この世界には≪魔武器≫が存在し、それに選ばれし者は≪魔法≫を使えるようになる。生徒会役員である椎名深夏、およびアンチ生徒会である『十人生徒会』は≪魔力≫を持っており、≪魔法≫を使うことができる。
だが、無条件に使えるわけではなく、強力な≪魔法≫であればあるほど、その代償としての≪制約≫は大きい。
それは、≪魔法≫を用いた戦闘の際は必ず、『かっこよく』闘わなくてはならないというもの。
そう、かつての英雄たちが活躍した伝記や神話のように、正々堂々、華々しく、熱く戦わなくてはならない。
≪魔力≫を持つ者はその≪制約≫によって≪魔法≫、さらには身体能力が制限されてしまう宿命を負っているのだ。
つまり、この世界には≪魔力≫だけでなく、総合的な戦闘力を左右する≪パラメータ≫がある。
これは『武士道』『英雄力』『パワーオブジャスティス』など、時代や場所に伴う価値観の変化によって重視される事柄は変わり、当然、名称も変化し続けてきた。
そして今やその『かっこよく』を表す≪パラメータ≫はこう呼ばれている。
≪中二力≫と。
≪中二力≫とは、いわゆる中二病な行動や、中二病作品にありがちなことをすると上昇するパラメータで、これの上昇・下降は戦闘に大きく影響する。
さらに≪中二力≫は次の戦闘に持ち越すことができる。
≪中二力≫アップ項目(一部)
・見た目はカッコよく。
・自分に「二つ名」を付ける。
・武器や技にもそれっぽい名前を付ける。
・自分の能力を相手に説明する。
・最初からは全力で戦わず、逆転劇を演出するようにする。
・「背中ががら空きですよ」
・誰かを攻撃から庇って、傷つき倒れる。
・負けそうな時、あるいは大技を繰り出すときに回想を挟む。
・敵にとどめは刺さない
≪中二力≫ダウン項目(一部)
・最初から全力
・不意打ち、闇打ち、人質、背後を攻撃(ただし、「卑怯」キャラはその限りではない)。
・遠距離狙撃
・「これで終わったな」
・一人を集団で攻撃
・弱者をいたぶる
などなど。これらはほんの一部であり、後付け設定が出てくるかもしれないがそれは作者の都合だと思って許してほしい。
風吹き荒れる屋上に、一人の少女と一人の大柄な男が対峙していた。
二人の間にはピリピリとした空気が張り詰める。
「ずいぶん俺たちを嗅ぎまわってるようだな。生徒会副会長・椎名深夏」
「アンタが『十人生徒会』か」
「そうだ。俺がアンチナンバー7、『恐喝のリキヤ』だ。
俺たちは今の堕落した生徒会を駆逐し、新たな生徒会でこの学園をもっといい方向に導こうとしている。それを邪魔するというなら、容赦はしねえ」
リキヤは筋骨隆々の男で、首からは緩いネクタイと十字架を模った銀のネックレスがぶら下がっている。あ、これ伏線ね。
「あたしにはこの生徒会を、この学校を守る役目がある。悪いけど、倒させてもらうよ」
だったら二人とも真正面から挑むなよというツッコミはあるだろう。
しかし≪中二力≫
バトルはすでに始まっている。もしこれが不意打ちや数で圧倒するなど姑息な手を使えば、自分の≪中二力≫は下がる。しかも相手が「こんな卑怯な手には負けない!」と正義の味方っぽく叫べば≪中二力≫は上昇し、簡単に姑息な手段を突破してしまうだろう。しかもその突破の勢いで攻撃されては、≪中二力≫の下がった自分はひとたまりもない。
ゆえに、周りくどいようだがタイマンにならざるを得ないのである。
「それから、今のあたしは『椎名深夏』じゃねえ」
ビシッと相手を指差し。
「正義を愛する世紀末の救世主・閃閃風神。またの名を『ディープサマー』だ!!!」
あんたはいくつ呼称を作れば気が済むんですか。とにかく、ここで深夏の ≪中二力≫はアップし、≪魔法≫を使うには十分になった。
深夏は居合抜きの構えを取って叫ぶ。
「『倒魔神浄』!!!」
光とともに深夏の手に≪魔武器≫である、鞘に包まれた日本刀が握られる。それはすべての≪魔法≫を切り裂く(深夏曰く)伝説の刀。名前の由来はもちろん某幻想殺しの人。ちなみに刀のイラストは10mo版漫画を参照してほしい。
「ふん、ならば潰すまでだ。『恐喝のリキヤ』の恐ろしさ、骨の髄まで味わえ」
対するリキヤも≪中二力≫を高めたのち、右手右足前の剣道の型を作り、叫ぶ。
「『業火紅蓮』!!!」
手にするは80㎝ほどの両刃の大剣。しかしリキヤは軽々と構えている。
先手必勝、とばかりに深夏が気合いとともに袈裟切り。
「おらああああああっ!!!」
それをリキヤは剣で受け止める。
「ふん、軽いな」
つばぜり合いにすらならず、深夏ははじき返される。
「くっ・・・」
数歩下がって深夏は距離を取る。
「どうした、ディープサマー、それで本気か?」
「そっちこそ、本気じゃねえだろ」
「なに?」
「あんたはまだ手を抜いてる。そうだな・・・例えば、そのネックレスが拘束具になっている。違うか?」
ここで深夏はリキヤの≪中二力≫ダウンを狙う。
そう、≪中二力≫バトルにおいて逆転劇を演出する常套手段として封印具・拘束具を使用することが多い。しかしこれは、サプライズだからこそ効果があるわけで、先に「それはパワーアップのカギだ」といってしまわれては効果が半減である。
しかし
「くっくっく。残念だったな。これはただの飾りだ」
そう言ってリキヤはぶち、とネックレスを外して放り投げる。
「なん・・・だと・・・」
深夏の読みが外れた!これはカッコ悪い。ゆえに≪中二力≫はダウンした。
対してリキヤは余裕の笑みを浮かべて。
「じゃあお前の場合は、その髪止めか?」
「くっ」
言われた通り髪留めをはずす。
ゴゥッ
とSEがつきそうな感じで深夏からパワーアップっぽいのオーラが出る。
「ばれちゃあしょうがねえ。そう、この髪止めによってあたしの力は半減されていたのさ!」
ここでパワーアップ+美少女度増加により≪中二力≫がドーンとアップ!
深夏は髪をなびかせ、刀を構える。
「こっからが本番だ。目ぇ閉じるんじゃねえぜ」
刹那、リキヤの視界から深夏が消える。
「・・・!どこに・・・!」
驚愕するリキヤの左首すじに、背後から刀があてがわれる。
「遅えな」
深夏の低い声が響く。
ここで深夏の『背後を取ったけど攻撃しない』が発動!≪中二力≫がアップした!
「ちっ!」
リキヤは急いで回旋し、刀を剣で払いのけ、再び深夏と正面に対峙する。
「しゃーねえ。こっちも本気でいくぜ!」
シュル、とネクタイを外す。
「俺はこのネクタイで≪魔力≫を80パーセント制限されていた。つまり・・・」
リキヤは剣を上段に構える。
「今の俺の力は・・・5倍だ。『業火紅蓮』壱の炎・『焦土』!!!」
振るった剣には真っ赤な炎が纏い、そのまま火柱が深夏を襲う!
ちゃんと技に名前を付けてるところが≪中二力≫アップ。しかも『壱』とか言っとけば『まだ全力じゃないですよ』アピールが可能でさらなる相乗効果を生みだす。
ちなみに『剣なのに結局火炎放射で攻撃するの?』というツッコミはこの際無粋である。
「すべてを、ぶった斬れ!『倒魔神浄』!!!」
深夏の刀はすべての異能の力、もとい、≪魔法≫を真っ二つに切り裂く。
「ならば、『業火紅蓮』弐の炎・『灰塵』!!!」
今度は黒い炎を発生させる。『黒』ってやっぱ強そうだよね。
「くっ!『倒魔神浄』が押されている!?」
放たれる炎を分断しながらも、じりじりと深夏は後退する。
「はっはっは!もう終いか!?」
高笑いをするリキヤ。
しかし深夏はあざ笑うかのように、
「確かに、今のあたしは封印具をはずしている。だが・・・」
深夏はニヤリと笑う。
「誰がその全力を出してるって言った?」
ここで『逆転劇の演出』により、深夏の≪中二力≫がアップした!
そのとき、『倒魔神浄』の刀身がまばゆい光に包まれる!
「うおおおおおおおおおおおおお!切り裂けえええええええええええええええええ!!!」
深夏は敵目指して一直線に突き進む!
負けじとリキヤも≪中二力≫アップのため大技を繰り出す。
「参の炎・『末梢』!!!」
青い炎。それは完全燃焼による効率のいい高温の燃え方。
深夏の周囲を覆う炎はすべてを蒸発させんとする勢いであった。それでも深夏は刀で炎を捌くしかなかった。
「ぐああああああっ!断ち切れねえ!」
しかし、二人の間には決定的な差があった。
リキヤは技に全神経を集中させていたが、深夏は違った。頭の片隅で、最後の≪中二力≫アップの方法、
―――回想をしていた。
(真冬・・・会長さん・・・知弦さん・・・鍵、はどうでもいいか・・・2年B組のみんな・・・そうだ、あたしはこんなところで負けるわけにはいかねんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!)
深夏の≪中二力≫が大幅にアップした!
「うおおおおおおおおおおお!」
「こいつ、まだこんな力が!!!」
リキヤも≪中二力≫アップのため慌てて回想を試みる、しかし、技の集中力を他に向けたが最後。深夏の最大攻撃を受けとめられるはずもない。
「おらああああああああああ!ぶった斬れええええええええええええ!!!」
決着が、着いた。
「≪魔武器≫だけを壊すとは、器用なことをするヤツだぜ」
リキヤは足もとに破片となって散らばった『業火紅蓮』を眺めて言った。
「そりゃ、なんだかんだであんたもこの学園の生徒だからな。あたしの使命は、すべての生徒を救うことだからな」
当然『敵にとどめは刺さない』という≪中二力≫アップも狙ってますけどね。これで≪中二力≫を次の戦闘に持ち越すことで戦闘が少し楽になります。
「ふ、甘いヤツだ・・・。だが、その甘い考えでは『十人生徒会』は倒せねえぞ」
「大丈夫!」
深夏は手を腰に当てて、仁王立ちで叫ぶ。
「なんたってあたしは、救世主だからな!」