「ふぅ、今日はいい汗かいたぜ」

今日はあたしなりにもハードスケジュールだった。なんたって付近の学校の支配者である四天王が碧 陽を乗っ取りに来たんだから。
突然襲いかかってきてスポーツで勝負してそこを制圧するなんて言ってきた。
碧陽が生徒たちの悲鳴で染まって 助けを求めたとき、あたしは誰に求めることの出来ない速さで駆け出した。
まず体育館を占領したバスケキングと戦うバスケ部の助っ人をして、ダンク を決められたからお返しにダンクでバスケットを破壊して勝利した。
次に卑怯な部長襲撃で卓球部員達を人質にとろうとした綿子西京に追い詰められた けれどゼロバウンドで逆転できた。
最後にカバティー部のアンダーグラウンドで行われる闇のゲームに参加して、闇からこの碧陽を支配しようと目論ん でいた闇の支配者を倒した。

激しい激戦だった。あたしの記憶の中でも
鍵がいたら色々と突っ込んだと思う。
四天王とか言っ ていた癖に一人足りないとかだろとか、カバティー部はどれだけアングラなんだとか。
それをあたしが返して、最後に。



『流 石だな、深夏。俺の嫁なだけはある』

『何いってんだ。いつ、あたしがお前の嫁になった』

『それじゃあ、今から深夏は俺の 花嫁だ。幸せ花嫁にしてやるよ』

『鍵……』




「って、なんで私はあいつのことを考えてんだ!?」

杉 崎の妄想と比べても勝智大そらない無茶苦茶な妄想をあたしがするなんて。
いや、妄想なんかじゃない。これは疲れすぎてみた夢なんだ。そう、幻なん だ。
それにしても顔が熱い。当然だ、あれだけ強い奴らと熱い戦闘をしたんだ。顔が熱くなってもしか無い。そうだ、そうに決まっている。
変 な幻のせいなわけない。

そう納得しても顔の赤みは引かない。顔を何度洗っても赤みは残っていた。

「はぁ、あたしもまだま だだな」
顔をハンカチで拭って、時計を見れば下校時間まではまだ余裕がある。

「まだ時間があるな」

例え時間がなくても向かうと ころは決まっている。生徒会室だ。
いつも通り会長さんが可愛らしくお菓子を食べていて。
いつも通り赤羽先輩がそんな会長を愛でていて。
い つも通り真冬がゲームとBLに熱中して。
いつも通り鍵が深夏と呼びかけてくれて。

そんなことを考えて少し引っかかった。

「い や、ちょっと違うだろ。あたしはそんなにスルーされていないだろ。それに鍵を美化しすぎだ」

いつも通り、楽しく駄べっている。これでいい んだ。
なんであんなに鍵を美化しているんだ。
そんな事を考えているといつの間にか生徒会室の前に来ていた。
私の好きな場所。生徒 会室。その扉をいつも通り開いた。

「おっす、遅れた」

返事はない。いつもなら会長さんや鍵が声をかけてくれるはずなの に。

「あれ、真冬しか居ないのか」

生徒会室には真冬一人だった。
真冬は微動だにしなかった。視線は手元に向かっ ている。

「おーい、真冬。無視するなよ」

俯く真冬の表情は分からない。だから肩を揺すってみた。

ドサッ

「ま…… ふ……ゆ?」

ただ軽く揺すっただけだ。それだけなのに真冬は椅子から転げ落ちた。

「真冬!!」

倒れた真 冬の体を起こしあげた。体温が下がっている。真冬の体温は高いわけじゃないけれど、これは下がりすぎだ。
息はある。でもとても弱々しい。

「真 冬!! おい、真冬しっかりしろ!!」

どれだけ声をかけても真冬は目覚めない。閉じられた目は開こうとしない。
その時あたしは真 冬の首に赤い斑点を見つけた。

「なんだこれ?」

それは小さな跡だった。針でも刺されたかのような後だった。
でも こんな小さな傷が真冬の状態に関係しているとは思えなかった。

「いや、針……まさか、薬物か!?」

当たりを見わたせばそ れはあった。
使用済みの注射器。
間違いない。真冬はこの注射器に入っていた薬を打たれた。

「でも、一体誰が? 一体誰が 何のために真冬に劇薬なんかを使ったんだ?」

それはすぐに分かった。
真冬の手に握られていたものを見た。メモ用紙だった。
そ んなものを真冬が握り締めるとは思えないから、劇薬を打たれてから犯人に握らされたのだろう。
真冬の手をほどいてそれを読んだ。
書いてい る文章は短い一文だった。


「これは復讐」
最終更新:2010年04月07日 20:47