シャナ「あんた何者なの?」上条「不幸だ……」4

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シャナ「あんた何者なの?」上条「不幸だ……」4 - (2010/10/12 (火) 00:14:17) のソース

<p>七月十五日<br /><br />
 シャナ、三日目の授業は、何種類かに別れることとなった。<br /><br />
 初めてシャナの授業を受ける教師は、前日、前々日と同じ目にあった。<br /><br />
 変化があったのは二度目以降の教師だ。<br /><br />
 無視を決めつける者、シャナへ反論を行う者、通常の授業を行える者(それは子萌先生くらいだが。彼女だけは、シャナに自爆させられなかった。恐るべき幼女先生である)。<br /><br />
 三日目にもなれば、クラスメイト達もなれ、シャナの様子を楽しんでいた。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>―――</p>
<p>放課後<br /><br />
 上条とシャナは、夕暮れを前にして、第二学区の爆発物の試験場に来ていた。ここならば、邪魔が入らないと上条が提案したからである。<br /><br />
上条「本当にくるかな……」<br /><br />
 上条は不安に思っていた。わざわざこんなところまで来て、来ませんでしたではとんだ無駄骨だ。<br /><br />
シャナ「来なければまた明日もここに来るしかないわね」<br /><br />
上条「不幸だ……」<br /><br />
 二人が無駄話を十分ほど続けていると、突然、ズン、という衝撃が走った。<br /><br />
上条「シャナ!」<br /><br />
シャナ「ええ、来たわよ!!」<br /><br />
 瞬間、シャナの黒くて艶やかな長い髪と瞳が灼熱に染まる。右手には、大太刀『贄殿遮那』、そして、黒寂びたコートが体を包む。<br /><br />
フレイムヘイズとしての彼女が、燃え上がった。<br /><br />
シャナ「"狩人"のご登場ね」<br /><br />
 その場を埋める様に、薄白い炎が立ち上がる。<br /><br />
 地に紋章、周囲に陽炎が残され、囲われた世界が止まった。<br /><br />
 薄白い炎、つまり"狩人"による封絶だった。</p>
<p>フリアグネ「やぁおちびさん、よい場所を用意してくれたね」<br /><br />
 妙に韻を浮かせた声がする。純白のスーツに、純白の長衣を羽織った美男子、"狩人"フリアグネが、空に浮いていた。<br /><br />
シャナ「御託はいいから、早く始めましょう」<br /><br />
フリアグネ「やれやれ、やっぱり無粋な子だね、君は。ふふふ、まぁいい」<br /><br />
 フリアグネの言葉が終わる前にして、シャナは足裏に爆発を起こして跳んでいた。大太刀『贄殿遮那』を一閃する。<br /><br />
 それを余裕の表情で避けたフリアグネは、手袋わはめた掌から、純白の炎玉をはなつ。<br /><br />
 シャナは刀の峰を体に叩きつけ、反動で大きく返し、太刀で炎を凪ぎ払った。<br /><br />
 音もたてず、両者が着地する。<br /><br />
上条「すげぇな……」<br /><br />
 上条の身体能力では、空中戦は不可能である。上条は両者と軽く距離を取っていた。<br /><br />
シャナ「今日は、お人形遊びじゃないの?」<br /><br />
フリアグネ「もちろん、用意してあるとも」<br /><br />
 フリアグネが両手を大きく広げる。すると、数十もの薄白い炎が沸き上がった。<br /><br />
 その内から、少女型の『お人形』達が姿を現す。</p>
<p> その人形は、カジュアルやゴスロリから、パンクルック、メイド、巫女、水着(当然のようにスクール)、ナース、メガネにブレザー等々……。<br /><br />
上条「お前は青ピか!!」<br /><br />
 上条が思わず突っ込んだ。<br /><br />
フリアグネ「ん? ……まぁいい、じゃあ、やろうか」<br /><br />
 戦闘が始まる。<br /><br />
 三十は下らないフィギュアが一斉に飛び掛かる。<br /><br />
 シャナは、ものすごい勢いで、フィギュアたちを葬っていく。まさに圧倒的だった。数的劣勢をものともしない。<br /><br />
上条「くっ!?」<br /><br />
 一方、上条のほうにも何匹かフィギュアが来ていた。ただ、上条を殺す気はないらしく、足止め程度である。<br /><br />
 上条は、フィギュアが出す炎玉を右手で打ち消し、フィギュアに近づいていく。</p>
<p>シャナは、ランジェリーと、チャイナの上半身をまとめて切り飛ばすと、さらに前に進んだ。<br /><br />
 ようやく、本命の薄白い影が見える。<br /><br />
 シャナは、その本命・フリアグネを一気に斬りつけようと、踏切の足を地面に打ち付けた。<br /><br />
フリアグネ「ふふふ……」<br /><br />
 ほぼ同時に、フリアグネが右手の拳、その握りこんだ親指を勢いよく上に向けて弾いた。<br /><br />
 ピイン、という音とともに一枚の金貨が舞っていく。どこぞのビリビリ中学生ね代名詞と同様の動きだが、しかし、その金貨は、くるくる回るたびに残像を残し、どこまでもあがってゆく。<br /><br />
 シャナの踏み込みに合わせて、金貨の残像を、思い切り降った。その残像は金の鎖となり、シャナの上に降りかかる。</p>
<p>シャナは、金の鎖を切り上げたが、残像の鎖は斬れず、大太刀に絡まる。<br /><br />
 シャナは、ようやくこれが、武器殺しの宝具であると理解した。<br /><br />
フリアグネ「ふふふ、どうだい、私の『バブルルート』は。その剣がどれほどの業物でも、こいつを斬ることはできないよ」<br /><br />
シャナ(なら、持ち主を斬る)<br /><br />
 当然のように思ったシャナは、大太刀を引き、フリアグネとの間合いを計った。<br /><br />
 周りからフィギュアがにじり寄り、引き合う二人の間にも幾体か入る。<br /><br />
 シャナが、どうするか、とフリアグネを見ると、空いた手で、つい、とハンドベルを取り出した。</p>
<p>なにかさせる前に、とシャナは一瞬、引きを強める。フリアグネも引き返す。<br />
 瞬間、シャナは、その力を利用して、前へ突進した。<br /><br />
 ―――間に入っているフィギュアたちを気にせずに。<br /><br /><br />
フリアグネ「ふふふ」<br /><br />
 フリアグネが笑い、ハンドベルを鳴らす。<br /><br />
 瞬間<br /><br /><br /><br /><br />
 シャナの周りのフィギュアたちが凝縮され、破裂した。<br /><br />
 轟!!と、大爆発が巻き起こり、シャナがノーバウンドで地面に叩きつけられた。</p>
<p>シャナ「ーッ!!がァァァあああああああああ!!」<br /><br />
 もろに大爆発に巻き込まれたシャナは、一発でボロボロになっていた。<br /><br />
シャナ「っうぐ!」<br /><br />
 シャナの体が動かない。もはや戦闘は不可能な状態だった。<br /><br />
上条「シャナ!!」<br /><br />
 上条がシャナに駆け寄る。まだ意識がありらしいシャナは、しかし、来るな、と声を出すこともできない。<br /><br />
フリアグネ「ははははっ!! 素晴らしい威力だろう、私の『ダンスパーティ』は」<br /><br />
上条「ちくしょう……。」<br /><br />
 上条は声を上げた。シャナを一撃で潰したフリアグネは、得意気に笑う。<br /><br />
上条「お前!! なにが目的なんだ!! この世に勝手に現れて好き放題しやがって!!」<br /><br />
 上条が叫ぶ。その様子を見たフリアグネは、にやりと笑い言った。<br /><br />
フリアグネ「目的? ふふふ、この"狩人"相手に、そんな啖呵をきれるきみに免じて教えて上げよう」<br /><br />
 フリアグネが続けた。<br /><br />
フリアグネ「僕の、この世にいる唯一無二の目的は、"都喰らい"を起こし、マリアンヌとの永遠を手に入れることさ!!」</p>
<p>アラストール「馬鹿な、"都喰らい"だと!!」<br /><br />
 シャナのペンダントから、アラストールが驚きの声をあげた。<br /><br />
上条「なんだ? "都喰らい"って?」<br /><br />
フリアグネ「ふふふ、簡単に言うと、とあるひとつの"都"を丸ごと"存在の力"に変化させることだよ」<br /><br />
上条「な……っ!?」<br /><br />
フリアグネ「すでに準備は整っている。あとは、"御崎市"に戻って仕掛けを発動させるだけさ」<br /><br />
アラストール「ありえん!! まさか、あの"棺の織手"の秘法を……」<br /><br />
フリアグネ「僕ならできるのさ。そして、その膨大な"存在の力"でマリアンヌは、一つの存在に生まれ変わる!!」<br /><br /><br /><br />
上条「ふざけんじゃねえぞ…………」<br /><br />
 上条の瞳に、力が宿っていた。</p>
<p> </p>
<p>上条は、シャナが来てから、今の戦いの中ですら、一つの迷いを持っていた。<br /><br /><br /><br />
 ―――自分が、周りの大切な人たちを、傷つけているのではないか、と。<br /><br />
 上条の右手、これを狙ってきた化物、教室への来襲、そして、ボロボロになったシャナ。<br /><br />
 全ては、上条の『不幸』のせいなのだ、と思っていた。<br /><br />
 自分さえなくなれば、全てがよくなるのでは、と。<br /><br />
 しかし、そんな上条は、気付いた。<br /><br />
 今、目の前にいる、フリアグネを<br /><br />
 自分の『幸福』のために、たくさんの人を犠牲にしようとしている彼を許してはいけない、と。<br /><br />
 上条は、誰かを犠牲ににして得る『幸福』なんて、いらない。<br /><br />
 それならば、『不幸』のまま、全てを守ってやる、と。<br /><br /><br />
上条「いいぜ、てめえが自分勝手に他人を傷つけるっていうんなら」<br /><br />
上条「そんな幻想、俺がぶち殺してやる」<br /><br /><br />
 ―――"幻想殺し" 上条当麻の戦いが始まる。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>上条はフリアグネのもとへ、駆け出した。<br /><br />
フリアグネ「おいおい、君を殺すつもりはないんだか……、死なない程度に傷つけるしかないか。いけ」<br /><br />
 上条の元へフィギュアが襲ってくる。<br /><br />
 上条は、そのフィギュアにたいし、ただ、右手で触れる。<br /><br />
 それだけで、フィギュアは消えていった。<br /><br />
フリアグネ「へぇ……、やっぱり面白いね、その力。ならこれはどうかな!!」<br /><br />
 フィギュアが二体同時に、左右から迫ってくる。<br /><br />
上条「ーっ!?」<br /><br />
 上条は迷わず、片方に接近する。そして、触れると同時に、後ろに手を勢いよく向けた。<br /><br />
 しかし、上条の右手が、フィギュアが触れることはなかった。<br /><br />
 フリアグネのハンドベルが鳴る。それに反応したフィギュアが爆発した。</p>
<p>シャナ「!?」<br /><br />
少しだけ回復したシャナが立ち上がる。<br /><br />
フリアグネ「おや、やりすぎてしまったかな?」<br /><br />
 シャナのときほど大きくはないが、人一人なら充分壊せる爆発をもろに受ける。<br /><br /><br /><br />
 ―――しかし、上条は倒れない。<br /><br /><br />
フリアグネ「なっ!?」<br /><br />
 フリアグネはの上条元へ、さらにフィギュア向かわせる。<br /><br />
 立ち上がったシャナの元へは、マリアンヌが向かって行った。<br /><br />
シャナ「っ!?」<br /><br />
 立つだけでも限界に近いシャナは、なんとかマリアンヌと応戦する。</p>
<p> 一方、上条はフリアグネへと距離を縮めていった。<br /><br />
 もうすでに、爆発を三度、突撃を二度受けている。普通の人間ならば、とっくに倒れるような怪我をして、しかしそれでも<br /><br />
 上条は、絶対に止まらない。<br /><br />
 フリアグネは、その上条の様子を、じっと観察していた。<br /><br />
 "狩人"フリアグネは、"徒"として、獲物の性質を見抜く能力を持っている。そして、彼は鋭い洞察力も持っていた。<br /><br />
フリアグネ「……なるほど、君の力の核は右腕か」<br /><br />
 フリアグネが呟いて上条を見る。その目には、絶対に倒れない上条への、軽い畏怖が込められていた。<br /><br /><br />
フリアグネ「遊びは終わりだ、この『レギュラーシャープⅡ』で、君の力の源を頂くことにするよ」<br /><br />
 フリアグネの右手から、以前のより大きなトランプが現れた。<br /><br />
フリアグネ「行け!!」<br /><br />
 フリアグネの合図とともに、トランプが上条を襲う。<br /><br />
 瞬間、上条の右腕が、ひゅんひゅん、と回転しながら宙を舞った。</p>
<p>シャナ「当麻!!」<br /><br />
 マリアンヌと戦闘中のシャナが思わず叫んだ。<br /><br />
 無理やりマリアンヌを叩き付せる。<br /><br />
シャナ「はぁぁぁぁ!!」<br /><br />
 シャナは、フリアグネの方へと駆けていった。しかし、まだ大量に残っているフィギュアが邪魔をする。<br /><br />
フリアグネ「ふふふ、僕の勝ちだね」<br /><br />
 フリアグネが得意そうに笑いシャナを見た。しかし、シャナは、なぜか呆然とフリアグネの後ろを見ていた。<br /><br />
フリアグネ「ん? おちびさんいったい何を……なっ!?」<br /><br />
 フリアグネは振り向いた。そして、見た<br /><br />
 自らの右腕を切り落とされて、それでもなお<br /><br /><br />
 向かってくる上条当麻の姿を。</p>
<p>上条「はぁ、はぁ」<br /><br />
 満身創痍になりながら、しかし、上条は倒れない。<br /><br />
フリアグネ「な、なんなんだお前は!?」<br /><br />
 フリアグネが焦りの表情を浮かべながら叫んだ。<br /><br />
 上条は何も答えない。しかし、彼の目には力が残っていた。<br /><br />
 フリアグネがその姿を見て、凍る。まるで異質のなにかを見ているように。<br /><br />
 そして、それは突然起こった。<br /><br />
 上条の右腕の切断面。そこから噴き出す血の流れに異常が起きる。<br /><br />
 そこから、なにか透明のモノが飛び出した、<br /><br /><br />
 顎。<br /><br />
 大きさにして二メートルを越すほどの、巨大に強大な、竜王の顎。<br /><br />
 牙の一本が空気に触れる。それだけで、世界が変化した。</p>
<p>アラストール「なっ!?」<br /><br />
 思わずアラストールが声を上げた。それほどの出来事が起きた。<br /><br /><br /><br />
 一瞬にして、封絶が消えた。<br /><br />
シャナ「なに、これ……」<br /><br />
 シャナが驚きの声をあげる。しかし、変化はまだ止まらない。<br /><br /><br />
 シャナの周りにいたフィギュアたちが一斉に消えた。<br /><br />
 シャナの黒寂びたコートが消えた。<br /><br />
 フリアグネの手にしていた全ての宝具が消えた。<br /><br />
 ―――そして、マリアンヌが消えた。</p>
<p>フリアグネ「なっ!? マリアンヌぅぅぅぅぅぅううう!!」<br /><br />
 フリアグネが叫ぶ。フリアグネの"都喰らい"は、マリアンヌとの永遠を手に入れるためのものだった。<br /><br />
 そして、それに必要な道具は"ダンスパーティ"。<br /><br />
 "ダンスパーティ"が壊れたいま、マリアンヌを治して、"御崎市"へ戻っても、"都喰らい"を発動できない。<br /><br />
 ―――フリアグネの、全ての幻想が、一瞬にして壊された。<br /><br />
フリアグネ「ああああぁぁぁぁぁぁ!!」<br /><br />
 フリアグネが叫ぶ。その姿は、白い鳥に変化していた。<br /><br />
シャナ「あれは……」<br /><br />
アラストール「本来のやつの姿だ。恐らく、人化の自在法も消されたのだろう」<br /><br />
 白い鳥と化したフリアグネが、上条へ向かっていく。<br /><br />
 上条は、ただ竜王の顎を最大限に開き、フリアグネを迎え、<br /><br /><br /><br /><br /><br />
―――頭から呑み込んだ。</p>
ツールボックス

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