学園都市第二世代物語 > 16

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学園都市第二世代物語/16」を以下のとおり復元します。
<p><br />
ある日曜の朝。</p>
<p>あたしは多摩川べりを走っていた。</p>
<p>陸上部には結局入っていない。</p>
<p>というのは、学園都市だからだろうか、単純な、自身の身体能力のみで運動するのではなく、超能力を併用、</p>
<p>あるいは専用に使用しての運動がメインだったからだ。</p>
<p>あたしとしては、これはこれでありなのだろう、とは思ったけれど、ちょっとあたしの考えている陸上競技とは</p>
<p>違っていたので入るのを止めた。</p>
<p>ということで、あたしは一人で、土曜と日曜の朝、多摩川まで行き、走ることにしたのだ。およそ5kmある場所をみつけ、</p>
<p>最初は片道、ペースがわかってきてからは往復10kmを走っている。</p>
<p>最初は5km走るのもやっとだったけれど、今は普通に10kmを走ることが出来る。</p>
<p>朝はひとが殆どいないので、いつも快適だ。</p>
<p>多摩川に行くと、河原へ下りて、川に足を足を浸して休憩。</p>
<p>そのあとで、自分の力のコントロールを練習する。</p>
<p>道具には石を使っている。</p>
<p>いろいろな大きさの石を選び、「それだけ」を砕くことで、細かい微調整が出来るように訓練をしているのだ。</p>
<p> </p>
<p>一番最初はひどいものだった。自分ではうんと小さくしたつもりが、土台のコンクリート護岸ごと吹き飛ばしてしまった。</p>
<p>当然ながらあたしは逃げ帰り、しばらくそこへは近づかなかったけれど。</p>
<p>じゃぁ、ということで大きい石を選んだら、逆に何も起きなかったり。</p>
<p>それでも辛抱強くあたしは続けたおかげで、ようやく最近では、石であれば大きさを見ただけでどれくらいの力を</p>
<p>使えば良いのか見当が付くようになり、とんでもない事態は殆ど起こらなくなっている。</p>
<p>そこで、こんどはあたしは自分で石を投げ、落ちる前にそれを砕くことにした。</p>
<p>これは難しい。遠くなれば照準を合わせるのが難しくなり、見た目の大きさも異なる。</p>
<p>投影されたイメージと自分の脳内で演算した大きさ、エネルギー方向とが合わないとまるで話にならない。</p>
<p>「だめだー、難しいよぅ」 </p>
<p>まだのべ3日目、ではあるがまだ1度も成功していない。多分100個は投げているだろう。</p>
<p>あたしは河原に座り込んで息を整えていた。</p>
<p> </p>
<p>「何やってるンだオマエ?」</p>
<p>「はいっ!?」</p>
<p>いきなり後から話しかけられて、あたしは思わず飛び上がった。</p>
<p>「そンなにおどろくこたァないだろうが? 別に怪しィもンじゃねェよ。</p>
<p>見たところ、どォやら能力のパワーコントロールを制御しよォって感じの訓練みたいだったからなァ、</p>
<p>なンか随分無駄なことやってるなと思ったンで、声掛けただけだ」</p>
<p>必死にやっていることをいきなり「無駄なこと」と言われて、あたしは少しムッとなった。</p>
<p>「そ、そんなこと他人のあなたに言われたくないです! あたし、これでも必死なんです。邪魔しないで下さい!」</p>
<p>その人は杖をついていた。何よ、このおじさん。髪真っ白。赤い目。ちょっと怖いかも。</p>
<p>言ったあとであたしは少しびびっていた。</p>
<p>もし怒って襲われたら……こんな朝早く、ここはそう人は来ないのに……。</p>
<p>「そォかい、そりゃすまなかったな。もォ少しやりようがあるかな、と思ったンでつい声をかけちまった。</p>
<p>いや悪かったな。もォ何も言わねェよ。しっかりやンな」</p>
<p>そういうと、その人はゆっくりと歩いて行ってしまった。</p>
<p> </p>
<p>(なによ、ひとが必死でやってることを『無駄なこと』ってさ……)</p>
<p>あたしは少しのあいだ、さっきの人の言葉を反芻していた。</p>
<p>「随分無駄なこと」</p>
<p>「もう少しやりようがある」</p>
<p> </p>
<p>だんだんあたしは(案外、そうなのかもしれない)と思うようになってきた。</p>
<p>正直、自分で思いついた方法だから、そういうこともあるかもしれないな、と。</p>
<p>(なら、効率的な方法を教えてもらおうじゃないの? あたしもその方が手っ取り早いし) </p>
<p>あたしは、さっきの人が歩いていった方へ走った。</p>
<p>あっけなく追いついた。へへ、あたしの韋駄天ぶりも捨てたもんじゃないね!</p>
<p>「あン? どォしたンだ? 」</p>
<p>「す、すみません。先ほどは年長の方に、大変失礼な口をきいてしまいましてごめんなさい!」</p>
<p>「……」</p>
<p>「あ、あの、先ほど言われたことですが、『無駄』 『やりようがある』 ということに実は思い当たることがありまして」</p>
<p>「……」</p>
<p>「あたし、自分の能力をうまくコントロール出来ないんです。それで、建物を吹き飛ばしてしまったこともあるんです。</p>
<p>あたし、そんな能力がいやで、でもほっておいたらもっと大変なことになるから、だから」</p>
<p>「それでコントロールの訓練をしてたってわけですかァ? ハハ、ご苦労なことで」</p>
<p>あたしはまたムッときた。でも抑えた。このひとはこういうしゃべり方をするのだ、と思って。</p>
<p>「……オマエ、自分の能力をそもそも全部わかってないンじゃないのか? どこの学校のもンだ?」</p>
<p>「……学園都市教育大付属高校ですが……」</p>
<p>「あー? チッ、それじゃァ無理もネェな。ソコは基本的に先生になるヤツが行くとこだ。オマエの能力がどォいうもンか</p>
<p>調べたり、それをどォ役立てるか、なンてことには全く向いてねェ学校だわ。それじゃァ宝の持ち腐れになっちまうな。</p>
<p>……オマエ、明日かあさってぐらいにオレんとこ来い。オマエの能力をまず見てやンよ」</p>
<p>言われた。自分の学校をバカにされた……いったい、なんなんだ、この人? </p>
<p>やっぱり話なんか聞くべきじゃなかったかな……</p>
<p>「……あ、あの、どこへ行けばいいんですか?」</p>
<p>「あー、わりィわりィ。何も言ってないもンな。そりゃ警戒するよなァ。長点上機学園ってわかるな?</p>
<p>ソコ来て、鈴科(すずしな)のところへ行きたいといえばわかる。あー、それからオマエなンて言うンだ?」</p>
<p>(えええええ? 長点上機? それって能力開発の超エリートじゃん! それならバカにするわけだわ……)</p>
<p>「さ、佐天利子、です。高校1年生です!」</p>
<p>「わかった。さてんな。じゃァ月曜か火曜にな、まァしっかりそれまで石で遊ンでな」</p>
<p>そう言うと、そのひとは片手を上げてまたひょこひょこと歩いて行ってしまった。</p>
<p>「すずしな……へんなおっさん」</p>
<p>石で遊んでろ、と言われてしまったあたしはさすがに落ち込んでしまい、河原の練習は打ち切って寮へ戻ることにした。</p>
<p>                                </p>
<p><br />
火曜日。</p>
<p>今日は補習が1時限のみなので、とりあえず行ってみることにした。</p>
<p>バスとモノレール、そしてまたバスでざっと小一時間かかった。</p>
<p>「へーっ」</p>
<p>学校というよりは研究所というか、工場のようなところだった。あたしの教育大付属高校のいかにも学校、と言う感じとは</p>
<p>すいぶんとかけ離れたところだった。</p>
<p>あたしはとりあえず正門?入り口の案内所に入った。</p>
<p>なんと、無人。</p>
<p>受付の受付?がある。タッチセンサーが沢山並んでいる。 近くに寄ってみると……</p>
<p>「一般の方」「父兄の方」「教職員に御用の方」「備品・機材搬出入の方」「リサイクル・廃棄物搬出の方」………</p>
<p>すごいな。</p>
<p>うーん、どれだろう? 雰囲気からして、教職員、かな? </p>
<p>あたしは 「教職員の方」 と言うところをタッチして、受話器を取った。</p>
<p>1回のコールで相手が出た。「はい?」</p>
<p>「あ、あの、こちらに鈴科先生っていらっしゃいますか?」 </p>
<p>あたしは緊張して固い声になった。  </p>
<p>「はい、どちら様でしょうか?」</p>
<p>「は、はい、私はさてん としこと申しますが、教育大付属高校1年ですけれども」</p>
<p>「お待ち下さい……、昨日はいらっしゃらなかったのですね?」</p>
<p>おっと、アポは昨日だった?</p>
<p>いや、月曜か火曜と言っていたし。</p>
<p>「昨日はあの、補習で来れませんでした。月曜か火曜来なさい、と言うことでしたので、今日伺ったものですが?」</p>
<p>うう、入れなかったらどうしよう……?</p>
<p>「はい、昨日と今日の2日、さてんさんと言う方の入場申請が鈴科教授から出てますので確認しました。</p>
<p>今日は身分証明書をお持ちですか?」</p>
<p>「はい、学生証とIDカードがあります」</p>
<p>「それでは、仮入場証を発行しますので、タッチセンサーのところにそれが出ます。</p>
<p>それをお持ちになり、3番入場口にお回り下さい。</p>
<p>そちらで確認の上正式入場証を発行致します」 </p>
<p>通話が終わるか終わらないかの時点で、ICカード?が出てきた。3番入場口のマップが表示されていた……。</p>
<p> </p>
<p>3番入場口へ行き、ここで学生証とIDカードをサーチされ、正式入場証を渡された。</p>
<p>その入場証を、来客用無人カートに乗り込んで指定されている読みとり機にタッチさせると</p>
<p>「10秒後に走行開始します。……5秒後に走行開始します……これより走行開始します」</p>
<p>と警告が流れ、カートは動き出した。</p>
<p>正直、歩くスピードと大差がないものだが、迷子防止、いやスパイ防止には少しは役にたつだろう、なぜなら指定場所</p>
<p>までカートに閉じこめられるのだから。</p>
<p>………何人かの学生とすれ違う。教育大付属の制服が目立つのか、視線が集まるのがわかる。恥ずかしい~……</p>
<p><br />
うねうねと走ったあと、1つの棟の車寄せにカートが止まった。</p>
<p>さてここからは? と思って辺りを見回すと、入り口に案内台らしきものが立っている。行ってみるとやはり案内台だ。</p>
<p>モニターに触れると研究室やら教室やらの案内がずらりと出てくる。</p>
<p>えっと……すずしな、だったよね?</p>
<p>これかな?  「鈴科研究室」 </p>
<p>たぶんそうだよね……</p>
<p>受話器を取り上げて、説明されたとおり受付台のセンサーに入場証を当てる。</p>
<p>画面が変わり、「只今呼び出し中です 少々お待ち下さい」 の文字が点滅する。</p>
<p>画面が変わった。</p>
<p>「ハイ、鈴科研究室です!!」 </p>
<p> </p>
<p>………あたしは、茫然とした。</p>
<p>そこに映し出されたのは、上条美琴おばさんそっくりの顔だった……。</p>
<p> </p>
<p>「もしもーし、どうしましたー? ……受話器壊れてるのかな……? 聞こえてますかー? </p>
<p>おかしいなー、モニターには写ってるんだけど? 佐天利子さんですよねー? 聞こえてますかー?  おーい!」</p>
<p> </p>
<p>あたしは、びっくりして言葉も出ない有様だった。</p>
<p>(いったい、ここには、美琴おばさんのクローン?ってひと、どれだけいるんだろう……)</p>
<p>あたしは底知れぬ恐怖を感じていた。</p>
<p>(おばさんは知らないんだろうか……そんなはずはないよね……まだ来て1ヶ月そこらのあたしが、これだけの人に</p>
<p>出くわすんだから美琴おばさんが知らない訳がないよ……)</p>
<p>あたしは画面を凝視しながら、アタマの中でミサカ麻美(元10032号)さんやミサカ美英(元三重ミサカ13874号)さん</p>
<p>たちとの記憶を思い出していた。</p>
<p> </p>
<p>いきなり、あたしはポンと肩を叩かれた。</p>
<p>「佐天さん?」</p>
<p>あたしは現世に戻った。</p>
<p>「は、はいっ! 佐天利子ですっ!」</p>
<p>「あー、よかった。受話器握りしめたまま固まってるから、どうかしたのかなー、ってちょっと心配になってたりして。</p>
<p>『先生』 も待ってるから、一緒に行きましょう!」</p>
<p>そこに立っていたのは、上条美琴おばさん……にそっくりな、でもちょっと若いひとだった。</p>
<p>「は・は・は・はいっ! すいません! あ、あの、ミサカさん、ですか?」</p>
<p>あたしはちょっと軽くパニックになりながらも、カマをかけてみることにした。</p>
<p>「半分当たりですっ、って、佐天さんはどうしてどうしてわたしの名前を知ってたのかな? わたし、まだ名乗ってない</p>
<p>けれど? </p>
<p>………そうか、あなたは美琴お姉様や他の『妹達<シスターズ>』に会ってるんだ……</p>
<p>なるほど、あなた、去年から学園都市に何度か来てるのね……10032号や13577号、10039号に19090号、</p>
<p>13874号にも会ってるのね」</p>
<p>ミサカさんから、あのとんでもない大きな数字がひょいひょいと出てくる。その数字って……</p>
<p>「あの、あなたも、もしかして」</p>
<p>「そうですよ。わたしも美琴お姉様のクローン。ミサカ未来(みさか みく)、検体番号20001号、</p>
<p>打ち止め<ラストオーダー>よ」</p>
<p>ニッコリと微笑むその顔は、美琴おばさんとそっくりだった。</p>
<p>「あの、失礼ですが」</p>
<p>あたしの声は少し震えていた、はずだ。</p>
<p>「その、番号、にまんいち、と言うことは……美琴おばさんのクローンは2万人いる、と言うことなのでしょうか?」</p>
<p>美琴おばさんをちょっと若くした感じの、そのミサカ未来さんはすこし顔をしかめた。</p>
<p>……やっぱりまずい質問だったか……</p>
<p>「妹達<シスターズ>に会っているあなたに隠しても仕方ないよねー。ショックかもしれないけど……</p>
<p>………そう、一度に作られたわけじゃないから、全員が揃ったことは無かったけど……</p>
<p>のべではそういう数になった、わねー」</p>
<p> </p>
<p><br />
信じ・られ・ない ……</p>
<p>2万人。</p>
<p>田舎だったら、一つの市に匹敵する人間の数、だ。</p>
<p>美琴おばさん、どうしてそんなことに……、麻琴、あんたは知ってるの、この恐ろしい話を……?</p>
<p>狂ってる、この街、は。</p>
<p> </p>
<p>お母さん、あなたは知っていましたか、このことを?</p>
<p> </p>
<p>――― 「私は、利子を学園都市にやるつもりはありません! 利子、絶対ダメだからね!!」 ――― </p>
<p> </p>
<p>そうか……お母さんも知ってたのかも……ここの街の本当の姿を……</p>
<p>だから、あたしを……</p>
<p>ごめんなさい、お母さん。あたしが、バカでした……。</p>
<p>                        </p>
<p><br />
「もしもーし、佐天さーん、びっくりしたのかなー? 生きてますかー? </p>
<p>んー、よく向こうの世界に行っちゃうひとだな……」</p>
<p> </p>
<p>あたしはようやくこちらの世界に戻ってきた。</p>
<p>「す、すみません」</p>
<p>あたしは深々と頭を下げた。</p>
<p>「……まぁ、いきなり聞いたら、普通のひとは驚くよね。ふふ、ここはなんでもあり、のところだからねー」</p>
<p>ミサカ未来さんのしゃべり方は、他のミサカさんたちとはちょっと違う……ようだ……?</p>
<p>「いっけなーい、あのひと、じゃなかった先生が怒っちゃうから早く行きましょう……って!」</p>
<p>「いつまでくだらねェおしゃべりしてるンですかァ、このクソガキ?」</p>
<p>あ、あのときの……</p>
<p>スーツ姿だとイメージ違うな……</p>
<p>「ひとの前でクソガキって言っちゃダメだって何遍言ったらわかるんですか、先生! もう私はガキじゃありませんって</p>
<p>痛い! 痛い、やめてよー、」</p>
<p>いったいなんなんだ、このひとたち…… クソガキって未来さんのこと? </p>
<p>ええええ? 20代後半くらいの女性をつかまえてクソガキはないでしょうに。セクハラにパワハラだよぅ!</p>
<p> </p>
<p>「あの、すずしな、先生ですよね?」</p>
<p>あたしは目の前で荒っぽいスキンシップ<こめかみグリグリ>を取っている鈴科先生?に確認を取ってみた。</p>
<p>「あー? おォ、すまねェな。そのかっこだと学校帰りってとこかァ? 佐天、と言ったな、クソガキと迷子にならないよォ</p>
<p>一緒にきやがれ」</p>
<p>「えええー? ミサカはもう迷子になるような年じゃないし、もうここじゃベテランだよ!」</p>
<p>「オマエじゃねェ、そこの女子高生の佐天さンに言ってるンだ、はぐれたら危険だからなァ、このエリアは」</p>
<p>………このミサカさんは、初めてのタイプだなぁ……美琴おばさんとは随分性格が違うような気がする……</p>
<p>あたしはそんなことを思いながら、鈴科先生の後をミサカ未来さんと一緒についていった。</p>
<p> </p>
<p>この記録はミサカ未来、すなわち最終番号<ラストオーダー>の記憶からミサカネットワークに流されていた。</p>
<p> </p>
<p>【運営】あのひとの研究室にお客さんがきたよ【打ち止め】</p>
<p>1 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001</p>
<p>女子高生が来たよ、とミサカは口火を切ってみる!</p>
<p>                           </p>
<p>2 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039</p>
<p>確か、この子……</p>
<p> </p>
<p>3 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032</p>
<p>去年の2月に一度、AIMジャマーと脳活性化促進剤との葛藤で脳がオーバーヒートして入院、次に同年5月に</p>
<p>キリヤマ研究所爆発跡から発見され入院、その後犯罪グループに拉致され人質となり、救出作戦時に負傷、</p>
<p>再入院した記録が残っています。</p>
<p> </p>
<p>4 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577</p>
<p>いずれも10032号の受け持ちでしたね? とミサカは記憶を呼び起こし確認を取ります。</p>
<p> </p>
<p>5 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032</p>
<p>はい、間違いありません。</p>
<p> </p>
<p>6 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090</p>
<p>この制服は、学園都市教育大付属高校女子部のものですね?</p>
<p> </p>
<p>7 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039</p>
<p>間違いないと思います。しかし、どうして長点上機学園に、更に言えば一方通行<アクセラレータ>のところに?</p>
<p>上位個体はこの件に関して何か情報をつかんでいるのでしょうか?</p>
<p>                                  </p>
<p>8 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001</p>
<p>ミサカは何も聞いてないよ! 直接会うのも今初めてだし? ……ちょっと待って?</p>
<p>あ、昨日の朝、来客スケジュール表にこの子の名前を登録したのを思い出した!</p>
<p>どちらにしてもそのうち来た理由はわかると思うんだけど。</p>
<p> </p>
<p>9 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13874</p>
<p>ミサカが女子高生の格好をしたら似合わないと言われました。あのときの悪夢を思い出します……そういえば、</p>
<p>イデミ・スギタのスイーツはもう一度食べてみたい……</p>
<p> </p>
<p>10 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032</p>
<p>そういえば、そう言うことがありましたね。あの時はお姉様<オリジナル>と、この子と、あと母親も一緒でしたね。</p>
<p>あの時は朝っぱらからひどい目に遭いました。</p>
<p> </p>
<p>11 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001</p>
<p>やっほう! 13874号? あなた、お姉様<オリジナル>と10032号と一緒に東京に行っていたときに、</p>
<p>あなただけ銀座ではネットワーク切っていたわよね? わざわざ思い出させてくれてありがとー!</p>
<p> </p>
<p>12 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13874</p>
<p>ひええええええええ、しまった、語るに落ちたぁぁぁぁぁぁぁbbbbbbbbbbbbb</p>
<p>【Misaka13874が退出しました】</p>
<p><br />
13 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039</p>
<p>どこかで、この顔を見たような気がするのですが……思い出せません、とミサカは強引に話の流れを戻します。</p>
<p>                                    </p>
<p>14 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090</p>
<p>このミサカも、何かが引っかかっている気がします、非常にもどかしい感じが少し気に入りません、と相づちを</p>
<p>うってみます。</p>
<p> </p>
<p>15 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001</p>
<p>10039号と19090号、あなた達は昔に直接会ってるからじゃないの?</p>
<p> </p>
<p>16 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039</p>
<p>いえ、それとは全く違うもののように思われます。19090号、あなたはどう思いますか?</p>
<p> </p>
<p>17 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090</p>
<p>はい、無意識に見ているとでも言えばよいのでしょうか、例えばTV CMに出てくる人、とかそう言う感じの……</p>
<p> </p>
<p>18 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001</p>
<p>ふーん、まぁそのうち思い出すんじゃないかな? あ、もうスタンバイしなきゃ。じゃね!</p>
<p><br />
【Misaka20001が退出しました】</p>
<p><br />
                      <br />
19 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039</p>
<p>さて、お姉様<オリジナル>に報告すべきかどうか……</p>
<p> </p>
<p>20 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577</p>
<p>今報告しても、情報が少なすぎて中途半端に止まる気がします。現時点で危険はなさそうですから、この後の経過を</p>
<p>見てからでも遅くはないとミサカは考えます。</p>
<p> </p>
<p>21 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032</p>
<p>同じく。</p>
<p> </p>
<p>22 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090</p>
<p>異議なし。</p>
<p> </p>
<p>23 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039</p>
<p>それでは、お姉様<オリジナル>への報告はとりあえず先送りと言うことにしましょう。</p>
<p><br />
【Misaka13577が退出しました】<br />
【Misaka10032が退出しました】<br />
【Misaka19090が退出しました】<br />
【Misaka10039が退出しました】</p>
<p> </p>
<p>**<br />
作者注)</p>
<p>参加しているミサカが少ないと思われるでしょうけれども、これは関係する妹達<シスターズ>のみをあらかじめ抽出している</p>
<p>からです。他の妹達<シスターズ>は全てノイズ扱いで排除されています。</p>
<p>**                                                           </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>あたしたちは、研究室ではなく、ごく普通の応接室にいた。</p>
<p><br />
「改めて自己紹介する。オレは鈴科、一方通行<アクセラレータ>とも言うが、鈴科、でイイ」</p>
<p>あれ、名前はなんて言うのかしらん? 名無しさんじゃないよね? </p>
<p>「能力は『ベクトル操作』、あらゆる力のベクトルを分析、操作出来るってもわからねぇかもなァ」</p>
<p>「そう、昔はレベル5、学園都市第1位だったんだよって、ちょろーっとナイショの話を 『愉快なオブジェになりてェのか、</p>
<p>オマエ?』 な、なんでもないですーっ!」</p>
<p><br />
え? </p>
<p>ええっ?</p>
<p>ええええっ?</p>
<p>このひとが、そうだったの?  </p>
<p>レベル5 ????  うっそー?</p>
<p>しかも、学園都市第一位?? </p>
<p>そのウソほんと? マジですか? それはヤバすぎですぅ!</p>
<p><br />
………昔、美琴おばさんから聞いた当麻おじさんの武勇伝<のろけ話>のひとつが 『学園都市第1位との戦い』</p>
<p>だったんだけど……</p>
<p>でも、聞いたら怒るよね、たぶん。雉も鳴かずば、だろうな……。</p>
<p>                                <br />
「あたしは、さっきも言ったけど、ミサカ未来<みさか みく>。 発電能力者<エレクトロマスター>のレベル3。</p>
<p>生物学・生体電流の研究者で、鈴科教授の助手でもあり、ラブリー奥さんで 『そォだな、ならラブリーなオブジェに</p>
<p>してやンよー?』 キャァァァァァ!」</p>
<p> </p>
<p>美琴おばさんそっくりの未来さん、教授にこめかみグリグリされてる……これ、形を変えたスキンシップじゃないの?</p>
<p>ばっかくさいなぁ、はぁ……好きにしろ、好きにやってろ、してやがれだわ……  </p>
<p>なんでこんなバカップルばっかりなのかしら。 </p>
<p>こんな内輪のコメディ、学校帰りの疲れたアタマには、全然っ・おもしろく・ないっ!</p>
<p> </p>
<p>「ご、こめんなさいね、しょうもないところ見せちゃって、チョーカー切ったから少し静かになったでしょ?」</p>
<p>*静かになったのは鈴科教授以外にも、打ち止めの<ラブリー奥さん>発言がミサカネットワークに流れたことにより</p>
<p>ミサカ一美(みさか かずみ・元検体番号14510号)等、生き残り妹達<シスターズ>のうちの数人が失神していた。</p>
<p><br />
閑話休題。</p>
<p>「では、時間もありませんし、早速場所を変えましょうか?」</p>
<p>ミサカさんがすっと立ち上がった。どこへ行くんだろうか? </p>
<p>あれ、教授(ダンナ)を置いていっていいんですか、ミサカさん?</p>
<p> </p>
<p>------------------------                        </p>
<p> </p>
<p>「ここは……?」</p>
<p>あたしは、真っ白な、綿ふとんのような柔らかなものであたり一面を覆われた部屋にいた。</p>
<p>「ここは、AIM拡散力場疑似開放調整室っていうの。簡単に言っちゃうと、あなたの能力を最大限開放することが</p>
<p>出来る場所なの」</p>
<p>「え? それ、まずいかもしれません」</p>
<p>「どうして?」</p>
<p>「あたしの能力は、ものを原子レベルまで分解してしまうものなんです。その際に発生するエネルギーが、周りの</p>
<p>ものを破壊してしまうようなんです」</p>
<p>「へー、そうなんだぁ。でも、安心していいわよ? わずかだけれど、この学園にもそう言う能力の人はいるの。</p>
<p>でも、大丈夫なんだなー。そう言う能力でも問題なく測定できるのよ、ここは。</p>
<p>一つは、まず、脳を騙してしまうことが出来るの。</p>
<p>簡単に言うと、あなたの脳は、AIM拡散力場をコントロールしてあたかも普段通りにパーソナルリアリティを構築して</p>
<p>超能力を発現させている、と思っているんだけれど、現実ではそのようなことは起きない。</p>
<p>あたかも夢の中で活動しているようなものなのね。</p>
<p>次に、万一AIM拡散力場に干渉を起こしてしまった場合には、この部屋はそのAIM拡散力場のエネルギーを</p>
<p>吸収・発散させてしまうことが出来るの。</p>
<p>そして、非常用としてはキャパシティ・ダウナーが控えているの。</p>
<p>これはレベル5の人でも対抗できる出力を持っているから、万一暴走したときにはこれで演算を妨害して強制的に</p>
<p>終了させるのよ」</p>
<p>な、なんかすごい大がかりな話になってきてる。</p>
<p>ちょっと怖いかも…… あたしの、たかがレベル3程度の能力に、そこまでやらなくてもいいような気がするけれど。</p>
<p> </p>
<p>「あはは、怖いことなんか全くないから、大丈夫。このミサカさんにまっかっせっなっさっいっ!」</p>
<p><br />
あの、言っても良いですか?</p>
<p> </p>
<p>   ――― 不安だ ―――</p>
<p><br />
 </p>
<p>なるようになれ、的にあたしは結局言われるままに服を着替え、まるで病院か、というようなパジャマを着て、</p>
<p>カプセルに腰掛けていた。</p>
<p>「佐天さん、少し深呼吸してみて。緊張するのは仕方ないけれど、でもガチガチもよくないからね?」</p>
<p>そうはいっても、緊張しちゃうよね。</p>
<p>でも、当たり前かもしれないけれど、美琴おばさんそっくりだ、このミサカさんも。</p>
<p>「としこちゃんは好きな食べ物は何?」</p>
<p>「はい? え? そ、そうですね、あたし、ケーキが大好きなんです」</p>
<p>「あはは、あたしも好きなんだ、あたしはねー、モンブランが好きなの、あのあたまに載っかってるマロンがだーい好き</p>
<p>なの!」</p>
<p>「そうですね、あのマロンが全てですよねー。あ、あたしはいちごのショートケーキが好きなんですよ、特に、上に</p>
<p>載っているのが ”あまおう”だったら最高ですね!」</p>
<p>「じゃ、終わったら一緒に食べましょ? 楽しみにしててね! じゃ横になって寝てみて?」</p>
<p>あたしはカプセルの中に入り、枕に頭を載せてみる。</p>
<p>        </p>
<p>『あーあー、聞こえますか、佐天さん?』</p>
<p>頭を動かすと、直ぐ脇にスピーカーがあるのだった。</p>
<p>「ハイ、聞こえますよ!」</p>
<p>あたしは元気な声で返事をした。</p>
<p>『ではカプセルを閉じます。手や足を出さないでね?』</p>
<p>あたしは子供ですかって(苦笑</p>
<p>……ゴトッと重苦しい音がしてカプセルが閉じられた。</p>
<p>『どう? 息苦しくない?』 </p>
<p>ミサカさんの声が聞こえる。僅かに空気が流れているのがわかる。頭の方から出てきた空気は足先から吸い出されて</p>
<p>いるらしい。</p>
<p>「大丈夫ですよ? あたしの声聞こえてますか?」</p>
<p>『聞こえてますよー!音質・ボリューム問題なし、オッケーだねっ! じゃぁリラックスしていて……』</p>
<p>穏やかな音楽が流れ始めた。打ち寄せる波の音も聞こえてくる。</p>
<p>あたしは目を閉じて、身体の力を抜いた。</p>
<p>はー、リラックス出来るなー…… これはこれでなかなかいいもんだなぁ…… 気持ちいい……</p>
<p>あ~今日も勉強疲れちゃったなぁ………</p>
<p>                   <br />
----------------------------</p>
<p>「いっけなーい、チョーカー入れてなかったー!(おいおい……) うう、また怒られるかもしれないって悪い予感が</p>
<p>するけれど、あの人いないともっと困るから……」</p>
<p>独り言をつぶやきながら未来はチョーカーのスイッチを入れる。</p>
<p>次の瞬間、ガシッと未来の頭はわしづかみされた。</p>
<p>「さーて、ピカソがイイか、岡本太郎がイイか、どっちがイイか選べ、クソガキ」</p>
<p>「うう、ミサカはミサカであり続けたいって思ってるけど、って痛い痛い!」</p>
<p>「ざァーンねンだったなァ、今度という今度は、オマエをオブジェにして庭の噴水のところに飾ってやることにした</p>
<p>からなァ」</p>
<p>そのとき、打ち止めはAIM拡散力場測定データの動きに気が付いた。</p>
<p>「す、すごい動きだって、見てみて!!」</p>
<p>「アアン? そンなことより早く決めろ、クソガキ」</p>
<p>「それどころじゃないかも、って、アナタも気が付いてるんじゃないのーって!」</p>
<p>鈴科教授、いや一方通行<アクセラレータ>は、「ちっ」 と舌打ちをすると目を閉じてAIM拡散力場の集中度を</p>
<p>測り始めた。</p>
<p>「お? こりゃ、なかなかおもしれェことになりそォだなァ」</p>
<p>測定装置は、いずれもAIM拡散力場がものすごい勢いでこの部屋に集中してきていることを示していた。</p>
<p>「こ、これは……」</p>
<p>打ち止めが茫然としている。</p>
<p>佐天利子のパーソナル・リアリティは、与えられたダミーの世界(すなわち、夢)をものともせず、直接外の世界、</p>
<p>すなわち実世界の拡散力場に働きかけ始めたのである。</p>
<p>「打ち止め<ラストオーダー>、ここを離れてろ!」</p>
<p>打ち止めはその言葉に危険を察知した。彼がクソガキと言わなかったからである。本当に危険なのだ、と。</p>
<p>「アナタは大丈夫なの?」</p>
<p>大丈夫だとは思ってはいるけれど、でも彼の演算を補助する妹達<シスターズ>は、その数をかつての半分以下に</p>
<p>減らしていた。</p>
<p>もちろん、ミサカネットワークは健在であり、クローンとはいえ、同じ人間としてその脳の能力は劣っている訳ではなく、</p>
<p>数が減った分、1人当たりの演算負担部分が倍になっただけである。</p>
<p>しかし、普通の生活を送っているような場合の演算負担は、倍になろうがそもそもがそれほどの負担ではなく、</p>
<p>殆ど無視できるようなものであったが、今回のようなあたかも能力者同士のバトルの如く最大出力を長時間継続した</p>
<p>場合、はたして問題なく済むかどうかは経験がないのでわからないのだ。</p>
<p>「心配無用だ。オマエらの頭脳を借りてる分際で、でけェ口を叩くのは気がひけるがなァ、おおよそのピークは</p>
<p>つかめたからなァ。</p>
<p>ベクトル反射は有効だしなァ。だが、打ち止め<ラストオーダー>、オマエは避難していろ。</p>
<p>いや、違うなァ。 コーヒー切れてるからさっさと買ってこい、それからあとモンブランと苺のショートケーキをな」</p>
<p>鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>はそう言ってニヤリと笑った。</p>
<p>「わかった! あたしはコーヒーとケーキ買ってきておくから!」</p>
<p>そう言うと打ち止めは調整室から外へ出た。</p>
<p><br />
「さて、と。ちィっとばっかし真剣(マジ)に解析始めるとすっかァ」</p>
<p>鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>は打ち止めが外へ出たことを確認すると、一転してまじめな顔つきになった。</p>
<p> </p>
<p>------------------------------------------</p>
<p>あたしは、茫然としていた。</p>
<p>久しぶりに家に帰ってきたのに、そこにあるべき家はなかった。</p>
<p>いや、さっきまではあったらしい。まわりに沢山の野次馬がいる。警察官、消防士、TVカメラ、報道陣、もいる。</p>
<p>あたしはそこらへんにいる人を軽々と引きはがし、自分の家に近づいて行く。</p>
<p>「お母さん!」</p>
<p>あたしの足が速くなる。</p>
<p>あたしは人を蹴散らし、玄関にたどり着く。</p>
<p>家は完全に崩れていた。</p>
<p>「お母さんが、お母さんが中にいるのっ!」</p>
<p>あたしは門を開け、中に飛び込む。</p>
<p>あたしはそこに立ち、少しためらった後、AIMジャマーであるネックレスとアームレットを全部外した。</p>
<p>おお、アタマがすっきりしたぞ、すごく爽快だぁー! </p>
<p>孫悟空も、最後に観音様にはめられた緊箍児が外された時には、きっとこんな感じを受けたことだろう。</p>
<p>力が四肢にみなぎってくる。</p>
<p>「学園都市外での能力使用は厳禁」</p>
<p>一瞬その警告が頭に浮かんだが、それどころじゃない! あたしはお母さんを助けなければ!</p>
<p>崩れてぐしゃぐしゃになっている家の部材に焦点を当て、あたしは演算を開始する。</p>
<p>「はぁっ!!」</p>
<p>ふっと大きな柱が消える。よし、良いぞ!</p>
<p>「はぁっ!」</p>
<p>大きなモルタル壁が消える。</p>
<p>「はっ!」</p>
<p>「はっ!」</p>
<p>お母さん、もう少しだから! 待っていて! あたしがお母さんを助けるから!</p>
<p>………</p>
<p>………</p>
<p>………</p>
<p>お母さんらしき人の頭が見えた。</p>
<p>「お母さん!!」</p>
<p>お母さんの上にのしかかっている柱に手を当てて、演算を行う。</p>
<p>「はっ!」</p>
<p>柱が消えた。</p>
<p>これでお母さんを助け出せる。</p>
<p> </p>
<p>「お母さん! 大丈夫? ね、目を開けて? 起きて、お母さん!」</p>
<p> </p>
<p>母が目を開けた。しかし、母の第一声は予想もしないものだった。</p>
<p> </p>
<p>「利子、あんた、約束を破ったわね?」</p>
<p> </p>
<p>あたしは驚きで声が出ない。</p>
<p>「二十歳になるまで、能力は使わないって、母さんに約束したわよね?」</p>
<p>ものすごい目で母さんがあたしをにらみつける。</p>
<p>「うそつき。お前なんか、母さんの子じゃない! 出て行け! さもないと、殺すわ!」</p>
<p>う………そ………<br />
 <br />
母さんがあたしの首に手をかけた。あたしは身動きも出来ない。</p>
<p>「止めて、母さん、止めて!」</p>
<p> </p>
<p>―――― ゴン ―――― </p>
<p> </p>
<p>「いったーい!」</p>
<p>あたしはカプセルの天井に頭をぶつけたのだった。</p>
<p><br />
 </p>
<p> </p>
<p>「自分でブレーキかけちゃうってェのは珍しィかもなァオイ」</p>
<p>コーヒーを飲みながら鈴科教授がぼそりと言う。</p>
<p>「カプセルの天井にアタマぶつける例はたまにあるけれどね。やっぱりウレタンでも貼っておきましょうよって</p>
<p>あたしは改善提案を出してみる! これで今月のノルマ達成ーぃ!!」</p>
<p> </p>
<p>……あたしは、ひとの不幸<どじ>ではしゃぐミサカ未来さんを恨めしい目で見ていた。</p>
<p>おでこにはクールシートが当たっている。少しこぶになっているかもしれない。</p>
<p>とっても恥ずかしい。</p>
<p>ああ、みっともない。</p>
<p>うう、穴掘ってそこにずっと入っていたい、あたし……。</p>
<p> </p>
<p><br />
つまりだ。</p>
<p>あたしは能力を開放し始め、さぁこれから全開放だというところになって、何故かあたしの脳は「母」を呼び出し、</p>
<p>あたしと母との「約束」を思い出させることで能力の全開放を押さえ込んでしまったのだ。</p>
<p>ある意味、それって「能力のコントロール」なんじゃないの?と言う気もするけれど……</p>
<p>そう言ったら、二人にあきれられてしまった。</p>
<p>うう、やっぱり黙っておくべきだった。</p>
<p>「そォだな、もォ一度来い。次はオマエのそのブレーキを緩めるよォなシステムを組ンでおく」</p>
<p>しぶーい顔をして、鈴科先生がぼそっと言った。</p>
<p>「はぁ……済みません……いつもならブレーキ掛けるヤツが出てくるんですけれど、今日は出てこなかったんです</p>
<p>よ……なんであいつが出てこないのに、あたしブレーキかかったんだろ……?」</p>
<p>あたしは半分独り言のようにつぶやいた。</p>
<p> </p>
<p>「……オイ」</p>
<p>はい? とあたしは鈴科先生の方をみた……</p>
<p> </p>
<p>そこには、ものすごい目をした鈴科先生の顔があった。</p>
<p>こ、怖い!!</p>
<p>「オマエ、今、なンつった?」</p>
<p>「は?」</p>
<p>「だ・か・ら、今言ったことをもォ一度、オレの前で言ってみろ?」</p>
<p>ひえぇぇぇぇぇぇ、なんか気に障ったんだろうか?</p>
<p>こ、怖いよぅ、この先生!</p>
<p>「言ってみろっていってンだよ!」</p>
<p>「いつも、なら、えーと、ブレーキかけるヤツが出てくるのに、今日は出てこないし、そいつが出てこないのにどうして</p>
<p>ブレーキがかかったのかな……って言ったんです、すみません、ごめんなさい!」</p>
<p>あたしは思いっきりアタマを下げた。 うう、ひっぱたかれるのかなぁ……</p>
<p>……</p>
<p>……</p>
<p>……</p>
<p>はて?</p>
<p>どうしたの、かな?</p>
<p><br />
あたしは恐る恐るアタマを上げてみた。</p>
<p><br />
そこには。</p>
<p><br />
「ひとにものを尋ねるときに、しかも女の子に話を聞こうとするのに、そんな横柄な態度と怖い顔じゃ、聞ける話も</p>
<p>聞けなくなる、ってわたしはアナタをしかりつけてみる!」</p>
<p> </p>
<p>……ミサカ未来さんが仁王立ちする隣で、鈴科先生がひっくり返っていた。</p>
<p><br />
 </p>
<p>「えーと、復唱するね?」 </p>
<p>ミサカ未来さんは、ボイスメモリーをハンディターミナルに繋いでデータをソートしながら、あたしに確認を取っていた。</p>
<p>「あなたの中には、2人の思念のようなものがある。片方は、ときたま現れ、普段は表に出てこない。良いかな?」</p>
<p>「ええ、そんな 『思念』 というほど正確なものではないと思いますが」</p>
<p>「じゃぁ、こうかな? </p>
<p>……ある特別な時にだけ、『冷静なもう一人の自分』 が現れることがある。特に、大きく感情が動いたときに出てくる</p>
<p>ことがある」</p>
<p>「うーん、それがよくわからないんです。気が向いたときにだけ出てくるというか……確かに激情に駆られた時なんかに</p>
<p>出てくることが多いような気がしますけれど、そうでないときもあって、全然見当がつきません」</p>
<p>「そっちのあなたは 『冷静』 なのね?」</p>
<p>「それじゃ、まるであたしが感情だけで動いてる 『おんなの子』 になっちゃいませんか?」</p>
<p>「あはははは、そういうように取れちゃうよねー、ごめんなさーい」</p>
<p>「まぁ、例えば、あたし自身が沸騰しているような状態でいるのに、そいつはどこか違う場所であたしを眺めてる、と言う</p>
<p>感じなんですよ。……そう、第三者みたいな……」</p>
<p>「……なるほどね。……はい、どうも有り難う。これで今日はオシマイにしましょうね」</p>
<p>おしまいと言いつつ、ミサカさんは難しい顔をして考え込んでいる。</p>
<p>さっきのおちゃらけていた時とは似ても似つかぬ顔だ。</p>
<p>その顔は、あたしが知っている美琴おばさんの顔とよく似ているな、と思う。</p>
<p>「佐天さん?」</p>
<p>ミサカさんがあたしを見て少し微笑む。</p>
<p>「さて、テストで疲れたでしょ? ご苦労様。ケーキ買ってきたから二人で食べません?」</p>
<p>「ほ、ホントですか? はい! 喜んでごちそうになりまぁす♪♪」</p>
<p>すっかり忘れてた。ホントに買ってきてくれたんだ……嬉しい!</p>
<p>「さっき、ひとっ走りして、買ってきたの! うちの学食のケーキって、隠れた銘品なんだよ? </p>
<p>結構お使いものにしてる人も多いんだって。</p>
<p>そうそう、来月号か再来月号の 『学園都市うまいもの探訪』 っていうグルメ雑誌で、学食スイーツ特集が組まれて、</p>
<p>これも出るらしいの♪ あ、でもそうすると混んじゃうから、しばらく買えなくなっちゃうかも……それも困るなぁ……」</p>
<p>ミサカさんが蓋を取った。</p>
<p> </p>
<p>うわぁ、立派な苺のショートケーキ! 中にも大きな苺が挟んであるじゃない!</p>
<p>モンブランのマロンも、すっごく大きくて美味しそうだし、ああ、そっちもいいかもしれない……</p>
<p> </p>
<p>あたしは思わず手を伸ばした……が。</p>
<p>「それでね、もう一度、時間があるときに来て欲しいんだけれど、次はいつ来れるかしら?」</p>
<p>ミサカさんがあたしの手を握って質問してきたのだった。</p>
<p>                             </p>
<p>------------------------------</p>
<p>佐天利子が着替えに行った後の研究室で、鈴科教授と助手のミサカ未来、二人がメモ書きを交換している。</p>
<p>他人に聞かれたくない会話はメモ書きというアナログチックなやり方が実は一番無難なのだ。カメラさえなければ。</p>
<p>もちろんここにカメラはない。全部彼らがぶち壊し済みである。</p>
<p>いたちごっこのような時もあったが、その都度彼らは我慢強く壊し続けた。</p>
<p>およそ半年以上、壊す→再設置→壊す→再設置を延々と繰り返し、ついに学校が音を上げた。</p>
<p>もちろんカメラが再設置されていないか調べるのはもはや出勤後の日課となっている。</p>
<p>『多重人格?』</p>
<p>『可能性はある。見た目上、多重能力者(デュアルスキル)になる可能性もゼロではない』</p>
<p>『では今度の検査では?』</p>
<p>『重要だ。金曜のスキャンで明確にする必要がある。ここも危険だ。おもちゃにしそうな連中が沢山いる。</p>
<p>今回のテストデータは?』</p>
<p>『ホストへはまだ送信していない。現在はまだスタンドアローン状態のまま。消す?』</p>
<p>『直ぐに消せ。言い訳はオレがしておく』</p>
<p>そこまで書いた鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>はメモを灰皿に載せ、火をつけた。</p>
<p>メラメラと上がる炎は一瞬にしてメモを焼き尽くし、灰に変えた。</p>
<p>「フン、どっかのクソガキがチョーカーを止めたおかげで、どっかのオッサンが操作をあやまったってなァ」</p>
<p>突然、彼はいつものような人を揶揄するような口調で、皮肉っぽく言いつのった。</p>
<p>「あなた、クソガキは止めてよね、もう子供じゃないんだから、アンタもあたしも!」</p>
<p>ミサカ未来こと最終個体20001号、打ち止め<ラストオーダー>はまったくもう、と言う調子で打ち返す。</p>
<p>「あー、その通りだなァ、クソッタレ」</p>
<p>彼はソファーに深々と沈み込んだ。<br />
                         </p>
<p>--------------------------------</p>
<p>「じゃぁ、金曜日、待ってるからねー!!」</p>
<p>明るい声のさよならを残して、ミサカ未来さんは元来た道をUターンして走り去っていった。</p>
<p>もう遅いから、ということで彼女が自分のクルマであたしを寮まで送り届けてくれたのだった。</p>
<p> </p>
<p>「本人確認を行います」</p>
<p>「阿耨多羅三藐三菩提、阿耨多羅三藐三菩提、阿耨多羅三藐三菩提!」</p>
<p>「声紋チェック、さてん としこ と確認」</p>
<p>「静脈シルエット・指紋チェック 完了 さてん としこ 確認」</p>
<p><br />
大きな苺のショートケーキのおかげで、とりあえずあたしのおなかは一時的に満足してはいたものの、やっぱり腹にたまるものが</p>
<p>欲しかった。</p>
<p>………さすがに夜8時ではものの見事に何も残っていなかった。もちろん誰もいない。</p>
<p>「ま、この時間だから仕方ないさねー」</p>
<p>あたしは野菜ジュースのパックと夜食用カップ麺を棚から取りだし、部屋へ戻った。</p>
<p> </p>
<p>翌日朝。</p>
<p>「おはよー、リコ、昨日どうしたの?」</p>
<p>さくらが開口一番聞いてくる。</p>
<p>「あぁ、昨日はね、長点上機学園に行って来たの」</p>
<p>「おはよ、え~何それ? そんな遠いところに何しに行ってきたの?」</p>
<p>カオリんが早速割り込んでくる。</p>
<p>「そんなの、カレシに決まってるじゃな~い?」</p>
<p>おお、いつの間にゆかりんが?</p>
<p>「え? リコの彼は飛天昇龍高校だったはずでしょ? 何、また新しいカレ作ったの?」<br />
「うそ~? どうしてそんなに直ぐ出来ちゃうの? あたしなんかここ来て、まだ一度も男の子と話すらしてないのに!」<br />
「リコがうらやましいなぁ、あ~ぁ、やっぱり共学の高校選ぶべきだったかなぁ」</p>
<p><br />
「ちょっと待てぇ!! あんたら勝手に、あたしにカレシを作るなぁ!」</p>
<p>さえちゃんとゆかりんが勝手にあたしに彼を作り出しそうなので、あたしは二人に、釘ではなく杭を思い切りハンマーで</p>
<p>打ち込んだ。</p>
<p>「ちょ……」<br />
「リコ、大声で何言ってるのよ?」<br />
「あ~ぁ、あたしゃ知~らないっと」</p>
<p><br />
………食堂の注目があたし達に集中していた。がくせい、ちゅう・もく~!!! </p>
<p>うぅ、空気が、寒い。</p>
<p>視線が、痛い。</p>
<p>試しに箸を転がしてみたけれど……しらけ鳥の大群が食堂から南の空へ飛んでいっただけだった。</p>
<p> </p>
<p>不幸だ。<br />
                    <br />
 </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>金曜の午後。</p>
<p>あたしはまた長点上機学園の鈴科研究室へ来ていた。</p>
<p>ここでは、AIMジャマーを大手を振って取り外せることが出来るので、実は楽しみだったことはナイショだ。</p>
<p>カオリんやさくらも来たがったけれど、もともとはあたしの個人的な話から始まった事で、しかもまだ2回目の訪問。</p>
<p>許可もなく勝手に部外者を連れて行くのは無礼だろうと言うことで諦めさせたのだけれど。</p>
<p>更衣室でさっさと着替えてAIMジャマーを取り外しておく。あぁー、気持ちいいわぁ!</p>
<p> </p>
<p>「今日は最初は問診から行いますね。AIMジャマーは外してもらって大丈夫よ?」</p>
<p>ミサカ未来さんがにこやかに笑いながら言う。</p>
<p>「おでこ、大丈夫みたいね?」</p>
<p>「あはは、そうですね、大丈夫でしたよ~」</p>
<p>あたしは少し赤くなりながら、ぴたぴたと額を叩く。</p>
<p>「それでね、どうやら 『もう一人の佐天さん』 はあなたの意識下にいるらしいのね。</p>
<p>今日はその人に出てきてもらおうと考えてるの」</p>
<p>「……はい?」</p>
<p>もう一人のあたしって、冷静なあいつ、か……。</p>
<p>出てきたり出てこなかったり、本当によくわからない。いることは間違いないけれど。</p>
<p>「それで、催眠薬を使わせて欲しいんだけれど、いいかな?」</p>
<p>むう……あまり良い気持ちはしないけれど……ただ、気まぐれにしか出てこないあいつを表面に出すには、あたしが</p>
<p>眠るしかないのかもしれない。</p>
<p>う、ちょっと待てと。あたしが寝たらあいつが何しゃべったのか、肝心のあたしは全くわからないじゃない?</p>
<p>それはちょっと嫌だな……あたしも知らないことをミサカさんや鈴科先生が知っちゃうっていうのも。</p>
<p>変なことしゃべられたりしたら……</p>
<p>「それしか方法がないんだったら……仕方ないですけれど……でも、何があったかは全部教えて頂けるのなら、</p>
<p>かまいませんが……」</p>
<p>どっちかというと、あたしは、いやだなぁ、という気持ちで答えたつもりだった。</p>
<p>だけど。</p>
<p>「そう? よかった! じゃ、進めるね! 大丈夫。能力が発現しにくい人によく使われる薬だから。</p>
<p>安全性も極めて高いのよ。 只の一度も事故例はないからね」</p>
<p>ミサカさんはニッコリ笑ってあれよあれよと進めてしまう。</p>
<p>うう、今更いやだって言えなくなっちゃった……。</p>
<p>1年前の学園都市潜入の時みたいだ……。 </p>
<p>麻琴、あたしちょっと怖いよ……。もうAIMジャマーはないはずだけど。</p>
<p>「じゃその前に何か飲みません? お茶がいいですか? 紅茶? コーヒー?」</p>
<p>ミサカさんが聞く。</p>
<p>「じゃ、紅茶頂きます。ミルクと砂糖も下さい」</p>
<p>あたしがそう言うと、</p>
<p>「ちっ、よくそんな甘 『ハイハイ!先生はブラックなのはわかってますから!!!』 ………」</p>
<p>と、鈴科先生のつぶやきを押しつぶすようにミサカさんが大きな声で返事を返した。</p>
<p>夫婦漫才が今日も展開されるのだろうか?</p>
<p>「コーヒーの香りや苦み、甘みを味わうならブラックに限るっていってンだけどなァ、高い豆に失礼だろうがァ」</p>
<p>と鈴科先生がぶつぶつつぶやいている。</p>
<p>「ええ、インスタントじゃないホンモノはすごいですよね、だからあたし、ダメなんです」</p>
<p>「あァ?」</p>
<p>「あたし、ホンモノのコーヒーだと、胃が痛くなるんです。もうギリギリと痛むんで……インスタントなら大丈夫なんです</p>
<p>けれど」</p>
<p>「そりゃまた、素敵な胃袋をお持ちのようで」</p>
<p>ミサカさんがあたしに紅茶を、鈴科先生には香り高いコーヒーを持ってきた。すごくいい香り。</p>
<p>香りはいいんだけれど、ねぇ……。</p>
<p>あたしはミルクと砂糖をいれてティスプーンでかき回す。こちらもコーヒーほどではないが、良い香りがする。</p>
<p>クッキーをお茶請けに、って、いいのかな、こんなことしてて。</p>
<p>「あの、こんなゆっくりしていていいんですか?」</p>
<p>あたしはちょっと時間も気になったので聞いてみた。</p>
<p>「もう飲んじゃってるわよ、あなた。ゆったりと、気を楽~にして………ね?」</p>
<p>あたしは急激に眠気が襲ってきたことに気が付いた。</p>
<p>あはは、一服盛られてたのか、気が付きませんでした……。</p>
<p>「あ、あたしのこと、宜しくお願いします……」</p>
<p>…………あたしは眠りに落ちた。</p>
<p>                    <br />
 </p>
<p>---------------------</p>
<p>「ちょっとだまし討ちみたいで、気がひけるかもって」</p>
<p>そういいながら、ミサカ未来は眠っている佐天利子をキャスターベッドに乗せ、少し離れた別室へ移動する。</p>
<p>既に鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>はスタンバっていた。</p>
<p>ミサカ未来は佐天利子の頭にヘッドセットを、そして腕と胸にピックアップを取り付ける。</p>
<p>「脳波、α波、β波、θ波とも正常」<br />
「突発波なし」<br />
「心電図も異常なし、脈拍通常、と」</p>
<p>鈴科教授は基本データのチェックを行って行く。</p>
<p>「AIM拡散力場確認、通常レベルであると判断します。AIMジャマーはありません。</p>
<p>キャパシティダウナーチェック済みです」</p>
<p>ミサカ未来も各装置の確認を行っている。</p>
<p>「ちょっと待て、AIM拡散力場をよく見ておけ。多重人格であれば、複数のAIM拡散力場が無ければおかしいからなァ。</p>
<p>どォなっている?」</p>
<p>「えー、そんなこと言っても1つしかないよってミサカは回答する!」</p>
<p>「ンなはずはねェ、ちゃンとよく見てろクソガキ!」</p>
<p>「なら自分で見てごらんなさいよ!」</p>
<p>そう言うとミサカ未来は部屋を飛び出して行く。</p>
<p>「ちっ、クソガキがァ……… ン? 何故だ? 拡散力場は1つだけ? おかしィ……1人は無能力者とでもいうのかァ?」</p>
<p>鈴科教授は考え込み、パズルを組み立て始める。</p>
<p>(可能性は、</p>
<p>1. 多重人格ではない。従って、AIM拡散力場は1つ。</p>
<p>2. 多重人格。しかし1人のみ能力者で、他が全員無能力者。<br />
 <br />
3. 多重人格。複数の能力者だが、安静時にはAIM拡散力場の波形がほぼ一緒。</p>
<p>4. 多重人格。複数の能力者だが、普段は1人だけ。ある特定条件時に他の人格が現れ、AIM拡散力場も現れる。</p>
<p>5. 多重人格。複数の能力者だが、AIM拡散力場を操れるのは1人だけ。他は休んでいる。</p>
<p>ざっとこンなもンか? </p>
<p>チッ、この間の時の事例が再現できれば絞り込める可能性があるが……)</p>
<p>「さァて、どォやって 『もォ一人のさてんさン』 を呼び出しましょうかねェ?」</p>
<p>そうつぶやいた瞬間、鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>は瞬時にチョーカーのモードを 「エコ」 から 「フル」</p>
<p>に切り替えた。</p>
<p>「!!!」</p>
<p> </p>
<p>「アナターっ、切り札連れてきたわよー!」</p>
<p>打ち止め<ラストオーダー>ことミサカ未来が連れてきたのは1人の女性。</p>
<p>「心理定規<メジャーハート>!」</p>
<p>「あら、覚えてくれていて嬉しいかな? 元第1位、一方通行<アクセラレータ>」</p>
<p>「打ち止め<ラストオーダー>!? てめェ勝手に誰を連れてきてやがるンだァっ!?」</p>
<p>教授らしからぬ言葉でミサカ未来をののしる鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>。</p>
<p>「ちょっと止めなさいよ、あなたそれでも教授? お・く・さ・ま、にそういう態度はないと思うんだけど。</p>
<p>ツンデレは女子高生までよ、可愛いのは。オッサンがやってもキモイだけ」</p>
<p>「ケッ、ババァにオッサン扱いされるたァ、マジでへこンじまうぜオイ」</p>
<p>「くっ、ロリコン風情にババァ扱いされて光栄よ!」</p>
<p>言い争うレベル5とレベル4。</p>
<p>じっとガマンしていた打ち止め<ラストオーダー>が遂に噴火する。</p>
<p>「どっちもいい加減にしなさーい!!!」  </p>
<p>一方通行<アクセラレータ>にはミサカネットワークからの強制切り離しを、心理定規<メジャーハート>には</p>
<p>電撃を浴びせて強制鎮火を狙ったのだった。</p>
<p>「二人ともいい大人のくせに、いったい何やってるんですかっ!! 恥ずかしくないのっ!?」</p>
<p>二人とも床にのびている………が。</p>
<p>ふと、打ち止めは気が付いた。</p>
<p>「あ」                      </p>
<p>                                ――― やっちゃった ―――</p>
<p> </p>
<p>そう、ここは「測定室」なのだ。</p>
<p>高価な測定機器がそこら中にあるこの部屋で、誰かさんが電撃を飛ばした結果、どうなるか?</p>
<p><br />
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」</p>
<p><br />
ぐるぐる歩き回った打ち止めはやがて意を決して</p>
<p>「ミサカは今日は早引きすることにしようと…… 『ちょっとそこのナイスな奥様?』 ひゃいっ!?」</p>
<p>がっちりと肩をつかまれた打ち止めがギギギと振り向くと。</p>
<p>「あなた、1年以上お給料なしかもよ?」</p>
<p>心理定規<メジャーハート>が素晴らしい笑顔で彼女をつかまえていた。</p>
<p>                          </p>
<p> </p>
<p>「クソッタレ、打ち止め<ラストオーダー>を脅かすンじゃネェ、クソババア」</p>
<p>「ふん、しなびたセロリに言われたくないね」</p>
<p>誰かさんの電撃は幸いにして機械を壊すには至らなかった。</p>
<p>あらかじめいくつかの能力暴走によるトラブルは想定されており、とりわけ測定機器には防護システムが組まれて</p>
<p>いるのである。</p>
<p>もちろん、安全のために機械の電源は落ちてしまうが。</p>
<p>「あのねー、本来の目的忘れてませんかー、あななたちは?」</p>
<p>打ち止めが、再び口げんかを始めかかった二人に割って入る。</p>
<p>「あら、壊れてなかったと知ったら、結構強気ね、ええと……そうそう 『ラブリー奥様』?」</p>
<p>「あなたにその名前は呼んで欲しくない、ってミサカは少しむっとしたり」</p>
<p>「用がないンだったら、さっさと消えろ、クソババァ」</p>
<p>「やれやれ……、ミサカさん、どうなの? 私、帰った方が良いのかな?」</p>
<p>「そ、そんなことはないからって。あたしがわざわざ話をして来てもらったのだから、このまま帰られたら困ってしまうの」</p>
<p>「そう、じゃ、そこのしなびたセロリはほっといて始めましょうか?」</p>
<p>「誰がしなびたセロリだオイ」</p>
<p>「うっさい、静かになさい!」</p>
<p> </p>
<p>心理定規<メジャーハート>は能力を用い、眠っている佐天利子に語りかける。</p>
<p>「さーて、佐天さん、起きてくれるかな?」</p>
<p>「もう漫才は終わりなの? 面白かったのに。さっきから起きてるよ? わたしは。</p>
<p>それから、わたし、佐天さんじゃないんだなぁ、じ・つ・は」</p>
<p>眠っている佐天利子が口を開け、仰天する言葉を返してきた。</p>
<p> </p>
<p>心理定規<メジャーハート>は一瞬 「む」 という顔をしたが、直ぐに立ち直る。</p>
<p>「あら、じゃ一体どこのどなた、なのかしら?」</p>
<p>鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>と、ミサカ未来こと打ち止め<ラストオーダー>の二人は息をのむ。</p>
<p>「ひとにものを尋ねるにしては、ちょっと上から目線じゃないかなぁ? へりくだれ、とは言いませんけれど」</p>
<p>佐天利子ではない、と名乗った彼女はややおかんむりのようだ。</p>
<p>「ミサカはミサカだよって割り込んでみる! こんにちは。あたしはミサカ未来(みさか みく)です。</p>
<p>それで、あっちにいるのが、ミサカの大事な人、すずしな 『一方通行<アクセラレータ>だ。よろしくな』 ……だよ!」</p>
<p>「こんにちは。ミサカさんに鈴科さん。わたしは、りこと言います。佐天さんの愛称もリコですけれど、それとは違う、</p>
<p>別人です。わけあって、普段は隠れてます」</p>
<p>(なんであたしとこの二人との口調を変えてるのかしらね……思春期の女の子だから、まぁいいか)</p>
<p>心理定規<メジャーハート>は少しムッとしたが、ミサカ未来がうまく語りかけてくれているので黙っていることにした。</p>
<p>しかし、黙っていないコドモオトナがもう一人。</p>
<p>「オマエ 『りこちゃんは、どうして佐天さんの中に隠れているの?』 チッ……」</p>
<p>コドモオトナが語りかけ<脅迫し>そうになったところに、ミサカ未来が質問を強引にかぶせる。</p>
<p>舌打ちしてもう一人のコドモオトナも沈黙した。</p>
<p>「隠れてるっていうか、元々はわたしなの、この身体は。わたしのものなの。でも、わたしは表に出ちゃいけないの」</p>
<p>後半分は自分に言い聞かせるかのように小さな声でりこがつぶやく。</p>
<p>「どうして?」</p>
<p>「わからない。でも、わたしはママに捨てられた子供。それを拾ってくれたのが、佐天涙子さんで、わたしはその娘、</p>
<p>佐天利子(さてん としこ)さんになったの。だから、表に出ているのは佐天利子。</p>
<p>わたしはたまにこの子を指導するの。危なっかしいからね」</p>
<p>「能力については、わかってる?」</p>
<p>「わたしは持っているのは知っている。でも、最近まで知らなかった。</p>
<p>去年ぐらいかな、アタマにあったAIMジャマーがなくなって、わたしは自由に動けるようになったし。</p>
<p>最近なの、能力を使い出したのは。まだ半分も使ってないんじゃないかな? 」</p>
<p>「え?半分って、どういう事?」</p>
<p>「わたしにもよくわからないの。あることはわかってるけれど、最後まで使い切ったことがないというのかしら。</p>
<p>でもわたし自身ではどうしようもないことなのね。</p>
<p>普段、表にいるのは佐天さんね。彼女のパーソナルリアリティの基本骨子は、わたしのパーソナルリアリティ。</p>
<p>でもわたしの全部じゃなくて、たぶん半分くらいだと思う。全部使い切れていない、というのはそこからの推測。</p>
<p>彼女がそれをベースに演算をするわけだけれど、その演算式はそのままわたしにも送られて来ているから、</p>
<p>わたしは再解析して問題がない場合はそのままあたしの演算結果になるわけ。</p>
<p>そしてその結果は、あたしのAIM拡散力場に影響を及ぼして、わたしのパーソナルリアリティに基づく超能力現象が</p>
<p>発現する、と言うことみたい」</p>
<p>「気が狂いそォなくらい、無駄なことやってやがンな……」</p>
<p>「心配しないで、自覚してるもん」</p>
<p>「えっ!?」</p>
<p>心理定規<メジャーハート>が思わず声を出した。</p>
<p>(今、彼女はなんて言った……?) </p>
<p>「最初の時は、私も慣れていなかったので彼女の演算を特に再解析もせずにそのまま確定して、パーソナルリアリティ</p>
<p>を具現化させたのね……そしたら、わたしの周りは吹き飛んで大穴が開いた瓦礫の山になっていたの」</p>
<p> </p>
<p>--------------------</p>
<p>(あれ、この話、もしかして?)</p>
<p>打ち止め<ラストオーダー>がMNW(ミサカ・ネット・ワーク)にアクセスを行う。</p>
<p><br />
【運営】あの女子高生の衝撃の告白【打ち止め】</p>
<p>1 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001</p>
<p>2回目の訪問で、衝撃の事実が明かされている、とミサカは口火を切ってみる!</p>
<p> </p>
<p>2 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577</p>
<p>ワイドショー的なノリはいかがなものか、とミサカは上位個体をたしなめてみます。</p>
<p> </p>
<p>3 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032</p>
<p>彼女は昨年5月のキリヤマ研究所爆発事故のことを述べているものと推測します。</p>
<p> </p>
<p>3 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039</p>
<p>彼女<佐天利子>の中に、もう一人の「りこ」という名の人格が存在しているということでしょうか?</p>
<p>そのようなことが可能なのでしょうか?</p>
<p><br />
4 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001  </p>
<p>10039号の疑問はもっともだけど、りこちゃんの話もウソには聞こえないよ?</p>
<p>それで……えーと、キリヤマ事件では10039号と10032号が出動したんだよね?</p>
<p> </p>
<p>5 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577</p>
<p>病院の中でミサカも遭遇しています。ちょっと不愉快な事を思い出してしまいました、とミサカは後悔します。</p>
<p> </p>
<p>6 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032 </p>
<p>管轄違いなのに、またどうせクドクドとオバサンくさく説教したんだろうなと、10032号は13577号に責められたであろう</p>
<p>彼女に同情し、ため息をつきます。</p>
<p> </p>
<p>7 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577 </p>
<p>む、まるで自分はオバサンではないかの如く発言する10032号に対し、オマエも立派なオバサンだわかってんのか</p>
<p>コノヤロウ明るい部屋でとっくりと鏡を見やがれ、と思ったことはおくびにも出さずにスルーします。</p>
<p> </p>
<p>8 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001 </p>
<p>ハイハイ、そこでストーップ!!!  りこちゃんの話続いてるから後にして! </p>
<p>【Misaka20001が退出しました】</p>
<p>           </p>
<p>9 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577 </p>
<p>ちっ、また立て逃げかよ、とミサカは嘆息します。</p>
<p> </p>
<p>10 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039</p>
<p>お姉様<オリジナル>への報告はどうしましょうか?</p>
<p> </p>
<p>11 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032 <br />
 <br />
状況が変わりました。彼女の話が全部終わった段階で、前回の訪問の内容から併せて報告した方がよいかと。</p>
<p> </p>
<p>12 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039</p>
<p>誰が報告しますか?</p>
<p> </p>
<p>13 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090 </p>
<p>それは当然、「委員の影を果たせるのは今やこの私だけです、とささやかな自負と共に」宣言した10039号が適任かと。</p>
<p><br />
 <br />
11 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032</p>
<p>異議なし。</p>
<p> </p>
<p>12 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577</p>
<p>同じく。</p>
<p> </p>
<p>11 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039</p>
<p>なんとなく嵌められたような気がしますけれど、まぁわかりました。</p>
<p>この難局、無事に乗り切ってみせます、とミサカは宣言します。</p>
<p><br />
【Misaka13577が退出しました】<br />
【Misaka10032が退出しました】<br />
【Misaka19090が退出しました】<br />
【Misaka10039が退出しました】<br />
 </p>
<p>---------------------------------------</p>
<p>「彼女が正常に起きているときはあたしは何も出来ないの。 たま~に運良く思念が送れたりするけれど。</p>
<p>今、彼女が休んでいるから、あたしはおかげさまでこうしてあなたたちとお話しできてるんだけどね。</p>
<p>……こんなにしゃべって良いのかな、あとで目一杯怒られるような気がするなぁ、あたし……」</p>
<p>りこがふと不安そうな声になった。</p>
<p>「大丈夫。この会話は録音してないし。ちょっと佐天さんにも教えない方がいいかもしれない」</p>
<p>ミサカ未来が慰めている。</p>
<p> </p>
<p>話は続いているが、心理定規<メジャーハート>の頭の中では、さっきの「りこ」の言葉が渦巻いていた。</p>
<p> </p>
<p>――― 心配しないで、自覚してるもん ―――  </p>
<p><br />
――― 心配するな、自覚はある ―――  </p>
<p>――― 俺の未元物質<ダークマター>に、その常識は通用しねぇ ――― </p>
<p><br />
(帝督……まさかね……年があわないし)</p>
<p>「あ、あの、りこ、さん?」</p>
<p>心理定規<メジャーハート>がちょっと口ごもりながらりこに声をかけた。</p>
<p>「なんですか?」</p>
<p>「あたしは、心理定規<メジャーハート>っていう能力者だけど、あなたのお父様とお母様はご存じないの?」</p>
<p>「ママはね、『しずり』よ。パパは知らない。一度も見たことないし。ママに聞いても教えてくれないとは思うよ?」</p>
<p>心理定規<メジャーハート>は唇をかむ。</p>
<p>(しずり……か。まぁいい、あとで書庫<バンク>で検索すれば何人か出るだろう)</p>
<p>「りこちゃん、いいかな?」</p>
<p>ミサカ未来がまた話しかける。</p>
<p>「はい、なんですか?」</p>
<p>「いま、りこちゃんのお話聞いていて、ふと思ったんだけど、あなたは、自分のパーソナルリアリティから自分で</p>
<p>演算して、自分で再構築して自らAIM拡散力場に働きかけたことはないような気がしたんだけど、どう?」</p>
<p>しばらく「りこ」は沈黙した。</p>
<p> </p>
<p>「そうですね、ないかもしれません」</p>
<p>「りこ」が答えてきた。</p>
<p>「だから、あなたの能力を最後まで使い切っていないのかもしれない、とあたしは思ったの。</p>
<p>だから、今のように、佐天さんが活動していない状況の時ならば、『りこ』さんの能力を引き出せるんじゃないかなって」</p>
<p> </p>
<p>しばらく考えていた「りこ」が再び口を開く。</p>
<p>「……そうですが、そうすると、今までのバランスを崩してしまう気がします。</p>
<p>あたしはあくまで陰であって、佐天利子がメインなんですよ。</p>
<p>能力が発動するまで、あたしと佐天利子のダブルチェックがあるんです。お粗末ですけれど。</p>
<p>一度でもそういう方法を取ってしまうと、脳が覚えてしまい、最悪の場合、佐天利子の意思にかかわらず、</p>
<p>あたしの能力を発現することが出来てしまう可能性があります。</p>
<p>まぁ、普段はAIMジャマーの影響を受けていますし、私自身がが暴走する可能性はゼロに近いでしょうけれど、</p>
<p>少なくとも今わかっている限りでの私の能力は『破壊』ですからね、暴走したらすごく危険ですから、ショートカットを</p>
<p>つけるようなことは慎むべきじゃないでしょうか?」</p>
<p>「………」</p>
<p>ミサカ未来も、鈴科教授もこの正論に正面切って答えることは出来なかった。</p>
<p>「こういう場を設けて頂いて感謝します。他の人とこんなにしゃべったのは、生まれて初めてです。</p>
<p>とっても嬉しいです。とっても楽しかった。</p>
<p>じゃ、そろそろ私は引っ込んだ方が良いのかもしれません。下がってもいいですか?」</p>
<p>「あ……あァ、わかった」</p>
<p>「うん、リコちゃん、お疲れさま。ミサカもお話しできてとっても楽しかったよ。また会おうね」</p>
<p>「そうですね、出来たらいいですね。心理定規<メジャーハート>さん、さよなら。皆さんお元気で」</p>
<p>そう言うと、佐天利子は目を閉じた。</p>
<p>しばらくして、佐天利子の規則正しい寝息が聞こえてきた。りこは再び奥にひっこんだのだろう。</p>
<p>何も知らないかのように、すやすやと幸せそうな顔で眠る佐天利子。</p>
<p>対照的に、その顔を眺める鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>、ミサカ未来こと打ち止め<ラストオーダー>、</p>
<p>そして心理定規<メジャーハート>の顔は複雑なものであった。</p>
<p>            <br />
-------------------------------------------</p>
<p>次の日の夕方。</p>
<p>ここ18学区にある長点上機学園。能力開発の超エリート学校である。</p>
<p> </p>
<p>一天にわかに掻き曇り、つむじ風に乗って雷さまがやってきた。</p>
<p> </p>
<p>「くっだらねェ、オレはいないと言っとけ」</p>
<p>「ええええ、ミサカもいないって答えたいかも」</p>
<p>「オマエ、もォビジターチェックに出ちまっただろうが、諦めろ」</p>
<p>「やだやだ、ミサカ一人じゃいやだって、あたし、気を失っちゃうかも……」</p>
<p> </p>
<p>「そん時は、あたしが優しく起こしてあげるわよ、未来<みく>?」</p>
<p>ミサカ未来こと打ち止め<ラストオーダー>はその声を聞いた瞬間棒立ちになった。</p>
<p>「あはははは、来ちゃってたー」</p>
<p>あさっての方向を見ながらミサカ未来が独り言をつぶやく。 </p>
<p>「ちょっとなによ、その挨拶? まるで来たら困るような物言いだわね?」</p>
<p> </p>
<p>ゆっくりと雷さま、いやお姉様<オリジナル>である上条美琴が部屋に入ってくる。</p>
<p> </p>
<p>「チッ、そォいや電子ロックはおまえにゃ無意味だっけなァ?」</p>
<p>「そういうこと。お久しぶりね、一方通行<アクセラレータ>さん? いや、鈴科教授って呼ばなきゃ失礼ですかしら?」</p>
<p>元学園都市第一位、一方通行<アクセラレータ>と、元学園都市第三位、超電磁砲<レールガン>とが、</p>
<p>それほど広くはない研究室の応接間で並び立つ。<br />
            <br />
 </p>
<p>「クソッタレが。好きにしろ、超電磁砲<レールガン>の ”おねェさン ”?」</p>
<p>「くっ………、アンタに”おねェさン”と呼ばれるのだけは勘弁して欲しいわね、まだ超電磁砲か三下の方がましよ」</p>
<p>「ならご要望にお応えして、三下ねェさン?」</p>
<p>お互い様子見とも見える、言葉のパンチの応酬に切れたのは、「やはり」超電磁砲<レールガン>の美琴だった。</p>
<p>「……だ・か・ら、その『ねェさン』つってるのを止めろって言ってんでしょうが無視すんなやゴ 『お姉様<オリジナル>、</p>
<p>そこまでです』 う」</p>
<p>「こんにちは、上位個体<ラストオーダー>、と声を掛けて、ミサカは上位個体<ラストオーダー>の脱走阻止に</p>
<p>成功しました」</p>
<p>本気になられたらシャレにならない元第一位と元第三位との口げんかに割って入ったのは、妹達<シスターズ>の</p>
<p>一人。</p>
<p>「うう、そういうアナタは10039号ね?」</p>
<p>「はい、あの方に直接つけて頂いた名前はミサカ美子(みさか よしこ)です、と上位個体<ラストオーダー>に</p>
<p>ささやかな自負と共に名乗ってみます」</p>
<p>ちなみに、『ミサカ未来』という名前は一方通行<アクセラレータ>と上条美琴<レールガン>がまるまる一日を</p>
<p>費やして上げていった名前の中から、打ち止め<ラストオーダー>こと検体番号20001号が 「うん」 と頷いたもの</p>
<p>である。</p>
<p>「ハイハイ、そこまで。自己紹介はこのくらいで、とっとと本題行くわよ? ところでここ、秘密の話OK?」</p>
<p>ついさっきまでの剣幕はどこへやら、しれっとして上条美琴が場面を切り替える。</p>
<p>「あン? カメラについては毎日チェックしてるから問題ねェ。マイクについては三下の方が見つけやすいンじゃねェ</p>
<p>のか?」</p>
<p>「ちょ、客<レベル5>に調べさせるってわけ? アンタの研究室は……ったくなんてとこなのよ……?」</p>
<p>そう言いつつ歩き回る美琴。                    </p>
<p>「すまねェなァ、ちなみに毎日オレもカメラが取り付けられてねェかチェックやってるんだぜオイ?」</p>
<p>「ホントなの? ……はぁ、レベル5相手にこの学校も何やってるんだかホントに……」</p>
<p>そう言いながら上条美琴はゆっくりと部屋の中を歩き始める。</p>
<p>「お姉様<オリジナル>、私も?」</p>
<p>「ミサカも?」</p>
<p>ミサカ美子(元10039号)と打ち止め<ラストオーダー>が手伝いましょうか?という感じで腰を浮かせると、</p>
<p>「あ、あたしが一通り終わったらお願いするわ? 同時に複数が同じように電波チェックすると、お互いが干渉しちゃって</p>
<p>ノイズを出すだけで無意味だから」と美琴が美子をとどめる。</p>
<p>「では、私は音声を出してあえて拾わせて、お姉様<オリジナル>のチェックをアシストしてみます。</p>
<p>じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょの すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ くうねる</p>
<p>ところにすむところ やぶらこうじのぶらこうじ ぱいぽ ぱいぽ ぱいぽのしゅーりんがん しゅーりんがんのぐーりん</p>
<p>だい ぐーりんだいのぽんぽこぴーの ぽんぽこなーの ちょうきゅうめいのちょうすけ……</p>
<p>あの、お姉様<オリジナル> ?」</p>
<p>「あった!」 </p>
<p>美琴が指さしたのは、開きドアのストッパーである。</p>
<p>美琴がクイっとひねると、それはいとも簡単に回転した。クルクルとまわしてラバー部分を外すと、その部分には</p>
<p>小型マイクが入っていた。</p>
<p>「ちょおっと、学園都市第一位とは思えないわねぇ……こんな簡単に見つかるような場所にマイク嵌め込まれる</p>
<p>なんてさ?」</p>
<p>「ホントだ、信じられないってミサカは心底驚いてみる……」</p>
<p>上条美琴が見つけ出した超小型マイク・トランスミッターをミサカ未来ものぞき込む。</p>
<p>「誰も、ミサカの努力を評価して下さらないのですね、と一人黄昏れているミサカに誰も注意を払ってくれないのですね」</p>
<p>とミサカ美子(元10039号)がぶつぶつ独り言を言っているが、まさにその通りで、</p>
<p>「チッ、言ってろ三下が……どれだ?」</p>
<p>鈴科教授に上条美琴が(こんなもの埋め込まれちゃってー、アンタもヤキがまわったんじゃないのー?)という顔で</p>
<p>そのマイクを見せつける。</p>
<p>「……ああ、わりぃわりぃ、それつけたの、たぶんオレだわ」</p>
<p>「「「はぁぁぁぁ?」」」</p>
<p>鈴科教授以外の3人が驚きでハモる。</p>
<p>「何のために??」 </p>
<p>上条美琴が、事と次第によっては、という感じで鈴科教授に詰め寄る。</p>
<p>「あったり前だろ、オレが席を外したときに、打ち止めを狙っておかしなヤツが侵入したとか、そのクソガキがまた</p>
<p>仕事さぼってフラフラとどっか行っちまったとか、そォ言うことに対するアイテムの一つなンだよ!」</p>
<p>「ミサカはそこまで子供じゃないっていつも言ってるのに~!」</p>
<p>「ふーん、前半はわからなくはないわ。で、未来? あんた何、そんなに脱走したりするわけ?」</p>
<p>「そ、そんなことはないってミサカは 『ダウト! とミサカは上位個体<ラストオーダー>の回答に疑問を投げかけます』</p>
<p>……」</p>
<p>先ほどの寿限無で完璧に外してしまったミサカ美子が復活を賭けて再びリングに登場した。</p>
<p>「少なくとも」 と、ミサカ美子(元検体番号10039号)はミサカ未来の罪状を事細かに上げて行く。</p>
<p>     ――― (中略) ―――</p>
<p>「以上、少なくとも先週5日間で、脱走回数はのべ13回に及んでいます。</p>
<p>この回数が多いか少ないかは、皆様の判断にお任せします」</p>
<p>「打ち止め<ラストオーダー>ーッ? てめェそンなにフケてやがッたのかァ? 給料差し引くからなァ?」</p>
<p>「うわーん、そ、それは勘弁して欲しいって、ミサカは平謝りするって泣いてお願いしてみたり?」</p>
<p>以下、世間で言う夫婦ゲンカ第二幕。</p>
<p>      ――― (中略) ―――</p>
<p>「やってられないわね」</p>
<p>「そうですね、お姉様<オリジナル>」</p>
<p> </p>
<p>「で、本題なんだけど、そろそろいいかな?」</p>
<p>「あぁ……」</p>
<p>「アンタ達、佐天利子ちゃんのこと調べてたんだって?」</p>
<p>「頼まれてな」</p>
<p>「誰に?」</p>
<p>「本人だっつーの」</p>
<p>「はぁぁぁぁぁぁぁ? としこちゃん自身が?」</p>
<p>「あァ。 あのガキが自分の能力のコントロールつけるつもりでな、多摩川の河原で石を投げては自分の能力で</p>
<p>破壊しようと一生懸命やってたンだがな。まるっきり見当違いなことやってたンで、見てる方がバカバカしくなってなァ。</p>
<p>けどよォ、あんまり真剣なンで、ちィっとばかしお節介を焼いただけだ」                            </p>
<p>「な、なんて事を……」</p>
<p>「あン? で、あのガキ自身が自分の能力わかってねェらしィから、じゃァちょっくら調べてみましょうかねェ?ってことに</p>
<p>なったわけだっつーの」</p>
<p>「……」</p>
<p>「でな、最初の時は、ガキが自分自身で能力を押さえ込ンでしまった。本人も意識せずに、だ」</p>
<p>「……」</p>
<p>「ガキが言うには、冷静なもう一人の自分がいる、今回出てこなかったのにどォして? つーとンでもねェ発言を</p>
<p>しやがった」</p>
<p>「なんですって!?」</p>
<p>上条美琴の顔色が変わる。</p>
<p>(……、う……そ……、そ……ん……な……、ま……さ……か……)</p>
<p>「この意味わかるな? 三下ねェさん? ……ン? 反応がネェな。つまらねェなァ」</p>
<p>「……そ、それで、どうしたのよ!」</p>
<p>「昨日、そのガキが来た。それで、睡眠療法で誘導を掛けたら、別人が出てきたわけだ。まぁそういうことだ」</p>
<p>(まさか、むぎの りこって名乗った、って?)</p>
<p>「名前、聞いたの? その『別人』のひとに?」</p>
<p>上条美琴の声が震えている。</p>
<p>(ン?) という顔で、鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>と、ミサカ未来こと打ち止め<ラストオーダー>が</p>
<p>お互いに顔を見合わせて、そして美琴の顔を見ながらゆっくりと答える。</p>
<p>「りこ、と言ったなァ」</p>
<p>「ママは『しずり』って名前だっていってた。パパは知らないって……」</p>
<p> </p>
<p>床がぐにゃりと溶けて行くような気がした。</p>
<p><br />
………やっぱり。 </p>
<p> </p>
<p>話の内容から、それ以外考えられなかったけれど。</p>
<p> </p>
<p>   ――― あの子が、『生きていた』 ―――</p>
<p><br />
木山春生教授の、学習装置<テスタメント>による記憶破壊をくぐり抜けた、のか、あの子は。</p>
<p>でも、そんなことって、本当に、ほんとにあり得るのだろうか。</p>
<p>いったいどうやって?</p>
<p>現実に起きているのだけれど、半信半疑、だ。</p>
<p><br />
上条美琴は、思わず頭を抱えてしゃがみ込みたい、と真剣に思った。</p>
<p>(何でなのよぉー!!!!)と叫びだしたかった。</p>
<p><br />
学園都市が麦野沈利に産ませた、垣根帝督の娘。</p>
<p>レベル5同士の自然交配による、人工的な「原石」の創造をもくろんだ『実験』の、唯一の生き残り。</p>
<p>麦野利子(むぎの りこ)。</p>
<p>二歳を目の前にして、死んだ女の子。</p>
<p>そして生まれ変わった、佐天利子(さてん としこ)。</p>
<p> </p>
<p>美琴は思い起こす。16年前の、あの時。</p>
<p>                          </p>
<p>最初に麦野沈利から話を聞いたとき、麻琴はまだ産まれたばかりだった。</p>
<p>もし、自分がその対象だったら? ぞっとした。</p>
<p>もし、その実験対象に自分が選ばれていたら、自分が抱くこの子、麻琴は、第一位か第二位との子供だったかも</p>
<p>しれないのか?</p>
<p>冗談ではない!</p>
<p>美琴は、恐ろしさに震え上がると同時に、その計画を立案した見知らぬ相手に、強い怒りを、軽蔑を、そして不幸にも</p>
<p>その実験に選ばれてしまった第四位の麦野沈利に対して、同情と後ろめたさを感じたのであった。</p>
<p>なぜ、自分は対象から外されたのだろうか? なぜ、わたしではなく彼女だったのだろうか、と。</p>
<p>そして、自分は選ばれずにすんだ、という安堵の気持ちを持ってしまったそのこと自体に、美琴は強い自己嫌悪を</p>
<p>覚えた。</p>
<p>そういう思いを持ってしまったことを恥じた。</p>
<p>自分のそんな思いにも気づかず、目の前で語る麦野沈利に対して、美琴は後ろめたさを持ったのも事実だった。</p>
<p>しかし、彼女、麦野沈利は美琴が思っていたほど女々しい女ではなかった。</p>
<p>父親がだれだろうと、この子は腹を痛めた我が娘、自分の血を分けた娘、と明快だった。強い 『母』 だった。</p>
<p>その思いが強すぎ将来を悲観して、ちょっと暴走しかかったけれど。</p>
<p>『麦野利子』が生きていたと知ったら、麦野沈利は……?</p>
<p>今は裏でつつましく生きている『麦野利子』が表に出てきたら?</p>
<p>いや、そうしたら、『佐天利子』はどうなるのだろう? 『佐天涙子』もまた……?                              </p>
<p>いや、それよりも、かつての彼女らの『敵』は、もういないのだろうか? 消滅しているのだろうか?</p>
<p>……そんな保証があるわけがない。</p>
<p>ここは、『学園都市』なのだ。</p>
<p> </p>
<p>「……仕方ない。打ち止め<ラストオーダー>、美子(元10039号)、あんたたち二人、MNWから外れてもらえる?</p>
<p>それから、鈴科教授? 他言無用でお願いしたいんだけど?」</p>
<p>「ケッ、なんですかァ、ずいぶんとものものしい御発言のようで?」</p>
<p>「あったり前。人のいのちに関わるかもしれないんだから」</p>
<p>「フン……なら三下、筆談だ。アナログが一番なんだよ、そう言う話はな」</p>
<p> </p>
<p>「ちっ」 舌打ちをした女が一人。</p>
<p>ヘッドホンを外したのは心理定規<メジャーハート>だった。</p>
<p>「あの子が、元レベル5・第四位『麦野沈利』の娘なのか、そして父親があのひとだったのかどうか、聞けるかもと</p>
<p>思ったのに……  まぁ、最後は本人に聞くと言う手もあるか」</p>
<p> </p>
<p>鈴科教授がメモを焼き捨てる。</p>
<p>「お解り頂けたかしら?」</p>
<p>「なかなか愉快な人生歩んでるようで、あのガキも」</p>
<p>「ちょおっと!」</p>
<p>「フン、守るものが1人増えただけだ」</p>
<p> </p>
<p><br />
「ミサカはすっかり空気だね……」</p>
<p>「同じく、このミサカは何のためにここにいるのでしょう、と上位個体と共に悲嘆にくれます」</p>
<p>                              </p>
<p>------------------------------</p>
<p><br />
「オマエ、ここへはもう来るな」</p>
<p>ある日のこと。</p>
<p>あたしはいきなり鈴科先生から告げられた。</p>
<p>「え?」</p>
<p>「オマエのためだ」</p>
<p>あたしはわけがわからなかった。</p>
<p>まだ能力コントロール訓練は始まったばっかりなのに。</p>
<p>だいたい、最初に言い出したのは、鈴科先生の方でしょ? それがどういうことですか? 何なんですか?</p>
<p>もう来るなって、そんな、ひどすぎる!!</p>
<p>……と、あたしは心のなかで、コテンパンに鈴科先生を畳んで伸してアイロン掛けしてやりこめていた。</p>
<p> </p>
<p>でも、実際はというと、あたしは黙って目に涙を浮かべていたのだった。ヘタレだ、あたし。 </p>
<p>「帰れなくなる可能性がある」</p>
<p>「?」 はい?</p>
<p>「オマエの能力は未知数過ぎる。それに惹かれる連中がここには沢山いるンだ。ある日突然、オマエを研究対象に</p>
<p>しちまうような連中がいるンだ。危険なンだよ、ここは」</p>
<p>あたしは、茫然としていた。</p>
<p>あたし、そんな、たいそうな人間じゃないのに……違うの?</p>
<p>「オマエがなぜ、教育大付属なンつークソッタレな学校へ行くことになったのか、今頃オレはわかった。</p>
<p>オマエ、自分で決めた訳じゃねェだろう? 誰がオマエに教育大付属高校を薦めた?」</p>
<p>「美琴、上条美琴おばさんです」</p>
<p>「上条? あの三下のことか? 第三位か!?」</p>
<p>「超電磁砲<レールガン>という名はご存じですか?」</p>
<p>「ケッ、知らないでどうするってかァ? そうか、なるほどねぇそういうことか。こいつはちっとばかし、面白しれェことに</p>
<p>なっちまったかもなァ」</p>
<p>何を言ってるのか、あたしにはさっぱりわからなかった。</p>
<p>「あ、あの……」</p>
<p>あたしは、不安だった。</p>
<p>「心配すンな。オレが守ってやンよ。帰ったらなァ、おばさんに 『一方通行<アクセラレータ>が、余計な事をしちまった</p>
<p>代わりに、お手伝いを致します』 と言っといてくれ」</p>
<p>「は、はい……?」</p>
<p>いよいよ、わからない。</p>
<p>でも、鈴科先生の目は、前と違って、ずいぶんと優しい柔らかな調子に見えた。</p>
<p> </p>
<p>「打ち止め<ラストオーダー>、クルマ出してくれ! 彼女を送って行くぞ!」</p>
<p> </p>
<p><br />
こうして、あたしの長点上機学園での能力コントロール訓練は、うやむやのうちに終わってしまった。</p>
<p>あたし、悲しい。どうしよう。また石ころを投げるしかないのだろうか?<br />
 </p>
<p>                                                          つづく</p>
<p> </p>

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