「音楽は聴くだけでなく、演奏してこそ価値があるものなのよ!!」
    会長がいつものように小さな胸を張ってなにかの本の受け売りを偉そうに語っていた。
    ―何というか、これほどまでに次の展開が読めるテーマも珍しい。
    俺としてはこのまま次の展開に入るのはおもしろくないので、ちょっと反抗してみた。
    「―でも会長。音楽に対する価値観なんて人それぞれ、千差万別だと思いますよ?」
    「そうね――キー君の言う通りよアカちゃん」
    以外にもはじめに知弦さんが乗ってきた。(いつもなら深夏あたりが最初に絡んでくるんだが)
    「音楽を聴くことに価値を見い出す人もいれば、演奏することに価値を見い出す人もいる――
    演奏することによって音楽の価値が変わるかは、当人次第よ?」
    うむぅ。
    やはり知弦さんは言うことが違うね。
    いつも、熱血方向にしか話が進まない深夏とはエライ違いだ。
    当の深夏はというと――お、手で頭をわしゃわしゃしてる!
    ―確かに、アイツは小難しい話は苦手だもんなぁ。
    許せ、深夏。
    今日は、インテリ方面へ展開して出来る男をアピールすることに決めた!
    俺は早速、カメラ目線になって――
    「・・・実に面白い」
    (((ガリ○オ!?)))
    それに続き、知弦さんはにまりと微笑み―
    「・・・そうね、実に興味深いわね」
    「―な、何か二人とも、へ、変だよ?わたしはただ――」
    「―会長。言わなくても分かっています。―あなたは試そうとしてるんですね・・・演奏する側にまわって自分の価値観がどう変化するのかを」
    「―アカちゃん、素晴らしいわ・・・私たちは全力で協力するつもりよ」
    「ふぇ?そ、そーなのかな・・・(なんかむつかしい話になってきたよぅ・・・)」
    俺と知弦さんの狙い通り、会長は話の流れを戻すことが出来ずにオロオロしていた。
    (―もう少しからかっても大丈夫ですかね(ニヤリ))
    (―そうね。まだ大丈夫だと思うわ(ニヤリ))
    俺と知弦さんはアイコンタクトで確認。
    「おねーちゃん、あの二人怖いです・・・」
    「・・・大丈夫だ、真冬。いつものようにBL妄想少女でいれば、あの二人に相手にされることはない」
    「ひ、ひどいですっ!!おねーちゃんは、いつも真冬をそんな風に見てたんですか!?」
    「―え?あれ、違った?」
    「心外ですっ!!真冬、会議中はトリップしないって、つい最近誓ったばかりですっ!」
    「つい最近じゃねーか!」
    ―何やら椎名姉妹がいつの間にかもめてるようだが、計画に支障はない!
    「―そうですね・・・まずは、現状の価値観から確認しましょうか」
    「現状の価値観を認識した上で、どう変化するのか分析する訳ね・・・やるわね、キー君」
    「えぅ・・・(もうわけわかんないよぅ・・・)」
    「―あ。おねーちゃん、会長さんが助けて欲しそうな目でこっちを見てます―」
    「よせ!見るな、真冬!!巻き込まれるぞ!」
    (―知弦さん、いよいよ会長が泣きそうなんですが)
    (そうね・・・名残惜しいけど、これまでのようね)
    「「インテリモード解除」」
    「「インテリモードって何だよ(ですか)!?」」
    椎名姉妹が的確にツッコンでくる。
    ―さすが姉妹、息がぴったりだ。
    ちなみに会長は、何かが終わったと感じたらしく、
    ちょっとホッとしていた。
    「―インテリモードっていうのは・・・・・・説明めんどいな・・・」
    「何でだよ!?さっきまでやけに饒舌だったじゃねーか!」
    「そうです!先輩には説明責任があると思います!」
    「・・・はぁ、しょーがねーな。インテリモードってのは、インテリジェンスモードの略。以上」
    「全然、これっぽっちもわかんねーよ!!」
    「先輩、さっきから何か冷たいです・・・」
    「・・・ったく、ウゼぇな。”実に面白い”で発動し、”解除”まで聡明なトークが出来るモードだよ。・・・あと、副作用で解除した後、一定時間”やさぐれる”」
    「副作用が最低だー!!」
    「・・・うぅ・・・真冬、ウザいって言われました・・・」
    「・・・ちょっと深夏、静かにしてくれないかしら。耳が腐るわ・・・」
    「こっちもかあぁぁぁっー!!」
    ―――――
    「―お、音楽は聴くだけでなく、演奏してこそ価値があるものなのよー!!」
    会長がいつものように小さな胸を張ってなにかの本の受け売りを偉そうに語っていた。(今日二回目)
    ―何かヤケになってるな、会長。
    ちょっとからかい過ぎたようだ。
    ちなみに、俺も知弦さんもさっきの”副作用”の効果は切れている。
    「―会長。そもそも、楽器なんてできましたっけ?」
    「出来ないよ!!」
    「そんな力いっぱい否定しなくても・・・って、じゃあ演奏なんて不可能じゃないですか」
    「大丈夫!ゆ○にだって出来るんだから、わたしにも絶対できるはず!!」
    「け○おんの見すぎですよ!!」
    「―今がチャンスなんだよ!け○おん人気に便乗して、生徒会の人気もアップ間違いなし!!」
    「ええっ!?生徒会―って、俺らも参加するんですか!?」
    「当然!!生徒会のイメージアップ作戦なんだから!」
    「―というわけで、生徒会でバンドを組もー!!」
    『ええー』
    ―もう、こうなってしまっては誰も会長を止めることが出来ない・・・
    誰もがそれはわかっているようで、今さら不平不満を言う人物は誰もいなかった。
    「そうと決まればまずは歌だよ!!―ふっふっふ~、実はもう用意してあるんだよ~」
    会長は、カバンの中からいそいそと何かを取り出し―
    「―うーんと誰がいいかな・・・じゃあ杉崎。ちょっとこの歌を歌ってみてー」
    「え、俺ですか?」
    会長が何やら文字の書かれたルーズリーフを手渡してきた。えーと、歌詞?
    「じゃあ、ミュージックスタート!!」
    どこから取り出したか、ラジカセの再生ボタンをぽちっと押す会長。
    『♪~~♪~~~』
    あ、音楽が流れ始めた。
    ―って、どこから歌い始めるんだ?
    ぽちっ
    あ、止まった。
    「杉崎~、もう始まってるでしょ!頭からよ頭から!」
    んなこと言われても、わからねーし。
    「もっかいいくからね!―ちょっと待って、えーと」
    きゅるきゅる
    巻き戻してる!!
    今どきカセットテープかよっ!!
    「はい、おっけー。じゃあ、改めてミュージックスタート!!」
    ぽちっ
    えっと、頭から頭から――
    『♪~~♪~~~♪~~~』
    「は~るかなせ~かいにあるという~」
    ん?
    何か聴いたことあるような・・・
    『♪~♪~~~♪~~~』
    「こ~のよのひみつをしるという~」
    『♪~♪~~~♪~』
    「し~んぴのほうせき~~~」
    「「「「「生徒会っ!!」」」」」
    「パクりだぁああぁああっっ!!!!!」
    「―む。何を言うのかな杉崎は!この歌は、わたしがちゃ~んと作曲したんだよ!!」
    「何言ってるんですか、会長。まんま”新ビッ○リマン”のオープニングじゃないですか!!」
    「・・・そ、それは多分・・・そっちがわたしの歌に似てるんだよ!!」
    「―あと、選曲が古いっ!会長、一体いくつなんですか!?」
    「そんなの知らないもん!!作者に聞いてよ!」
    「作者とか言うなーっ!!」
    誤解の無いように言っておくが、
    作者はこの俺、生徒会副会長『杉崎鍵』だ。
    決して、アラサーの社会人などではない!!
    「―と、とにかく。曲が全く同じで歌詞だけを変えたものは、”替え歌”です!!」
    「む~」
    「しかも、”知ってるかい”を”せいとかい”に変えただけじゃないですか!!すっごい小変更っ!」
    「・・・むむむ・・・む~」
    「あと、ラジカセに入ってるカセット。当時のカラオケテープそのまんまでしょ!」
    「―む~っ!もー、怒った!!そんなに言うなら、杉崎が作曲してみてよ!」
    会長は頬をぷぅと膨らませ、無茶な要求をしてきた。
    「―何でそうなるんですか!―それに、そんなにすぐに作曲できるわけが――」
    「出来たぜ!」
    「出来ました!」
    「出来たわ」
    「えええぇーっっ!?―たった今のやりとりの時間で!?・・・恐るべし、美少女スペック!!」
    「―ほら、文句ばっかり言ってて、何もしてないの杉崎だけだよ!」
    「・・・むぅ」
    ―何で俺が責められてんだ?
    「―それじゃあ、深夏からいってみよー」
    「おう!―ほら、鍵。コレが歌詞だ。―ちなみに、あたしも替え歌だ」
    深夏の奴がまたまたルーズリーフを俺に渡してきた。
    「また俺が歌うのか・・・」
    そして、ラジカセのテープを交換し――
    ―っていうか、カセットテープ流行ってんの?
    「―準備おっけーだ。ミュージックスタート!!」
    俺の意思は全く無視され、深夏が再生ボタンを押す。
    『♪♪♪♪~~♪~♪~~♪~~~』
    ―おうっ!?
    これはまた、めちゃくちゃ有名な熱いアニソンだな。
    『♪♪♪♪~~♪~♪~~♪~~~』
    「だ~きしめた~こ~ころのこすも~」
    『♪♪♪~~♪♪~♪~~♪♪~~~』
    「あつく~もやせ~きせき~をおこせ~!」
    ―むぅ・・・名曲だ。
    俺は、いつの間にやらマイクを手にし、立ち上がって歌っていた!
    『♪♪♪~~♪♪~♪~~♪♪~~~』
    「「ぺ~がさすふぁんたじ~!そうさゆ~めだ~けは~!」」
    深夏もノリノリでハモってくる――
    『♪♪♪~~♪♪~♪~~♪~♪~~』
    「「せ~いんとせいや!!!しょ~おねんはみんな~!」」
    『♪♪♪~~♪~♪~~♪♪~♪~~』
    「「あし~たのゆうしゃ~!!お~いぇ~!!!」」
    「―二人とも・・・ノリノリだね・・・」
    「ほんとね・・・というかキー君の歌もかなりうまいけど、深夏のハモりも絶妙ね・・・」
    「・・・なんだか息ぴったりで、ちょっと悔しいです・・・」
    『♪♪♪~~♪~♪~~♪♪~♪~~♪』
    「「せいんとせいや!!いまこそ!は~ば~たけ~ぇ~!!!」」
    『♪♪♪~~♪~♪――ジャン、ジャジャン!』
    歌が終わり――
    「「いえーーっ!!!」」
    俺と深夏はハイタッチを交わし―
    「―さすが鍵だぜ!!あたしの目に狂いはなかった!サイッコーに熱かったぜ!!」
    「いや、深夏のハモりがあってこそだった!俺だけじゃ、これ程の感動を生まなかったはずだ――」
    「―よせやい、照れるだろ~!」
    上機嫌で俺の背中をバシバシ叩く深夏をふと見ると―
    ノリノリで歌ったためか、片方のリボンがほどけかかっていた。
    「―深夏。ちょっと右向け、右」
    「んぁ?―いきなり何だよ、鍵」
    「いいから、向く」
    「わーったよ。―こうか?」
    「―逆だ逆、回れ右」
    「・・・これでいいか?」
    「おっけーおっけー。ちょっとそのまま動くなよ?」
    俺はほどけかかったリボンをシュルリとほどくと、
    すばやい手つきで結び直した。
    「―ホレ。ほどけかかってたぞ、感謝しろよ?」
    「―あ。お、おう。サンキュ、鍵。悪ぃな」
    「「「・・・・・・・・・・・・」」」
    「―さて、次は誰―――」
    その時やっと、深夏以外のメンバーの様子がおかしいことに気がついた。
    じとーっていう感じの目で、こちらを見てらっしゃいますよ?
    ―あれ?何か俺、まずった?
    「―会長・・・?」
    「むー、今日はもうおしまい!!―杉崎は罰として、オリジナル曲を作ってくること!!」
    「―はい!?急にどうしたんですか、会長。それに――何ですか罰って!」
    「―ば、罰は罰だよ!!」
    「だから、何の罰――」
    「―私も、アカちゃんに賛成。キー君は罰を受けるべきだわ」
    「ち、知弦さんまで!?」
    「真冬も賛成です!!」
    「えぇーっ!?」
    ―何で!?
    俺は言われた通り、歌っただけなのに!
    唯一何も言ってこない深夏を見ると――
    何やら満足げな表情で、俺が直した方の髪をいじっている。
    ―もう、わけがわかんねーっ!
    「―何の罰なのかわかんないですけど・・・わかりましたよ!!曲、作ってくればいんでしょ!」
    「うっわ。杉崎逆ギレ・・・」
    「あれだけイチャつきながら、自覚なしとはね・・・」
    「・・・先輩、おかしなところで鈍感さんです・・・」
    「その代わり、曲だけです!!作詞はしませんからね!」
    「むむー、まーいっか・・・でも!ハ○晴れ○カイばりの曲を作ってこないと承知しないよ!」
    「ハードルたっけぇーっ!!」

    「なぞなぞぉ~みたいにぃ~」

    「歌わないで下さい!!」

    「・・・じゃあ私たちは、作詞をしてくればいいわけね」
    「その通り!!作詞は女の仕事!」
    「―真冬、頑張ります!!」
    「―ん?作詞?」
    ―会長が勝手に女の仕事をひとつ増やし・・・
    ―真冬ちゃんが珍しくやる気を見せ・・・
    ・・・深夏の奴だけが話に付いていってなかった。
    「よーしっ!!そうと決まったら、解散~!!―みんな、明日は期待してるからね!」
    そして―
    生徒会室を後にする女性陣を見ながらふと思ったんだが・・・
    「―バンドするんなら、パート決めの方が先じゃね?」

最終更新:2010年04月08日 21:02