それは、淡い雪が降り積もり、窓の外が真っ白になっている日のことだった。
    イベントに進まないという致命的エラー発生中の真冬ちゃんがあせったような口調で話しかけてきたのは。
    「先輩…」
    会長は、なんか騒いでいたが、巧みにかわして真冬ちゃんとの会話に入る。
    そりゃあ、好感度MAXのキャラクターとのほうか会話しやすいだろ。
    会話をしようと、真冬ちゃんのほうを向く。
    熱があるかのように、頬を真っ赤にさせ、視線を宙に泳がせながら、みかんを食べている真冬ちゃん。
    やべ、ちょっと萌えた。
    すると、隣に座っていた深夏が、嫌悪の色を込めて睨んできた。
    「こういうときなんだよな、鍵に殺意が湧くの」
    人の心を読むな。
    エスパーか。
    「あたしは守じゃねえ」
    目の奥の暗い色が、どす黒い赤に染まり始めた。
    このままのノリで行くと殺されそうなので、撤退撤退。
    「で、真冬ちゃん、どうしたの?」
    相変わらずの、赤い顔。
    照れ隠しなのか、下を向きながら真冬ちゃんは言った。
    「放課後、生徒会室に残ってくれませんか?」
    フラグ到来したぁああああああ!
    笑顔を作りながら、返事をする。
    「もちろん、いいよ」

    盗み聞きしていたのだろうか。
    会長が、不審そうな顔をする。
    「まさか杉崎、真冬ちゃんに変なことしないでしょうね」
    にやにやと笑いながら返す。
    「もしかして…嫉妬ですか?会長」
    一瞬にして耳まで赤くなる会長。
    それを携帯で激写する知弦さん。
    そんな知弦さんを見て、何か言いたそうにしていた深夏は、あきらめたのか言葉を出さなかった。
    一方、会長は。
    「そそっそっ、そんなわけにゃいじゃない!」
    噛んでいた。
    知弦さんはそれを瞬間的に携帯の録音でとらえると、満足したかのように大きく息を吐いた。
    そして、俺に話しかけてくる。
    「キー君、あんまりアカちゃんいじめちゃ駄目よ」
    なんか、ツッコミをしても、泥沼にはまる気がしたので、ツッコミはしなかった。
    知弦さんに喋りかける。
    「今日は、活動いいんですか?」
    知弦さんは、そんな俺を見てクスリ、と笑う。
    「たまには、休む日があってもいいじゃない」
    毎日休んでるように感じるのは俺だけらしい。

    そんなこんなで、いつもの生徒会の時間は流れ。

    「じゃあ、また明日ね、杉崎」
    「また明日、キー君」
    「真冬に手を出したら殺す」

    …一人、挨拶じゃなかったのは気のせいだろう。


    ・ ・ ・

    放課後、二人だけの教室。
    「キス…、してください」
    真冬ちゃんが俺にかけた言葉は、そんな感じだった。
    ん?
    キス、してください?
    「おお、エラー、治ったんだね」
    パニックになった頭で考えた必至の返答。
    「冗談じゃないんです!」
    真冬ちゃんが、こぼす涙。
    夕日が差し込み、二人の影を濃く映し出す。
    真冬ちゃんが流した涙が、オレンジ色に染まって、地面に落ち、弾けた。
    「…ごめん」
    むすっ、としてでもどこか嬉しそうな真冬ちゃんの顔。
    しまった、と思った時にはもう遅かった。
    「ふっふー、まんまと罠にはまりましたね」
    背の高い俺に向かって、顔を上に向け、目を閉じる真冬ちゃん。
    「あやまるぐらいなら…、キス、してください」
    白い肌と、羞恥で染まった赤い頬。
    ぷりっ、とした淡いピンクの唇。
    もう、限界だった。
    思いっきり真冬ちゃんを抱き締めて、俺は、キスをした。
    貪るように、吸い取るように。
    「…んっ!」
    目をつぶっていたせいか、俺の行動が読めず、戸惑う真冬ちゃん。
    だが、すぐに俺に身を預けてくれた。
    「ん…ふぁ…」
    「…く…」
    甘い。
    いろいろな味…。
    そして何よりも、真冬ちゃんの味がした。
    自分の顔が、今更ながらに赤く染まっていくのがわかる。
    そろそろ呼吸も限界なので、俺は、真冬ちゃんから体を離すことにした。
    「…ぷはっ、はっ、はー」
    「けほっ、けほ」
    真冬ちゃんは、空気のなくなり方が激しかったようだ。
    軽く咳こんでしまっている。
    真冬ちゃんは、せき込みながらも、にこり、と笑って告げた。
    「実は真冬、ファーストキスなんです、先輩とのが」
    そりゃ、そうだろう。
    「そうじゃ無かったら悲しいよ」
  ここで、またほほ笑む真冬ちゃん。
    今度は、何か秘めていそうな笑み。
    「先輩は、年が一つ違う後輩に、求愛行動をしたんですよ?わかってますか?」
    さーっ、と引いていく血液。
    「私は、その求愛行動、しかと受け止めましたよ」
    じり、じり、と俺に近寄ってくる真冬ちゃん。
    がしり、と肩を掴まれた。
    「生活費とか、お願いしますね、あ・な・た」
    「いやぁぁああああ!!!!!」
    こうして、俺は真冬ちゃんの生活費を支払うことになってしまった。
    でも、悪い気はしない。
    あんなかわいい子の、ファーストキスを奪えたのだから。



    E N D

最終更新:2010年04月08日 21:13