滝壺「私は、AIMストーカーだから」4

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麦野「んじゃ、今日もこれで終わりってことで――――」  麦野は手をパン、と叩き、全員を一瞥する。  最後の滝壺で瞬間的に視線を止め、目を瞑った。 麦野「解散」  かたん、と滝壺が立ち上がると同時に浜面、絹旗も素早く道を開ける。  じゃあね、という滝壺に答え、その背中を麦野を除く三人して見送った。  ふー、とフレンダが目を外して椅子にもたれかかった。 フレンダ「滝壺、通い妻っぽいわけよ……」 絹旗「そうですね……この様子じゃあ集会がない日も例の男友達と超会ってるっぽいですし」 浜面「人って言うのはわからないもんだな……あの滝壺が……」 絹旗「そうですか?滝壺さんはおそらく恋人にべったりなタイプですよ。多分、相手が浮気している全長があったら超ストーキングして『貴方は私のもの』とかいって刺し殺しそうですし」 浜面「……マジか」 フレンダ「強ちない、とは言えないわ……いつもは消極的な滝壺だからこそ、積極的になったときに暴走しちゃいそう」  ひそひそ、こそこそと周りに迷惑をかけない程度に話しあう。  それほどまでに最近の滝壺は今までのものに比べて異常だった。  ……これこそが本来の彼女なのかもしれないが。 フレンダ「……ま、結局うちらと滝壺は仲間だけど、それは仕事、ギブアンドテイクの関係だし、人間関係に兎や角いう必要はないわけよ」 麦野「そうね。きちんと仕事さえ果たしてくれれば、それで問題はないわ」  麦野はそう言うとドリンクバーのお茶をズズズ、と一気に啜った。  フレンダと絹旗はその言葉に寒気を覚え、この話題をここで打ち切る。  話題が止まったので絹旗も帰ろうと思い、浜面に提案する。 絹旗「浜面浜面。超映画に行きましょう」 浜面「またかよ……どうせB級だろ?」 絹旗「いいえ、今日はもっと潜らなきゃいけないC級です」 浜面「前のアレより酷いのか……!?」  と談笑していると麦野が何かを思いついたかのようにん、と漏らす。  そして二人をシャケ弁を食べていた箸でピッ、と刺す。 麦野「ちょいまち。二人にはちょろーんとやってほしいことがあるのよね」  私は関係ないなー、とフレンダは席を立とうとして、グイッ、と襟首を掴まれて無理に席に座らされる。  麦野は動くな、と視線で告げて二人に続ける。 麦野「滝壺を追って」 浜面「追ってって……ストーキングでもするのか?」 麦野「そう。そんで、その時の滝壺の様子とか相手の男の性格とか精密に教えて」  浜面にはどうして麦野がそこまでしようとするのかわからない。  だからそこについて言及しようとすると、肩に絹旗の手が置かれた。  それは『反抗するな』と告げているように思える。 絹旗「わかりました」 浜面「っ、おい絹旗」 絹旗「浜面は超黙っててください」  ピシャリ、と絹旗は浜面の言葉を聞きすらせず、荷物を持った。 麦野「いいね、絹旗。私そういう理由とか聞かないところ好きよ」 絹旗「それはどうも。では早くしないと超見失うので、失礼しますね」  絹旗は麦野の言葉に感情ない言葉で返し、浜面の手を取る。  それは別に浜面と二人きりになろうと引っ張っていこうとしているわけではない。  逃がそうとしているのだ。このまま残した場合に起こるであろう災厄から。 絹旗「では、また今度」  そう言い残し、彼女らはファミレスから去る。  麦野はそんな彼女ら――主に絹旗を、見えなくなるまで凝視する。 浜面「きぬは、絹旗っ、なんなんだよ一体!?」  理由も聞けず、文句も言えないまま連れだされた浜面は何かわかっているであろう絹旗に事情を問おうと引っ張られながら必死に話しかける。  しかし絹旗は答えず、浜面の方も見ないでどんどん進む。  道行く人は彼氏彼女だと思っているのか生暖かい目や、独り身の嫉妬を主に浜面がビンビンに受ける。 浜面「お、おいきぬ」 絹旗「っと、浜面静かに」 浜面「うぶっ!?」  突然止まったかと思えば、絹旗は浜面の口をふさぐ。  何かと思うと、その先には歩いている、しかし僅かに速っている滝壺がいた。  どうやら目標を捉えたから止まったらしい。 絹旗「……尾行の仕方、知ってますか?」 浜面「いや……しらんけど」 絹旗「じゃあ超簡単に教えますけど。一に相手の足を見る。二に足を下ろすタイミングを揃える。三に歩幅を一緒にする。相手がプロでない限り滅多にばれません。勿論距離は超必要ですが」  足を下ろすタイミングを揃えることで後ろに誰もいないように思わせる。  そして歩幅を一緒にすることで一定の距離を保つことができる。  プロにはもっと別な技術――例えば自分が辿ってきたような証拠すらも消すなど――あるが、素人にできる簡単追跡方法、といったところか。 浜面「……いや、でもAIM拡散力場からバレたらおわりじゃないか?」 絹旗「大丈夫ですよ。基本的に滝壺さんはターゲットの拡散力場しか記憶してませんから、さがそうとする気にならなければ探さないと思います」  絹旗は簡潔に告げ、先程浜面に言った方法を実践するように移動を始める。  浜面も見習い、それを追った。 絹旗「それで……なんですか?」 浜面「ん?何がだ?」  聞き返す浜面に、絹旗はジト目で呆れたように溜息を吐く。 絹旗「さっきなんなんだよって超きいてきたじゃないですか。そんなのも忘れるなんてやっぱり浜面は超浜面なんですね」 浜面「超浜面ってのがなんなのかわからないけどとりあえずバカにしていることだけはわかった」  絹旗の物言いに浜面は僅かに苛立ちを覚える。  しかしそれについて言っても仕方が無いので、本題に戻る。 浜面「どうして麦野が滝壺を追えっていったのかってことと、お前がそれを聞かないで大人しく従ったのかってことだよ」 絹旗「ああ……そのことですか」  角を曲がる滝壺に絹旗も角へ素早く移動し、影からいなくなっていないかと確かめる。  浜面が追いついてきたのを確認してから続ける。 絹旗「……麦野は滝壺さんを訝しんでいます」 浜面「どういうことだ?」 絹旗「つまり、滝壺さんが仕事に超支障が出るくらいにその男にはまってしまうかもしれない、と思っているわけです」  浜面はまだわからない。  それに何が問題があるのか、と思っているらしい。 浜面「別にいいじゃねぇか。それで暗部を抜けることになっても、万々歳だろ?」 絹旗「……これだからバ浜面は……」  これ見よがしに溜息を吐く絹旗に、浜面は反射的にムッ、としてしまう。  だが聞いてみないことにはわからないので黙って続きを促した。 絹旗「麦野は、滝壺さんを死ぬまで使い続けるつもりなんですよ」  は?と瞬間浜面の頭が考えることを放棄する。 絹旗「滝壺さんの能力は『能力追跡』……これ以上ない超珍しい能力です。実質、私たち『アイテム』の核……だから仕事を抜けてもらっては困る、というわけです」 浜面「い、いや……まてよ。さっきの『死ぬまで』につながらないんだが……」 絹旗「私も詳しくはわかりませんけど……滝壺さん、能力を使うたびに顔が青くなり、動機が激しくなるんです。気づきませんでしたか?」  言われ、浜面は思い返す。  確かにそうだったかもしれない。単純に精神力を使うからそうなってるだけなのか、と思っていたが。 絹旗「……いつ倒れるか、私も気が気でないです」 浜面「ま、まて……本当にわかんねぇ……『アイテム』の核なら、尚更死んでもらっちゃ困るんじゃないのか……?」 絹旗「麦野は『能力追跡』自体にはそれほど執着をいだいてません。違う方式でもいいと思ってますが、それを探すのも超面倒がかかりますからね。だから抜けてもらっては困る、と言ったところでしょうか」 浜面「……ってことは、あれか?つまり、滝壺が使い物にならなくなってたら……」 絹旗「ええ、きっと――その原因を超取り除こうとするでしょうね」  ブル、と浜面は身震いをした。  取り除く、と簡単に絹旗は言った。  しかしそれは――殺す、ということだ。その存在を抹殺する、ということだ。 浜面「……なんだよ、それ…………」 絹旗「私だって超納得できませんよ。ここで、浜面の二つ目の質問の答えについての問題です。私も納得していないのにどうして私は黙って麦野の言うことを聞いたでしょうか」  浜面は押し黙る。  わからないから、ではない。  その理由を今はもう察してしまったからだ。 絹旗「……そうですよ」  ぽつり、と少女は呟く。 絹旗「私や浜面の代わりなんて、超いくらでもいるんですから。……つまり、そういうことですよ」  それは、とても寂しそうに。  そして、諦めを含んで。 ――――――――――――――――――――――――――― 絹旗「っと、止まりましたよ」  ぐいっ、と浜面を押しのけて素早く影に入り込む。  止まった、ということはそこが待ち合わせの可能性が高い。  つまりその場で辺りを見渡す可能性が高いのだ。  浜面も絹旗の更に影に隠れ、彼女に話しかける。 浜面「……それで、例の男ってやつはいるのか?」 絹旗「いえ……まだきていないようです……って、丁度来ましたきました」  目の前で近づいてきた男と二、三言はなし、そして歩き始めた二人に絹旗は慌てて言う。  浜面もそこでようやく滝壺の方を覗き込んだ。 浜面「……一体、どんな奴なんだ?」 絹旗「ほら、あの髪の毛つんつんの」  髪の毛つんつん?と怪訝に思いながらも滝壺を捉え。  そして、その隣に並び立つ男子高校生をみて。  浜面仕上は驚愕した。 浜面「なっ、あいつはっ!?」  浜面には見覚えがある。  当然だ。なにせ、彼のせいで闇に落ちる止めを刺されたといっても過言ではないのだから。 絹旗「知っているんですか?」 浜面「ああ……一度だけしか会ったことないけどな……名前は確か…………」  と、そこで浜面の発言が止まる。  何事か、と思い彼を見てみるが、やはり止まっている。 絹旗「……浜面?名前……は、どうしたんですか?」  一拍おいた後、彼は気まずそうに応える。 浜面「……知らねぇ」  思い出してみた。  あいつと会ったのは敵同士だった一度きり。  それもこっちはチンピラで、あっちは知り合いだってだけで助けに来る正義のヒーローときたもんだ。  そして一触即発。  そんな状況で名前を聞ける方がおかしい。  だが絹旗にとってそんな事情など正直どうでもいいので、はたはた役に立たない下っ端に呆れる。  しかし攻めるでもなく、嘆息と共に呟くだけ。 絹旗「バ浜面……」  そんな言葉がなんとなく噛み付かれるより心に響いた。  身近にある壁に手を叩きつけつつ、嘆く。 浜面「くそう……くそう……っ!!」 絹旗「ほらほら、そんなバカやってないで超おいますよ。見失います」 浜面「っ、ちょ、ちょっとまてよっ」  くやしがる浜面を尻目に絹旗は先へと進み、浜面もやはり後を追う。  ……先程の会話から鑑みるに、まだ聞かなければならないこともある。 浜面「……なぁ、絹旗」 絹旗「超なんですか?」 浜面「さっきの話の続きだけどさ……」  聞き、またも溜息。  今度は呆れを含んだように。 絹旗「実は浜面って超Mだったんですね」 浜面「なんでだよ!?」 絹旗「いえ、超普通に考えて。さっきの話の流れでは、私も浜面も換えの効く消耗品という意味だったんですが……」  それを確かめようとするなんて、と絹旗は続ける。  それは確かに意味の分からない行動でしかない。 浜面「確かにな……ってそうじゃねぇよ!誰が好んでそんなこと聞くか!」  浜面は全力を掛けて否定する。 浜面「絹旗、お前俺を何だと思ってやがる!?」 絹旗「え……いっていいんですか?」 浜面「やっぱりやめてくださいすいませんでした」  何を言われるのか理解したのか、浜面は土下座をする勢いで頭を下げる。  それにもまた、絹旗は息を漏らさずにはいられない。  一体どうしてこんな根性なしが暗部に落ちてきたのか……  しかし彼女は頭を振ってその考えを打ち消した。  誰がどうして暗部に落ちてきたか、なんてそんなことはどうでもいいのだ。何か悪いことをしたのだとしても、不運にも闇に飲み込まれてしまったにしても。  結果として、ここで何かをすることに変わりはないのだから。  だから絹旗は浜面を軽く一度だけたたき、話を戻す。 絹旗「……ま、何が聞きたいのかは大体想像がつきます。本当に見たままを超報告するのか、ということでしょう?」 浜面「え……なんでわかったんだ?」  やっぱり、といった面持ちで絹旗はジト目で浜面を見る。 絹旗「浜面、意外にも少しだけお人好しですからね。あくまで、少しだけ」  絹旗は念を押すように二度繰り返した。  そうだ。浜面仕上はあくまで、少しだけ、お人好しなのだ。  性格的にはそこらのチンピラ、カッコいいスポーツカーを見ると盗みたくなったりする一面もある。  だが、基本的に関わった人間――敵以外で――には、仲間意識を持ち安全を思ってみたりもする。 浜面「……まぁな。それに、滝壺は変人ぞろいの『アイテいててててっててててててっ!!?」  浜面が言い終わる前に、彼のコメカミに絹旗の手がグリグリと硬く擦られる。 絹旗「誰が超変人ぞろいなんですか?」  彼女は笑顔だが、心では笑っていない。絶対。  このままだといろんな意味でヤバイ状況になりそうなので浜面は激痛から逃れるために必死で頭を回転させる。 浜面「だっ、だいじょうぶっ!絹旗はましなほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっぅぅぅぅっっっっ!!!!」 絹旗「私はっ!全くっ!超変人じゃっ!ありませんっ!!」  だから『超』がつくその口調が――と言いかけて、墓穴を掘ることに気づき口をつぐむ。  それでも絹旗はやめず、いい加減もう痛みがなくなってきた。  それはなれたわけではなく、意識が飛びそうなだけなのだが。  瞬間。  バチンッ!と歩いている歩道に強烈な電撃が走った。  絹旗は浜面を反射的に手放し、自分と一緒に地面に押し付ける。  素早く辺りを見渡すが、どうやら怪我人はいないようだった。 浜面「いっつつ……な、なんだ?」 絹旗「……よくわかりませんけど、周りに超配慮した上で特定の誰かに向けた電撃みたいですね……」  絹旗は素早く立ち上がり、浜面を引っ張り上げる。  そして物陰に隠れながら道の先を見ると、滝壺とその連れの男が立ち止まっていた。  絹旗と浜面は結構じゃれ合っていたから、もう少し遠くにいてもいいのに。 絹旗「……んー……?」  よくよく見てみると、男を後ろにするように滝壺が前に立ち、そしてその先にいる制服姿の女子生徒と口論を交わしている。  滝壺の声は小さいからその女子生徒の声しか響いていないのだが。 浜面「……あれ、常盤台の制服じゃねぇか」 絹旗「そう、みたいですね……」  滝壺がうろたえていないところをみると、どうやらさっきのは誰にも当てるつもりのない威嚇のようなものだったようだ。 絹旗「滝壺さんの知り合いに常盤台の人がいるなんて聞いたことありませんし……ということは、例の男の人の知り合いでしょうか」 浜面「え、アイツ無能力者だって言ってたぞ?そんなのが常盤台に知り合いいるとか……」  と、その時常盤台の女子生徒の前髪で火花が飛び散る。  やばい、と思った瞬間には再び電撃が迸っていた。  それでも――周りの人に当たることはない。 絹旗(っ……この威力で、この制御力……もしかして、あの人は……第三位の『超電磁砲』……!?)  浜面の言ったことを鵜呑みにするなら、あの男子生徒は無能力者らしい。  それで常盤台の生徒と知り合いというだけでも驚きなのに、それがよりにもよって『超電磁砲』ときた。 絹旗(一体、あの人は超何者なんですか……?)  『アイテム』の絹旗最愛でも、そう思わずにはいられなかった。  少し戻り。  上条が滝壺より一歩遅れて待ち合わせ場所に到着する。 上条「滝壺!」  例のごとく立ち尽くしているのを見かけ、駆け寄る。  それに対して滝壺は反応しない――かと思いきや、ピクリ、と耳を動かした。  そして近づいてきた上条に視点を合わせる。 滝壺「こんにちは、かみじょう」 上条「あ、ああこんちは……すまん、どのくらい待った?」 滝壺「ううん、全然待ってないよ。私もいま来たところ」 上条「そっか。それならよかった」  軽く息を整え、どちらがでもなく歩き出す。  上条の右手のことを調べる――とは言っても、そんなすぐさま行動に移せるわけではない。  滝壺は暗部で、それなりのツテというものはあるにしても手配には僅かながらも時間がかかるためだ。  だからその準備が整うまで、専ら道行く能力者の拡散力場を消すことができるか出来ないか、という作業じみたものになっていた。 上条「……それで、今日はどの辺に行ってみるんだ?」 滝壺「……学び舎の園付近、とか。高レベルでも消せるのかってことを」 上条「学び舎の園……」  上条の脳裏に、一人の少女が過る。  正直苦手なタイプで、会うことはご遠慮したい部類の人物だ。 滝壺「? どうしたの?」  黙った上条から違和感を感じ取ったのか、滝壺は首を傾げて問いかけてきた。 上条「い、いやなんでもないぞー女子生徒ばかりだと上条さんの理性が保てるかどうか心配になっただけだからなー」  隣人の妹の口調を咄嗟に真似してしまう。  明らかにごまかしだが、滝壺にはそちらよりもその言葉の真偽が気になった。 滝壺「……かみじょうって、女の子好き?」 上条「は?あ、え?いや、そりゃあ好きか嫌いかで言われれば好きかもしれませんがこう表立って女好きって言ったら誤解が生じる可能性がなきにしもあらずで御座いますがいかがでしょう姫?」  上条の言葉にはまるで付き合わず、滝壺は淡々と思うことを質問する。 滝壺「じゃあ、私にもそう思うの?」  どきん、と上条は飛び跳ねそうになった。  いつもならこんな質問をしてくるのは同居人のインデックスだ。  是か否か。その二択を出され、上条はまず否定を選ぶ。大切な人であって、そんな対象にみたら昔の自分に怒られかれないからだ。  だがしかし、その結果はいつも噛まれることとなる。  また、是を選んだところでこの先一緒に済んでいくことにおいて支障を起こしかねない。  どちらを選んだとしても、上条には微妙な結果しか残っていないのだ。  ……今回は目の前の少女がそう問いかけてきた。  彼女は最近知り合ったばかりだが、親交は恐らく一言二言交えるぐらいのクラスメイトよりは上だろう。  それでも、まだそんな好きか嫌いかなどと言える場面ではない。  是を選んだら協力が終わるまで微妙な空気で接しなければならず、否を選んだなら何がおこるかわからない。  インデックスは噛み付くとわかっているからまだいい。彼女はそんな直接的な暴力を振るうようには見えず、何をするかわからないのがネックなのだ。  ……例えば。  彼女がもしも自分に好意を持っていたとして、自分が彼女にそんな気持ちがないと言えば。  彼女はその気持ちを帰るために誘惑――例えば、そう、例えばキスなどしてくるかもしれないのだ。 上条(…………!)  いや、それはないと思うのだが、それ以上のレベルのことはしてくる。  インデックスが肉体的苦痛だとするなら滝壺は精神的苦痛で。  ……なんとしてでも、それだけは避けたい。 上条「あー、えーっと……」  上条はなんとか誤魔化そうと頭を捻るが、如何せん赤点ギリギリレベルの頭では何も出てこない。  時間を稼ごう、他に注目を向けさせようと辺りを見渡すが。  ぐいっ、と両手で顔を抑えこまれた。  彼女にしては珍しい、ジト目のようなものが彼を射抜く。 滝壺「答えて」  それには有無を言わさぬ迫力がある。  うっ、と少年は詰まる。  針の筵を通るか、或いはまだ見ぬ罰を受けるか。  究極の二択。 上条「――――あ」  果たして、彼が選んだ答えは。 上条「あぶねぇっ!!」  滝壺を左手で力いっぱい引き寄せて、胸に抱く。 滝壺「!?」  突然少年の胸に抱かれ、少女は思わず目を見開く。  視界の端で、少年の右手が振るわれた。  ――幻想殺し。あらゆる異能を打ち消す、天災の能力。  それが振るわれる時といえば、まさしくその名のごとく幻想――『自分だけの現実』を殺すときだけ――  バチン!と。  飛んできた雷の槍が霧散した。 上条「っ……間一髪、ってとこだな……」  少しでも遅れれば、それは滝壺か或いは自分に突き刺さっていたことだろう。  殺す、まではいかないだろうが。 「……アンタねぇ、真昼間から道端でなにやってんのよ!そ、そんな顔近づけて……っ!!」  滝壺は上条の腕の中で見る。  その雷撃を発した能力者を。  前髪から電撃を迸らせる少女を。  見覚えがある。  それは『アイテム』の依頼で。  フレンダが一人では危うく負けそうになり、麦野と自分が手を組んでもとらえ切れず、最終的に麦野とのタイマンでも逃した電撃使い。  そして、終わった後に麦野からその正体について教わった。 滝壺「……レール、ガン」  学園都市超能力者序列第三位、『超電磁砲』御坂美琴。  そんな彼女がどうして彼に簡単に口を聞いているのだろうか。  美琴は滝壺が何故自分のことを知っているのか、と今までの記憶から知識をフル動員して。 美琴「っ!?」  思い出す。  滝壺が思い出したのと、全く同じ光景。  あの戦いの中で、ある意味第四位より危険な匂いを感じた少女だと。 美琴「あ、あん、アンタ……!」 上条「……?」 美琴「さっさとそいつから離れなさい!危ないわよっ!!」  美琴は叫ぶ。  しかし、上条には意味が分からない。  少なくとも滝壺は自分に危害を加えない。それはわかっていることだ。  だから彼はいつもと同じ調子訊ねる。 上条「……御坂、お前何言ってるんだ?」 美琴「っ……」  その言葉で美琴は顔を歪ませた。  自分が絶対能力進化計画を止めたことに対して上条は知っている。  が、その事は決して胸を張って話せることではない。  そして出来ればそんなことは言わずにすみたい。 滝壺「……かみじょう」  滝壺はとんとん、と彼の腕を叩き、離してくれ、と言外に訴える。 上条「え、あ、ああすまん」  言われ、上条は滝壺を開放する。  そして彼を守るように前に立って、美琴と向き合う。 滝壺「私は、別にかみじょうに危害は加えない。あなたが思っているようなことはしない」 美琴「……どうだか。あの計画に加担するような人間が何を言っても信じられないわ」  美琴の皮肉をうけても、滝壺の表情は崩れない。 滝壺「それなら、どうしたら信じてもらえるの?」 美琴「簡単よ……こうすんのよ!」  バチン!と再び雷撃が迸る。  辺りの通行人は思わず足をとめ、その合間を火花が縫った。  しかし、それは余波。  本命はまっすぐに、滝壺へと向かっていく。  だが、少女は避ける素振りすら見せず。  その雷撃は彼女のすぐ横に墜落した。 滝壺「……これで、いいの?」  滝壺は何もしていない。  至極単純、美琴は試しただけだ。反撃をしてくるのかどうか。  あの時戦った他の女なら、美琴の知り合い――つまり上条を人質にとってもおかしくはなかった。  しかし滝壺はなにもしなかった。危害をくわえるつもりはない、という言葉はどうやら本当らしい。 美琴「……っ」  どうしよう、と思考を巡らせる。  喧嘩腰になってしまった以上、引くわけにはいかない。彼女にも彼女なりのプライドというものがあるのだ。  滝壺も何もいわない。なんとなくだが、心中は察しているつもりだ。  三人中二人が硬直したら、残りは一人しか動けない。  即ち、上条が。 上条「御坂、わかったなら引いてくれないか……?ちょっと俺たち、用事あるからさ」 美琴「……用事?何よそれ」 滝壺「実験」  実験、という響きに美琴は構えずにはいられない。  学園都市での実験は、基本的に危ないものが多いからだ。  『暴走能力の法則解析用誘爆実験』然り、『絶対能力進化実験』然り。  そんな美琴に、滝壺は思いついたように声をあげる。 滝壺「そうだ。『超電磁砲』にも手伝ってもらおう」 美琴「はぁっ!?」  突然な事に、美琴は思わず素っ頓狂な声をあげた。 美琴「実験って、こういうことだったのね……」  美琴はどことなく覇気のなくなった声を漏らした。  彼らがいるのは人通りの多い交差点。  美琴の通う常盤台中学だけではなく、上条の通う高校など第七学区の学生がうろついている。 美琴「結局……こうしてぶつけるだけでいいわけっ!?」  美琴の手から雷が飛び出す。  上条は反射的に右手を振るってその雷撃をかき消した。  しかしその顔色はすぐれない。 上条「い、いきなりやらないでくださいますか!?心臓バクバクなんですけど!?」 美琴「そう言っても、いつも簡単に消すわよね」  上条の態度に美琴は若干機嫌が悪くなる。  それもそうだ。彼女はレベル1からレベル5まで上り詰めたまるで模範のような能力者。  その努力の結晶をいともたやすく消されてはたまったものではない。 滝壺(……レベル5でも、だめなんだ)  彼らのやりとりを近くで見つつ、滝壺は分析する。  単に物質量だけの問題じゃない。 滝壺(なら、今度は持続的に……処理能力の限界があるのかどうかを調べよう)  そう思いちらりと上条と美琴を見る。  彼らはまだ言い合っている。  とはいったものの、美琴が上条に噛み付いて、上条はそれを受け流したり反論したりといったものだが。 滝壺「………………」  何故だろうか。  滝壺理后には、そのやりとりが、なんだかとてつもなく楽しいものに思えたのだ。  手を伸ばせば、届く距離に二人はいる。  それなのに――遠い。  日常世界の人間と、その裏側の人間の差。  恐らくは、御坂美琴は分かっていることだろう。  その彼女と接する上条当麻も、片鱗ぐらいは知っていることだろう。  だが、それでもやはり彼らは表の人間なのだ。  裏の世界の人間とは、絶対的に違う。 上条「……ん?滝壺、どうしたんだ?」  上条はそんな表情に陰りが入った彼女に目ざとく反応する。 美琴「まだ話は終わってないわよ!」  はいはいそうですね、と上条は適当にあしらいつつ、滝壺に再び問いかける。 上条「それで、どうかしたのか?」 滝壺「ううん、なんでもないよ。どうして?」 上条「いや……なんとなく暗いような気がしてさ……ってもしかして俺の右手に何か異常があったとか!?」  そんな風に喚く上条に滝壺は口元をほんの少しだけつり上げた。  微笑ましく子供を見守る母親のように、純粋な上条を羨ましく思っただけだ。 滝壺「ううん、特に異常はないよ」 上条「そ、そっか、よかった……」  安心したように上条は溜息をはき、滝壺は再び微かに笑う。  それでもやはり、見慣れているものでないとわからないようなものだが。 美琴「ひ・と・の・は・な・し・を・き・け―――――――――――ッッッ!!!」  ズドン!と先程までの比にならない雷が上条を襲った。  しかし周りに全く被害の与えないことはやはりレベル5の制御力、といったところか。  だが、その上条を襲った電撃すらも地面に直撃してコンクリートをぶち壊した。  上条は右手を構えていて、予想外にズレた雷にえぇ――――ッ!?と驚きを隠せない。  それは撃った当の本人も同じ。 美琴「え、あ、あれ?はずれた?」 上条「っていうか痛ぇ!?電撃が直撃するより破片がぶつかるほうがいたいんですけど!」 美琴「あっ、えっ、ごめん!じゃなくて、外すつもりはなかったのよ!」  上条がコンクリートの破片を間近に喰らってしゃがみ、悶え苦しむのを美琴は慌てて弁解する。  それにしても、外すつもりはなかった、は理由としてどうかと思うが。  破片があたった足を抑える上条に視線を合わせるように滝壺もしゃがむ。 滝壺「……ごめんね、かみじょう」 上条「っつつ……い、いや、滝壺のせいじゃなくて、御坂が勝手に……」 滝壺「そうじゃなくて」  遮るように言い、 滝壺「かみじょうに電撃が当たらないように干渉したのが、私だから」  お前かよっ!?というふたり分の突っ込みが辺りの奇異の視線の中響いた。
麦野「んじゃ、今日もこれで終わりってことで――――」  麦野は手をパン、と叩き、全員を一瞥する。  最後の滝壺で瞬間的に視線を止め、目を瞑った。 麦野「解散」  かたん、と滝壺が立ち上がると同時に浜面、絹旗も素早く道を開ける。  じゃあね、という滝壺に答え、その背中を麦野を除く三人して見送った。  ふー、とフレンダが目を外して椅子にもたれかかった。 フレンダ「滝壺、通い妻っぽいわけよ……」 絹旗「そうですね……この様子じゃあ集会がない日も例の男友達と超会ってるっぽいですし」 浜面「人って言うのはわからないもんだな……あの滝壺が……」 絹旗「そうですか?滝壺さんはおそらく恋人にべったりなタイプですよ。多分、相手が浮気している前兆があったら超ストーキングして『貴方は私のもの』とかいって刺し殺しそうですし」 浜面「……マジか」 フレンダ「強ちない、とは言えないわ……いつもは消極的な滝壺だからこそ、積極的になったときに暴走しちゃいそう」  ひそひそ、こそこそと周りに迷惑をかけない程度に話しあう。  それほどまでに最近の滝壺は今までのものに比べて異常だった。  ……これこそが本来の彼女なのかもしれないが。 フレンダ「……ま、結局うちらと滝壺は仲間だけど、それは仕事、ギブアンドテイクの関係だし、人間関係に兎や角いう必要はないわけよ」 麦野「そうね。きちんと仕事さえ果たしてくれれば、それで問題はないわ」  麦野はそう言うとドリンクバーのお茶をズズズ、と一気に啜った。  フレンダと絹旗はその言葉に寒気を覚え、この話題をここで打ち切る。  話題が止まったので絹旗も帰ろうと思い、浜面に提案する。 絹旗「浜面浜面。超映画に行きましょう」 浜面「またかよ……どうせB級だろ?」 絹旗「いいえ、今日はもっと潜らなきゃいけないC級です」 浜面「前のアレより酷いのか……!?」  と談笑していると麦野が何かを思いついたかのようにん、と漏らす。  そして二人をシャケ弁を食べていた箸でピッ、と刺す。 麦野「ちょいまち。二人にはちょろーんとやってほしいことがあるのよね」  私は関係ないなー、とフレンダは席を立とうとして、グイッ、と襟首を掴まれて無理に席に座らされる。  麦野は動くな、と視線で告げて二人に続ける。 麦野「滝壺を追って」 浜面「追ってって……ストーキングでもするのか?」 麦野「そう。そんで、その時の滝壺の様子とか相手の男の性格とか精密に教えて」  浜面にはどうして麦野がそこまでしようとするのかわからない。  だからそこについて言及しようとすると、肩に絹旗の手が置かれた。  それは『反抗するな』と告げているように思える。 絹旗「わかりました」 浜面「っ、おい絹旗」 絹旗「浜面は超黙っててください」  ピシャリ、と絹旗は浜面の言葉を聞きすらせず、荷物を持った。 麦野「いいね、絹旗。私そういう理由とか聞かないところ好きよ」 絹旗「それはどうも。では早くしないと超見失うので、失礼しますね」  絹旗は麦野の言葉に感情ない言葉で返し、浜面の手を取る。  それは別に浜面と二人きりになろうと引っ張っていこうとしているわけではない。  逃がそうとしているのだ。このまま残した場合に起こるであろう災厄から。 絹旗「では、また今度」  そう言い残し、彼女らはファミレスから去る。  麦野はそんな彼女ら――主に絹旗を、見えなくなるまで凝視する。 浜面「きぬは、絹旗っ、なんなんだよ一体!?」  理由も聞けず、文句も言えないまま連れだされた浜面は何かわかっているであろう絹旗に事情を問おうと引っ張られながら必死に話しかける。  しかし絹旗は答えず、浜面の方も見ないでどんどん進む。  道行く人は彼氏彼女だと思っているのか生暖かい目や、独り身の嫉妬を主に浜面がビンビンに受ける。 浜面「お、おいきぬ」 絹旗「っと、浜面静かに」 浜面「うぶっ!?」  突然止まったかと思えば、絹旗は浜面の口をふさぐ。  何かと思うと、その先には歩いている、しかし僅かに速っている滝壺がいた。  どうやら目標を捉えたから止まったらしい。 絹旗「……尾行の仕方、知ってますか?」 浜面「いや……しらんけど」 絹旗「じゃあ超簡単に教えますけど。一に相手の足を見る。二に足を下ろすタイミングを揃える。三に歩幅を一緒にする。相手がプロでない限り滅多にばれません。勿論距離は超必要ですが」  足を下ろすタイミングを揃えることで後ろに誰もいないように思わせる。  そして歩幅を一緒にすることで一定の距離を保つことができる。  プロにはもっと別な技術――例えば自分が辿ってきたような証拠すらも消すなど――あるが、素人にできる簡単追跡方法、といったところか。 浜面「……いや、でもAIM拡散力場からバレたらおわりじゃないか?」 絹旗「大丈夫ですよ。基本的に滝壺さんはターゲットの拡散力場しか記憶してませんから、さがそうとする気にならなければ探さないと思います」  絹旗は簡潔に告げ、先程浜面に言った方法を実践するように移動を始める。  浜面も見習い、それを追った。 絹旗「それで……なんですか?」 浜面「ん?何がだ?」  聞き返す浜面に、絹旗はジト目で呆れたように溜息を吐く。 絹旗「さっきなんなんだよって超きいてきたじゃないですか。そんなのも忘れるなんてやっぱり浜面は超浜面なんですね」 浜面「超浜面ってのがなんなのかわからないけどとりあえずバカにしていることだけはわかった」  絹旗の物言いに浜面は僅かに苛立ちを覚える。  しかしそれについて言っても仕方が無いので、本題に戻る。 浜面「どうして麦野が滝壺を追えっていったのかってことと、お前がそれを聞かないで大人しく従ったのかってことだよ」 絹旗「ああ……そのことですか」  角を曲がる滝壺に絹旗も角へ素早く移動し、影からいなくなっていないかと確かめる。  浜面が追いついてきたのを確認してから続ける。 絹旗「……麦野は滝壺さんを訝しんでいます」 浜面「どういうことだ?」 絹旗「つまり、滝壺さんが仕事に超支障が出るくらいにその男にはまってしまうかもしれない、と思っているわけです」  浜面はまだわからない。  それに何が問題があるのか、と思っているらしい。 浜面「別にいいじゃねぇか。それで暗部を抜けることになっても、万々歳だろ?」 絹旗「……これだからバ浜面は……」  これ見よがしに溜息を吐く絹旗に、浜面は反射的にムッ、としてしまう。  だが聞いてみないことにはわからないので黙って続きを促した。 絹旗「麦野は、滝壺さんを死ぬまで使い続けるつもりなんですよ」  は?と瞬間浜面の頭が考えることを放棄する。 絹旗「滝壺さんの能力は『能力追跡』……これ以上ない超珍しい能力です。実質、私たち『アイテム』の核……だから仕事を抜けてもらっては困る、というわけです」 浜面「い、いや……まてよ。さっきの『死ぬまで』につながらないんだが……」 絹旗「私も詳しくはわかりませんけど……滝壺さん、能力を使うたびに顔が青くなり、動機が激しくなるんです。気づきませんでしたか?」  言われ、浜面は思い返す。  確かにそうだったかもしれない。単純に精神力を使うからそうなってるだけなのか、と思っていたが。 絹旗「……いつ倒れるか、私も気が気でないです」 浜面「ま、まて……本当にわかんねぇ……『アイテム』の核なら、尚更死んでもらっちゃ困るんじゃないのか……?」 絹旗「麦野は『能力追跡』自体にはそれほど執着をいだいてません。違う方式でもいいと思ってますが、それを探すのも超面倒がかかりますからね。だから抜けてもらっては困る、と言ったところでしょうか」 浜面「……ってことは、あれか?つまり、滝壺が使い物にならなくなってたら……」 絹旗「ええ、きっと――その原因を超取り除こうとするでしょうね」  ブル、と浜面は身震いをした。  取り除く、と簡単に絹旗は言った。  しかしそれは――殺す、ということだ。その存在を抹殺する、ということだ。 浜面「……なんだよ、それ…………」 絹旗「私だって超納得できませんよ。ここで、浜面の二つ目の質問の答えについての問題です。私も納得していないのにどうして私は黙って麦野の言うことを聞いたでしょうか」  浜面は押し黙る。  わからないから、ではない。  その理由を今はもう察してしまったからだ。 絹旗「……そうですよ」  ぽつり、と少女は呟く。 絹旗「私や浜面の代わりなんて、超いくらでもいるんですから。……つまり、そういうことですよ」  それは、とても寂しそうに。  そして、諦めを含んで。 ――――――――――――――――――――――――――― 絹旗「っと、止まりましたよ」  ぐいっ、と浜面を押しのけて素早く影に入り込む。  止まった、ということはそこが待ち合わせの可能性が高い。  つまりその場で辺りを見渡す可能性が高いのだ。  浜面も絹旗の更に影に隠れ、彼女に話しかける。 浜面「……それで、例の男ってやつはいるのか?」 絹旗「いえ……まだきていないようです……って、丁度来ましたきました」  目の前で近づいてきた男と二、三言はなし、そして歩き始めた二人に絹旗は慌てて言う。  浜面もそこでようやく滝壺の方を覗き込んだ。 浜面「……一体、どんな奴なんだ?」 絹旗「ほら、あの髪の毛つんつんの」  髪の毛つんつん?と怪訝に思いながらも滝壺を捉え。  そして、その隣に並び立つ男子高校生をみて。  浜面仕上は驚愕した。 浜面「なっ、あいつはっ!?」  浜面には見覚えがある。  当然だ。なにせ、彼のせいで闇に落ちる止めを刺されたといっても過言ではないのだから。 絹旗「知っているんですか?」 浜面「ああ……一度だけしか会ったことないけどな……名前は確か…………」  と、そこで浜面の発言が止まる。  何事か、と思い彼を見てみるが、やはり止まっている。 絹旗「……浜面?名前……は、どうしたんですか?」  一拍おいた後、彼は気まずそうに応える。 浜面「……知らねぇ」  思い出してみた。  あいつと会ったのは敵同士だった一度きり。  それもこっちはチンピラで、あっちは知り合いだってだけで助けに来る正義のヒーローときたもんだ。  そして一触即発。  そんな状況で名前を聞ける方がおかしい。  だが絹旗にとってそんな事情など正直どうでもいいので、はたはた役に立たない下っ端に呆れる。  しかし攻めるでもなく、嘆息と共に呟くだけ。 絹旗「バ浜面……」  そんな言葉がなんとなく噛み付かれるより心に響いた。  身近にある壁に手を叩きつけつつ、嘆く。 浜面「くそう……くそう……っ!!」 絹旗「ほらほら、そんなバカやってないで超おいますよ。見失います」 浜面「っ、ちょ、ちょっとまてよっ」  くやしがる浜面を尻目に絹旗は先へと進み、浜面もやはり後を追う。  ……先程の会話から鑑みるに、まだ聞かなければならないこともある。 浜面「……なぁ、絹旗」 絹旗「超なんですか?」 浜面「さっきの話の続きだけどさ……」  聞き、またも溜息。  今度は呆れを含んだように。 絹旗「実は浜面って超Mだったんですね」 浜面「なんでだよ!?」 絹旗「いえ、超普通に考えて。さっきの話の流れでは、私も浜面も換えの効く消耗品という意味だったんですが……」  それを確かめようとするなんて、と絹旗は続ける。  それは確かに意味の分からない行動でしかない。 浜面「確かにな……ってそうじゃねぇよ!誰が好んでそんなこと聞くか!」  浜面は全力を掛けて否定する。 浜面「絹旗、お前俺を何だと思ってやがる!?」 絹旗「え……いっていいんですか?」 浜面「やっぱりやめてくださいすいませんでした」  何を言われるのか理解したのか、浜面は土下座をする勢いで頭を下げる。  それにもまた、絹旗は息を漏らさずにはいられない。  一体どうしてこんな根性なしが暗部に落ちてきたのか……  しかし彼女は頭を振ってその考えを打ち消した。  誰がどうして暗部に落ちてきたか、なんてそんなことはどうでもいいのだ。何か悪いことをしたのだとしても、不運にも闇に飲み込まれてしまったにしても。  結果として、ここで何かをすることに変わりはないのだから。  だから絹旗は浜面を軽く一度だけたたき、話を戻す。 絹旗「……ま、何が聞きたいのかは大体想像がつきます。本当に見たままを超報告するのか、ということでしょう?」 浜面「え……なんでわかったんだ?」  やっぱり、といった面持ちで絹旗はジト目で浜面を見る。 絹旗「浜面、意外にも少しだけお人好しですからね。あくまで、少しだけ」  絹旗は念を押すように二度繰り返した。  そうだ。浜面仕上はあくまで、少しだけ、お人好しなのだ。  性格的にはそこらのチンピラ、カッコいいスポーツカーを見ると盗みたくなったりする一面もある。  だが、基本的に関わった人間――敵以外で――には、仲間意識を持ち安全を思ってみたりもする。 浜面「……まぁな。それに、滝壺は変人ぞろいの『アイテいててててっててててててっ!!?」  浜面が言い終わる前に、彼のコメカミに絹旗の手がグリグリと硬く擦られる。 絹旗「誰が超変人ぞろいなんですか?」  彼女は笑顔だが、心では笑っていない。絶対。  このままだといろんな意味でヤバイ状況になりそうなので浜面は激痛から逃れるために必死で頭を回転させる。 浜面「だっ、だいじょうぶっ!絹旗はましなほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっぅぅぅぅっっっっ!!!!」 絹旗「私はっ!全くっ!超変人じゃっ!ありませんっ!!」  だから『超』がつくその口調が――と言いかけて、墓穴を掘ることに気づき口をつぐむ。  それでも絹旗はやめず、いい加減もう痛みがなくなってきた。  それはなれたわけではなく、意識が飛びそうなだけなのだが。  瞬間。  バチンッ!と歩いている歩道に強烈な電撃が走った。  絹旗は浜面を反射的に手放し、自分と一緒に地面に押し付ける。  素早く辺りを見渡すが、どうやら怪我人はいないようだった。 浜面「いっつつ……な、なんだ?」 絹旗「……よくわかりませんけど、周りに超配慮した上で特定の誰かに向けた電撃みたいですね……」  絹旗は素早く立ち上がり、浜面を引っ張り上げる。  そして物陰に隠れながら道の先を見ると、滝壺とその連れの男が立ち止まっていた。  絹旗と浜面は結構じゃれ合っていたから、もう少し遠くにいてもいいのに。 絹旗「……んー……?」  よくよく見てみると、男を後ろにするように滝壺が前に立ち、そしてその先にいる制服姿の女子生徒と口論を交わしている。  滝壺の声は小さいからその女子生徒の声しか響いていないのだが。 浜面「……あれ、常盤台の制服じゃねぇか」 絹旗「そう、みたいですね……」  滝壺がうろたえていないところをみると、どうやらさっきのは誰にも当てるつもりのない威嚇のようなものだったようだ。 絹旗「滝壺さんの知り合いに常盤台の人がいるなんて聞いたことありませんし……ということは、例の男の人の知り合いでしょうか」 浜面「え、アイツ無能力者だって言ってたぞ?そんなのが常盤台に知り合いいるとか……」  と、その時常盤台の女子生徒の前髪で火花が飛び散る。  やばい、と思った瞬間には再び電撃が迸っていた。  それでも――周りの人に当たることはない。 絹旗(っ……この威力で、この制御力……もしかして、あの人は……第三位の『超電磁砲』……!?)  浜面の言ったことを鵜呑みにするなら、あの男子生徒は無能力者らしい。  それで常盤台の生徒と知り合いというだけでも驚きなのに、それがよりにもよって『超電磁砲』ときた。 絹旗(一体、あの人は超何者なんですか……?)  『アイテム』の絹旗最愛でも、そう思わずにはいられなかった。  少し戻り。  上条が滝壺より一歩遅れて待ち合わせ場所に到着する。 上条「滝壺!」  例のごとく立ち尽くしているのを見かけ、駆け寄る。  それに対して滝壺は反応しない――かと思いきや、ピクリ、と耳を動かした。  そして近づいてきた上条に視点を合わせる。 滝壺「こんにちは、かみじょう」 上条「あ、ああこんちは……すまん、どのくらい待った?」 滝壺「ううん、全然待ってないよ。私もいま来たところ」 上条「そっか。それならよかった」  軽く息を整え、どちらがでもなく歩き出す。  上条の右手のことを調べる――とは言っても、そんなすぐさま行動に移せるわけではない。  滝壺は暗部で、それなりのツテというものはあるにしても手配には僅かながらも時間がかかるためだ。  だからその準備が整うまで、専ら道行く能力者の拡散力場を消すことができるか出来ないか、という作業じみたものになっていた。 上条「……それで、今日はどの辺に行ってみるんだ?」 滝壺「……学び舎の園付近、とか。高レベルでも消せるのかってことを」 上条「学び舎の園……」  上条の脳裏に、一人の少女が過る。  正直苦手なタイプで、会うことはご遠慮したい部類の人物だ。 滝壺「? どうしたの?」  黙った上条から違和感を感じ取ったのか、滝壺は首を傾げて問いかけてきた。 上条「い、いやなんでもないぞー女子生徒ばかりだと上条さんの理性が保てるかどうか心配になっただけだからなー」  隣人の妹の口調を咄嗟に真似してしまう。  明らかにごまかしだが、滝壺にはそちらよりもその言葉の真偽が気になった。 滝壺「……かみじょうって、女の子好き?」 上条「は?あ、え?いや、そりゃあ好きか嫌いかで言われれば好きかもしれませんがこう表立って女好きって言ったら誤解が生じる可能性がなきにしもあらずで御座いますがいかがでしょう姫?」  上条の言葉にはまるで付き合わず、滝壺は淡々と思うことを質問する。 滝壺「じゃあ、私にもそう思うの?」  どきん、と上条は飛び跳ねそうになった。  いつもならこんな質問をしてくるのは同居人のインデックスだ。  是か否か。その二択を出され、上条はまず否定を選ぶ。大切な人であって、そんな対象にみたら昔の自分に怒られかれないからだ。  だがしかし、その結果はいつも噛まれることとなる。  また、是を選んだところでこの先一緒に済んでいくことにおいて支障を起こしかねない。  どちらを選んだとしても、上条には微妙な結果しか残っていないのだ。  ……今回は目の前の少女がそう問いかけてきた。  彼女は最近知り合ったばかりだが、親交は恐らく一言二言交えるぐらいのクラスメイトよりは上だろう。  それでも、まだそんな好きか嫌いかなどと言える場面ではない。  是を選んだら協力が終わるまで微妙な空気で接しなければならず、否を選んだなら何がおこるかわからない。  インデックスは噛み付くとわかっているからまだいい。彼女はそんな直接的な暴力を振るうようには見えず、何をするかわからないのがネックなのだ。  ……例えば。  彼女がもしも自分に好意を持っていたとして、自分が彼女にそんな気持ちがないと言えば。  彼女はその気持ちを帰るために誘惑――例えば、そう、例えばキスなどしてくるかもしれないのだ。 上条(…………!)  いや、それはないと思うのだが、それ以上のレベルのことはしてくる。  インデックスが肉体的苦痛だとするなら滝壺は精神的苦痛で。  ……なんとしてでも、それだけは避けたい。 上条「あー、えーっと……」  上条はなんとか誤魔化そうと頭を捻るが、如何せん赤点ギリギリレベルの頭では何も出てこない。  時間を稼ごう、他に注目を向けさせようと辺りを見渡すが。  ぐいっ、と両手で顔を抑えこまれた。  彼女にしては珍しい、ジト目のようなものが彼を射抜く。 滝壺「答えて」  それには有無を言わさぬ迫力がある。  うっ、と少年は詰まる。  針の筵を通るか、或いはまだ見ぬ罰を受けるか。  究極の二択。 上条「――――あ」  果たして、彼が選んだ答えは。 上条「あぶねぇっ!!」  滝壺を左手で力いっぱい引き寄せて、胸に抱く。 滝壺「!?」  突然少年の胸に抱かれ、少女は思わず目を見開く。  視界の端で、少年の右手が振るわれた。  ――幻想殺し。あらゆる異能を打ち消す、天災の能力。  それが振るわれる時といえば、まさしくその名のごとく幻想――『自分だけの現実』を殺すときだけ――  バチン!と。  飛んできた雷の槍が霧散した。 上条「っ……間一髪、ってとこだな……」  少しでも遅れれば、それは滝壺か或いは自分に突き刺さっていたことだろう。  殺す、まではいかないだろうが。 「……アンタねぇ、真昼間から道端でなにやってんのよ!そ、そんな顔近づけて……っ!!」  滝壺は上条の腕の中で見る。  その雷撃を発した能力者を。  前髪から電撃を迸らせる少女を。  見覚えがある。  それは『アイテム』の依頼で。  フレンダが一人では危うく負けそうになり、麦野と自分が手を組んでもとらえ切れず、最終的に麦野とのタイマンでも逃した電撃使い。  そして、終わった後に麦野からその正体について教わった。 滝壺「……レール、ガン」  学園都市超能力者序列第三位、『超電磁砲』御坂美琴。  そんな彼女がどうして彼に簡単に口を聞いているのだろうか。  美琴は滝壺が何故自分のことを知っているのか、と今までの記憶から知識をフル動員して。 美琴「っ!?」  思い出す。  滝壺が思い出したのと、全く同じ光景。  あの戦いの中で、ある意味第四位より危険な匂いを感じた少女だと。 美琴「あ、あん、アンタ……!」 上条「……?」 美琴「さっさとそいつから離れなさい!危ないわよっ!!」  美琴は叫ぶ。  しかし、上条には意味が分からない。  少なくとも滝壺は自分に危害を加えない。それはわかっていることだ。  だから彼はいつもと同じ調子訊ねる。 上条「……御坂、お前何言ってるんだ?」 美琴「っ……」  その言葉で美琴は顔を歪ませた。  自分が絶対能力進化計画を止めたことに対して上条は知っている。  が、その事は決して胸を張って話せることではない。  そして出来ればそんなことは言わずにすみたい。 滝壺「……かみじょう」  滝壺はとんとん、と彼の腕を叩き、離してくれ、と言外に訴える。 上条「え、あ、ああすまん」  言われ、上条は滝壺を開放する。  そして彼を守るように前に立って、美琴と向き合う。 滝壺「私は、別にかみじょうに危害は加えない。あなたが思っているようなことはしない」 美琴「……どうだか。あの計画に加担するような人間が何を言っても信じられないわ」  美琴の皮肉をうけても、滝壺の表情は崩れない。 滝壺「それなら、どうしたら信じてもらえるの?」 美琴「簡単よ……こうすんのよ!」  バチン!と再び雷撃が迸る。  辺りの通行人は思わず足をとめ、その合間を火花が縫った。  しかし、それは余波。  本命はまっすぐに、滝壺へと向かっていく。  だが、少女は避ける素振りすら見せず。  その雷撃は彼女のすぐ横に墜落した。 滝壺「……これで、いいの?」  滝壺は何もしていない。  至極単純、美琴は試しただけだ。反撃をしてくるのかどうか。  あの時戦った他の女なら、美琴の知り合い――つまり上条を人質にとってもおかしくはなかった。  しかし滝壺はなにもしなかった。危害をくわえるつもりはない、という言葉はどうやら本当らしい。 美琴「……っ」  どうしよう、と思考を巡らせる。  喧嘩腰になってしまった以上、引くわけにはいかない。彼女にも彼女なりのプライドというものがあるのだ。  滝壺も何もいわない。なんとなくだが、心中は察しているつもりだ。  三人中二人が硬直したら、残りは一人しか動けない。  即ち、上条が。 上条「御坂、わかったなら引いてくれないか……?ちょっと俺たち、用事あるからさ」 美琴「……用事?何よそれ」 滝壺「実験」  実験、という響きに美琴は構えずにはいられない。  学園都市での実験は、基本的に危ないものが多いからだ。  『暴走能力の法則解析用誘爆実験』然り、『絶対能力進化実験』然り。  そんな美琴に、滝壺は思いついたように声をあげる。 滝壺「そうだ。『超電磁砲』にも手伝ってもらおう」 美琴「はぁっ!?」  突然な事に、美琴は思わず素っ頓狂な声をあげた。 美琴「実験って、こういうことだったのね……」  美琴はどことなく覇気のなくなった声を漏らした。  彼らがいるのは人通りの多い交差点。  美琴の通う常盤台中学だけではなく、上条の通う高校など第七学区の学生がうろついている。 美琴「結局……こうしてぶつけるだけでいいわけっ!?」  美琴の手から雷が飛び出す。  上条は反射的に右手を振るってその雷撃をかき消した。  しかしその顔色はすぐれない。 上条「い、いきなりやらないでくださいますか!?心臓バクバクなんですけど!?」 美琴「そう言っても、いつも簡単に消すわよね」  上条の態度に美琴は若干機嫌が悪くなる。  それもそうだ。彼女はレベル1からレベル5まで上り詰めたまるで模範のような能力者。  その努力の結晶をいともたやすく消されてはたまったものではない。 滝壺(……レベル5でも、だめなんだ)  彼らのやりとりを近くで見つつ、滝壺は分析する。  単に物質量だけの問題じゃない。 滝壺(なら、今度は持続的に……処理能力の限界があるのかどうかを調べよう)  そう思いちらりと上条と美琴を見る。  彼らはまだ言い合っている。  とはいったものの、美琴が上条に噛み付いて、上条はそれを受け流したり反論したりといったものだが。 滝壺「………………」  何故だろうか。  滝壺理后には、そのやりとりが、なんだかとてつもなく楽しいものに思えたのだ。  手を伸ばせば、届く距離に二人はいる。  それなのに――遠い。  日常世界の人間と、その裏側の人間の差。  恐らくは、御坂美琴は分かっていることだろう。  その彼女と接する上条当麻も、片鱗ぐらいは知っていることだろう。  だが、それでもやはり彼らは表の人間なのだ。  裏の世界の人間とは、絶対的に違う。 上条「……ん?滝壺、どうしたんだ?」  上条はそんな表情に陰りが入った彼女に目ざとく反応する。 美琴「まだ話は終わってないわよ!」  はいはいそうですね、と上条は適当にあしらいつつ、滝壺に再び問いかける。 上条「それで、どうかしたのか?」 滝壺「ううん、なんでもないよ。どうして?」 上条「いや……なんとなく暗いような気がしてさ……ってもしかして俺の右手に何か異常があったとか!?」  そんな風に喚く上条に滝壺は口元をほんの少しだけつり上げた。  微笑ましく子供を見守る母親のように、純粋な上条を羨ましく思っただけだ。 滝壺「ううん、特に異常はないよ」 上条「そ、そっか、よかった……」  安心したように上条は溜息をはき、滝壺は再び微かに笑う。  それでもやはり、見慣れているものでないとわからないようなものだが。 美琴「ひ・と・の・は・な・し・を・き・け―――――――――――ッッッ!!!」  ズドン!と先程までの比にならない雷が上条を襲った。  しかし周りに全く被害の与えないことはやはりレベル5の制御力、といったところか。  だが、その上条を襲った電撃すらも地面に直撃してコンクリートをぶち壊した。  上条は右手を構えていて、予想外にズレた雷にえぇ――――ッ!?と驚きを隠せない。  それは撃った当の本人も同じ。 美琴「え、あ、あれ?はずれた?」 上条「っていうか痛ぇ!?電撃が直撃するより破片がぶつかるほうがいたいんですけど!」 美琴「あっ、えっ、ごめん!じゃなくて、外すつもりはなかったのよ!」  上条がコンクリートの破片を間近に喰らってしゃがみ、悶え苦しむのを美琴は慌てて弁解する。  それにしても、外すつもりはなかった、は理由としてどうかと思うが。  破片があたった足を抑える上条に視線を合わせるように滝壺もしゃがむ。 滝壺「……ごめんね、かみじょう」 上条「っつつ……い、いや、滝壺のせいじゃなくて、御坂が勝手に……」 滝壺「そうじゃなくて」  遮るように言い、 滝壺「かみじょうに電撃が当たらないように干渉したのが、私だから」  お前かよっ!?というふたり分の突っ込みが辺りの奇異の視線の中響いた。

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