どうも杉崎です。割と普通の男子そんな感じのモテモテ(?)美少年です。最近、悲しくなるほど自分でもクエスチョンマークをつけたくなってきた。何故だ。誰か教えてくれ。神よ!
     時刻は十二時五十分。要するにお昼休み、ランチタイムだ。
     普段なら中目黒や宇宙兄妹、深夏と一緒に机で囲んで飯を食うのだが、中目黒と宇宙兄妹は最近仲がよくなったようで、今日も含めしばしば三人だけで食事しているし、深夏は深夏でどうも真儀瑠先生に呼ばれたらしい。あの人の思いつきは会長並みに傍迷惑だから困る。ご愁傷さま、椎名さん。
     まあ、こういう日には生徒会室へ行って、雑務をこなしながら飯を食うことにしている。どうせハーレムメンバーたちは一人もいないのだが、こういう時にやっておけば後の作業も楽になるというものだ。幸いにも、今日はバイトは休みの日だったので、昼休みの間に全部済ませておけば久々に体をゆっくりと休めることができるのだ。万が一のため、体力は保っておかないとな!
     今日はどうやって会長を辱めようかとか、そろそろいい加減に知弦さんを攻略するのは諦めようかとか(もちろんそんな訳にはいかないのだが)、少し頬を綻ばせつつそんなことを考えながら、『生徒会』という看板の掲げられた扉をがらりと開く。
     さて、面倒だし、さっさと雑務を終わらせるか―――――

    「…………」

     硬直する。
     まるで某今日の5の2風の賢者モード作画で、全ての動きが静止される。血液さえ、凍ったかのようだった。
     その目の前には、まるでただ今お着替えムードですの、体操服を頭から脱ごうとしている真冬ちゃんの姿。
     ちなみに、おへそと真冬ちゃんの地味な性格の表れか、白いキャミソールは丸見え。
     体操ズボンも、脱ぎかけなのか微妙にパンティーが露出している。
     白い肌は透き通るように白く、雪のように儚げだ。
     普段の俺なら即座に鼻血ものだろうが、残念なことにこの時は突然の出来事で思考は機能していませんでした。

    「……………………え?」

     漏れる、真冬ちゃんの呆然とした呟き。
     きょとんとした表情は、やがて見る見るうちに朱が走っていく。
     そこで俺もようやく我に帰り、今の状況を鑑みて、
    「…………」
     それでもなにも発することはできなかった。喉まで出てきているのに、言葉は呻きとしてしか出てこない。
     何これ!?何これ!?どんな状況!?もしかしてこれ、バッドエンドルートのフラグ踏んじゃった!?
     真冬ちゃんは俯き、身体は少しだけ震えている。
     恐ろしいな、汗がだらだらと止まらねえぜ!
    「―――――い」
    「い、いや違う!不可抗力だ!俺はなにも見てないよ真冬ちゃん!」
     彼女の漏れた言葉に過剰反応してしまい、慌てて弁解を図る!
     なので、その時はその言葉に込められた怒りを汲み取ることができなかった。
    「…………せ、」
    「せ?」

    「先輩の、バカ―――!!!」

     突如として散乱する、生徒会室の備品。
    「うわっ、ごめんってだから!ちょ、物投げないで!痛い痛い!そ、そんなよりも服!服を直した方が……え、マジで。ちょ、おま、どうして本棚持ち上げてんの真冬ちゃん!?火事場の馬鹿力ったってそれには限度が……!」
     うそ!?真冬ちゃんの力そんなにあったの!?ニートなのに!?
     被う巨大な影。迫る、巨大な物体。
     弁解虚しく、俺の意識はしばらく闇の中を浮き沈みしていた……。

     /

    「―――先輩。先輩は入室時にはノックしろという、人として当然のことを習わなかったのですか」
    「……すいましぇん」
     俺が目を覚まして、それまでに制服への更衣を済ませていた真冬ちゃんが落ち着くこと数分。俺は見事に、地面に正座をやらされています。足痺れる。あ、指先の感覚ねえや。
     真冬ちゃんは顔をうっすらと桃色に染めながら、しかし仁王立ちしていて説教モードである。流石に今回は俺に非があるため、ぐうの音も出ない。
     ちなみに残念なことに、動転していた脳はシャッターチャンスを逃してしまい、先程の萌え〜な図はモザイクがかかったようにしか思い出せない。残念だ。モノっっスゴク残念だ。ちなみに真冬ちゃんの攻撃が関与している可能性も否定しない。
    「……なんでしょう、真冬、今物凄く先輩を引っ叩いてやらなくてはいけないような気がしました」
    「それは気のせいだと思う」
     意外と戦闘力の高かった真冬ちゃんにケンカを売るのは危険だと悟った。
     ……そっか。深夏の妹だもんな。うん。
    「それはさておいてさ」
    「置いておけません。真冬の体を見られて、それで済まさせるつもりは毛頭ないですよ」
    「いや、真冬ちゃんはどうしてここで体操服を着替えていたのさ」
     兼ねてからの、というか元凶の疑問を聞き出す。
     そもそも、この生徒会室は基本、放課後まで鍵がかかっていて使えないはずなのだが……。
    「その……ですね。真冬、4限目に体育があったのですが……」
    「それは知っている。選択授業で真冬ちゃんはバドミントンを選択、しかし今日もいつものように隅っこで体操座りをしてぼんやりと休んでいたのは、すでに知っている」
    「な、なんで知ってるんですか先輩!?」
    「……(ササッ!」
    「なんで素早く顔を背向けるんですか!?」
    「……出来心だったんです」
    「それは出来心というより、犯罪と呼ばれるものだと真冬は思います!」
    「大丈夫だ!それは、その、Fクラスの土屋クンに頼んでるから!」
    「他レーベルを持ってくるなですー!」
    「真冬ちゃんだって電撃電撃言ってるでしょー!」
     今ここに、第三次ぐらいレーベル対戦が始まった(ウソ。
     ―――しばらくお待ちください。
    「や、止めましょうか、先輩……」
    「そ、そうだね……この争いは、あまりに不毛だ……」
     両者肩で息をつきながら、一時停戦とする。
    「で、なんの話でこうなってんでしたっけ……」
    「確か……4限目の体育があって……」
    「ああ、そうでした。えっとですね、4限目に体育があったのですが……真冬、突然真儀瑠先生に呼ばれて手伝いされたです。その手伝いが終わった時にはもうすでにお昼休みに入ってて……更衣室は教室だったので困っていたら、真儀瑠先生がここで着替えればいいと提案してくれたんです」
    「真儀瑠先生、グッジョブ!」
    「ていっ」
    「あう」
     思わず大声で感謝を叫んだらはたかれた。
     しかし幸か不幸か、ふとその拍子に壁に掛けてある時計が目に入った。
    「……って!ああ―――!」
    「わっ!い、いきなりどうしたんですか先輩」
    「しまった!あと残り10分もねえ!」
     気絶していたりふざけている間にも時間はどんどんと過ぎていた。
     慌てて机の上にある雑務の資料をざっと流し読みする。
     しかし流せば流すほどに、顔から血の気が引いて行くのが自分でも分かった。
     こ、こんな日に限って多い……。なんてベタな展開なんだ……。
    「う、うーん……まずいぞ……。と、とりあえず終わらせれる分だけ終わらせとかないと。とりあえずこの、水道修理と書類整理と、あと5個ぐらいはできるかな……!」
     授業開始5分前には予令が鳴る。時間はそれを目安に終わらせるのだが、後で楽したいので、残り1分で教室に辿り着くようにしなければならない。幸いなのか、生徒会室は校舎3階の内、2階にある。つまりは2年の教室の階。要するにすぐそこ。ギリギリまで作業すれば……間に合う!
    「そうしている内にも、時間は残り6分なのですが……」
    「ノオォ―――!」
     頭を抱えたくなる悲しいお知らせだが、そうするだけの余裕もない。口から絶叫を叫びながら、俺は30秒ほどで書類整理を終わらせる。
    「速いです!先輩の整理している手が、真冬には捉えられませんでした!?」
    「うおおぉぉ―――……」
     書類の整理を終わらせた俺はすぐさま手洗い場へと向かう。そして水道のチェックをし、中にゴミが詰まっていたのでそれを排斥、もう一度チェックをして生徒会室へと向かう。
    「―――ただいまっ!」
    「え!?先輩、まだ出て行って1分も経っていませんよ!?」
     こうやって真冬ちゃんの声をBGMに、俺はギリギリまで雑務を予定通りこなしていった。

     /

    「うう……」
     とはいえ、流石に量が多すぎる……。先程決めた7個ほどの雑務は終わらせて、1分半ほど時間があるけど、流石にそんな余裕はない。
     全く出番のなかった鞄を手に取ると、
    「……先輩はもしかして、雑務をやりに来ていたのですか?」
     真冬ちゃんは唐突に、そう切り出してきた。
    「ん、見たままだね」
     否定する必要もないので、そう素直に返す。
    「今日は久しぶりにバイトも休みだったからね、雑務を昼休みの間に終わらせて、それからゆっくり休もうかと思ってたんだ。まあ、この程度の量ならすぐに放課後に片付けれるけどね」
    「……先輩」
    「まあ、大丈夫だって!今日1日休めなくても万が一の際の体力はあるから!」
    「え!?中目黒先輩との万が一の際ですか!?」
    「なんでそっち飛んじゃったの!?もちろん、このハーレム用のだよ!」
    「とうとう先輩もこちらの世界に……頑張ってください!(拳グっ」
    「イヤだよ!ってもう時間ヤバ!」
     慌てて生徒会室から出ると、「先輩っ」と真冬ちゃんが俺を呼ぶ。
    「なに、真冬ちゃん?でも、できれば急いでほしいんだけどっ」
    「せ、先輩はその……まだ雑務が終わってないんですよね?」
     ガチャガチャと鍵を慌ただしく閉める後輩。
    「え?まあ」
     真冬ちゃんはそれを聞くと、思考の表情を見せ、決意したように頷いて、
    「…………分かりました。真冬も手伝います!」
    「うん、ありがとう、気持ちだけもらっておくよ」
    「振られましたっ!?」
     真冬ちゃんはショックをうけたようだ。……いやあ、だって一人の方が効率いいし。色々と。
    「し、しかし何と言われようとも手伝ってあげますですよ!」
    「い、いや、別にホントに良いんだけど……」
     いつになく強情な真冬ちゃん。一体どうしたんだ?
     真冬ちゃんは慌てて階段を下りて行き―――踊り場で、ふと思い出したように振り向いてから、極上の笑顔を花開かせて。

    「だって、真冬は、杉崎先輩の彼女なんですから」

     そう、告げた。
     …………え?
     真冬ちゃんはもう踊り場から姿を消している。なんだ?どういう意味だ?え?真冬ちゃんなんて言った?俺の、彼女?えぇ?
     いやだってそんな言動は……あの転校の件のみ。一体全体……どうなってるんだ?
     呆然としたまま、俺は立ち尽くしていた……。

     /

     ちなみに授業には大幅に遅刻し、担当教諭だった真儀瑠先生にはごっそりぎっちり絞られました。

最終更新:2010年04月08日 21:00