そう。あれは俺と林檎、……飛鳥が共に過ごした、最後の、幼馴染たちの夜。
    「せーのっ」
    『ふぁっきん、ゆー!』
     妹はまた、ぐれた。
     今日は12月24日、クリスマス・イブだ。父さんと母さんは月に一度のデートの
    日以外に毎年の今日、クリスマス・デートとして出かけていった。それと引き換
    えでもしたかのように『今日は両親とも共働きだ。だから邪魔をするぞ』と飛鳥
    が俺の部屋の窓から入室。しかも邪魔の限度をはるかに上回る悪戯を施しやがっ
    たあの女。
     今のリビングには
     母さん手作りのごちそうが卓上に。
     母さん手作りのクリスマスケーキが冷蔵庫の中に。………そして。
     林檎と飛鳥手作りのクリスマス・ツリーが窓辺に。
    『ふぁっきん、ゆー!』
     ……先ほどの話の続きに戻らせていただく。こうして執筆をしている間も林檎
    と飛鳥は『ふぁっきん、ゆー!』などとでもいっている。俺は汗という名のモノを
    ダラダラとすでにかいていた。
    「あ……すか…………?」
     俺は問う。
    「なんだ?ケン。この飛鳥様になんでも聞くがいい」
    「林檎に……何を教えたんだ……………?」
     すると
    「さぁ?」
     この野郎……っ!!!
     拳をぐっ…と握り締めた。
    「てンめぇ……」
     飛鳥に拳を振りかざ――――――――――
    「やめてっっっ!!」
      ――――――――――せなかった。
    「林……」
     よく見ると、林檎の目には大粒の涙が。ぽろぽろ溢れてくる。
    「折角のクリスマスなのにおにーちゃんも飛鳥おねーちゃんも……ケンカは…
    …やめ……」

                    沈黙。

     ぐすっ……ひっく…、と林檎の泣き声だけが聞こえる。冗談だったんだが…
    。飛鳥をふと見ると、俺の視線に気付いたのか苦笑いした。俺もそうした。
    「林檎。私たちは喧嘩はしてないから…泣きやんで。おにーちゃんが悲しむぞ
    …?」
     すると林檎はパァッ…と笑顔を見せ、服の袖で涙を拭いた。
    「うん!!!」

    後日。

    「なんっ……だこれはぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ」
     俺の部屋に盗聴器がこのまえの倍、取り付けられていた。
    「あすかぁ――――――――――――――――――――――――!!!!」

最終更新:2010年04月10日 21:54