「仮説は実証して初めて成り立つのよ!」
    会長がいつものように小さな胸を張ってなにかの本の受け売りを偉そうに語っていた。
    というか、なにかの本の受け売りと言うよりもガリ○オだ。ガリレオの受け売りだ。
    「さては会長は二夜連続のガリ○オスペシャルでも見た口ですね?」
    「うん、そういう時事ネタは混乱する読者がいるからやめなさい。」
    「俺は石○と湯○が役者的には同年代には見えないんですが・・・。」
    「だから、もうガリ○オネタは禁止!!」
    会長が肩で息をしている。うむ、これだから会長弄りは面白い。
    「それで、アカちゃんは最近出没している不審者について議論したいのよね?」
    我らが参謀、知弦さんが話の舵取りをしてくれる。
    「うん、さっきからそう言ってるじゃない。」
    言ってないです。それどころか仮説とかそういうの一切関係ないです。
    「まあ、でも会長は大丈夫ですよ。」
    「?何でそう思うの?」
    会長が不思議そうに首をかしげている。
    「だって会長に何かしようとする奴なんてかなりマニアックだし、本当にいたらそいつマジでリアル犯罪ひでぶっ!!」
    会長のビンタが飛んできた。右頬に向かって真っ直ぐと。その反動で椅子がぐらついて椅子ごと倒れる。
    「杉崎はいちいち失礼だよ!!」
    「大丈夫です会長!!俺はロリもいけますから!!」
    右頬を摩りながらサムズアップしながら答える。
    「むしろ今の発言で杉崎が大丈夫じゃないって確信したよ!!私は!」
    「まあ、キー君ももう少しオブラートに包んだ物言いすればいいんじゃないかしら。」
    「まあ、鍵の場合そんな事しても無駄だけどな。包まれてもすぐに出てきそうだし。」
    深夏が苦笑いしながら淡々と言ってきた。
    「人をそんな蛹から孵る蝶みたいに言うな。」
    「いや、むしろ蛾。」
    「すいません蝶にしておいてください。お願いします。」
    何で深夏はあんな普通トーンで蛾なんて言葉出てきたんだろうか?
    「それで、その・・・そんなに不審者さんはうろついていたりするんですか?」
    真冬ちゃんが現状を知らないのか、まあ俺も知らないけど、知弦さんにそう質問していた。
    「まあ、被害はそんな酷いと言う訳でもないけど最近はちょっと多発しているわね。不審な男がうろついていて、学園の女子に声を掛けたりしているって聞いているわよ。」
    「それってもろ杉崎じゃない。」
    「失敬な!!会長、俺がそんなに信じられませんか!」
    「うん。」
    即答!!即答です!!真顔で即答です!!
    「アカちゃん。流石にキー君に失礼よ。」
    「え〜。だってほんとのことだし・・・・。」
    「そうだけど、キー君はそんな勇気ある行動は出来ないわよ。ヘタレなんだし。」
    グサリ。
    「そうだな、鍵は根性なしだしな。」
    グサグサリ。
    「先輩は確かにチキンですよね。よく考えると。」
    グサグシャリ。
    いくつか傷付く言葉の剣をいただいた俺は何とか反論しようと試みる。
    「でもですね知弦さん。俺は、このハーレム王たる俺は・・・!」
    「じゃあ聞くけど、キー君。今までこの学園以外で誰でもいいしナンパでなくてもいいから異性と話したことある?」
    「・・・・・いえ、ないです。」
    「話そうとした事はある?」
    「・・・・・・・・いえ、ないです・・・・。」
    「立派にヘタレで根性なしでチキンじゃない。」
    グサ、グサ、グサグサグサグサグサ!!!!サイグサ!!
    言い・・・・・返す・・・・ことも・・・・出来なかっ・・・・・た・・・・・・・よ・・・・・・・来世・・・ハ・・・鳥に・・・・モウ・・・ゴ・・・・ル・・・シテモ・・・・イイヨネ・・・?・・・カク・・・・・。
    「はい。じゃ、杉崎もくたばったことだし会議続けよう。」
    ああ、生きる気力すら湧かない。こうなったら俺の妄想力で・・・・・。
    「それで被害にあった人は何人いるの。知弦?」
    「そうね・・・・報告に来たのは三人で・・・見た、聞いたのが五件くらいだから、まあ多くても十件位かしら。」
    「そんなに多くはないんだな。」
    「でもこの三週間で起きているのよ?」
    「それだったら結構起きていますよね・・・・。」
    被害か、被害かぁ・・・・ぶっちゃけ深夏や、知弦さんは大丈夫だろうな。深夏ならしっかりしているし、そんな目にあっても鉄拳制裁だし。知弦さんは・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、むしろ被害者があっちで加害者がこっちになるな。
    となると一番被害に会いやすいのは・・・・・真冬ちゃんかなぁ・・・・。
    気が弱くて男性が苦手な真冬ちゃんだったらそういう目にも・・・・・こう、路地裏に追い詰められて、服がビリビリ〜と破かれ、けしからんことになり・・・でへへ。
    「・・・・なんか、杉崎から禍々しいオーラが出てるんだけど・・・・。」
    「殴ったら直るかな?ホイッ・・・・と。」
    「げふつっ!」
    後頭部を殴られた。女の子の軽めのパンチと言えど、深夏のパンチが後頭部に当たったとなると・・・・・・多少は眩暈もしてしまう。
    「お〜い?鍵大丈夫か〜?」
    「くっ・・・・・・・・おまえなぁ、当たったとこかなりクリーンヒットしたぞ。」
    「どうせ、ヤらしい事考えてたんだろ。」
    「くっ・・・・・・・。」
    否定のしようがない。確かにそういう妄想に走っていたのも事実だし。
    「杉崎はもう少し犯罪者からかけ離れようとする努力は出来ないの!?」
    「すいません・・・・でもこれが俺なんです。」
    「なんか妙に説得力あんな!!」
    「でも、こんな俺だからこそ!奴らの思考が読める。違いますか、会長?」
    「す、杉崎にしては正論ね。・・・具体的には?」
    「そうですね・・・・・・一つの可能性としては巡のファンの追っかけとか?」
    「おおー!」
    会長が一人だけ関心をしてくれる。だが、そうはさせまいと深夏が切り込んでくる。
    「っていうかあいつにそこまで熱心なファンがいるわけないだろ。」
    「いやいやいや!!それはあいつにとって可哀相過ぎる言葉だ!」
    せめてそうでも思ってやらなきゃあいつが芸能界にいる意味ないだろ!
    「まあ流石にファンかどうかはおいといて、そろそろ帰らないと私たちがそういう人に会っちゃうわよ?」
    時計をふと確認する。確かにまだ日がある時間帯だが遅いと言うこともまた事実。
    「じゃあもう解散ですかね?」
    「う〜ん・・・・杉崎みたいな悪人を蔓延らせたまんまなのは悔しいけど、仕方ないよね。うん。」
    腕組みしながら会長がそんな事を言っている。
    「俺みたいなってなんですか。俺みたいなって。」
    「じゃああたし達は先帰るけど、お前も気をつけろよ。」
    「・・・・そうです!!むしろその不審者さんが男色で美少年か美青年なら杉崎先輩とのめくるめくBLが育めます!!」
    「何を言っているそこの会計―――――ッ!!!」
    あってたまるか。俺は普通にノーマルな美少女好きだ。アブノーマルな連中と一緒にはされたくはない。・・・・・あっ、でも百合を見るのは大歓迎ですよ?
    となんかツッコんでいたら皆帰ってしまっていた。
    「はぁ・・・・・・雑務でもやるか・・・・。」
    一人生徒会室にて寂しくため息をつく怪しい男が発生した。
    *
    全ての荷物を深夏と運び出し・・・・・というか俺が一方的にパシられただけなんだが、ようやく真儀留先生から帰ってもいいとお許しが出た。
    「ふう・・・・働いたな・・・・。」
    汗を拭う仕草をする深夏。
    「・・・・お前は一方的に俺をパシッていただけだろうが!!」
    「は?何言ってんだよ。大きなのを二個運んでただろ?」
    「うん、俺が手伝う前の話ですよねぇっ!?」
    「別にいいじゃん。運んだのは事実なんだし。」
    「俺はひたすら十個ぐらい運んでたけどな。」
    「あーはいはい。分かったよ。全然運んでないあたしが悪うござんした。」
    「くっ・・・・・。」
    逆にそうやって認められると反論できない。
    「・・・・・・まぁ、いいや。ほら、帰ろうぜ。」
    「えっ・・・・?お前と・・・一緒にか・・・?」
    「別に二人っきりだからって何もしねえよ!っておい!!俺からそんな速攻で離れるなよ!!」
    「いや・・・だってお前と二人で帰った日にゃ・・・・・・・・なぁ?」
    「疑問系で来られても困るわぁっ!!っていうかそんなに俺と帰るのは嫌かぁ!?」
    「まぁ・・・・うん。」
    「・・・・・・・・・・・・・・。」
    俺は今、心に多大な傷を負った・・・・。
    「うう・・・・・そうか・・・・・俺はそんなに深夏から嫌われてるのか・・・・・。」
    「え・・・?ちょ・・・っお前・・・本気で落ち込んでる?」
    「ふふ・・ハハハハ・・・・・ヒャハハハハハハハハハァァァッ!!!!」
    「ああ!?鍵が壊れた!!・・・ご、ごめん、冗談だから!!マジで!」
    「・・・・・本当にか?」
    「ホント・・・・うん。」
    「・・・・・深夏よぅ・・・俺は、表面上はテンション高いキャラだけど・・・・・内面はかなりナイーブだから・・・・ティッシュに包んでおいてくれ。」
    「あ・・・・・ああ・・・・・・・・・・・・・・・わかった。いや、正直何にもわかってはないけど。」
    「で・・・・もう帰ろうぜ、流石に。ホントに暗くなってきてる。」
    「んあ?あ、本当だ・・・。」
    まだ九月中旬とはいえど、そこそこに日が暮れるのが早くなりつつある。まあ、今の時間帯的にも暗くなってなかったら大変だけどね。
    「じゃあ、まあ、鍵と帰るのは不服だけど、仕方ねえな。」
    「俺は今お前にそんな事言われたのが不服だよ!!」」
    まあ、このツンデレボーイッシュ娘にとっては割と普通の反応なのだが。
    生徒会室の鍵を閉めて、まあようやくというかなんと言うか深夏と一緒に帰る。
    「鍵は返さなくてもいいのか?」
    「ん?まぁな。これ合鍵だし。」
    「ふ〜ん・・・そうなんだ。」
    って言うか文字的にはもしかすると「鍵(けん)は返さなくてもいいのか?」とも取られそうだな。
    「そういや、あのダンボールは何だったんだ?」
    「なんか、文化祭の道具だってさ。生徒会室に一時的に置いとけだと。」
    「そうか、もうそんな時期か〜。」
    思えばこの前俺のハーレムが出来たかと思えば、もう夏が過ぎもうすぐ文化祭をするのか。月日は早いものだ。
    「俺や、お前はいいとして真冬ちゃんたち一年生は初めてだもんな。去年みたいにきっちりした奴にしろなんにしろ楽しませないとな。」
    深夏にそう言ったら、何故かピクンと少しだけ反応した。
    「あ、ああ・・・・・・・・・・そうだな。」
    俺はその反応が気になったもののあまり気には止めず、話を進めた。
    「それで、深夏はなんか文化祭のテーマは決めたのか?」
    「へ・・・・っ?・・・いや・・・・・特に決めては・・・・。」
    「んだよ。それでも生徒会副会長か?同じ副会長としてか俺は残念だ。」
    「・・・・むっ、じゃあ、そういうお前はなんか決めてんのかよ?」
    「勿論だとも。俺のテーマは無論『淫―――――。」
    「ああもういい。お前に聞いたあたしが馬鹿だった。」
    「何だよ、馬鹿にするなよ『淫ら』を!!」
    「・・・・〜♪(口笛)」
    「って、他人の振りするな!」
    「だってあたしまで不審者に思われそうだし・・・・。」
    「いや・・・そうかもしれないけど・・・・って今さりげなく俺を不審者にしたな!!」
    「いや似た様なもんだし。それじゃああたしはこっちだから、じゃあな。」
    「っておい!逃げるのか!くぅ・・・・っ!!杉崎鍵ここで美少女を逃すとは、一生の不覚!!」
    ・・・・だがともあれ、いつも一人で帰っていたが、今日は深夏と二人で帰れたと言う事もあり、割と上機嫌ではあったことも確かなのが少し悔しい。
    *
    翌日。放課後、生徒会室。
    いつもは五人いる筈のその場所には二人しかいなかった。
    定員は俺と深夏だけ。
    そして二人とも黙りこくってしまっている。
    どうしてこのような事になってしまったのだろうか。
    ―――――――――――――――
    ――――――――――――
    ―――――――――
    結論から言えば俺は幸せ者だったのかもしれない。
    ――――――
    ―――
    昼休み。
    弁当も食い終わり、適当にさ迷い歩いていた時の事。
    階段の横を通りかかった時の事だった。
    それは突然で、尚且つ何が起こったかすぐには察知できなかった。
    「へっ・・・?ってうわ!!ちょっ!!鍵どけ・・・っていい!!退かなくていいからとまっ・・・・わああぁぁっ!!!」
    一言で言うと深夏が飛んできた。
    人間というのは不思議な物でこういう時に限って落ち着いていたりする。
    でも、我に帰った時、ふと思う。
    (あ、これ、やばいわ。)
    俺には加速装置もついてなければワープ装置が付いているわけでもないので案の定深夏と正面衝突する。
    ドッシ―――ンッ!!!という擬音が似合うような光景だったと人は言う。
    「つつ・・・・・な・・・なんだ?一体・・・・?」
    気が付くと俺の腹部に重さが感じられる。
    ぶつかって来た深夏が馬乗りになって俺を上に乗っかっている。
    「っ・・・っていったーっ・・・・ったくなんでこんな時に・・・。」
    それはこっちの台詞だ。何で歩いてたら圧し掛かりされにゃならんのだ。
    深夏のほうに目を向ける・・・・制服の色である茶色、白、ニーソの黒、水色と白の縞々、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ってウェッ!!!?
    この、位置からだと、なんて事でしょう。なんともまあいい花園の風景が広がっているじゃあありませんか!!
    というか、生徒会の皆さんは隙が少ないので・・・・まあそれでも胸の谷間とかは時々見える事もあるが、それでも下着の類を俺は初めて見る。
    いやぁ、それにしても絶景でございますなぁ・・・・。
    (って!!なに見てるんだ俺は!!)
    一瞬我に返り目を離す。もしこの事がバレでもしたら俺の命は文字通りない!!
    何とか花園から目を話し・・・・・・・・・いや、俺には出来ない。花園が目の前にあるのに、目を話すなぞ俺には到底出来ない!仕方がないから、何とかバレないように見ながら話していよう。
    「で、お前は何でいきなり圧し掛かって来たんだよ・・・。」
    「いや・・・・まあ、階段飛びしていたら偶然お前が通りかかって・・・。」
    「・・・・お前は、高校生にもなってそんな遊びしてんのか・・・・。」
    「ベッ、別に遊んでいたわけじゃ・・・・・っていうか、お前、人が話していんのになに目を逸らしてんだよ。」
    やばい!!これはバレる!!そう思った時は深夏がおれの視線を追いかけて、スカートを見ていた。
    「△●◇AΩ×※っ!!!!?おっ、おまっ、鍵お前っ!!何、見てんだよ!!!!!?」
    一気に深夏の顔が赤くなる。それが恥ずかしいからなのか怒りからなのかは分からない。だが、一つだけわかる。俺は今ここで死ぬ!!ということだけは分かった。
    深夏がスカートを抑えながら俺から退く。その顔は赤らめているので可愛かった。だが、その目は明確な殺意を持っていた。どちらが勝っていたかというと・・・・。
    「ちょっ待て!!深夏ストップ!!!暴力よくない!!」
    「問答無用!!!!セヤアアアアアアアアアァァァァァァァァッッ!!!!!」
    みぞに深く深く深夏の正拳が叩き込まれた。
    その瞬間、俺は意識を失ったそうな・・・・・。
    ところで、深夏の殺意と可愛さ、どっちが勝っていたかというと・・・・・・殴られたのにも拘らず、深夏の可愛さの方が勝っていた。
    ―――――――――――――――
    ――――――――――――
    ―――――――――
    ――――――
    ―――
    という事により、まあ深夏と話しづらい空気になり、尚且つ二人しかいないので話す話題もない。しかも深夏は、チラチラと俺の方を見てくるので下手な話題を出すことも出来ない。
    仕方ない、下着を見たことを謝ってないし謝っておくか。
    「み、深夏!」「け、鍵!」
    ヤバイ、よりにもよってはもった。っていうか前にもこんな事あったな。
    「な、なんだよ・・・・。」
    「いや、そっちこそ・・・・。」
    ぶっちゃけさっきよりも空気が悪くなった。俺も深夏も今のはもり方のせいで余計話し辛くなってしまった。
    「お前から言えよ。」
    「深夏の方こそ先にいえよ。」
    「お前こそ先に・・・・。」
    「いやいやいや。」
    「いやいやいや。」
    「いやいやいや。」
    なんかこの調子だとループしそうな気がする。仕方ない・・・俺から先に言うか・・・・。
    「じゃあ、俺から先に言うけど・・・・えぇ〜っと、その・・・・あの・・・・ご、ごめん!!!」
    俺は椅子から降りて深夏に土下座した。
    「へ?な、なんで謝るんだよ?」
    「な、なんでって・・・・そりゃお前・・・その、下着、見ちゃったからだろ・・・・。」
    「っ!!!い、いやっ!!あれはその!!・・・・っそ、それはもういい!!別に、怒ってなんかはないし・・・・・。」
    「へ?怒ってないのか?」
    「そ、そりゃ、恥ずかしいし、いい気分はしねえけど・・・・・あれは突然圧し掛かって来たあたしが悪いんだし・・・・それは、その・・・あたしの方こそ、ごめん。」
    「ってお前も謝ろうとしていたのかよ・・・・。」
    「そうみたいだな・・・・っふぅ・・・・なんかずっと気張ってたから、肩凝った。」
    深夏が手を伸ばして肩をバキボキ鳴らした。そして俺の方をジト目で見つめてきた。
    「え?何その俺のせい的な視線。」
    「いや、お前のせいだろ?」
    「はぁ〜・・・・ったく、わかったよ。肩揉めばいいんだろ。」
    「い、いや、別にそこまでしなくてもいいんだけど・・・まあ、いいや。じゃあお願いしてもいいか?」
    「おう。」
    俺は深夏の後ろに回り、肩に手を置く。
    「っ・・・・ふ、ぅ・・・んっ・・・あぅ・・・・っ・・・!!」
    そして揉み始めたのだが・・・・まあ予想通りというか、なんというか、深夏の方はとんでもなく凝っていた。女子高生でこんなに凝っていていいのか?
    「う・・・・っあ、そこ・・・・イイッ・・・・ふ・・・・ぁっ・・・・!!」
    「ってそんな変な声出すなよ。」
    「っ・・・・は・・・だ、だ・・・って・・・揉まれるの・・・ここまで気持ちいいとは・・・っ・・・思って、なか・・・ったし・・・ぃっ」
    「・・・・・・や、それでも・・・・・なぁ・・・・・。」
    っていうか、こんな所を聞かれてでもしていたら大事だな。
    「んっ・・・・もっと、右・・・っ、の方・・・あっ・・・そ、こ・・・っ」
    「ここか?」
    右肩の一番上から少し下の辺りを親指で押す。
    「あ〜・・・確かにここは硬くなってるな。」
    「う・・・・・あっ・・・もうちょっと強めに・・・っいんっ・・・!」
    「いや、別にいいけどこんな硬いんだから強くしてもあまり意味ないと思うぞ?」
    「いいから・・・っ、つよくしろ・・・・っ」
    「はいはい。」
    ・・・・・・・・・どうでもいいが音声だけ聞いてると凄くいけない事をしている気が・・・・・。
    そんな事を考えていた時、ドアが凄い勢いで開けられた。
    「な、な、なにやってるの―――――っ!!」
    「え?会長?」
    会長が真っ赤な顔して、生徒会室に入ってきた。
    「す、杉崎!!何やって・・・・!!?」
    「何って・・・・深夏の肩を揉んでいるだけですけど・・・?」
    「へ?」
    「だから、深夏の肩揉んでるだけなんですけど・・・・なぁ?」
    「あ、ああ。肩揉まれてただけだけど、何血相変えてるんだよ?会長さん。」
    「肩揉まれてただけ?」
    「ああ、いや鍵て以外に肩揉むの上手くてさ。」
    「まあな。何なら会長もしましょうか?」
    「い、いいよ別に・・・っていうかそんなに二人ともくっつかないの!」
    「何ですか?会長?嫉妬ですか?」
    「違うわよ!!二人がそんなくっついてるのは・・・その、ふ、不謹慎よ!!」
    「いや、不謹慎って言われても・・・・。」
    「とっ、とにかく放れて!!」
    会長が俺と深夏に近づいて俺の手首を掴み深夏の肩から手をどけようとする。会長は俺が抵抗すると思って強めに手を引っ張ったが、俺はそんな気は無いので会長がその反動でバランスを崩した。深夏の座ってる椅子につまずき、椅子もそれに巻き込まれ深夏も一緒にバランスを崩す。
    「うわぁっ!?」
    会長もバランス崩していたのだが俺を倒す事によりバランスを保った。だが、俺が逆に倒れる事になる。
    「うぉっ!?」
    ガシャーンッ!
    椅子が倒れる音とともに俺は倒れこんだ。
    ふにゅ。
    あれ?この顔面に伝わる柔らかくて生暖かい感触は何だ?
    「つつ・・・・って・・・へ?」
    深夏が俺の頭上(倒れているからそう感じるだけで正確には前)から間抜けな声をだした。
    俺も顔を上げてみる。
    俺の顔の真下には・・・・深夏の胸に当たる部分。まあ、要するにこれは・・・・・その、俺は・・・・・・・・・・・・・・俺は・・・・・・・・深夏の胸に顔を事故とはいえ埋めていたと言う事?
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ガタガタガタガタガタガタガタガタ!!!!!)」
    どっと冷や汗が出て顔が青ざめるのを感じた。恐る恐る深夏の顔を見るためにギギギ・・・・・と首を動かす。
    「・・・・・・・・・・・(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!)」
    ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。
    ヤバイ!!!深夏の周りからおぞましいほどの殺人オーラが溢れてくる。
    「・・・・・・・・・なあ、鍵(ニコォ・・・ッ)。」
    「ひゃ、ひゃいっ!!?」
    やばい、怖すぎて口が回らない。会長なんて深夏のさっきに怯えて部屋の隅で蹲って震えてるくらいだ。会長の野生の感がここまで怯えるのだからこれは本気でヤバイ。
    「あたしは、この手の事が起こっても、まあ一回くらいならそんなに怒ったりはしねえし、後になってネチネチ言う気はねえよ。だけどな・・・・・。」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・(ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!!!!!)」
    あれ・・・・?俺、あまりの恐怖に、涙、ナガシテルヨ?
    「一日に二度もてめえはどういう料簡だぁぁぁぁっっっ――――――――――――――!!!!!!!」
    「ギィヤアアァァァァァァァァァァァッッッ―――――――――――――
    意識が遠のき、深夏の本気でキレているであろう顔を目にし、俺は撃沈した。
    意識が戻ったのは次の日の朝の事だった。(誰かは知らないけどちゃんと送ってくれたようでいつの間にか家にいた。)
    *
    一週間後。
    「おい、みな―――。」
    「あ゛?」
    「すいませんでした。」
    あの出来事から一週間経っても深夏は俺に対してこんな感じに不機嫌なままだった。
    理由はわかってる。100パーセント俺が悪いし、謝る気もある。だけど、深夏のあの雰囲気の前では、気圧されてしまう。よって一週間経っても俺は謝りだす事が出来ないままだった。
    生徒会室でもクラスでも俺と目を合わせるだけで、敵意剥き出しの目をする。声を掛けようとしてもさっきの様に、「あ゛?」で付き返されてしまう。取り付く島が全くなかった。
    「はぁ・・・・・。」
    深夏のいない生徒会室にて俺はこの一週間で何度目かも分からないため息をつく。
    「あの、杉崎・・・・・。大丈夫?」
    「はい?ああ、会長ですか。大丈夫ですよ。」
    「でも凄く落ち込んでるし・・・それにあれは元々私が原因で起こしたようなものだし・・・・・。」
    「いいんです。会長。原因がどうであれ、加害者の俺が悪いのは誰の目から見たって一目瞭然ですから。」
    「あれって、キー君が深夏を押し倒したって言うやつの事?」
    知弦さんは現場にいなかったので事情を知らないのだが会長あたりが言ったのか、事情を知っている様だった。
    「まあ、結論から言うと・・・そういうことです。」
    「でも、アカちゃんがヘマしてそうなったんでしょ?だったらキー君にだけ怒るのはちょっと酷すぎ・・・。」
    「じゃあ知弦さんはたとえ事故でも俺が知弦さんの胸に顔を埋めても怒りませんか?」
    「それは普通に怒るわよ。」
    「そうでしょう?だから深夏があんなにキレてるのも仕方ないんです。」
    「でも、深夏が怒るのはいいとして、そろそろ文化祭の準備とかには入んないといけないからそれまでには仲直りしないと杉崎も私たちもギクシャクしちゃうし。」
    そうだ。残り一週間で文化祭の準備が始まる。本格的なのは二週間くらい先だが、生徒会だしいろいろと確認やする事がある。確かにその時に喧嘩されてたりしたら皆の迷惑だろう。それは分かっているが、深夏に謝るタイミングが掴めない為、中々に仲直りが出来ないのもまた事実。難しい所だった。
    「なんかきっかけがあればいいんですけど・・・・・・。」
    「例えば?」
    「・・・・・・・・・・・・・・深夏の家にでもいけたら十分なきっかけにはなると思うんですけど・・・。」
    「まず、家に入るきっかけがないし、真冬ちゃんとかが入れないと思うけど・・・・・。」
    「いえ!先輩が中目黒先輩を連れてきて真冬のベッドの上で18禁なことをしてくれたらいくらでも招待してあげます!!」
    「むしろ行きたくなくなったわぁっ!!」
    「ああ、先輩の大きいのが中目黒先輩の中に・・・・・。」
    「ストップ!スト――――――ップ!!!!!それ以上は俺の理性が壊れる!」
    そんなやり取りをしていたら、ガラガラとドアの音がし、深夏が入ってきた。
    「ちぃーっす。」
    深夏は俺の席の隣だが、やはり目を合わそうともしない。
    深夏が入ってきて、会話も続けることは出来なくなりしばし沈黙が流れる。
    その沈黙に耐えられなくなり、会長がこう言った。
    「じゃあ・・・・・・・・・会議しようか?」
    案の定、深夏とは会議が終わっても目を合わせる事すら出来なかった。
    *
    放課後。
    雑務も終わり、そろそろ帰ろうかと思った時の事。
    窓の外はいつの間にか雨が降っていた。巷で噂のゲリラ豪雨だ。
    「ヤバッ、傘持って来てねぇ。」
    一応折りたたみならなくはないが、この雨だとあまり役には立ちそうにない。最悪の場合は、骨が折れて傘として死ぬ可能性もあるかもしれない。
    「・・・・・・・・・どうすっかなぁ・・・・・。」
    悩んでいても雨は止まない。むしろ雨足が強くなる一方だ。
    「仕方ないな・・・・。」
    意を決して何とか折りたたみで行こうと思い、傘を雑務カバンから取り出す。
    「頼むから折れないでくれよ・・・・・・。」
    そう傘に願いをこめ、生徒会室を出た。
    学校から出て、まず思ったこと。うん、普通に無理。折りたたみじゃ、帰った時にはずぶ濡れだ。普通に風邪を引く。でもここでじっとしてても風邪を引きそうだし、さっき意を決したばかりなのだから、今更後には引けないのでゲリラ豪雨の中を走る事にする。
    走って暫くすると川が見える。いつも水深20cmしかなさそうな川も今や3mはあろうかという川になっている。川原もいまや飲み込まれそうで足を滑らしては二度と戻ってくれないぐらいの勢いで流れている。
    「ん・・・・・?あれは・・・・。」
    雨のせいで視界が悪いのだが、遠めに人影を確認する。あれは・・・もしや・・・・真冬ちゃん?
    相手も俺ということを確認したらしく小走りで近づいてきた。やはり正体は真冬ちゃんだったようで息切れしつつも近寄ってきた。
    「せ・・・先、輩・・・っはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・・・。」
    「ど、どうしたの真冬ちゃん。そんな息切らして・・・・。」
    「お、お姉ちゃんが・・・・お姉ちゃんが川の中に・・・・っ・・・・・。」
    「え!?」
    川を確認すると確かに、深夏かと思われるツインテールのおさげが見えた。
    「どっ、どうして深夏があんなとこに・・・・っ!?」
    「・・・・子猫が、流されていたそうで、真冬が気付いた時にはもう飛び込んでいて・・・・・って先輩!?ちょっ、まっ・・・・!?」
    考えるよりも先に体が動いていた。深夏は俺の手が届くギリギリの所にいるのでギリギリ救助は可能だ。
    「深夏っ!聞こえるかっ!?深夏っ!聞こえたら、俺の手を掴め!!」
    手を伸ばし深夏に近づける。だが、水位の方が力が上なのか、深夏は顔がまだ水中の中で返事はない。
    「・・・・ぷはっ!!・・・なっ!?鍵!?おまっどっ・・・ぐぶっ・・・・・・・!!んっ・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!?ぶはっ・・・・!!ど、してここに・・・・っ!!」
    「つまんない詮索は後だ!!早く掴まれ!!!」
    「さ・・・・き・・・に、こっち・・・・ね・・・・・・・・この・・・・ほっ・・・・・んぶっ・・・・・・・!!・・・・・・・・・っ・・・・・・ぷふっ!!先に・・・・猫・・・・・っ・・・の方!!」
    「あ、ああ分かった!!早く!!」
    「んっ・・・・・・・・・・!!・・・・・・・ぶくっ・・・・・・・・・・!!!」
    深夏が激しい水流の中、猫を俺の手に渡す。既にその猫はぐったりしていたが息はしていたようで、水をけほっと吐いていた。
    「深夏・・・・っ!!早く・・・つか・・・・まれっ!!!」
    「んっ・・・・・・・・!!!ぶふっ・・・・・・ごぷっ・・・・・・・・!!っ・・・・・・ぐぷっ・・・・・!!」
    深夏は必死に手を伸ばそうとするがさっきに猫を渡す時の力が最後だったのか、手に力は入ってなく手を伸ばす事が出来なくなっていた。
    「んぶっ・・・・・・・ぅ・・・・・・・ぅ・・・・・っ・・・・・・・・んっ・・・・・・・・・・・・・・」
    さっきまで必死に喚いていた声も今は静かになり力が入ってなかった。
    やがてそれは体に伝わり、それが指へと伝わる。土手につかまっていた手は次第に振るえ、小指が離れた。その後は早く、薬指、中指と離れていき、遂には手が離れた。
    「深夏っ!!!!!」
    俺はもうたってもいられなくなり、川へ飛び込む。予想以上に川の流れは急でまともに身動きすら出来ない。目を開けても、目の前は泥だらけでまともに視界は機能しない。ただ、身動きしている何かは察知できてそれに手を伸ばす。それは案の上深夏だった。
    懇親の力を振り絞り、何とか深夏を土手に引き上げ、俺も川から上がった。流石にこんな緊急事態だと深夏の服が透けていてもエロの権化たる俺でも何も感じなかった。
    「先輩!!」
    遠くから真冬ちゃんの声がする。
    「大丈夫ですか!!!?きゅっ、救急車!!救急車呼ばないとっ!!」
    「いや、大丈夫・・・・ちゃんと息してる・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・・。」
    そうは言っても深夏の唇はすっかり青紫色になり、直ちに暖めないといけない。早く家に返さないと・・・・。
    「真冬ちゃん・・・家は近い?」
    「へ?・・・えっと、ここからだと10分くらいですけど・・・・。」
    「じゃあ、おぶった方が早いね。」
    深夏をおんぶし、真冬ちゃんに家を案内にしてもらう。
    走ったので五分くらいだったが、その時は既に俺も深夏も真冬ちゃんもガチガチに震えていた。
    「じゃあ、後はお願いするね?真冬ちゃん。」
    「はい、先輩もありがとうございました。」
    真冬ちゃんからタオルと傘を借り、家に帰る。・・・・・・風邪、引かなきゃいいけど・・・・。
    *
    翌日。
    昨日の雨が嘘の様に晴れていた。
    案の定、深夏は風邪を引き休みだった(俺と真冬ちゃんは休まなかった。)。
    よって、他のメンバーは深夏のお見舞いに行き俺は一人で黙々と作業中。
    俺も行こうかと思ってるがこの調子だと7時くらいになりそうだ。はぁ・・・・。
    *
    「いやぁ、それにしても深夏が川に飛び込むなんておもわなかったよ。」
    「それだけ聞くと身投げしてるみたいだから止めてくれ・・・・。」
    風邪を引いて休んでいたのだが、どうやら皆がお見舞いに来てくれたみたいだ。実際風邪自体はそこまで酷くはないのだが、母さんと真冬が休めとうるさいので休んだのだが・・・・全く43℃のどこが高熱だよ・・・ったく、今は37,2℃だというのに・・・。
    「でも今時猫が流されているって理由で川に飛び込むのも凄いわよね。」
    「だって、あのままじゃあの猫死んでいたぞ。」
    ちなみにあの猫は母さんが、動物病院に送ったらしく、今は割と健康状態らしい。
    「ダンボールの中に一匹で寂しそうにいたのに、川に流されてるんだから可哀想と思って助けようとしたけど、逆にこんなになったらザマねえな。はは。」
    「ホントだよ。もっと自分の体を大切にしないといけないよ!」
    会長さんにそう釘を刺される。いや、まあそうなんだけどさ・・・・。
    「そういえば、昨日やっぱり氾濫した川に流されて行方不明になった人が数人・・・・・。」
    「今になるとその冗談もすげえ笑えねえから!知弦さん!!」
    「・・・・・・流されていたらどんなに良かったでしょうね・・・・。」
    「よくねえよ!!ちっともよくねえよ!!つかあたしが死ぬ!」
    「とあるガン○ンという漫画雑誌では主人公が家出をしたはいいけど流されてある島に漂流するという話しがあってね。」
    「だから、なんだ――――ぅ・・・・っ、こっちは病人なんだからそんなに大声出させるなよ・・・。」
    「むしろ深夏から大声出していた気がするけど・・・・・。」
    「というか、あんな大声出せる人は病人とは言わないと思うけど。」
    「あーっ!もう、そうだよ!所詮あたしは元気しかとりえがな――――ぃ・・・・っぅ・・・・・。」
    「アカちゃん以外にここまで学習しない人は始めてみたわ。」
    『どういう意味よ!(だよっ)』
    「とりあえず、長居しても悪いし叫びすぎると深夏の体にも響くだろうし、私たちはそろそろ帰るわね。」
    「・・・・なんか最近の知弦、私たちがツッコムとすぐ話題を変えるよね。」
    「そう?」
    「じゃあ、会長さん、紅葉先輩。お姉ちゃんのためにお見舞いに来てくれてありがとうございます。」
    「うん。じゃあ深夏。早く元気になってね。」
    「あと少しはその川に飛び込むなんていう無謀なのも治すのよ?」
    知弦さんの物言いがグサッと胸に刺さる。
    「うっ・・・・・言われなくても分かってるよ・・・・。」
    そして真冬が二人を見送りに行く。付いていこうと思ったが、なんかいろいろうるさい事を言われる気がしたのでじっとしておこう。あたしだって流石に学習する。
    「じゃあ、お姉ちゃん。今日はお母さんも帰ってこないし、買い物行ってくるね。」
    「ああ、ごめんないろいろ迷惑かけて。」
    「大丈夫。でも・・・・姉妹そろって自炊が出来ないのは致命的だよね・・・・・。」
    「・・・・・・・・そうだな。」
    恥ずかしい事にあたしも真冬も料理が出来ない。真冬なんてカップラーメンすら作れない。
    「じゃあ、行ってくるね。」
    「おう。」
    真冬が買い物に行って、沈黙が訪れる。普通に過ごしていてもこれくらい静かな時はあるが、さっきまで賑やかだったので、なんか・・・・・寂しい。
    「・・・・・・・・・・。」
    なんか、ほんとに、寂しくて虚しくなってきた。寝る事意外にやる事もないし、布団をかぶったその時。
    ピンポ〜ン
    ドアのチャイムの音が鳴った。
    真冬だとしたら、鍵を持っているはずだし、会長さんか知弦さんなら忘れ物をしたということはないだろう。じゃあ、だとしたら、誰?
    そうやって誰なのか考えていたら、もう一度『ピンポ〜ン』という音がなった。居留守を使おうかと思ったが、それは流石に失礼だと思ったので、まだややだるい体を起こし一回に下りてドアを開ける。
    そこには・・・まさかな訪問者の・・・・・鍵がいた。
    *
    雑務はやはりというか予想通りというか案の定というか、七時を回ったところで終わった。流石に冬の一歩手前の季節なので夏の面影は今は見る事もなく十分に暗くなっている。
    で、ここで問題なのが、深夏にお見舞いするかどうかなのだが・・・・。さて、どうしよう?
    無論昨日の事もある。あれだけ雨に打たれて、びしょぬれになれば普通は死ぬか重症だろう。深夏のことだから死ぬ事はなくても、普通は寝たきりな感じじゃないかと思う。別に昨日の事は俺が悪いわけではない。むしろ助けたのだから褒められてもいいだろう。だけど昨日の一件に関わった身としては・・・・・心配になるじゃん?
    遅いとは思ったが、深夏のことが何よりまず心配だし、それに今この機会を逃すと一週間前のあれの事を謝る機会がもう二度とない気もする。だから俺はあえて遅いこの時間にいく事にした。
    昨日の今日だから深夏の家がどこにあるのかはもう覚えている。夜の七時半を回り俺はそれでも深夏の家を目指す。
    深夏の家の前に立ち、多少小走りして乱れている呼吸を整え、インターフォンを押す。
    一回目のチャイムじゃあ反応がなかった。しばらく待つ事にする。まあこれで深夏が一人でいて、寝ているところを起こしては悪い気もするし。
    もう一度、チャイムを鳴らし、これで出ないようなら深夏は寝ているとみなしかえろうと思っていた。ドタドタドタと会談を駆け下りる音がした。ああ、良かった。とりあえず骨下り損にはならなくって良かった。
    ドアがガチャと開き、立っていたのはストールを羽織った深夏だった。
    「へ・・・・?」
    先に声をだしたのは深夏だ。俺が来るのが意外だったのか間抜けな顔をしている。まあ俺も意外に深夏が元気で予想外だったが。
    「な、なんでここに鍵がいるんだよ・・・・?」
    深夏が半分疑問。半分帰れって感じで聞いてくる。まあ一週間前の事を許してもらってるなんて思ってはないけどね。でも少なくとも取り付く島があるので、とりあえず話は出来そうだ。
    「いや、お見舞い。」
    「・・・・・別に来なくても良かったのに・・・・。」
    「そう言うなって・・・・。結構心配だったんだからな。昨日あんな事になってたんだから。」
    「うっ・・・・た、確かに昨日のことは・・・・・ってそういえばあたしってどうやって昨日家に帰ったっけ?」
    「覚えてねえのかよ。」
    「だ、だって京起きたのは6時ごろに一回少し目が覚めたのと、3時くらいに目覚めたんだから。昨日のことなんて真冬からも聞いてないんだし。」
    「まあ、そうだけどよ・・・・・。」
    「で、お前は知ってるのか?あたしがどうやって帰ったのか?」
    「俺が負ぶって行ったんだよ。」
    「・・・・・・・・・・は?」
    深夏が少し沈黙し疑問系を投げつける。
    「だから、俺が負ぶって行ったんだって。」
    「・・・・ま、またまたそんな下らねえ冗談言いやがって・・・そんな事あるわけ・・・・・。」
    「いや、ほんとだって。疑うなら真冬ちゃんに聞いてみろよ。」
    「・・・・・・・・マジ?」
    「マジ。」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・」
    沈黙が訪れる。って何でここで沈黙が訪れるのかよく分からないのだが・・・・。
    「ええ!?ちょっ、まっ・・・・昨日・・・・・・あたし・・・・・そんな事・・・・・・・・。」
    深夏の頬が少しだけ朱に染まる。それと同時に気まずい空気が流れる。
    「・・・・・・・・・・・・。」
    「・・・・・・・・・・・・。」
    かなり気まずい・・・・深夏に敵意剥き出しにされてたあの一週間よりもかなり気まずい。
    「あ、あのっ・・・・・ここで立ち話もなんだし・・・・・その・・・・・家上がるか?」
    「えっ?・・・・・いや別に、お前が元気そうなの確認できればそれでよかったし・・・・・・。あ、それで明日には学校来れるのか?」
    「へ・・・・あ、うん。多分。」
    「ああ、そうか。それは良かったな。」
    って、んな世間話しに来たんじゃねえんだよ俺は!!と、とにかく謝らないと・・・・一週間前の事を。例え深夏が気にしていないにしても俺がけじめをつけないと気がすまない。
    「それで・・・・・その・・・・あの、ごめん!!」
    頭を下げて深夏に謝った。
    「一週間前に、事故とはいえあんな事したのは申し訳なかった!!すまん!」
    俺は目をぎゅっと瞑り、頭を下げる。殴られるかもしれないし、許してもらえないかもしれない。でも謝らないと何も出来ないと思った。だから俺は別に深夏に許してもらうために謝ってるんじゃない。俺のけじめと、深夏が許そうと許すまいと仲直りがしたいから、ただそれだけだ。
    「あ、あの・・・鍵?その、頭上げろよ・・・・。」
    「へ?」
    「べ、別にあれのことなら・・・・その・・・・・・・・もういいし、それよりもお前こそ大丈夫なのか?昨日あたしを助けるためにわざわざ川の中飛び込んだろ?」
    「あ、ああ、そうだけど・・・・・でも結果的には無事だし・・・・・・・。」
    「後、ごめんな、迷惑かけて。後その・・・・・・・事故だって私だって分かってたのに・・・・ずっと怒ったりしてあたしこそ・・・・・・ごめん。」
    「・・・・・・・・・・・・。」
    深夏から出た言葉は俺からしたら意外だった。だって深夏がまさか、ごめんと言うだなんて想像してなかった。明らかに俺が悪いのにも拘らず、こいつは謝った。それがただ、意外だった。
    「そ、そうか・・・・・・・・・。」
    「う、うん・・・・・・・・・・・。」
    「・・・・・・・・・・・・・・・。」
    「・・・・・・・・・・・・・・・。」
    再び気まずい空気が流れる。
    深夏に謝る事もできたし、元気な顔も見れた。だからもうここにいる必要はない。
    「じゃ、じゃあ、そろそろ俺は帰るから。」
    「え?」
    「じゃあ、明日学校でな。」
    深夏に背を向けて、歩き出そうとした時。
    「ま、待って!」
    深夏に呼び止められた。
    「?何だ?」
    「へ・・・・?あ、いや、その・・・ごめん。なんでもない。」
    「そうか。」
    そういわれたので俺は帰る事にした。何はともあれ、心のつっかえ棒が取れたみたいですっきりした。でもその代わりにもやもやが出来た。擬音だらけで伝わりにくいのが申し訳ないが何故だか脳裏に深夏のあの、呼び止めた時の顔がちらつく。何故だかあの顔が俺の頭からはなれなかった。
    *
    何故だろう。何故あたしはあの時に鍵の事を呼び止めたりしたのだろうか。
    分からない。ただあのときに鍵が帰ってしまうと思ったら胸がきゅんとして痛くなった。
    反射的に呼び止めてしまっていた。鍵ともう少しの間でいいから居たいと一瞬だけ思ってしまった。
    今も、胸が痛い。きゅんきゅんと締め付けるように胸が痛い。
    *
    学園祭まで後一週間とせまったとある日。
    あれからあたしは何かおかしい。
    なぜかある奴の事を見ているとどうしようもなく顔が熱くなる。
    話しているだけなのにとてもとても動機が早くなってしまう。
    隣にいるだけなのに手が汗ばんでしまう。
    なんでもない仕草の一つ一つがとても気になって緊張してしまう。
    今だって学園祭について普通に会議してるのに、胸がきゅんきゅん痛くて頭がボーっとなってしまう。あたしの隣にいる奴のことをただじーっと見ているだけだが凄く何故か・・・・嬉しいというか、幸せになっている。
    「じゃあ、会長。実行委員と話しつけてきまーす。」
    「うん。お願いね。」
    そう言って鍵が部屋から出てしまう。
    後ろ姿が目に入ってきた。意外と背中が広い。それはあいつも一応男子であると言うことを表している。
    「はぁ・・・・・・・。」
    ため息をついているのだが、正直言って顔はにやけている。
    もう今となってはあいつと目を合わせるだけでも凄くしあわ――――。
    「ねえ深夏。あなた、キー君の事好きなの?」

    一瞬、理解が追いつけなかった。突然の不意打ちだったから反応すら出来ない。って言うか今なんて言った?「ネエミナツ。アナタ、キークンノコトスキナノ?」だって。えと、それ・・・・は、つま、り・・・・・そ、の・・・・あ・・・・・・・の・・・・・・・・・・(プシュ〜〜〜)。
    「わっ!!?深夏の顔から湯気が出てる!!」
    「あ、ほんとね。」
    「ばっ!!!馬鹿じゃねえのか!!!あたしがそんにゃ!!鍵ニョことしゅきになんなんてありるえるわけないだえおろ!!」
    「そんなカミカミで言われても説得力が・・・。」
    「だからっ!とにかく、違う!!あたしが鍵の事を好きになるわけなんか・・・っ」
    「じゃあ、嫌い?」
    「へっ?」
    「だったら深夏はキー君のこと嫌い?」
    「え・・・・・あの・・・・それは・・・・・。」
    やっぱり今のあたしはおかしい。普段なら、いつもなら、即答で嫌いと言えたと思う。でも、今その言葉が喉につっかえて言えない。言えない。あいつの事が嫌いって言う事が出来ない。
    「・・・・っ・・・・き・・・・・・・・きっ!・・・・ら・・・・・・っ!」
    「・・・・・・・・なんか、深夏が違う人に見える。」
    「こんな必死なお姉ちゃん見た事がありません・・・・・・。」
    「というかここまで意地を張ってキー君のことを嫌いというあたり・・・・・・深夏も意地っ張りよね・・・・・。」
    「って言うか・・・・・うん。深夏が凄く女の子に見える。」
    「どういう意味だよ!!」
    凄く顔が熱い。後いろんな意味で恥ずかしい。あたしが今抱いてる感情が少なくとも嫌いとかそういうのじゃないのは分かってる。でもこれが果たして好きって気持ちかというと違う気がする。
    「で、深夏はキー君のこと嫌いなの?」
    「っ!!!?」
    この人本気であたしを虐めにかかってる!!
    「・・・・・・・・・・・知弦はドSだねぇ・・・・。」
    「そんなしみじみ言われても・・・・・・。」
    「・・・・・っっ!!だっ・・・・だからっ・・・・!!別に鍵の事は・・・・友達としては好きだけどっ・・・・別に異性としてはなにも・・・・。」
    「じゃあ異性としては?」
    「っっっっっ!!!!!!?」
    この人やっぱドSだ!!近年稀に見るドSだ!!!
    「知弦もやめなよ。深夏が可愛そうだよ。それにほら、人の恋路を邪魔すると鹿に蹴られるって言うじゃない。」
    「鹿じゃなくて馬だからね。馬。」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
    駄目だ、顔が熱くて何も考えれない。頭も痛いし、動機もするし・・・・・。
    「お姉ちゃんがひん死状態です!!」
    「わざわざポケ○ン的な例えで言わなくていいから。普通に戦闘不能とかでいいし。」
    「それにしても・・・・・・・深夏がここまで純情というかなんと言うか・・・・・女の子だったとはね・・・・。」
    「・・・・・・・・・うるせえよぉ・・・・・他人事だとおもってぇ・・・・・・・。」
    「だって他人事だもの。」
    そう知弦さんがいった時ドアが開いた。
    「ただいま帰りましたぁっ!」
    鍵が帰ってきた。
    なんかさっきまであんな話をしていたから、余計に意識してしまう。
    ポケーっと鍵を無意識的に見てしまう。そして幸か不幸か鍵と目が合った。
    (ドクンドクンドクン!!)
    や、やばい・・・・。胸、高鳴って、本気でヤバイ・・・・。ほんとに今のあたしはどーかしてる・・・・。
    「ん?何だよ深夏。そんな見つめて、俺の顔になんか付いてるか?」
    「っ!!?いっ、いや別にっ!!そんなんじゃなくて・・・っ!!」
    「って言うかお前、すげえ真っ赤な顔だな。まさかこの前の風邪ぶり返したわけじゃあないよな?」
    そう言って鍵はあたしの額に微妙に汗ばんだその手を触れさせる。
    「っ!!・・・・・・・・はぅ・・・・っ・・・・きゅぅっ・・・・・・・。」
    「へ?え、ちょっ深夏!?えっ!?どうした!?おいっ!」
    鍵のその言葉を境にして・・・・・それから先のことはあんまり覚えていない。
    *
    「学園祭楽しかったな深夏。」
    「へ?」
    「でも、俺が一番楽しいと思ったのはお前と一緒にいれた事だよ。」
    「そ・・・・・・それは、どうも・・・。」
    「だから、俺がお前にしてやれるのは・・・・・・。」
    「はぇっ?ちょっ、鍵!何顔近づけて!?わぁああああっ!!?」

    ガバッ!!
    「はぁはぁはぁはぁ・・・・・。」
    ま、当然夢オチなわけで・・・・。
    (我ながら・・・・・ホント我ながら何て頭の悪い夢を見てたんだろう・・・・。)
    何であたしは、寝ている時でさえあいつの事を考えているんだろうか・・・・?
    さっき気絶してから大体二時間位。あたしは保健室のベッドの上にいた。なんとなく思いだせる範囲の事を思い出すと鍵に額を触られて気絶してそして運ばれたのだと思う。
    ホント・・・・あたしは最近どうかしていると思う。今更になって、改めて考えてみてもどう見てもおかしい。毎日毎日、一人の男の事が気になっていて、そいつの事を思うと上の空になり・・・・・・どこか、気持ちが落ち着かない。こんな事今までに一度もなかった。
    もしかして・・・・本当に会長さんたちが言っていたとおりにこれは・・・・。

    鯉?

    「ない!!あるわけがない!!そりゃ鯉のあら煮とか鯉コクは好きだけどもせいぜいそれが関の山で・・・断じて・・・そんなわけ・・・・何・・・か・・・。」
    なんかそう自分に言い聞かせてたら、今度は胸の奥がきゅんきゅん痛みだした。ああもぉ!!これも一体なんなんだよ!!?ずっとこんなに締め付けられるような感覚あったら何にも出来ねえだろうに!!
    百歩、二百歩。いやそれ以上にもっともっともっとず〜〜〜〜〜〜っっと譲ったとして・・・・・・ありえない話だが、あくまでたとえ話として・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたしが、鍵の事を、好きだと、しよう・・・。
    「・・・・・・・・・。(カァァァァァッ)」
    だっ!?だから、あくまで過程の話!!万が一、億が一、そういうことだとしてもだ!!
    でも夢にまで見るのだから・・・・少なくとも気にはかけているとは・・・・・・思う。
    それが恋心か、好意か、好奇心か、何かは分からない。
    時刻も5時を回る。早く戻って生徒会の手伝いしなきゃいけないのに・・・・あいつと、鍵と一緒に仕事なんかもう出来ない。あいつと一緒にいるだけで、っていうかいなくてもあいつの事想っただけで体は言う事を聞かず、ギクシャクしてしまう。
    「あいつと・・・・もう顔合わせられねえよ・・・・・・。」
    こんなに辛い気持ちになったのも、こんなに胸が高鳴るのも全部全部初めてで・・・・・それもこれも皆全部鍵のせいで・・・・。

    コンコン。とドアをノックする音が聞こえた。
    「お〜い深夏。起きてるか〜?」
    よりにもよってこういうときに限って鍵がタイミングよく表れやがる。
    前日じゃあるまいし5時を回ればあいつだって雑務を終わらせて帰る時間帯だ。だからその帰りにあたしの事を心配してくれたのだろう。それは素直に嬉しい。嬉しいけど・・・・・・。駄目だ、また体が強張ってく。声を聞いただけでこれだ。胸が痛い。動悸が高鳴る。顔が熱い。本当にこれじゃあ・・・・恋してるみたいじゃあねえかよ・・・・。
    「深夏〜?入るからな〜?」
    ガラッとドアを開ける音がし、鍵が保健室の中に入ってくる。
    「何だ。いるならちゃんと返事位しろよ?」
    「ご・・・ッ・・・ごめん・・・・・。」
    声までも震えてくる。こんな、こんなのあたしじゃない。昔のあたしはこんなじゃない。もっと堂々としていてこんなじゃなかった。でも・・・・今のこの状態が・・・・悪くないと想っている自分もいる。
    「ほら。帰ろうぜ?お前の荷物も持ってきてやったし。」
    「あり・・・・ッありがとう・・・・・。」
    鍵にそう言われ、ぎこちなく動く足を何とか怪しくないように動かす。
    さっきの夢とか生徒会室の時のこととか、いろいろあってあたしはあいつと目を合わせる事ができなかった。
    *
    学園祭前日。
    最後の日ということもあり、今日は残って作業をするクラスや部活も多々あるそうだ。
    生徒会は・・・というか生徒会は基本クラスや部活の出し物を承認するだけなので、生徒会が主体的に何かするのはないのに、他のクラス、部活などの監督などをするために残るハメとなっている。
    だからだろう。
    こんな暗い時間になって一人生徒会室でたそがれているのは。
    外ではデカイ照明を幾つも使って学園祭用の門を作っているらしく、夜の七時を回ってもこんなに外が明るいのはそのせいだろう。連日の疲れもあり、ちょっと生徒会室で昼寝でもと思っていたのだが、まぶしくて寝れないのと外でメガホンによる会長の指示の声がうるさくて寝れない。これは困った。
    「・・・・・・・・ねみぃ・・・・・というか、目が痛い・・・・。」
    そん位眠たかった。
    うつらうつらとして寝そうになると照明の光と会長の声で起きて、またうつらうつらとし・・・・・という無限ループにはまっている。人間って疲れが境地が達したら、気絶できないのかな・・・・。
    「ああ、せめて眠気覚ましのために誰か戻ってこねえかなぁ・・・・。」
    と呟いたら、願いが通じたのかドアの開く音がする。
    「・・・・よう・・・深夏・・・・。」
    眠すぎてかすれた声で挨拶をする。
    「はえっ!?け、鍵!?なっ、なんでこんなとこに・・・・。」
    気のせいかもしれないが、最近深夏は俺に対してドモり過ぎではないかと思う。
    「何でって・・・・・・・・・・ふ・・・・・・・・・ぁ・・・・く・・・・眠いから。」
    「ね、眠いからって・・・・・。でも、めっちゃくちゃこの部屋光当たってるけど・・・。」
    「だから・・・・・失敗したと・・・思ってる。」
    「・・・・・・保健室で寝ればいいものを・・・・。」
    「そしたらきっと俺は・・・・一時ごろに起きるだろうな・・・。」
    (・・・・・だったらあたしを呼んでくれればいいのに・・・・。鍵の寝顔も見られるし・・・。)
    「・・・・なんか言ったか・・・・・・?」
    「いっ!?いやなんでもっ!?」
    「そ、か・・・・・・ふぁぁ・・・く・・・・ぅ」
    あくび交じりにそうかと言った瞬間『ブゥンッ』という音がし瞬間部屋の中が真っ暗になる。それどころかあんなにまぶしかった生徒会室に当たっていた光さえ、消えていた。
    「ひゃっ!」
    その瞬間、俺の身体に何か人肌並みの温かいものが触れた。
    「って・・・深夏?お前―――――。」
    「う、うるせぇっ!!誰だって暗くなったら少しは怖いだろ!!」
    「いや、でも、お前のキャラじゃな――――。」
    といい掛けた所で、ガクンと視界がずれる。いつものパイプ椅子なら腐るわけがないし、こんな事もないけど、あいにくパイプ椅子はイベント等に使って生徒会室にはないため、今日はたまたま木の椅子だった。
    バキィッ!!
    「わっ・・・つ!」
    暗い部屋の中、倒れたせいで閉じていた目を開ける。
    「つつ・・・・・・。」
    深夏も暗いから分からないが、目を開けたと俺は思う。
    「ぁ、え・・・・・あ。」
    深夏は暗い生徒会室の床に横たえられた形。
    俺はその深夏に――――――覆いかぶさるような姿勢。
    見つめあう形。
    「ぅ・・・・・・。」
    「・・・・・・ぁ。」
    お互いに動けない。
    目を逸らそうとしても眼球すら動かせない。
    深夏の顔に暗くても分かるほど、みるみると赤くなるのが分かる。
    俺も多分同じだと思う。
    なぜならこの姿勢はまるで、ほとんど恋人同士がこれから口づけをするような姿勢で。
    「・・・・・・っ」
    ギュッ、と深夏が体を硬くした。
    「・・・・・・っっ」
    いや、おい、俺。何やってる・・・?早く、放れろ。起き上がれ。
    こんなの、俺が望んでいる事じゃないだろ。
    そう全身全霊で自分に言い聞かせ体を起こし離れた。
    「・・・っあ、あの、鍵―――――。」
    「ったく、こんな足が腐った椅子を用意するなんて・・・・あぶねえな・・・。」
    懸命にさっきのことをなんでもないと思わせるように自然に振舞う。
    「な、深夏?」
    「ぁ・・・・・ぅ、うん・・・・。」
    深夏は少しぎこちなくも微笑んでくれて見せた。
    「ごめん・・・・いきなりあたしがしがみ付いたから・・・・。」
    「いや、別に大丈夫だ。それよりお前の方こそ怪我とかしていないか?」
    「ん。大丈夫。」
    会話のノリが、多分お互いに戻った事を確認し俺は、
    「じゃあ、ちょっとこの停電直してくるか・・・。」
    「出来んのかよ・・・・。」
    「まあな。ちょっとバイトで。」
    「どこの東京○力だ、お前は。」
    そう言われながら部屋から出る。
    ふと胸に手を当ててみる。
    ―――肋骨の奥からは俺の心臓が激しく鼓動していた。
    *
    キスされるかと思った。
    あの瞬間押し倒されて、あんな体勢になってずっと悶々しっ放しだった。
    鍵の瞳には真っ赤な顔したあたしが写っていた。
    あたしはまるで魂を吸われたかのように固まってしまった。
    キス。
    唇を奪われてしまうのかと思わなかったと言ったら嘘になる。
    きっとあたしはそれでも固まったままだと思う。
    でもあいつはあくまで平常心で、あたしに接していた。
    すっと身を引いてくれた。
    あいつは・・・・・・鍵はいつもは確かにそういう発言はするけど、いざという時には皆の事を考えて行動している。
    だから、あたしの呪縛は解けた。
    胸はドキドキしながら・・・・・痛んでいた。
    一瞬でも鍵があたしのことをって思ってしまった事に。
    けど鍵は、凄く、穏やかに対応してくれた。
    ・・・・・そのおかげであたしはどれだけ安心したか。
    でも
    ホントのことを言うと、あの時、あたしは別にキスをされても良かった。
    もしかしたらキスを
    して欲しかったのかも・・・・しれない。

    鍵の顔、鍵の心、鍵の仕草、鍵の振る舞い、鍵の・・・皆全て。

    今、分かった。

    あたしは好きなんだ。
    鍵の事が。
    *
    学園祭当日。
    生徒会、及び学園祭実行委員は早い時間に徴集される。昨日の出来なかった準備をするのもそうだが、やはり今日明日と続く学園祭のために注意事項を聞かせるためにわざわざ集められる。一言で言うとかったるい。
    一階の準備室に生徒達は集められて話を聞かされているわけだが・・・・・まあ真面目に聞いている奴など少ない。だって同じ話を3・・・いや今4週目に入ったところだ。
    時刻はまだ七時ちょっとすぎなのにこんなに話せる先生は凄いなあと思わず尊敬するほど長い話だった。ていうか早く終わらないかなぁ・・・。
    *
    先生の嫌になるほど長いお話が終わり会議室なるところから出てすぐに声が掛けられた。
    「あっ・・・あの、鍵!」
    後ろから深夏に呼び止められる。
    ふと思い出されるのは昨日の、あの押し倒してしまった場面。それが思い出され俺の心臓の鼓動は激しくなる。
    「な・・・なんだ?深夏。」
    「あのっ・・・その・・きょ、今日・・・・あの・・・・い、一緒に・・・・・が、がきゅっ・・・学園祭回らないかっ!?」
    「え・・・?・・・えっと・・・それは俺に言ってるのか?」
    「あ、当たり前だろ!」
    「あ、当たり前と申されますか・・・・。」
    とはいえど、俺がこうやって誘われるなんて万一にも思っていなかったため、どう答えたものか・・・・。普段なら即決でOKだろうが、昨日のことがあるせいか非常に気まずい。深夏だってそれくらいは分かっているとは思うのだが・・・。
    「そ、それでどうなんだよ・・・?行ってくれるのか・・?」
    「いや・・・まぁ・・・うん・・・・・・・いいぞ。」
    なんとも歯切れ悪くこたえる。
    「ほっ、ほんとに!?」
    深夏は声を輝かせて意外そうに驚いていた。
    「いや、まあ明日なら林檎が来るから、無理だけど、今日なら別に・・・。」
    「そ、そうなんだ・・・。」
    今度は途端に元気がなくなっていく。
    「なんか今日の深夏は百面相みたいで面白いな。」
    「へっ?い、いやそんなことないから!別に今明日も鍵と一緒に回りたかったけど、無理だって聞いて落ち込んでいたなんて・・・はっ!」
    「えっ!?そう思ってたのか!?」
    「だ、だからちがっ(プシュ〜〜〜〜)」
    何だ今の深夏。凄え虐めてえ!!こんなアワアワオロオロした深夏初めて見る。俺のサディスティック精神がうずく・・・!!
    「とっ!とにかく一緒に回るんだよな!そうだよな!?」
    「は、はい。」
    一瞬深夏に威圧され、反射的に肯定する。
    「じゃ、じゃあ・・・・・九時になったらグラウンドで待ち合わせだからな!?」
    「いや、それだったら別にわざわざ待ち合わせなくても・・・。」
    「いいの!こっちはいろいろ準備とかあるから!」
    「は、はぁ・・・。」
    またもや深夏に気圧される。
    そうやって歯切れ悪く返事していたらいつの間にか深夏は消えていた。
    *
    深夏との待ち合わせ場所―――。
    俺は五分ほど早く来て待っていた。
    俺自身、何故かヤバイほど緊張している。心臓の鼓動が鳴り止まない。
    そう、思っていたら深夏が反対側から走ってきた。
    「ごめ〜〜〜〜〜んっ」
    向かってくる声にどきんと心臓が跳ねる。
    「よ、よお。」
    なんだか照れくさくて、苦笑いをする。
    「はぁ・・・はぁ・・・ごめん、待たせちゃったか?」
    「全然。俺も今来たところだし。ジャストだけど。」
    「あれ・・・・?あ、あたしの時計、五分ずれてた。」
    「深夏にして珍しいな?」
    「おっかしいなー。ちゃんと合わせた筈なんだけど。」
    「ま、そういうこともあるだろ。」
    深夏が時計を弄くって時間を直す。
    「ほんじゃ、行くか?」
    「あ、う、うんっ!」
    照れながら、頬を少しだけ朱色にしながら俺たちは学園祭を廻る事にした。
    *
    校庭には予想以上に人がいた。
    校庭以外にも、廊下や教室や体育館、行動などにも沢山人がいる。
    今年は広報の人が力を入れていたと聞いていたが、まさかこれほどとは・・・・・。
    「結構人がいるな・・・・。」
    「あ、ああそうだな。」
    ついでにあちこちの露店から良い匂いがしてくる。
    グゥ〜
    それにつられて俺の腹の虫が鳴る。
    「ぷっ・・・な、なんだよ鍵。朝ご飯食べてこなかったのかよ。」
    「し、仕方ないだろ。反射的に鳴ったんだし。」
    「じゃあ、何か買って食べる?」
    「そうだな。」
    そんな事を言いながら歩く。
    「こういう時、露店で買うのはたこ焼きとか、綿飴とか杏飴が美味しいんだろうけどなぁ・・・・。」
    そう深夏が言った時、偶然杏飴の露店を横切る。
    グゥ〜
    「くくっ・・・・なんだよ、深夏だって朝飯食ってこなかったのかよ?」
    「ちっ、違っ!あたしはこういう時の為にお腹空かせておこうと思って・・・っ!!」
    「はいはい、そういう事にしといてやるよ。」
    「鍵のくせにぃ・・・っ」
    「で幾つ食べるんだ?」
    「へ?」
    「お腹空かせているんだから食べるだろ?」
    「あ、う、うん。じゃあ、一つだけ。」
    「了解。」
    杏飴を一つ買い、深夏に手渡す。
    「じゃあ、俺も何か食べますかね・・・。」
    「じゃ、じゃああたしが買う!」
    「は?・・・な、なんでだよ?」
    「だって鍵にばっか奢らせていたら不公平だし・・・。」
    「いや普通男の俺が奢るべきだろう?」 
    「それじゃ、あたしの気が済まないの!」
    深夏の気迫に気おされる。深夏は何か変なところできっちりしているところがあるがまあ、なんだ深夏らしいと言えば深夏らしいし、深夏らしくないと言えばらしくない。
    「・・・ぷっ・・・」
    「な!?何で笑うんだよ!?」
    「いや、別になんか可笑しいなぁとおもって。」
    「っう・・・」
    深夏も若干気付いたであろう。だからこそ言いよどんでいるわけだし。
    「よし、じゃあ、食べますか?」
    「そ、そうだな。」
    深夏がはにかみながらそう言った。
    よしそうと決まれば突入だ。
    *
    「鍵。それは買いすぎだろ。」
    「そうか?」
    両手に持っている買ったものたちを見てみる。
    「綿飴に林檎飴にイカ焼きに焼きそばに・・・・・・焼きとうもろこしだけだぞ?」
    「だけ・・・じゃないだろ・・・。」
    「そういう深夏だって、大概だぞ?」
    「あ、あたしは少ないと思うけど・・・・。杏飴にたこ焼きにチョコバナナにイチゴクレープだけだし。」
    「・・・・・・・・・・・。」
    「・・・・・・・・・・・。」
    「ぶっ!」
    「だ、だからさっきからなんでそうやって笑うんだよ!?」
    「いや、だってお互い凄い買ってるのに少ないって一点張りしてるからつい。」
    「ま、まあ確かに買い込んじゃったけどさ・・・。」
    「まったくだな。よし、食べようぜ。」
    「うんっ」
    とりあえずいろいろと際限なく露店を巡ってみたら、こんなにも買い込んでしまった。
    まあいいや。学園祭なんだし無礼講だ。
    「あ、イカ焼きうめえ。」
    「イカ焼きってイカを焼いたのじゃないんだよな?」
    「一応な。どちらかと言うと粉物がイカ焼きでイカを焼いたのは焼きイカらしい。」
    「そうなんだ。そういやあまり食べたことないかも。」
    「食べてみるか?結構美味しいぞ?」
    「本当?じゃ、いただきます。」
    深夏が小さい口で端っこに噛り付く。
    「ん、おいしい。」
    「いけるだろ?」
    そういって俺もがぶり。

    ・・・ん?これってもしかして関節キスになるんじゃあ・・・?
    「・・・・・・・・・・。」
    よく味わっていただきましょう!
    「お返しにあたしのたこ焼き食べるか?」
    「おお、美味そう・・・って俺手が塞がってるわ。」
    「もう、しかたないなぁ・・・。」
    深夏が爪楊枝でたこ焼きを指して俺の口の前まで持ってくる。
    「あ、あ〜ん・・・・・。」
    ・・・・・・・・・・。
    マジですか?
    あの、あの深夏が俺にあ〜んですか?マジですか?
    まあ、本音は若干恥ずかしいんだが・・・なんのその。いただきます。
    「は、早くしろっ。恥ずかしいんだからっ。」
    「あ、ああ分かった。」
    「あ〜ん・・・・。」
    「あ・・・・・あ〜ん・・。」
    パクリ――――。
    「ん・・・んぐ、んぐ・・・ごくんっ」
    「お、おいしい?」
    「無論、美味いぞ?」
    「そ、そうか。よかった。」
    ヤバイ。何かもう死んでもいいかもしれない、まだ死ぬには若い身空だけど。でも死んでもいいかも。これで生徒会の一存完ってつけとけば俺の人生に後悔はないかも。
    *
    やばい・・・食い過ぎた・・・。」
    「そりゃ、あれだけ食えばな。」
    カロリー量はたいしたことはないのだが、胸焼けするものばかり食べていたせいか胃がパンパンになっている。
    「って言うか、あたしが残した分も食べるんだしな。」
    「だって勿体無いだろ?」
    「そりゃそうだけどさ・・・・。」
    こんな何でもない話なのだが、俺は少しだけ安心していた。
    最近の深夏はなんだか・・・挙動不審だった。俺が話しかけただけで気絶しだすし。
    それと比べれば今日の深夏は前のように・・・・前?
    前みたいな深夏ってどんなだっけ?
    最近深夏とはいろいろあったせいか、普段の深夏を思い出せない。多分今みたいな感じなんだろうけどほとんど思い出せない。まあ、今の深夏がまた違った意味で可愛く見えるのだが・・・・・・・・・・・はっ!?今俺デレた!?いかん!深夏が俺にデレる事があっても俺が深夏にデレるなんていかん!!
    「うえええええぇぇぇぇぇぇんっ!!!!!」
    そう取り乱していたら、遠くから子供の泣き声が聞こえてきた。
    「あれ?あの子どうしたんだろ?」
    俺よりも早く反応した深夏はその子の近くに行く。
    「うえええええええぇぇぇぇぇぇぇんっっ!!」
    近くまで行くとその声が凄くうるさく聞こえる。別に嫌味や皮肉で言ったつもりはない。ただこれほど大きな声で泣いているのに大人はおろかうちの生徒でさえ好奇の目で見ているだけだ。
    「ほら、どうしたんだ?泣いてちゃ分かんないぞ?」
    だけど深夏はそんな事を全く気にせず優しくそう言った。
    「うえっ!グ・・・・ッグじゅ!マ・・・・マとはぐれ・・・ひっくっ!!ちゃ・・・った、の・・・っ!!うぐっ!」
    「そうか〜、ママと逸れちゃったか。じゃあ、お姉ちゃんが一緒に探してあげるから、な?泣くの止めよう?」
    「うえっ!うええええええぇぇぇぇぇ!!」
    そう深夏が告げたのだが、感極まったのか何なのか知らないが、よりいっそう大きい声で泣き始めてしまった。
    「ほ、ほら、じゃあこれな〜んだ?」
    「えぐっ・・・へ・・・?」
    深夏がさっきまで残していた杏飴を差し出す。
    「あんじゅあめ・・・・・。」
    「これあげるから、泣くのやめよ?」
    「う、うんっ!」
    それを深夏は渡す。
    「お名前はなんて言うの?」
    「よしゆき・・・・桜井義行・・・。」
    「・・・・・・・・・・・・・。(汗)」
    作者の悪意を感じるのは俺の気のせいだろうか・・・・・?漢字が違うけど・・・・。
    「うっしゃ、義行だな?お母さん探そっか?」
    「うんっ!」
    暫くの間その迷子探しを手伝った。
    *
    「にしても意外だったな。」
    義行を何故か肩車した状態で深夏にそういう。
    「何がだよ?」
    「お前がこんなにも迷子の扱いが上手いのが意外だったんだよ。」
    「まあ・・・・・その・・・昔は真冬もあんなんだったからな。あたしがいても母さんがいなくなるとよく泣いて、その度にあたしが慰めていたしな。」
    「ふーん・・・そか・・・。」
    暫く無言の時間が訪れる。そうしたら、俺の肩に乗っている義行が揺すってきた。
    「おかあさんいた!」
    「「え!?本当か!?」」
    全く同じタイミングでそういう。
    義行が自力でパッパッと俺の方から下りてそのお母さんと所に行く。
    「ありがとう!おねーちゃん!」
    そういって深夏に抱きつく。すぐに離れたが・・・確実に深夏の胸に顔が当たったっていた気がする。全くうらやま・・・・ゲフン、けしからん子供だ。
    深夏は義行に向かって手を振っていた。
    「・・・・・深夏。良かったのか?」
    「へ?何がだよ?」
    「いや、俺は十分楽しんだけど、お前は義行にかまっていたからもう余り時間はないけど・・・・・。」
    時計を見ると既に四時半を回っている。五時に終わるからホントに後もう少しだ。窓からはやや黒ずんだ日差しが照らされている。
    「ほんとだ・・・・。」
    深夏がちょっと残念そうに言う。
    「じゃあさ、鍵。最後に、最後にもう一つだけ付き合ってくれるか?」
    *
    夕焼けに照らされ、秋の夕方にふさわしい景色が俺の眼前に広がる。
    また、そろそろ冬の季節を感じさせる冷たい風も吹いていた。
    深夏は俺と一緒に屋上にいた。
    「う〜っ・・・流石に寒いな。」
    「ごめん・・・・でも誰にも邪魔されない場所がここ意外に浮かばなかったから。」
    「いや、別にいいけど。で、最後に何したいんだよ?まさか告白か?そうかそうか深夏もようやく俺に対してデレてくれて―――――。」
    「そうだよ。」
    場を和ます為に言った言葉だった。だけどそれはたった一言によって粉砕される。
    深夏は夕陽をバックにして俺にそういった。
    ため息が出るほどに美しかった。
    だけどそれはあまりにも美しすぎて、怖さもあった。
    まるで異次元に迷い込んだかと言うほどに幻想的だった。
    黄昏色に照らされた深夏を前に俺は時が止まったように動けずにいた。
    「・・・・・・・・・・は?」
    その美しさと怖さと、そして深夏の真剣なまなざしを前にして俺はそれしか言えなかった。
    「あたしはもう逃げたりしない。」
    「・・・・え?」
    「・・・・・・鍵。」
    「・・・・・・。」
    何かを言って和ませるどころの話ではなかった。
    深夏のその顔を少し歪ませ、口を開ける。

    「あたしは、鍵の事が、好き・・・。」

    頭の中が一瞬にしてパンクする。深夏のその言葉が頭の中で何度も、何度もリフレインする。
    深夏から告白された。それしか頭に残らない。
    「い、っいやそれは・・・・・・・友達として・・・・なんだろ?」
    冗談やふざけの類ではないと分かっていてもとしかいえない。
    だけど深夏は真剣なまなざしで俺を真っ直ぐに見ていた。
    「・・・・・・・・ううん。あたしは鍵の事がその・・・・恋してるって方の意味で好きなんだ。」
    深夏の顔が見る見るうちに赤くなる。それは夕暮れの色のせいじゃないだろう。
    「始めは・・・・・・・勘違いだと思ってた。あたしが鍵の事を好きになるはずがないって勝手に決め付けてた。だから、ずっと苦しくて、胸の奥が痛くて、のどの奥が焼けるように痛くて・・・・・・・・・・だから鍵の事を意識しないと治まらなくてホント、死にそうだった。でもそれはそれでなんだか体の奥が熱くなるし、好きって気持ちが分かんなかったから何も出来なかった。お前は・・・・鍵は口ではハーレムとかそんな事ばっか言ってるけどホントは、あたしの事凄く大切にしてるんだなって、分かって・・・勿論昨日あたしの代わりに真冬とかがいても同じ事をしたんだろうけど、でもあたしは嬉しかった。こんなに大切にしてくれたなんて・・・初めてだったから。だから、あたしはお前が好きだって気付いて・・・・・だから・・・・・その・・・・鍵の事が・・・・好き・・・・・・なんだ。」
    深夏が言い終える。
    深夏・・・・・。」
    そう、静かに呼ぶ。深夏がピクンと反応する。まるで怯えている子犬のようだ。
    深夏にそう告げられてやっと分かった。今日一緒に学園氏を廻った時あんなに楽しかったのは、昨日押し倒してあんなにも心が鼓動したのは、

    「俺も深夏の事が好きだ。」
    結論に達したのと同時にそう言った。

    深夏が顔を歪める。大きな深青の瞳から涙が零れ落ちる。
    「あたし・・・だけじゃないんだ・・っ・・・鍵も・・・けんも・・・一緒・・・なんだ・・うくっ・・・ふああっ」
    一気に緊張が緩んだのか頭の中がごちゃごちゃになっているのか。
    「あたしっ・・・けんがすきなんだ、そうなんだ・・・・もう、ずっと、前から・・・違うあたしに・・・・なってたんだぁぁ・・・・・・」
    深夏はもう、顔をくしゃくしゃにして、泣いていた。
    子供のように。
    自分たちは一緒なんだって・・・・、あたしは鍵が好きなんだって。
    「〜〜っ・・・・!」
    抱きしめなきゃいけない!と痛烈に思った。
    それ以上―――に抱きしめたかった。
    「ふっ・・・・」
    初めて、この衝動を行動に移した。
    ピクッと深夏は硬直する。
    細く華奢な体躯。
    抱きしめたその感触だけでしびれる様に思った。
    深夏を、大事にしなきゃ・・・・
    「・・・・・・深夏。」
    「あ、ん。」
    軽く後ろ頭を抱き寄せ、涙を流していた彼女の目元を肩口に埋めるようにする。
    ふわり、と鼻先には髪のいい匂いがする。
    密着した体が互いの体温を伝える。
    「け・・・ん・・・。」
    「うん。」
    「・・・・・・・・。」
    冷たくなっていた深夏の耳が、俺の頬で熱さを取り戻していく。
    「こ・・・・こう・・・・?」
    硬直していた深夏はやがてささやきと一緒におずおずと手を回してきた。
    彼女の細い指先が俺の背中をつたう。
    それだけで、背中が怖いぐらいにざわついた。
    「こう、で・・・・・・いいの・・・・・?いいの・・・・?」
    「・・・・・・よかった。」
    「え・・・・・・?」
    「撥ね退けられたらどうしようかと少し思っていたから。」
    「そ、そんなこと・・・そんな事考えててっ・・・そんな怖い事考えていて・・・どうしてこんなこと出来たんだよ?」
    「・・・・深夏にこうしたかった。」
    「・・・・・・・・。」
    「こうしたかった・・・・ずっと・・・。」
    「ぅく・・・っ」
    ぎゅっ、と。
    深夏の手が震えながら力をこめた。
    「・・・・・・・うん。」
    ささやいて・・・・俺の肩に顔を埋めた。
    抱く手に俺が少しでも力をいれるなら、深夏も手に力をこめてぎゅうぎゅうと体をおしつけてきてくれる。
    「うん・・・して・・・。あたしも・・・する・・・・されたい・・・。」
    深夏と、抱きしめ合っている。
    好きな女の子と抱きしめ合っている。
    世界がまるで、
    彼女と触れ合っているところだけになったみたいだった。
    「は、ぁ・・・・。」
    彼女の体から、次第に強ばりがぬけていく。
    俺たちは柔らかく一つになる。
    ああ、そうか・・・・。
    こうして互いに抱き寄せているからこそ、こんなに嬉しくてくすぐったい気持ちになれるんだから。
    「深夏・・・。」
    「・・・・・・・・・・うん。」
    見詰め合う。
    それは数分前とは何もかもが違う。
    彼女の潤んだ瞳も。
    まだ俺に伸ばされている手も、指先も。
    愛おしい形に・・・・・・・・・・・なっていた。
    *
    夜。
    俺はいつもどおり家にいた。
    深夏が俺の部屋にいると言う事さえを抜けば・・・・。
    「・・・・・・・。」
    「・・・・・・・。」
    ふう、まあ落ち着け俺。告白した後に男女が夜こんな事になるのは至極常識的なことなんだ。
    「あの・・・・鍵・・・・?」
    「うぁいっ!!?」
    緊張していたせいか、裏声が出てしまう。
    「あ、あの・・・その・・・・えーと・・・これは、つまり・・・・。」
    「ん?」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・するの?」
    「ぶふっ!!」
    深夏の直球な物言いに思わず吹き出してしまう。
    「だ、だって、け、鍵は、その、あれだしっ・・・盛んな年頃と言うか・・・あ、あたしもそんなやぶさかではないと言うか・・・っ」
    「ん・・・まあ、そりゃ、その・・・・確かに俺は深夏とそういうことをしたいと毎日のように毎晩考えていたんだけども。」
    「ま、毎晩も・・・・。」
    「で、でも、その、帰って来て・・・てか、付き合い始めていきなりするのは、深夏の心の準備がだな。」
    「その・・・・準備は・・・・してきた・・・・けど・・・。」
    「・・・・・・・・・・は?」
    「だから・・・・その・・・・したいなら・・・・い、嫌ではないと言うか・・・・・。」
    「う、うぐっ・・・・」
    「って!?な、なんで半べそになってるんだよ!?」
    「う・・・・っ・・・すまん・・・・・じゃあ、深夏。」
    「うん・・・・好き、鍵。」
    「俺も、好きだよ、深夏。」
    俺は深夏をぎゅっと抱き寄せる。
    そしてどちらともなく、キスをした。
    「ぅん・・・・・・っちゅくっ・・・・・・んふ、んんぅ・・・・あふぅ・・・・んむっ・・・・」
    深夏を抱きしめてベッドに寝転がり抑えきれない思いをこめてキスを交わす。
    「んはぁっ・・・・ちゅ、ちゅっぷ・・・・ん・・・・んむっ・・・はぅ・・・・ッんぁ・・・・・ふぅんっ・・・・」
    口の中を舐めあい、舌で深夏の口を味わい、つばを絡めて舌に吸い付ける。
    ただ舐めあっているだけなのに、凄く気持ちが良かった。
    「ん・・・やっ・・・・・むぅ・・・・んっ・・・はぅっ・・ちゅっ、ちゅる・・・んんぁっ・・・」
    深夏の顔が少しずつ朱色に染まり、声色もなんだか艶かしくなっている。
    自分でもなんだかよく分からないうちに、俺の手は深夏の胸へと伸びていた。
    「ん・・・・ぁ・・・っ」
    「あ・・・・・ごめん・・・。痛かったか?」
    「へ?あ、いや・・・別に、大丈夫・・・・。ちょっとしびれた感じがしただけだから・・・。」
    「あ・・・・ああ、そうか。」
    気付いたら、俺の腕はかすかに震えていた。
    落ち着け、落ち着け俺・・・・・焦る分だけ長くなりその分だけ深夏がいたい思いをする・・・・・・・・・。
    自分の手を押さえそう念じる。
    「・・・・・・鍵?」
    「・・・ごめん・・・続けるな?」
    「・・・・・・うん・・・いいよ。」
    深夏の胸に手をかけ今度はしっかりと揉むように触る。
    「あ・・・・・ぁ・・・・ん・・・っ」
    深夏は極力声を出さない様にしているが、それでもかすかに喘ぎが聞こえる。
    「深夏・・・・その・・・・脱がしても、いいか?」
    そう言ったら深夏の顔が明らかに羞恥により赤く染まる。
    「・・・・・・・・ぅ・・・・・・ん・・・・・。」
    本当に微かな声で肯定をしてくれた。
    俺は、深夏の服のボタンを一つ一つ外していく。
    やがて白い肌と緑と水色の縞々のブラが目に入った。
    「その・・・・っ勝負下着とか・・・分かんなかったから・・・・可愛いのを・・・一応選んだんだけど・・・・・っ」
    「あ、ああ・・・似合ってるよ。深夏。」
    女性に下着が似合っているというのもどうなんだろうと言う気がする。
    ブラ越しに胸を触ってみる。
    固定されているせいか、そんなに激しく触っても形は崩れはしない。だけど、この世にこんなに柔らかい物があるのかというほどに柔らかかった。
    「ん・・・っ・・・は・・・んっ・・・ふ・・・・ぁ・・・・あ・・・・・んっ・・!」
    深夏が必死に声を押し殺している。
    それが俺を激しく責め立てられる。
    「んああっ!・・・やっ・・け・・・ん・・・ッ・・・ぅくっ・・だ・・・めっ・・・そこ・・・は・・・ぁ・・・っ、ふああっ!!」
    もっとも敏感であろう、深夏の双眸の一番上にある小さな突起を摘む。
    「んあっ!!・・・や・・・・ぁっ!そ・・・こ・・・クリクリするの・・・ッ!!あっ・・・あっ!」
    ブラ越しとはいえど、声を押し殺すのも忘れ凄く感じている。
    空いている方の手で恐る恐る深夏の秘部へと手を伸ばす。
    「っ!!ひああぁっ!!」
    ビクンと体を仰け反らして、大声を上げる。
    指の腹で深夏のそこを虐めるかのように、押し付け擦り付ける。
    「あっ!!・・・ああぁっ!!・・・んぅ・・っ!!は・・ぅっ・・んんっ!!や・・・んっ!!」
    一回押すたび、一回擦り付けるたびに深夏のそこからは淫らなシミが下着に広がる。まるで壊れた蛇口の様に愛液が溢れ出てくる。
    俺は堪らなくなり、上も下も下着をずらし直接触る。
    「あっ!?ひゃっ・・・っ!!くぅ・・・・っんぅっ!!け・・・ん・・・ッ!!や・・・ぁ・・・駄目・・・ッ!!ふあっ!?んあああぁっ!!」
    深夏のその快楽の叫びにより、俺はより嗜虐的な態度になる。
    秘部の中に自分の指を入れる。
    「っ!?へ・・・!?あっ・・・や・・・鍵、そこはっ・・・だ・・・っめ・・ぇ・・・っ!ふあああっ!!」
    「うわ・・・・・深夏・・・すご・・・暖かくて、ぬるぬるしてる・・・。」
    「やぁっ・・・!!そんな事・・・言うなぁ・・・ッ!!ああっ!!・・・・動かしちゃっ・・・・・・・ひゃんっ!!ふぁっ!!んううぅっ!!だ・・・め・・・・そこ・・・はっ・・・!!ああんっ!!」
    自分の指をピストンの様に出し入れを繰り返す。擦り付けていた時の比ではないほど、愛液が流れ出てくる。
    だが・・・・・深夏の表情には快楽以外にも感情がある。
    それはおそらく指を入れた事による・・・・・・痛みだ。
    「深夏・・・指・・・・痛いか?」
    と優しく聞いてみる。ここで痛いようだと、絶対に挿入は酷い事になる。初めてが痛い位は俺だって知っている。
    「ぅ・・・くっ・・・だい・・・じょぶ・・・・んっ・・・・・ちょっと・・・お腹の中が変なだけで・・・痛くは・・・・・ないっ・・・はぁ・・・んっ!!」
    「本当か?もし痛くなったらすぐに言えよ?」
    「う・・・んっ・・・・わかっ・・・・た・・・っ」
    深夏は安心開いたのか膣の緩み具合が緩くなる。だから俺は指をより中へと侵入させる。
    「あっ・・・んあっく・・・ぅんっ!!そんな・・・おく・・・つい・・・ちゃっ・・・あぁんっ!!うああんっ!!」
    深夏の膣を掘り返すように指を動かす。
    ぎこちない、指の動きで優しく動かす。
    「んあああぁっ!!あっ!!ああぁっ!!だ・・・めえぇぇっ!!な・・・なんか・・うあっ!!こ・・・れぇ・・・きっ・・・そ・・・うっっ!!・・・っ!!・・・な・・・・なんか・・・だめっ!!あっ・・・ダメェッ!!あっ!!・・・あああっ!!?」
    深夏の体・・・・敏感な所が特に痙攣をし始める。
    「んあああっ!!?や、は・・・っ!!・・・や、だ・・・っ!!ああっ、お、なか・・・震え・・・てっ・・・・やはぁっ!!ああっ!!やっ・・・こ、これ・・・っ!!ん、くっ・・・・んっ!!な・・・なんかっ・・・くる・・・っ!!きちゃっ・・・・・うよぉっ・・・・!!!!や、あっ・・・・ふああああああっ!!!!」
    深夏の鼓動は少しずつ速まり秘部はぴくぴくと震える。目は虚ろになりかけ、喘ぎは官能じみた声になる。
    要はイきそうだ。多分、深夏にとって初めての果てるという行為。『初めて』というだけで、深夏の精神を追い詰めるのは楽だった。
    「あっ!!!あ、あああっ!!!!け・・・・もっ・・・!!駄目・・・っ!!!くうぅんっ!!!!は、や・・・・・・っ・・・イく・・・っ!!あっ!!!!ああああ!!!!!んあああああああああっ!!!!!!」
    深夏が背中を大きく仰け反らせ、絶叫する。
    明らかに・・・・・・・果てた。
    ぐったりし目を閉じたまま、息荒く呼吸をする。
    「だ、大丈夫か?深夏・・・・?」
    ゲームの中の知識と言えど、これほどによがるのはエロゲーでも見たことはない。
    少し心配になってそう聞いてみる。
    「・・・・・・・・・・もぉ・・・・・死にたい・・・・・。」
    凄く真っ赤で凄く泣き顔でそう言われた。
    安心したと同時に凄く下半身に異常があるような気がする。
    「・・・・・ぁっ・・・・・。」
    深夏もそれに気付いたのか小さく声をあげる。
    「み・・・深夏・・・・。その・・・・・・挿れても・・・・・・いいか?」
    「・・・・・・・・・・・・・・・うん。・・・・いいよ、鍵。来て、あたしも鍵の事が欲しい・・・・。」
    *
    自分の物をズボンのジッパーを開け出す。
    大きく反り返っているそれは一刻も早く深夏を求めるように急かしている様だ。
    だけど深夏はともかく、俺の方は挿れるために全く何もしてない。
    自分の物を俺は深夏のそこにあてがい、愛液が絡み付ける様に擦る。
    「ん熱っ・・・!?・・・え、も、もしかして・・・もう入ったの?」
    「い、いやまだ当てただけだけど・・・・。」
    「そ・・・そうか・・・そうだよな・・・・最初はその・・・・痛いらしいし・・・。」
    そういわれ、擦り付けるのを続ける。
    お互いに触れ合わせた生殖器があふれ出した愛液のおかげで抵抗無く滑らせる事が出来る。徐々に、滑りのある液体に絡みつかれ包まれていく。
    「ん、んふぅっ・・・・んっ、あっ・・・・・はふぅ・・・っ・・・ん・・・っ・・・」
    秘部にこすり付けられ深夏は興奮しているのか、粘液のぬめりは熱さを増している。
    腰を動かすたびに、クチュクチュと音が鳴り非常に俺も興奮してくる。
    俺は角度を変え、位置を変え、やがて自分の物が濡れていると確認する。
    「じゃ・・・じゃあ深夏・・・挿れるぞ?痛かったりしたら・・・すぐに言えよ?」
    「う・・・うん。わかった・・・。」
    それを深夏の入り口まで近づけ、少しづつ入れていく。
    「あっ・・・・ぐっ・・・・う・・・・んっ・・・・・」
    さきっぽまで挿れて深夏の顔色を伺い止める。
    「大丈夫か?痛くないか?」
    「だい・・・じょぶ・・・・・う・・・・く・・・・ッ」
    明らかに痛そうだった。笑ってはいたが凄く歪な作り笑いだった。
    でも、俺は深夏の言葉を信じて少しずつ押し進める。
    「ん・・・・・・ぐっ・・・・・ああっ・・・く・・・・うあ・・・・・っは、あっ・・・・・んっ」
    官能と痛みの入り混じった声が聞こえる。だがそれも一cm、一mmと進めるごとに痛みが占めていく。
    「ぐ・・・・うう・・・っん・・・・・あ・・・・ハ、く・・・はぁ・・はぁ・・・うあ・・・っ」
    やがて膣の中は乾き、滑りによる助けも無くなる。
    「・・・・・・・う、あ・・・っ!!い・・・っ・・・・!!ああっ・・・!!」
    ぶちぶちっとした何かを引き裂く感触がし、それと同時に深夏の膣内から血が出てきた。
    「うあ、あ・・・!!ひっ・・・く・・・!!く、ううっ・・・!!ああっ!!うあああっ!!く、う――――っ!!」
    「み、深夏・・・・ッ」
    明らかに痛そう・・・いや、明らかどころじゃない。絶対あれは痛いはずだ。声から、表情から分かる。
    「―――――――――っ、ひ・・・っ!!んあっ・・・・・!!だ・・・・だ、い・・・じょ・・・ぶ・・・・だいじょぶ・・・だからっ・・・・いっ・・・・・あっ!!」
    何が大丈夫なものか。声にならない叫びを上げて痛そうじゃないか、そんなに苦悶の表情を浮かべるくらいなら拒絶して欲しい。俺は、痛めつけるためにこんなことしてるわけじゃない。だから・・・・お前がやめろって言うなら・・・・・嫌だって言うならすぐにでも止めれるのに・・・・このどうしようもない俺に歯止めが掛けられるのに・・・・なんでだよ・・・・。
    「何で・・・お前は・・・・ここまでしてくれるんだよ・・・。」
    思わず声に出ていた。
    「――――だよ・・・っ。」
    「へ・・・・?」
    「好きだから・・・・っだ、よ・・・っ。鍵の事が好きで・・・・っ好きで、堪らなくて・・・・鍵にだっ、たらなんだってしてあげたいって思ってるから・・・だよ・・・っ」
    何でお前はそんな事が簡単に言えるんだよ。
    「・・・・・・・いいのか?」
    「う・・・っん・・・・・あたりまえっ・・・・だっ・・・・。」
    「分かった・・・・・ありがと・・・深夏。」
    だけど俺はお前にだけ痛い思いをさせる気はない。
    お前も気持ちよくなって欲しい。
    それがきっと一番俺たちにとって正しいから。
    そう思った。
    上体を逸らし深夏の乳房にツンと勃っている突起を口に含む。
    「んふあっ!?や・・・・・け・・・んちょ・・・や、め・・・・っ!!んあっ・・・っ!!」
    深夏から痛みが少しだけなくなる。膣内はぬめりが少しだけとりもどされ、暖かくなっていた。
    「や、あっ!・・・・そんな・・・・舐め・・・ないで・・・よ、う・・・っ!!ふ、やぁっ・・・!!」
    次第に動かしやすくなり俺はなるべく傷つけぬ様に奥まで入れる。
    「んあっ!!これ・・・こん、な・・・だめ・・・っ!!い、や・・・気持ちい・・・のが・・・きて・・・んあああっ!!」
    自分の物を膣内の奥まで入れる。
    「ひは、ふ・・・おふはへ・・・はいっはぞ・・・・。」
    「や・・・あっ・・・!!舐めた・・・まま喋る・・・っ!なっ!!ひ・・んっ・・・く・・・っ!!ぁっ!!」
    腰を動かし前後に動かそうとするが、すごい締め付けでまともに動けない。動こうとするだけでこっちは軽く絶頂を迎える。
    「んんっ!!あ・・・ヤ・・・あっ!!これ・・・なん・・・かっ!!すご・・・ひあっ!!んっ!!熱いのが・・・あたしの・・な、か・・・ビリビリ、してっ・・・!!っあああんっ!!」
    さっきまで痛みを浮かべていたのとは大違いで深夏は非常に悶え狂っていた。
    「ん・・・ふ、くぅ・・・っ!!あ・・・・あた、まの・・・っな・・・か・・・・がっ!!うあっ!!しびれ・・・・てっ!!おか、ひっ・・・・・おかしくっなり・・・そっ・・・ううぅんっ!!も・・・これ・・とまら・・・な・・・っ!!あうんっ!!あっ・・・!!ふ・・・くぅんっ!!あっ、くんっ!!うあんっ!!そ・・・それすご・・・っ!!あっ・・・あんんっ!!」
    「ごめ・・ん、みなつ・・・俺も・・・そろそろ・・・でそ・・・うっ・・・!!」
    「うん・・・ッ!!け・・・けんのっ!!だ・・・してっ!!あた、しの・・・なかっ・・・にぃっ!!んふあっ!!うあっ!!くぅっんあっ!!いっぱい・・・・いっぱい・・・・・だし・・・んあああっ!!あ・・・も・・・・あたひ・・・もっ・・・!!!イき・・・そっ・・・!!んんあっ!!」
    「ぐ・・・・ぅっ・・・う、あっ!」
    どびゅっ!!びゅるるるっ!!
    俺の目の前が一瞬ホワイトアウトし自分の物から精子を出す。
    「あっ!!ふああああああっ!!!ああああぁ――――――っ!!!!!」
    俺がそれを出した後、俺も深夏もぐったりと倒れた。
    *
    「ううぅっ・・・・まだひりひりする・・・・・。」
    「いや・・・だから、ごめんて言ってるだろ?」
    事が終わり、深夏は俺のTシャツだけを着たまま俺と同じベッドで寝ている。
    うっすらと体のラインが分かりそうだが、深夏が微妙に隠しているせいで良くわからない。
    まあでもあんな事の後だから当たり前か。
    「・・・・・・・このTシャツ鍵の匂いがする・・・・この布団も・・・・。」
    「まあ俺のだからな・・・。」
    「凄く、いい匂い・・・・。」
    「お前はいつからフェチになったんだ。」
    「な、なってねーよ!そんな別に・・・・匂いフェチになんか・・・。」
    「・・・・誰も匂いなんていってないけど?」
    「・・・あっ!け、鍵!!お前ハメたな!!」
    「いや、自爆したのはお前の方だろ?」
    「そ・・・そうだけど・・・・。」
    ちょっとだけ深夏がしゅんとする。
    「まあでも安心しろ。匂いフェチのお前でも俺は好きだから。」
    「だから・・・・匂いフェチなんかじゃ・・・・。」
    顔を赤くして布団の中に顔を隠す。
    「・・・・き・・・。」
    「ん?何か言ったか?」
    「何にも・・・言ってない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おやすみっ」
    (逃げたな。)
    まあでも、こんなに近いところに好きな人がいて一緒に寝れるのは凄く幸せなのかもしれない。
    そう、凄く思った。
    「俺も好きだぞ、深夏。」
    「や、やっぱり聞こえてんじゃねえかよ!!?」
    「あー聞こえない、聞こえない。おやすみなさ〜い。」
    「もぉ・・・っ!!鍵のばかぁっ!!」

最終更新:2010年04月08日 21:04