「古き時代に新しい風は舞い込むのよ!」
    会長がいつものように小さな胸を張ってなにかの本の受け売りを偉そうに語った。
    しかし俺達は何も声を発しなかった。
    いつもなら軽く流す会長の言葉だが、今だけは、無理です。
    はい。流石の知弦さんも固まってるし。
    目の前にはB5くらいの小冊子が置かれていた。
    数ページ目を開いたところで開かれた状態で。そのページの左端。
    そこには見慣れた、この場にいる者なら誰にでも分かる本が挙げられていた。

    今、もっとも熱いライトノベルはこれだ!!
    作品部門BEST10発表
    第7位「生徒会の一存」シリーズ

    『…………………………』
    ……無言。ただひたすらに無言の俺達。
    「ふふん、さすが私たちよね。創刊一年目でのこの活躍。
    来年は「バカテス」の人気を抜いて、単独1位に躍り出るわよ!」
    そんな中、ただ一人賑やかな会長。
    その場に会話が成立できそうな人物がいなくなってしまっているため、仕方なく俺が会長に聞いてみることにした。
    「あの…会長」
    「ん?なに、杉崎」
    「いや、何じゃないですよこれ。なんですかこれ、ふざけてんですか」
    「何を言っているのか、さっぱり分かんないんだけど…」
    「えぇい黙れ!どうせ読者を脅して、泣く泣く投票させたんでしょう!会長、そこに座りなさい!」
    「は、はいぃ!?」
    またもや律儀に靴まで脱ぐ会長。会長を正座させて、俺は上から目線で説教を始める!
    「いいですか、会長。かの偉人、ヒトラーは言いました。『大事なのは読者、本音、〆切の三項目』と」
    「絶対言ってないわよねぇ!そもそもヒトラー、それに似たことすら言ってないし!」
    「黙らっしゃい!」
    「ひぃ」
    「要するに不正で読者を支持させてもいけないってことですよ、会長!」
    「それならそうと…ていうか、私不正とかしてないし」
    「嘘だっ!」
    「前私が使った時、ちょっと古いとか言ってたわよねぇ、それ!」
    「嘘だっ!」
    「もういいから!」
    その姿を見ていての判断だが、本当に不正はしていないようだ。しかし、それでもだ。
    「そもそも、俺達の本がこんなに売れるわけないでしょう」
    「でも実際に売れてるじゃん」
    「ていうか、俺が言うのもなんだが……これが売れている時点でおかしいぞ……世も末だな」
    「全くだ……どうしたんだ富士見書房。今の若者」
    ようやく回復したのか、深夏が会話に参加する。
    真冬ちゃんはもう少しかかりそうだが、知弦さんは知らない間に回復していたようだ。
    「それだけ、読者には私に扱いやすい人がいるってことよ…ふふふ…」
    「違うでしょう!読者全員Mな訳ないでしょう!」
    「なら、読者は私が好きなのね!」
    「渡さん!誰だ畜生!」
    「それなら、読者は熱血好きなのか!」
    「それも違う!それなら「ジャ○プ」買った方が速い!」
    「そ、それならボーイズラ ―――――」
    「絶対ねぇ―――――!」
    はぁ、はぁ、と荒く息をつく俺。……しまった。今日は俺がアウェーの日か。
    俺だけが唯一、この生徒会室の中でまともな人間か。
    「しかし意外ねぇ。キ―君の人気、多いわねぇ。男性部門のベスト10に入っているわ」
    「ほんとに以外だよなぁ。こんなんなのに…」
    「そっ、そうよ!何で杉崎が人気あるわけ!?ただの変態なのに!」
    「むっ、どこがですか。俺ほどいい男はいませんよ」
    「上に九人いるけどね」
    「よし。俺、ちょっくら出かけてきます。」
    「ちょっと待ちなさい杉崎!バズーカ持ってどこ行く気なの!ていうかあんた、それどこから取り出したの!?」
    「会長。心配しなくていいですよ。俺から言わせれば、警察なんて無能集団ですから。…それではっ!」
    「行かせないわよ!」
    会長が非力ながらも引き留めようとするので、しょうがなく殺人を諦める。…あれ?なんかデジャビュ。
    「ちなみに投票の理由に「ここまで爽やかにハーレム宣言できる奴はいない」とか
    「『羨ましい』の一言に尽きる(龍鳴・16歳♠)」とかあるわね」
    「うん。とりあえず今の社会が、いかに腐っているかが分かったわ」
    「まぁ、会長よりはマシですけどね。女性部門16位さん♪」
    「知弦うぅ~~~!!!杉崎がいじめるぅ~~~!!!」
    会長が知弦さんに飛び込む。知弦さんはその頭を優しく撫でる…と思いきや、抱きついてる。
    「ふっふっふ…アカちゃん、とうとう私を欲情する気になったのね!」
    「ちょっ、ちがっ……――深夏、真冬ちゃん、杉崎ぃ~~~!!」
    二人がなにやら言っているが、俺達には生憎聞こえなかった。うん。聞こえなかった。
    「ま。皆美少女だし、次は結構いいところまで行くでしょ」
    「どうだかなぁ。そもそもこういうのって、全ライトノベルから来てるんだし。
    大体お前も、あのキョ○がいなかったからベスト10に入れたんだろ」
    「うっ、以外と鋭い攻撃。つーかあれ、俺も最新刊楽しみにしてたのになぁ…」
    「あぁ、ほんとになぁ」
    「―――え?お前も買ってたのか」
    「なんで意外そうにする」
    深夏はポキポキと指を鳴らす。俺は続ける。
    「いやだってさ、あれはいわゆる萌えが詰まった一冊だろう!?」
    「お前は良作をなんて目で見てんだ!」
    「あれに萌え以外の要素があるか!残念なのは18禁シーンが無いこと―――――」
    「息子パーンチ!!」
    殴られた。普通に痛かった。ていうかK1の真似かよ。
    「まったく…お前はそういうところが無かったら完璧なんだがな」
    「え、彼氏として!?」
    「ちげーよ!だから何でもかんでもそっち方面に結び付けるな!」
    深夏が頭を抱えて呻きだしたため、少し暇になった。何となく俺は、グルリと部屋を見回す。と、
    「―――うわっ、真冬ちゃん!!?」
    真冬ちゃんが何故か、部屋の隅っこで体操座りをしていた。
    「……真冬はどうせいらない子なのです。
    ラノベノ最初の内は登場キャラが少ないから覚えられるけど、巻数が重なるごとに段々と忘れられる、脇役なのです。
    次第にあまりに使えないので作者からも忘れられる子なのですぅ!」
    「それは切実だ!普通は作者でも覚えられるのに存在自体が消えていくという、ラノベに限らず世界で辛いいなくなり方だ!
    しかも誰もが忘れてるから葬式も出してもらえない!なんて辛いんだ!」
    「真冬はいらない子なのです…」
    まずい。真冬ちゃんが落ち込んだ。と言っても、ヘタして励まそうとしたら、逆に落ち込まれるのがオチだ。
    あの時みたいに。ここはそっとしておこう…。
    「た、大変だったわ……!」
    「お。お疲れっす会長」
    手持無沙汰なのでイスに座ると、会長がようやく解放されたようだ。……
    「……何があったのかは、聞きませんよ」
    「ええ…うん、ありがたいわ。ぜひそうして……」
    ……会長が今、机の脇に置いたのは血がべっとり付いた、悟史のバットだった。
    …うん。本当に聞かないでおこう。聞いたら、今度は俺の番になるかもしれないし。何の番かは聞くな、諸君。
    「聞いたぞお前たち!」
    そんなムードを一気にぶち壊しやがりましたよ、この人は。ありがとう。
    「なんすか真儀瑠先生。いえ、GTM(ゴットなティ―チャ―、真儀瑠の意)」
    今日もその色気ムンムンな姿で。
    「『このライトノベルがすごい!2009』のベスト10に入ったことだ!」
    「あぁ。そのことなら、今話題に上ってたとこッスよ」
    「そうか」
    そう言うと適当なパイプ椅子を引きずり出し、ドカっと座る生徒会顧問。
    「そのガッポリある印税、私によこせ」
    「………いやいやいや!ダメですって!」
    「なんだ。今年18禁化されたke○の超有名作品の主人公のパクリか?」
    「違いますから!あと、あれの18禁シーンの曲は神ッスよ!」
    「ほう。お前を逮捕出来る口実を、実にあっさり吐いてくれたな」
    「あぁっ、実は警察側だったのかGTM!」
    ついでに、生徒会室中からの視線が痛い。…だって仕方ないじゃないか!
    今までの、あの萌えるキャラから18禁シーンが見れるなんて夢のようじゃないか!
    おまけに新キャラ、沙耶も出る上に、あの佐々美と佳奈多も出るんだよ!?
    特に佳奈多はクリアしたかったんだ!あの見事なツンデレを―――――
    「はい皆、キ―君の言ってることは完全にあれだから、放っておきましょうね」
    『はーい』
    綺麗にハモった。…女子の結束は強いなぁ。
    「まぁ、挨拶はこんなもんだろう」
    「挨拶にしては色々おかしいですよねぇ!」
    「さっさと印税よこせ」
    「それだけが目的かGTM―――――!」
    「何言っているんだ。これが売れ始めたのは、私が出てからだぞ。敬わんか」
    「嘘だっ!」
    「会長。そのネタは少し古いですよ」
    「さっき言ってたことと全然違う!?」
    ギャーギャー騒ぐ会長を尻目に、俺達は話を進める。
    「で、本当の用事は何ですか、先生」
    「ん。特に無いぞ。暇つぶしに来ただけだ」
    「あんた本当に暇つぶしに来てんのな!」
    この人は本当に教師なのだろうか。今度、教育委員会に聞いてみよう。
    その真儀瑠先生は、何やら指を顎に添えて、思案顔になっている。
    暇つぶしの方法でも考えているのだろうか。その内、パッと顔を上げたかと思うと、
    「よし、お祝いパーティーをやろう」
    本当に教師なのだろうか。ここまで来ると、さすがに不安になる。ま、もっとも、


    『やりましょっか』


    やるけどね。面白そうだし。

最終更新:2010年04月06日 21:18