「ふうー」
    今日は会長と知弦さんが進路指導、深夏と真冬ちゃんが新しい父親と面会という事で誰も居なかった。
    今年初めて美少女ハーレムの居ない生徒会を満喫する気にもなれず、帰ろうにも雑務がある事を思い出し、重い足取りで生徒会室へと向かっていった。
    そう、今にして思えば本当は生徒会室に行かなければあんな事にはならなかったのに…

    「全く、ハーレム王を置いて恥ずかしくないのかね?」
    俺は一人、生徒会で雑務をしていた。この生徒会室で一人というと本当に寂しくなる。
    トントン
    ドアがノックされたので、その方向を見ているとガラスには誰も居ない。
    普通の高校生の身長を考えれば普通にガラス越しに姿は見えるはず…
    まさか!

    「会長!」

    俺は急いでドアを開けた。しかし、そこに待っていたのは…

    「にーさま!久しぶり」

    エリスちゃんだった。
    「あれ、エリスちゃん。どうしてここに?」
    「にーさまにあいにきたのー!」
    「うん。ありがとう。それで本当にここに来た理由を教えてくれるかな?」
    「ほんとうだもん!」
    ぷっくと頬を膨らませるエリスちゃんに俺は何故、彼女がここに来たのかを考える。
    そういえば、リリシアさんも進路指導の日だよな。

    「うん!おねーさまが『今はここを離れられないので、生徒会室の邪魔をしてきなさい。でも、念のために防犯ブザーを忘れないで』っていったからきたの」

    なるほどね。俺の面倒を任せたのか…。俺を信頼しているのかな?いや、防犯ブザー持ってるしな。
    エリスちゃんが持っていた防犯ブザーは鳴った瞬間にリリシアさんの携帯、および警察につながるような仕組みになっていた。
    会長が持ってきたやつのは全く格が違う。
    「すこしのしんどうでつながるんだよ。すごいでしょ!」
    「すごいね。でも、エリスちゃんがちょっとで動いたら、俺は通報されちゃうよ」
    「そうだねー」
    「なんで笑顔なの!絶対、「通報」の意味分かってないよね!」
    「うん!」
    「笑顔で答えられても、この防犯ブザーは机の上に厳重においておこうね」
    ふう…なんとか振動を与えられずに、移動できた。まるで地雷を持っている感覚だ。

    「にーさまとあそぼう!」

    「どんな遊びをするのかな?」
    「おままごと」
    「前にも言ったけど、どんな設定?」
    「うーん。この前はだめって言われたから…」
    「お!普通のにする?それなら…」

    「おによめのぼうりょくになやまされる、へたれおとこのはなし!」

    「却下!前回と立ち位置が変わっただけで、内容は変わってないよね」
    「うーん。むずかしいね」
    「俺はこんな設定を思いつくほうが難しいと思うけどね」

    「じゃあ、『せいとかいごっこ』は?」

    「お!なんだろう。その遊び。面白そう」
    「えーとねー。あのこどものひとみたいにだいのうえにのってめいげんをいうんだよ」
    「うん。面白そうなんだけど、会長は子供じゃないからね。絶対に本人の前で言っちゃだめだよ」
    「もういちゃった」
    「え?」
    「さっき、こどものひととおばさんにあったんだもん」
    こどもは会長として、おばさんって……
    「エリスちゃん。夜道に気をつけてね。絶対に!」
    「にーさまどうしてそんなしんけんなの?」
    「防犯ブザーをずっと離しちゃいけません!」
    「にーさまいってること、さっきとぎゃくー。面白いね」
    どうか、ご無事でいてください。エリスちゃん。リリシアさん、頼みましたよ。

    それで『せいとかいごっこ』やる?」
    「うん。じゃあ、エリスちゃんが会長役ね」

    「うん!ごほん!『急いでいる人を見かけたら、根掘り葉掘り聞きなさい』」

    「ストップ!誰の名言かな?」
    「うちのおばあちゃんだよ」
    「相変わらず、藤堂家には憎しみがわくよ。他の名言ないかな?」

    「うーん…じゃあ。ごほん!『嘘でも面白くて売れれば、これでいいのだ!』」

    「うん。バカ○ンのパパみたいだったけど、絶対に言わないよね。誰の名言かな?」
    「おかあさんのめいげんだよ」
    「藤堂家の教育方針をつぶしたくなったよ。他にはないかな?」

    「うーん。あ!ごほん!『料理にスパイスが必要なように、新聞にも必要なのですわよ』」

    「うん、今度はリリシアさんだね」
    「うん。おねーさまの口癖なの」
    「もう、エリスちゃんを藤堂家から引き取っていいかな?」
    「にーさまがいうならいいよ…」
    「うん。ここで顔を赤くするのはおかしいよね」
    「そう?」
    「そうだよ」
    やばい。エリスちゃんを見ていると昔の林檎を思い出す。俺の周りには語彙を残念にする魔女がいっぱいいるのか?
    もう引き取りたい。そして、林檎と一緒に矯正して、育て上げたい。
    ちゃんと社会生活できるようにしてあげたいよ。

    「他の遊びはないかな?」
    「うーん。でぃぶいごっこ」
    「一方的に俺が暴力を振るわれるだけだよね?」
    「じゃあ、さつじんごっこ」
    「俺、ころされちゃうの?」
    「にーさまはきびしいよ」
    「うん。俺はそれをやるのが厳しいんだ」
    「じゃあじゃあ、すっぱぬき」
    「一番それらしいけど、一番やりたくないよ」
    「うーん。もういいつきちゃった…残念」
    「本当に残念だよ」

    「じゃあ、にーさまの好きな遊びは?」

    俺の好きな遊び…なんだろう?
    うーん。子供がたのしい遊び。

    「よし!そんな悪い子にはこうだ!こしょこしょこしょ」

    「にーさま!くすぐった!くすぐったいよ!」
    暴れるエリスちゃん。そして、どんどんと追い詰める俺。
    さあ、楽しく遊ぼう!

    「おーっほほほほ。やっと終わりましたわ。帰りましょうエリス」
    「本当にめんどくさかったよ」
    「進路希望調査表に女王様って書いたらこってりと絞れられたわ」

    『………』

    さて、状況を整理しよう。
    笑っていて、顔が赤く、涙目のエリスちゃん。
    その上に襲い掛かる形でくすぐる俺。
    突然、帰ってきた三人。

    『もしもし、SATですか?』

    「まって!俺を殺さないで!助けて!」
    「おもしろいね。おにーさま。あはははは」

最終更新:2010年04月06日 20:52