捕らえた『怪人になってしまった男』を研究所に連れてきた。 生命科学研究所という、あらゆる生物の肉体について研究している場所だ。 そこへ、初春がやってきた。 初春「あ、あの――!」 美琴「初春さん! どうしてここに?」 黒子「私が連絡しましたの。そうしたら、何か考えがあるというので……」 初春は全力で走ってきたのか、苦しそうに肩で息をしている。 それだけ必死なのだ。 美琴「初春さん。それで、考えって?」 初春「…………その人――」 初春が指差したのは、『怪人になってしまった男』。 その禍々しい姿でも、まだ、初春は『人』と呼んだ。 初春「その人の映像――インターネットで配信できませんか?」 【第六話・激突! VS超電磁砲!!】 初春の考えはこうだ。 彼は謎の薬によって、怪人に変えられてしまった。 今、警備員や風紀委員によってその事実が学園都市中に喧伝されている。 だが実際に効果はどうだろう? 薬で怪人に変わってしまうだなんて信じるだろうか? 「どうせドラッグを止めさせるためのデマだろう」と、タカを括られては困る。 だから、その証拠に…… 実際に変わってしまった人間と、その友人の証言を映像として流す。 初春「被害者を利用するみたいで、嫌な気分ですけど……」 黒子「いいえ。それは正しいことですの。そうするべきでしたわ」 初春の案は採用され、早速インターネット上で映像が公開された。 それを見た学生達は、今自分が持っている薬がそうではないかと不安になった。 結果―― 黒子「通常の麻薬やドラッグも一掃できましたわ。初春のお手柄ですの」 固法「ただいま」 初春「固法先輩。どうでした?」 固法「うん。流石に今回の騒動で、スキルアウトたちも協力的になったみたい」 黒子「自分達や自分達の顧客が怪人にされては困りますものね」 固法「そうね……それで、ビッグスパイダーのメンバーと接触できたの」 初春「ビッグスパイダー!? でも、それって……!」 ビッグスパイダー。 スキルアウト集団の一つである。 この第七学区で暴れていたが、リーダーの黒妻が逮捕されたことを期に完全に解散した。 固法は風紀委員に入る前、そのビッグスパイダーに所属するスキルアウトだった…… 固法「安心して。元……よ。もうビッグスパイダーとしての活動はしていないわ」 黒子「…………それで?」 固法「連中。今は人目につかない場所を点々としててね。たまり場を探してるらしいんだけど……」 初春「なら、人が寄り付かない場所には詳しい……?」 固法「……見つけたってさ」 黒子「!? それは……聞き出せたんですの!?」 固法「教えてくれたわよ。昔のヨシミなのか、それとも今の学園都市が怖いのかは知らないけど……」 固法は、ずれた眼鏡を直し、すぅっと息を吸って、呼吸を整えた。 固法「ブラッククロスの、麻薬工場を発見したわ…………!!」 佐天「いないな~…………」 今日は日曜日。 休日だというのに相変わらず忙しそうな初春たちを放っておいて、私は彼を探していた。 佐天「お~い。ラビット~?」 昨日はこの辺りに居たはずなのに…… ひょっとしたら、あの子は何処かの研究所で開発された、試作機か何かかもしれない。 だとしたら、きっとそこへ帰ったのだろう。 佐天「………………ああ。何て私って馬鹿なんだろう……」 何故彼を探しているのか。 それは、私がであることを彼が知っているからだ。 佐天「どこにも連絡してないって……あれから研究所に帰ってデータを調べられたらマズイじゃん!!」 正体を知られたら記憶を消される。 だからこそ、今まで細心の注意をはらってきたはずなのに…… そこへ―― ウ~~~!! ウ~~~!! 佐天「あれって……警備員の装甲車両?」 サイレンをならし道路を進んでいく、装甲車両。 どうやらただの事件じゃない……数が多すぎる……!! 佐天「…………これって」 私の力を確かめるチャンスかも知れない…… 胸が高鳴って、私は今何をしていたのかも忘れてしまった。 変身して装甲車両を追いかけた。 になれば、車に追いつくなんてワケない。 たったそれだけのことが無性に嬉しい。 求め続けた力。 それを、私は使いこなしてるんだ。 佐天「……! あれって……!?」 警備員が取り囲んでいるのは寺院だった。 たしか、手抜き工事か何かが発覚してすぐに使われなくなった…… 佐天「あの数で取り囲むってことは……まさか!!」 あそこが、ブラッククロスのアジト!!! 屋根に飛び上がり、警備員達の様子を伺う。 どうやら突入の準備をしているようだ。 テキパキと装備を確認し、順次配置についていく。 まるでよく訓練された軍隊。とても全員教師だとは思えない…… 佐天「でも。教師なんだよね。警備員って」 そうだ。ただの教師。あれは、ただの教師。 悪の組織との戦いは、教師じゃなくてヒーローの仕事だ。 突入準備をする警備員の中に、黄泉川愛穂と鉄装綴里の姿があった。 キャンベルビルでの傷が癒えたのか、黄泉川の動きに淀みは無い。 黄泉川「鉄装。風紀委員からの情報だと、この寺の地下に工場があるじゃん?」 鉄装「は、はい! ……掛け軸の裏に隠し通路があるって……まるっきり、映画に出てくる秘密基地みたい……」 黄泉川「映画じゃなくて特撮じゃん。戦闘員に怪人だからな……何を考えてるんだか」 気になっていることがあった。 あのとき、キャンベルは自分を四天王と呼んだ。 『四天王・妖魔アラクーネ』と…… それがただの通り名なのか? それとも、そちらが本名なのか? 黄泉川「こんな場所の地下に……誰にも気付かれずに基地を作れる力のある組織……」 黄泉川の知る限り、そんなものの気配は今まで感じたことが無い。 黄泉川「連中は本当に……一体いつどこから、どうやって学園都市に現れたじゃん?」 そのとき突然、爆発音が響いた――!! 黄泉川「何!?」 突然の轟音に黄泉川が振り返る。 爆発したのは寺院の屋根。 そこに開いた巨大な穴と、立ち上る黒い煙…… 黄泉川「鉄装!? 何事じゃん!!?」 鉄装「あ、ああああ、が……!!」 黄泉川「何ぃ!!?」 戦闘員に怪人。四天王。そして、ヒーローまで駆けつけやがった……!!! さあ――待ち望んだ戦いだ。 正義のための戦いだ。 「キィィーーーーーーーーーーーーーーー!!!」 迫り来る戦闘員。 右手に力を込める。 火が灯ったように熱くなり、光り輝く。 それを、叩き込む……!! 「キイイィィィーーーーー!!?」 次――!! 足に集中する。 火が灯ったように熱くなり、光り輝く。 それで、打ち貫く……!! 「「キキィィーーーー!!」」 囲まれた。 こういうときは、両手にエネルギーを集める。 手のひらに集中した光を、拡散させて解き放つ……!! こんな奴らじゃ相手にならない……! もっと……もっと強い奴は……!? 「グルルギャアアアアアアアアアアアア!!!」 おっと。怪人だ! いいところに来てくれた! 紅い鱗を全身に纏った龍。 口から炎を吐き。 壁を壊しながら向かってくる。 以前の私なら――恐れただろう。 けど、今の私はヒーローだ。 だ。 止められるものか……!! 龍の爪を回避し、壁を蹴って移動する。 炎に巻かれないように、柱から柱へ、壁から壁へ飛び回る。 全身に光を灯す。 力が漲ってくる……!! 『ディフレクトランス――――!!!』 全身を光の矢と化し、龍の息を切り裂いて、口から背中まで、一直線に貫いた……!!! 「あは……あははははははははは!!!!!」 あなたの言った通りだったよラビット! この力は本物だ!! 私のものだ!! 私はやっと、この苦しみから解放される!!! 美琴と黒子が寺院に到着したのは、黄泉川が屋根の爆発を確認した直後だった。 美琴「黄泉川さん!!」 黄泉川「超電磁砲! どうしてここに来た!?」 美琴「……ブラッククロスを倒すためです!」 黄泉川「馬鹿かお前ら! そういうのは私達に…………」 黒子「ですが、私たちもお力になりたいんですの!」 美琴「これ以上……被害者を出すわけにはいかないの!!」 黄泉川「お前達…………!」 二人の目は澄んでいた。 以前のような、ただの無茶ではない。 心の底から、「誰かが傷つくことを許せない」と、そう願う者の瞳…… 黄泉川「……行くじゃん。アタシらはここで連絡を待つ。人が多かったら邪魔じゃん?」 鉄装「え!? い、良いんですか!?」 美琴「黄泉川さん!!」 こんな奴らを止めるほど――無粋じゃないじゃん? 美琴「行きましょう黒子!」 黒子「ええ! お姉さま!!」 黄泉川「あー……ちょっと待って」 美琴「え?」 黄泉川「もう一人。救ってやって欲しい奴がいるじゃん」 美琴と黒子は、黄泉川の許可を得て地下基地に潜入した。 美琴「まぁ、見事に暴れたもんねぇ……」 黒子「本当に……お里が知れますの」 その通路に転がる無数の戦闘員の死体。 無残に頭部を破壊されたもの。 両腕を千切られたもの。 何度も踏み拉かれた警備ロボットの残骸。 美琴「……こいつ。力を楽しんでる……!」 黒子「力を楽しむ?」 美琴「ええ……」 経験がある…… 誰にも負けない自身があるから…… 誰でもいいからぶっ飛ばしたくなった…… 誰でもいいから喧嘩を売って、何でもいいから実験台にしたかった…… 美琴「あの頃の私だ……!」 黒子「お姉さま!!」 美琴「っ!?」 通路を走る美琴めがけ、高速で飛来する影……! それは地面に激突すると、周囲の死体を巻き込んで爆発した。 黒子がとっさにテレポートを使わなければ、美琴もその中に巻き込まれていただろう…… 美琴「な……ロケットランチャー!?」 黒子「地下で何て無茶なものを……」 現れたのは、ロケットランチャーを肩に担いだ人型のロボット。 肩に『Mechanical-DOBBY』と刻まれている。 黒子「……! 学園都市で作られたものでは無さそうですわね……」 ロボットはロケットランチャーを構えなおし、再び美琴たちを狙う。 黒子「お姉さま! 先に進んでくださいまし!!」 美琴「黒子!?」 黒子「すぐに追いつきますの!!」 黒子のまっすぐな瞳に促され、美琴は通路の先に進んだ。 その先にいるはずなのだ…… あの、紅い女が……! 美琴「………………」 いた―― 「あれぇ? 御坂さんじゃないですかぁ」 美琴「久しぶりね。この間はどうも……」 「気にしてませんよ。別に――」 朗らかな雰囲気の紅い女。 「ほら! 傷一つついてないですから!」 学園都市に現れた、悪の秘密結社と戦う謎のヒーロー。 仮面に素顔を隠した、紅い鎧の少女。 が、瓦礫の山の上に座っていた。 「でも、遅かったですね。もう全部壊しちゃいましたよ」 おそらく、そこが麻薬を作っていた設備だったのだろう。 何本ものパイプが繋がった巨大な大釜が、砕かれ、へこみ、曲がって、中身をぶちまけて転がっていた。 美琴「あんたが全部一人でやったわけだ」 「ええ。全部。一人で出来ました」 美琴「どうして?」 その質問が理解できなかったらしい。 「へ?」 なんてマヌケな返事をした。 美琴「どうしてアンタは戦ってるのさ?」 「やだなー。そんなのヒーローだからに決まってるじゃないですかー!」 美琴「本気で言ってるの?」 「もう……嫉妬するのやめてくださいよ」 ………………。 美琴「……ねぇ? ヒーローって何?」 「悪人を倒す人間のことです」 美琴「へえ……私はてっきり、手柄を独り占めしたがる奴のことかと思っちゃった」 「………………ははは……何ですか?」 何言ってるの……? 美琴「どうしてアンタは戦ってるのさ?」 はあ? 何でそんなこと聞くんですか? 御坂さん。 やっぱりまだあの時のことを怒ってるんだ。 本当に怒りっぽいんだから。 「やだなー。そんなのヒーローだからに決まってるじゃないですかー!」 当たり前のことでしょ? その為に力を手に入れたんだから! 私、がんばっちゃいますよ! 美琴「本気で言ってるの?」 ………………は? ナニソレ…… 意味わかんない…… 「もう……嫉妬するのやめてくださいよ」 いい加減にしてよ…… この間だって……人がせっかく助けに行ってあげたのに! 勝手に嫉妬して!! 人に向かって超電磁砲なんか撃ってきて……!! 美琴「……ねぇ? ヒーローって何?」 はい? そんなことも分からないの? レベル5のくせに? 「悪人を倒す人間のことです」 美琴「へえ……私はてっきり、手柄を独り占めしたがる奴のことかと思っちゃった」 …………っ!!? それはお前のことだろう!!!!! 「………………ははは……何ですか?」 ………………ははあ……そっか。 私があんまり強いもんだから。 「喧嘩……売ってるんですか?」 本当……弱い人間って惨めだよね…… 美琴「昔……能力を始めて使えるようになったころ」 美琴「それが嬉しくて、何でもできるような気がして……」 美琴「そこら中で電気を飛ばしたり。流したり」 美琴「……怒られたわ」 美琴「昔……磁力を操れるようになったとき」 美琴「それが楽しくて、そこら中の物を浮かしたり飛ばしたりした」 美琴「危ないって、やっぱり注意された」 美琴「昔……電気信号を操れることに気付いたとき」 美琴「好奇心を抑え切れなくて、わくわくしながらパソコンに向かったわ」 美琴「ぶっ壊しちゃった。怒られたうえ弁償させられた」 美琴「昔……初めて10億ボルトの電圧を操れるようになったとき」 美琴「もう自分には敵はいないと思って、誰でもいいから戦いたくなったの」 美琴「何人もぶっ飛ばした。誰も怒ってくれなくなったわ」 美琴「最近まではね……」 「……何ですか?」 美琴「私ね。レベル1だったの。努力して、レベル5になった」 「だから。何ですか?」 美琴「あなた――――」 美琴「その力。突然手に入れたのね?」 「………………っ!!!??」 「だから? 何ですか? 自分は苦労したから偉いって? 努力しなきゃ駄目だって?」 美琴「そうじゃないわ……! 苦労したとか、頑張ったから偉いとか……そんなんじゃないの!」 「だったら! 何なんですか!!? 突然振って湧いた力がそんなにいけないの!!?」 美琴「人間は段階を踏むのよ……! 一つずつ分かっていくの!! 少しずつみんなが教えてくれるの!!」 美琴「私もあなたと同じだった! それこそ、徐々に力を手に入れたくせに……分かってなかった!!」 美琴「一人で何でもできると思って……調子にのって……結局みんなに助けられた……」 美琴「あなたは今、力に酔ってるのよ! でなければ――」 アルカイザー「私はヒーローなんだ!! どんな力だろうと! 人を助けて悪いはずが――」 美琴「ならどうして警備員と協力しなかったの!? どうして一人で戦ってるの!!?」 ……………… 黄泉川『アイツ。アルカイザーを救って欲しいじゃん……』 美琴『……アルカイザーを?』 黄泉川『無茶しすぎる。悪人と戦うのはいいじゃん。でも、それがズレてしまうと……』 美琴『ズレる?』 黄泉川『……ありがちな話じゃん…………』 ……………… 美琴「今の貴女は……ただ、ヒーローごっこがしたいだけの子どもよ……!!」 アルカイザー「――――――っ!!!!???」 アルカイザー「貴女が! それを言うのかあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 気付いたときには、拳を振りかぶって飛び出していた……!! 美琴「……!!」 御坂さんは予想していたらしく、真っ直ぐこちらを見据えて、隙無く構えている。 実際に対峙してみて分かる。 この人は、本当に戦いなれしているんだ……! アルカイザー「いつもいつも……! 貴女は!!」 拳に火が点いたように熱い。 この技で殴られたら、御坂さんだってただじゃすまない……! けど…… けど……! 我慢なんて出来ない……!!! アルカイザー『ブライトナックルッ!!!』 光り輝く拳を打ち込み―― アルカイザー「……!? 弾かれ――!!?」 美琴「……! よし!!」 御坂さんの眼前で発生した雷の壁に弾かれ、パンチの軌道が反れた……!! バランスを崩して、左側に倒れそうになる。 美琴「貴女はいつも……何よ!?」 今度は逆に、御坂さんのヒザが鳩尾目掛けて飛んで来た……! それを左手で受け止め、態勢を立て直すために一旦飛び退く。 アルカイザー「っく!!?」 美琴「言いたいことは! 全部言いなさいよ!!」 御坂さんから雷撃が放たれ、後ろに下がる私を追ってくる。 アルカイザー「……!! 分かるもんか……!!」 アルカイザー「御坂さんに……私達の気持ちが分かるもんかあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 美琴「!?」 電撃をブライトナックルで相殺し、そのままの勢いで接近する……! アルカイザー「いつも! いつだって後ろで見てることしかできなかった!!」 御坂さん目掛けてパンチを打ち込む。 ストレートなのかフックなのかも分からない、ただのパンチ。 御坂さんはそれを電撃で受け止める。 アルカイザー「私がうらやむことしか出来ないものを……いつだって当たり前って顔で!!」 パンチ。パンチ。パンチ。 すべて弾かれる。 アルカイザー「だから……望んで得た力じゃなくったって……!」 パンチ。 弾かれる。 アルカイザー「ただ……悪い奴を……やっつけられたら……」 「私は……価値の無い人間じゃないって……無力な……出来損ないの欠陥品じゃないって……」 佐天「私は……やっと……自分を好きになれそうだったのに…………!!」 美琴「――――あ」 アルカイザー「それさえも奪うのかあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」 一瞬、御坂さんに隙が出来た。 すかさず拳を叩き込む。 アルカイザー「希望を持って! 夢を見て学園都市に来たのに!!」 右拳。 命中。御坂さんの頬を捉えた。 御坂さんがよろける。 アルカイザー「いきなりお前には才能がないって!! はっきりそう突きつけられて!!!」 左拳。 命中。よろけた御坂さんを倒れさせない。 御坂さんは目の焦点が合っていない。 アルカイザー「馬鹿やって!! 皆に心配かけて!! それでも立ち直れたから!!!」 右。 アルカイザー「だからそんな皆を守りたいって!! 命を懸けて皆を守るヒーローになるんだって!!!」 左。 アルカイザー「そう思ったのに!! そうなれたと思ったのに!! それさえも否定された!!!」 アルカイザー「どうして皆で寄ってたかって!! 私を否定するのよぉおおおおおおおお!!!?」 御坂美琴との間に距離をとる! 次の一撃で決める! 証明するんだ!! 勝てる!! 全身に力を込めろ!! 輝け!! 燃えろ!!! 勝てる!!! もっとだ!!!! ヒーローの体が眩く光り輝く。 正義の光。正しく強い者であることを証明する純白の輝き……! 勝てる!! 勝てる!! 勝てる!! 勝て!! 勝て!! 勝て!! 勝て!! 勝て!! 勝って、私の方が正しいって証明するんだ! この人を超えて!! 今度こそ主人公になるんだ!!! 同じだ…… あの時と同じ…… 美琴「幻想御手『レベルアッパー』……!」 レベルに対するコンプレックスが、力のある人間への悪意に変わって…… 美琴「アルカイザー……あなたは……」 あの時と同じだというのなら…… 私達、力のある人間の傲慢が、この事態を起こしているというのなら…… 今度は、気付いてあげたい―――― 私には一人で暴走する自分を止めてくれる友達がいた……! 助けてくれる親友たちがいた……! だから……私もこの子を助けたい……!! 美琴「駄目なんかじゃないわ!!」 アルカイザー「!?」 美琴「貴女は、本当に優しい人だもの」 アルカイザー「…………」 美琴「だから。あなたならなれるわよ。きっと本物の――――」 アルカイザー『………………シャイニングキック』 戦いは終わった。 二つの力が正面からぶつかり合った。 空中で生じた爆発的な衝撃が、床も、天井も、壁も、その残骸さえも破壊した。 眩い閃光は、二人の視界を真っ白に染め上げた。 それは一瞬だったのか? それとも一時間だったのか? 激突した二人は、互いに死を覚悟した。 走馬灯が過ぎった。 私の敗因を述べよう。 距離をとったのが失敗だった。 本当は、あの位置からアルブラスターを撃つつもりだったのだけど。 突然の優しい言葉に動揺して、気付いたら飛び出していた。 ベルヴァの胸板だろうが貫く、私のシャイニングキック。 だけど、超電磁砲『レールガン』は、それよりも速く、強力で、何より私と違って、迷いが無かった。 アルカイザー「………………負けた」 美琴「勝ち負けなんてどうでもいいわよ」 大の字になって倒れた私の隣に、御坂さんが腰を下ろした。 アルカイザー「どうでもよくないです……」 美琴「……やっぱり向いてないなぁ。こういうの」 アルカイザー「え?」 美琴「誰かを導くとか。誰かに何かを教えるとか……どうしても喧嘩になっちゃう」 アルカイザー「御坂さん短気ですもんね」 美琴「む……あんたねぇ!!」 アルカイザー「あはは…………………………………………はぁ」 美琴「……負けた経験って、結構大事よ?」 アルカイザー「御坂さんじゃないんだから、いっぱいありますよそんなの……」 美琴「……暴れてすっきりした?」 アルカイザー「……ですね」 美琴「私ね。貴女と戦いたいって思ってたのよ? 悔しくってさ」 アルカイザー「私も、一度戦ってみたかったです。ていうか、勝ちたかった」 美琴「キャンベルビルのとき私より強かったじゃない」 アルカイザー「あれは……ズルしましたから……」 美琴「ズル?」 アルカイザー「あの攻撃のこと、元々知ってたから対策してたんです」 美琴「対策……?」 アルカイザー「はい。ピアスで」 美琴「…………よく分かんないんだけど……」 アルカイザー「…………ああー! くやしいなー!!」 美琴「大事なことよ……それ」 アルカイザー「はーあ……あんまり自信を持つのも問題なんだなー……」 美琴「…………あなた。ひょっとして無能力者?」 アルカイザー「……ばれました?」 美琴「真面目にやってれば認めてくれるわよ……きっと誰かが」 アルカイザー「…………私、真面目じゃないからなぁ」 美琴「じゃあ駄目だわ」 アルカイザー「………………ですよねぇ」 美琴「そうですよぉ……」 アルカイザー「……」 美琴「……」 アルカイザー「強いって……大変ですね」 美琴「大変よ……抱えるものが増えるんだから」 アルカイザー「だから……段階が必要なんですか?」 美琴「一気には解消できないわよ。心って不完全なものだもん」 アルカイザー「力があれば、何でもできるってわけじゃないんですね」 美琴「人間だもの」 アルカイザー「み○を」 美琴「……」 アルカイザー「ごめんなさい」 お姉さまー…… 美琴「黒子!」 白井さんが駆けつけたらしく、御坂さんが立ち上がった。 やってきた白井さんは、御坂さんの頬が腫れているのを見て目を丸くした。 そしてこちらに視線を落としてさらに顔を引きつらせた。 しばらく考え込んで……あ、納得した。 黒子「お姉さま……やらかしましたのね?」 美琴「……何をよ?」 あはは…… さて……私も行こう…… 痛みの引いた体を起こして立ち上がる。 この基地を脱出しよう。 全て終わった。 そう、思ったのに―――― 「やってくれたものだな」 落ちこぼれのヒーローは、もう一つの試練に挑まなければならない。 【次回予告】 佐天達の前に姿を現す、ブラッククロス四天王・メタルブラック!! 鋼の侍が駆ける! そのとき、友の血が戦場に流れた!! 美琴は? 黒子は? そして佐天はどうなるのか? 最強の敵を前に、アルカイザーはどう戦うのか!! 次回! 第七話!! 【死闘! さらば友よ!!】!! ご期待ください!! 【補足という名の言い訳のコーナー】 ・佐天と美琴について。 正直に言います。もっと引っ張って鬱々展開にするつもりでした。 単純に禁書SSだったらそれでも良かったんですけどね。 でもこれサガフロのSSでもあるし。冷静に考えたらそんなアルカイザーみたくねーや。 ということで中止。スコーーン、と負けて頭冷やさせました。 このSSはサクサクとスナック感覚で読める軽い娯楽作品を目指そうかと。 そもそも「強さ」がテーマの原作じゃなくて、「友情」メインのアニメ超電磁砲がモデルだからね。