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09 「クラスメート」
火曜日。
今日も補習。でも昨日より1限少ないので、昨日よりずっと早く帰ることが出来た。
今日はカオリん(大里香織)の他にもう2人クラスメイトがいた。
青木桜子(あおき さくらこ)ちゃんと、前島ゆかり(まえしま ゆかり)ちゃんだ。
寮のゲート声紋チェックで、
あたしは「ひらけー、ゴマっ!」 とベタな呪文を、
カオリん(大里香織)は「助さん、角さん、やっておしまいなさい」 と何かのせりふを、
さくら(青木桜子)は「主であるイエス・キリストは、全てをお見通しでいらっしゃいます」 と。
へー、クリスチャンだったんだ……
ゆかりん(前島ゆかり)は「お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許し下さい」
ええええええーっ????? それはまずいんじゃないの??
果たせるかな、
「言動に問題があります」
と警告が出て、警備ロボが2台飛び出てきて、寮監さんが飛んできた。
「誰だ? なんだ、まえしま、またお前か!? ちょっと来なさい!!」
「えー、なんでよぅ??」
……ずるずると彼女は引きずられていった。
以前「チカン!」と叫んだのは、どうやらゆかりんだったらしい。
これで前科2犯になってしまった。もう少し当たり障りのない言葉にすればいいのに……
早く帰って来れたので、ブッフェは今日はかなり余裕があった。サラダバーもバッチリだ。
「リコはちゃんとお通じ来てる?」 カオリんが皿にグリーンリーフとカイワレ大根を載せながら聞く。
「んー、あたしは今朝、ちゃんと太いの出たよぅ?」
あたしは、紫キャベツみじん切り+キュウリ+プチトマト+スイートコーンのサラダにドレッシングをかけながら、どんなもんだい、と胸を張って言う。
あ、さくらが皿を落とした……。あー、もったいない、フランクソーセージが2本も……。
席に着くと
「ちょっと、カオリん、こういう場所で何てことを聞くのよ?」 さくらが言う。
「いいなぁ、リコは。あたしこれで3日めだよ?」 カオリんがさくらを無視する形で、ため息混じりに言う。
「く……、あ、あんたたちは……場所も考えずに~!」 さくらがブルブルと、あ、火花が出た!
「あ、さくら、ごめんごめん、押さえて、ね? お願い!」 カオリんが必死でさくらを押さえにかかる。
「いいから! ちょっとカバン取ってくれる? 早く早く!!」 さくらが赤い顔で焦り気味に言う。
「ほい、これ!?」 あたしはさくらのカバンを渡す。
彼女はカバンの脇から釣り竿のようなものを取り出し、ひょいと先っちょを天井に向けて投げ、スプリンクラーにその先を巻き付けた。
「?」
「?」
「でぇーいい!!!」
―――― イオンの臭いがあたりに漂った ――――
さくらがかけ声と共に放電したらしい。ハァハァとちょっと荒い息を吐く。
「ま、間に合った……」
「青木さんて電撃使い<エレクトロマスター>だったの?」 あたしはさくらに聞く。
「う、うん。マスターってレベルじゃないけど……レベル2なの。まだ感情の起伏が……、そのまま、能力発動しちゃうの。
だから、気をつけてるんだけど……って、食堂で変な話出さないでよ、もう」
そこへ、ゆかりんがふらふらと歩いてきた。
「ゆかりん! こっち~、こっちだよ!」 あたしは彼女を呼んだ。
「ふぇ~っ、あたし、死んだわ~」 ゆかりんはぐだーっとテーブルに突っ伏してしまう。
「怒られた?」 と、あたし。
「叩かれた?」 と、カオリん。
「ううん、反省文書けって言われた。でさ、あたしってほら、自動書記<オートセクレタリー>だから、楽勝だと思ったんだよねー」
「それで?」 と、さくら。
「そしたらさー、アタマにジャマーつけられちゃってー、そしてさ、反省文を紙に書けって。
ジャマーついてるからホントに文章を考えて書くの、大変だったのよ……」 机に突っ伏したまま、ゆかリんがぼやく。
「だから、何もわざわざ変なこと言わなければいいじゃない?」 さくらが言う。
「えー、だって自分の名前いうのは、個人情報を自分でさらけ出しちゃうようなものだから、アウトでしょ?
でさぁ、同じパスワードを使い続けちゃいけない訳でしょ? あたしのおつむじゃもうネタ切れなのよねー」
「だからって、何もわざわざ物議を醸すようなネタを言わなくてもいいじゃないの?」 カオリんが突っ込む。
「そうかなー? わりとありふれたフレーズだと思うけどな?」
「いや、ありふれた物議を醸すネタは沢山あるわよ?」 あたしが今度はゆかりんに突っ込んでみる。
「どんなの?」
「アンタの『チカ~ン』の類なら、『ドロボー』とかさ、『火事だぁ』とか」
「ふんふん」
「それから、『先立つ不幸』だったら、『もう探さないで下さい』とか『人生に疲れました』とか」
「おお、いいねぇ」
「ちょっと、ゆかりん、まさかアンタ、あたしが言ったネタ、使おうなんて考えてないわよね?」
あたしは念のため、ゆかりんに釘を力一杯打ち込んでみたが、果たせるかな返ってきた言葉は
「え? まずいの、今のヤツ?」 あのねぇ、ゆかりん?
「だ・か・ら、物議を醸すネタと言ってるでしょーが……」 あたしは脱力してしまった。
「アハハ、大丈夫だよ、リコ。あたし、良い方法思いついたから」
「何?」
「何よ?」
「言ってみなさいよ」
あたしら3人はゆかりんに迫る。
「手に取った教科書の1フレーズを読むことにした!」
「……」
「……」
「……」
あたしら3人沈黙。 まぁ、それなら、問題は起きないと思うけど……
「みんな、それでご飯は?」 ゆかりんが尋ねる。
「ううん、これから」 さくらが答える。
「今までお通じの話してたの」 こら~ぁ、おおさと~!!! はっきり言うな~!
「うんこのこと?」
あたしら3人はずっこけた。
4人であーだこーだとおしゃべりしつつ、夕飯を食べているとあたしの携帯がブルブル震えた。
ちなみにこれは学園都市で買った携帯だ。
開くと湯川さんの顔が映った。
あたしはちょっと席を外して電話に出る。
「はい、お待たせしてすみません! 佐天です」
「もしかして、ご飯食べてた、かな?」 さすが湯川さん、鋭いのは耳だけじゃないな……
「ええ、もうすぐ終わるところですけれど。今、どちらですか?」
あたしが今度は尋ねた。このへんではなさそうな場所に湯川さんはいるみたいだ。
「そうそう、あなた、お手柄よ、あなたと、あの九官鳥!
置き去り<チャイルドエラー>を虐待していた養護施設が見つかって、摘発されたの。
今、わたしもそこにいるんだけど、ここ十三学区なんで、帰るのは少し遅くなりそうなの。
まだアンチスキルとの引き継ぎやら何やら終わってないし。
すまないけれど、寮監に門限に遅れる可能性があるからって伝えておいてくれると嬉しい、かな?」
ひゃー、やっぱりそうだったのか……、絞め殺さないで良かった……
「わかりました。じゃ寮監さんには、その旨伝えますね! よかったら後で来て下さい」
「ありがと、先に寝てていいわよ。寝坊されても困るし。その代わり明日の朝、早く起きてくれるかな?
朝食の時に話すわ。朝7時に食堂。よろしくて?」
「はい、わかりました。それでは気をつけて、お仕事頑張って下さい!」
「じゃね!」
あの九官鳥がねぇ……。
でも、「ごはんまだ?」 「おなかへった」 で子供の悲痛なつぶやきじゃないのか?
とアタマが回るところが、さすが風紀委員<ジャッジメント>だよねぇ……
「リコ? 誰からだったの? どしたん?」 カオリんが聞いてくる。
「湯川先輩から。あたしの隣の部屋のひと。風紀委員<ジャッジメント>なんだけど、仕事で遅くなるから寮監にあらかじめ伝えておいて、って」 あたしが説明する。
「かっこいいねー」 ゆかりんが遠い目をする。 「あたしも風紀委員<ジャッジメント>になりたいな~」
「へぇ、それ、どうして?」 さくらが問いただす。 「結構大変らしいよ? あんた大丈夫?」
「うん。あたしの自動書記<オートセクレタリ>には最もあってると思うから。書類作成ならお茶の子さいさいってもんよ!」
「あー、な~るほどねぇ~」 カオリんがすごく納得している。
「ね? あたしは世界一のOLになれるわよ、はっはっはっはっ!」
(いや、それはちょっと違うと思うぞ、ゆかりん)
あたしは心の中で前島ゆかりちゃんに目一杯突っ込んでみた。
(でも、そういう実用的な、人の役に立ちそうな能力っていいな……) ふとあたしはそう考えた。
(あたしの能力なんかより、どれだけ役に立つか)
あたしはそう思って、彼女の能力がとても羨ましかった。
水曜日、朝7時。
「おはようございま~す」
湯川さんは既にテーブルでスタンバっていた。
テーブルにはクロワッサン2つ、プチサラダとコーヒー、フルーツヨーグルトがあった。
「おはようございます。ごめんね、早起きさせちゃって」
「いえいえ、いつもとそれほど変わらないですよ」
あたしはフルフルと首をふるが……
「ふふ、ウソばっかり。あなたの目覚ましは7時に鳴ってるじゃない? 地獄耳<ロンガウレス>は伊達じゃないのよ?」
そう、だった。湯川さんの能力は、恐るべき聴力だった。この寮全部の音を聞くなど朝飯前らしい。
でも全部を理解して聞く事のはさすがに演算が追いつかなくなるらしく、いつもは単に聞き流しているそうだけれど……。
正直、プライバシーの侵害にもなりかねない能力なので彼女が入寮して来てから、この寮の各部屋には対能力者用の防護装置がもうひとつ追加されたのだそうだ。
追加、とはなんのことかというと、今は卒業してしまった透視能力者のひとがいて、本人にはそういう意思はないのだが周りがやはり落ち着かないから、と言うことで彼女に合わせた防護装置が設置されていたからだそうだ。
………ちょっと待て、じゃどうしてあたしの部屋の目覚ましの時間が湯川さんにバレてるわけ? おかしくない?
「あなたの部屋の前の人は電磁波使いだったから、もしかしたら防護装置は壊しちゃったままなんじゃないかな?」
―――― え? ――――
あたしは茫然として、次にあることに気が付き真っ赤になった。あたしの部屋の音、全部筒抜けってこと?
「あああああの、今までずっと、聞こえてたんですか?」 小さな声であたしは聞いた。
「聞いてなかったけど、聞こえてたわよ、いろんな音やら、そのくらいの声とかでも」
あたしはぐわぁーっと恥ずかしさの感情が……
「いたたたたたた!」
AIMジャマーが作動したのだった。
「ちょっと、佐天さん、どうしたの? 大丈夫?」
「……だ、大丈夫です……」
さすがに中三の一時期のように、AIMジャマーが動作する度に気を失うような情けないことはもう無くなっていたが、それでも演算を強制中断させるこのジャマーには文字通り頭が痛い。
一刻も早く自分の能力をコントロール出来るようにしないといけないな、と思う。
「もしかして、寮監に言ってなかったのかな?」 湯川さんがあたしに聞く。
「……知らなかったです……」
あたし、恥ずかしすぎる。
「あ、あの……」
「気にしなくて良いわよ」 湯川さんが少し笑って、でもまじめな顔で
「みんな同じ世代なんだし、ここには異性がいない女子寮だから、多かれ少なかれ、いろいろあるのが普通。
健康な子なら誰だってそう。あたしだって(笑)
でも、そんなことよりトイレのほうが大変だったわよ。全部そういうのはスルーしてたけど、ほんとたまらなかったわよ。
防護装置のおかげで実際あたしはものすごく助かってるのよ?」
えええええ!? トイレの音までぇぇええええええ??????
だめだ。もうあたし、生きて行けない!
久しぶりに、
強烈な、
頭痛が、
あたしを襲った。
「ちょっと!? 佐天さん、しっかりして? 起きて!」
………バスには間に合ったけど、朝ご飯は食べられなかった……
………学校の食堂が開く3時限の休みまで辛かった……
こういうときに限って補習は長い。今日もびっしり最終下校時刻まで目一杯補習だった。
「はらへった……」
「声紋チェック、さてん としこ と確認」
「静脈シルエット・指紋チェック 完了 さてん としこ 確認」
「はい?」
思わずつぶやいた言葉に声紋チェック機が反応したらしい。あたしはゲートから押し出された。
ふらふらしながら、そのままあたしは食堂に向かった。
「あ、リコ帰ってきた!」 さくらが手を振っている。
いいなぁ、さくらは早く帰って来れて……
「リコ、早くこっちこっち、来て来て!」 さくらがやたらテンション高い。どうしたんだろ?
「ちょっと待ってよ、牛乳くらい飲ませて?」
あたしは先にドリンクコーナーに行き、冷蔵庫からムサシノ牛乳を1本取りだし、その場でぐびぐびっと開けた。
「ふーぃ、一息ついた……」
あたしはいつものメンバーがいる場所に向かう。
「ただいま……」
「リコ、あの飲み方、おじさん臭いよ? もう少し淑やかに飲んだ方が」 ありがと、カオリん。
「お疲れ、待ってたよーん? でさ、リコは、そんなに胸あるのにまだ牛乳飲むんだ?」
さくらが羨ましそうにつぶやいた。
「胸と牛乳は関係なーい」 あたしは速攻回答全否定!
「そうなの? じゃぁ都市伝説なのかなー、ムサシノ牛乳飲むと胸が大きくなるってのは?」
さくらはまだ追及の手を緩めない。なるほど、500mlパックが転がってるのはそれか。
「関係ないと思うよ、あたしのウチでとってたのは霜印のだったし」 あたしがとどめを刺す。
「ふーん」 さくら、納得してないね?
「そうそう、リコはどうしてそんなに補習多いの?」 ゆかりんが聞く。
「んー、週の前半に固めてるから、かな? だから明日は4時には終わるし、金曜はないもん♪」
「おお」 というどよめきが。
「さっすが、考えてるねぇ」 カオリんが感心したように言う。
「みんな、ところでごはん食べたの?」 あたしが聞く。
「「「待ってたよ!」」」 3人がハモって答える。
「えー?待って無くても良いのに、おなか空いたでしょ?」
「「「ふふふふふふふ♪」」」 なに、この不気味三重奏?
気が付いた。お皿とフォーク。そこここに転がるケーキの破片。
「なに? なに? カオリん、今日のはなんだったの???」
「今日のデザートはシンプルな苺のショートケーキだったよーん♪」
あたしはくらっとめまいがした。「う……ふ、不幸だ……」
「大丈夫だよ、リコの分ちゃんと取ってあるからさ!」
あ、ありがとう、持つべきものは良いお友だちだね! カオリん!
「手間賃として、苺は頂きましたけど?」
あたしは突っ伏して泣いた。
「もう、ホントに苺だけ食べちゃうわけないじゃん? 信用してないの?」 カオリんが笑いながら怒る。
「……」 あたしはむすーっとしながら鳥からを食べていた。
「なんか怒ってるよ?」 ゆかりんがあたしの顔を見ながらカオリんにいう。
「ふーん、あんまりいつまでも拗ねてると、ホントに苺食べちゃおうかなー?」 彼女が言う。
「負けた! あたしが悪かったから、お願い、ケーキ出して!」 あたしは平身低頭する。
「よろしい、ではケーキを出して進ぜよう」 そう言って、カオリんはカパッと逆さにおいてあったどんぶりを開けた。
かわいらしい苺のショートケーキがそこにあった。
「うれしい!有り難う!!」
あたしは素早くその皿を引き寄せ、脱兎の如く残っていたごはんを一気に平らげた。
「はやっ!」
「スゴ……」
「執念がコワイわぁ……」 3人がドン引きしていた。
「あ~ しあわせ~♪」
あたしは幸せ一杯で、紅茶を飲みつつショートケーキを少しずつ少しずつ、ちまちまと削って食べていた。
「だってさー、ここのところ、毎日寮と学校の往復だけじゃない? 楽しみっていったら食べることぐらいじゃないのよ?
部屋に帰ったらテレビ見る……あーっ!??? そうだった!!」
あたしは気が付いた。防音設備は直ってるかしらん?
学校に着いてから、あたしは寮に電話を掛けて、寮監さんにあたしの部屋の防音設備の状態を確認してもらい、壊れていたら直してもらうよう頼んでいたのだけど?
あたしはケーキの残りを口に放り込み、紅茶で流し込んだ後、パタパタと走って行き館内電話に飛びついた。
「なんか、今日のリコはせわしないよねぇ?」 大里香織(カオリん)が二人に同意を求める。
「うん、ちょっとヘンかも」 青木桜子(さくら)が答える。
「ちょっと情緒不安定かも? あの日かな」 前島ゆかり(ゆかりん)がストレートに発言する。
大里香織(カオリん)が「ぶっ」とお茶をふいた。
「保護装置が働いて、ブレーカーが落ちていただけだったから、リセットしてブレーカーを戻した。
テストの結果問題なく動作している、と業者から報告を受けた」という寮監の話を聞いたあたしは、ものすごくホッとした。
とりあえず今後は大丈夫だと。
精神的な重圧が消えたあたしは、気分もぐっと戻って、足取りも軽くみんなのところへ戻った。
「どうしたの? 何かあったの?」 カオリんが尋ねる。
「リコ、ちょっとヘンだよ? あの日なの?」 ゆかりん、アンタなんてことを……
「ななななななにを??? ち、違うわよ! あと1週間先! って、何を言わせるのよ?」
「いや、ちょっとリコのお天気がころころ変わるもんで……」 ゆかりんがぼそぼそという。
「はぁ……、部屋の電気の具合がおかしかったので、点検して下さいって頼んでいたの。単に電球の問題だけだったみたい」
「なあんだ……よかった。何か大変なことでもあったのかと思っちゃったわ」 さくらが明るい声で話を続ける。
「それでね、リコ、ちょっと見て欲しいものがあるんだけど?」
「ん? なーに、さくら? 」
「ジャーン! これなんだけど!」
さくらはカバンから雑誌を取り出した。
それは見覚えがある雑誌。
あたしの顔色が変わった。
「リコ?」 カオリんはあたしの顔色が変わったのに気が付いたらしい。
「これって、もしかして、リコよね?」 さくらはあたしの顔色に気が付いていない。
彼女が手に持っている写真週刊誌。それは1年くらい前のもの。
あたしはその雑誌を絶対に忘れないだろう。
さくらが開いているべージには、3人の女性が写っていた。
それは、あの日、羽田空港でヘリから降りてタクシーに乗ろうとして3人で歩いていたときにパパラッチされた写真。
あたしの頭が黒髪のカツラだったときのもの。
粒子が粗いけど、あたしを見ながらその写真を見れば、十中八九 「本人だ!」 と思うレベルのもの。
あたしも母も美琴おばさんも撮られたことに気が付かなかった写真。
「……」
「おおおお、スゴ~い、これ、ホントにリコだねぇ?」 カオリんが、
「このひと、超電磁砲<レールガン>の上条美琴さんでしょ?」 さくらが、
「そうなんだ? じゃこっちのひとが、リコのお母さん?」 ゆかりんが、
三人が興奮して雑誌を食い入るように見ている。
あたしは観念した。
「そう、それ、あたし。隠し撮りされたヤツ」
「でも、リコは、あんな目にあったのに、どうしてここにきたの?」 さくらが聞く。
「あの事件の被害者って、リコだったんだ……。 ここにも詳しい事書いてないんだけど、結局あの事件て何だったの?
あたしの学校でも、先生がみんなに『おまえらも注意しろ』って随分言ってたし~」 ゆかりんが突っ込んでくる。
あたしは答えられない……いや、答えたくない。
「……、ちょっと、かわいそうだよ。止めなさいよ、あんたたち。 リコ、いい思い出じゃないんでしょ?
つらいこと思い出させるような事聞いて、リコをいじめちゃかわいそうだよ」
カオリんが二人を押さえるように言ってくれた。
「ありがと、カオリん。確かに、あんまり良い思い出じゃないの……」 あたしは小さい声で答えた。
あんまりどころではない。
正直、思い出したくない悪夢。
忘れたいけど、忘れることができない、それは事実。
「リコ、ごめんなさい。ほんとにごめんね。そんなつもりじゃなかったの、忘れて」
さくらが顔色を変えてあたしに謝ってきた。
彼女は決してあたしをいじめるつもりで雑誌を持ってきたわけではないことは、もちろんわかっている。
わかってる……けど。
「……そう、だよね…… 思い出したくないよね、やっぱり」 ゆかりんも気が付いたらしい。
あたしも言うべきだろう。あたしは口を開いた。
「みんな、わかってくれてありがと。もう忘れた、なんてとても言えないし、ちっとも良い思い出じゃないから、できればもう、ソレは話に出して欲しくないネタなの……」
あたしは話を続けた。
「さくら? 悪気があったとは思わないから安心して。
持ってても良いけれど、あんまり見せびらかさないで欲しいんだけれど…… ちょっと? あんた!」
「ご、ごめんなさい、これ、こうしちゃうから、ほんとに、ごめんなさい!」
さくらが雑誌をバリバリと引きちぎり、破いて、破いて、破いて粉々にして行く。
「あたしが、バカだったの。リコ、ごめんね。許してね」
そう言って、ポロっとさくらが涙をこぼした。
なにも泣かなくても良いのに……
「そうね、あんた、バカよ」
あたしはそういって、小柄なさくらを抱きしめて、軽くデコピンした。
「いったーい!」
「あはは、これでお終いよ! さ、あたしは部屋に戻ってあしたの予習やって風呂入って寝るぞー!」
あたしは明るい声を出して、湿っぽい雰囲気を吹き飛ばした。
「り、リコ?、あ、あ、あのね、ちょっと教えて欲しいところがあるから、後でお部屋行って良い?」
さくらが赤い顔であたしに聞いてきた。なに赤くなってるの? かわいい♪
「ん? じゃこのままおいでよ。さっさと終わらせよぅ?」
「うん! ありがと! じゃねー、カオリんもゆかりんもお先に~」
佐天利子と、彼女に付き従うかのように、青木桜子がくっついて食堂を出て行く。
残された大里香織と、前島ゆかりはぽかーんとしている。
「な、なにあれ……あ、あの子たち、ゴミそのままにしていった……!」
「結局あたしらがやるのか……ってなんであたしたちがやるのよ、ムカつく~ぅ!
こりゃ明日のさくらはパシリ決定だねー!」
大里香織と前島ゆかりは、二人が出ていった後に散らばっていた雑誌の残骸を集めてゴミ箱に捨てた。
紙片がひらひらと舞い落ち、ゴミ箱からこぼれた。
大里香織はその紙片を拾い上げた。
切れ端に躍る二文字。
「拉致」
大里香織がつぶやく。
「そりゃ普通思い出したくないよねー」
「うん、誘拐なんてまっぴらよ……」
前島ゆかりも小さく答えた。
さくらが帰ったあと。
あたしは思い出していた。
それはおよそ1年半前。
あたしが中学二年生終わりの時。
大親友の上条麻琴と一緒に軽い気持ちでここ学園都市に来たのが運命の大転換。
能力チェックで飲んだ能力発現促進剤のおかげで、あたしには無かったはずの能力がAIMジャマーと葛藤したことから、あたしは能力者であることを認識した。
そして、三年生になって迎えた5月中旬のあの日。あたしは下校途中に拉致され、ここ学園都市のとある研究所に運び込まれたが、その研究所は謎の爆発により吹き飛んだ。
あたしは無事にそこから救出されたが、病院に入院したあたしを見舞うべく学園都市に戻ってきた母をあるグループが誘拐、あたしもろとも海外へ売り飛ばそうとした。
しかし、そこに麻琴のお母さんである上条美琴おばさんや、謎の殺人ビーム女やらのおかげであたしと母は救出されたのだが、最後の最後であたしは銃撃を受け、重傷のあたしは再び病院へ送られ手術を受けた。
そのときの頭のケガがもとで、あたしの能力は開発を受ける前に一気に開花してしまい、現在レベル3にあることが確認された。
ノーコンの能力者となったあたしは、そのまま東京にいるわけにはいかなくなったのだった。
あたしは学園都市から東京に戻った時の大騒ぎを思い出していた……
*タイトル、前後ページへのリンクを作成、改行等を修正致しました。(LX:2014/2/23)