなく重大な問題だ。<br /><br /> 禁書「あなたって別の世界から来たの?」<br /><br /> ルルー「はあ?何度も言ってるじゃない。そうよ」<br /><br /><br /><br /><br /><br /> 禁書「………おかねは?」</p> <p> </p> <p>ルルー「……………あ」<br /><br /> 禁書「…………………………あなたが持ってるお金は使えないのかな」<br /><br /> ルルー「……これは使えるかしら」<br /><br /> 禁書「……そんなお金見たこと無いから無理かも」<br /><br /><br /><br /> ルルー禁書「「…………………」」<br /><br /><br /> ほんの数十秒で空気は冷めきって、カーバンクルがたてる皿の音だけがかちかちと響く。<br /><br /><br /> 禁書「これって……無銭飲食だよね」<br /><br /> ルルー「……そうね」<br /><br /> 禁書「…………どうしよう。ケイタイデンワーっていう連絡するのがあるけど、わたし使い方わからないし」<br /><br /><br /> ルルー「……携帯電話?」<br /><br /><br /> ルルーはふとその言葉に反応した。<br /><br /> そういえば、少し前にこことは別の世界に飛んだとき、皆がその携帯電話なるものを使っていたのだ。<br /> すべての機械に番号が振られており、番号を押すとその番号の者に連絡がかかるらしいが。<br /> ルルーはアルルがとある赤髪の少女のを借りて扱うのを横で見ていただけなので使ったことはないが、わりと簡単な操作だった気がする。<br /><br /><br /> ルルー「それ、私が二度目にとんだ世界で見たことがあるわ。貸しなさい」<br /><br /> 禁書「え?うん、いいけど……私に使い方聞かれても何も答えられないよ?」<br /><br /> ルルー「記憶のルルちゃんを舐めないで頂戴」<br /><br /><br /> ぺろりと舌で上唇を舐めて、ルルーはきわめて魅力的に勝ち誇ったような笑みを浮かべる。<br /> そんなルルーの言葉にインデックスは、むぅ、と頬を膨らませて「私だって記憶力は自信あるもん」とぶつぶつと不平を漏らす。<br /> もっともそのトンデモ記憶力は科学技術に対応しきれていないから意味が無いのだが。</p> <p>ルルー「確かこの十字のどれかを押して…と、違うわね。じゃあ次は……あ、これかしら」<br /><br /><br /> 機械の扱い方がわからないインデックスも押すボタンしかわかっていないルルーもわからなかったのだが、それは着信記録の一覧だった。<br /><br /> 一覧から現れた名前は全てが「上条当麻」だ。<br /> ルルーはその少年が「とうま」と呼ばれていたことからもこれかと推測しつつ、念のためインデックスに確認をとる。<br /> インデックスはそれそれ!と大きく頷き、ルルーによって通話ボタンを押された携帯電話を受け取った。<br /><br /><br /> つー、つー、という音がインデックスの耳に響く。<br /> しばらく機械音が続いた後、ぷつりと音がして、彼女が聞き慣れている少年の声が聞こえてきた。<br /><br /><br /> 上条「……インデックス、なのか?」<br /><br /> 禁書「あ!とうまだ!うん、私だよ!」<br /><br /> 上条「突然どうして……もしかしてまたなんか事件が起こったのか?っていうかお前携帯使えたのか……」<br /><br /> 禁書「ケイタイデンワーはね、ルルーにかけてもらったの!<br />     いろいろあるといえばあるんだけど、とりあえず第七学区のレストランに居るから来てほしいかも。夏休みに読書感想文書いたとこ」<br /><br /> 上条「はあ?ルルー??とりあえず俺今から教室掃除してから行くから、30分はかかるぞ」<br /><br /> 禁書「うん、じゃあ待ってるね。あのね、お金が無くて食事代が払えないの」<br /><br /> 上条「ん、わかった………………って、はあああああああ!?」<br /><br /><br /> ただでさえ貧乏生活を送っている上条がその言葉に反応するのは言うまでもなく。<br /> そもそもなんで払えないのにレストランに入ったんだ、という至極真っ当な疑問すらどこかに飛んで行ってしまっている。<br /><br /><br /> 禁書「ルルーがおかね持ってると思ってたら持ってなかったんだよ。だから待ってるね」<br /><br /><br /> インデックスはふと、あの少年がこれだけの食事の代金を払えるのか疑問に思いながらも、ルルーに携帯を渡した。<br /> インデックス限定なら辛うじて行けるかもしれないが、ここにはカーバンクルが居て、二人に比べると少ないがルルーも食事をとっている。<br /><br /> 禁書(……無理かも?)<br /><br /> ルルーはそんな懸念も知らず、電話の終了ボタンをよくわからずに長押しして、携帯電話の電源が切られた。</p> <p>上条「おい、インデックスちょっと話を聞かせろ!だからルルーって――」<br /><br /><br /> 携帯電話からはつーつーと、通話が終了した合図しか聞こえない。<br /> 上条は財布の中を確認する。三千二百円。<br /><br /> インデックスがただの少女なら問題なく払える額だが生憎と彼女は「ただの少女」どころではすまないレベルの大食らいである。<br /> 一つ百円のハンバーガーならともかく、あそこのレストランは子供用メニューでも四百円前後からだ。<br /> 誰かにおごってもらうつもりで食べているのなら彼女は遠慮しないだろうからまず三千二百円は飛んでいくし、きっとその誰かの食費も払う羽目になる。<br /><br /><br /> 上条(…………死んだ。俺は死んだ!払えるかよチクショー!この三千二百円は安売りのための貯金だったのに……ってそれどころじゃない!)<br /><br /> 上条(補助金支給が近いからおろしてくる金もせいぜい五百円程度……か。)<br /><br /><br /> 救いを求めるように教室を見回しても、掃除当番だけが残っている教室には土御門も青髪ピアスも居ない。<br /> 正確には土御門は当番のはずなのだが、さぼるにゃーよろしくにゃーとニヤニヤとトンズラされている。<br /> 姫神も居るが、彼女もそこまで金に余裕があるわけではなさそうだし、それよりも女子から金を借りるということがプライド的にあまり喜ばしくない。<br /><br /> ……というか、無能力者ばかりが集まるこの学校で金が有り余ってそうな人など、思い浮かばない。<br /> せいぜい必要悪の教会から金が入ってるかもしれない土御門程度か。ちくしょうあいつなんで逃げやがった、と上条は一人愚痴を吐く。<br /><br /><br /> 上条(マジで不幸だ……逮捕か俺)<br /><br /><br /> こんなときほどすぎる時刻は早い。<br /> 上条は学校を陰鬱なオーラと共に出て、とぼとぼと行きたくないレストランの方向へ向かう。<br /> 待ってるね、と一切の邪気の無い声で言ったインデックスの声と、無銭飲食で逮捕の二文字がちかちかと点滅する。<br /><br /><br /> と、そこに。<br /><br /><br /> 「あ、やっほー。なーに普段よりさらに暗い顔してんのアンタは?」<br /><br /> 上条には彼女がまぶしい光を放っているように見えた。<br /> 先ほど姫神に金を借りることを断った理由は確かに彼女にも当てはまるはずなのに、その理由はどこかに飛んでいっていた。<br /> 彼にはブレザー姿のその少女を見て思わず言葉を漏らした。<br /><br /><br /><br /> 上条「ああっ女神さま!!!」<br /><br /> 美琴「私それ読んだことないんだけ………って、はああああ!?!?!?」</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p>                                                       つづく</p>

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