「健やかな成長は健やかな生活の上に成り立つのよ!」

    会長が俺を見ては薄笑みを漏らし、恒例の名言を口にした。たくっ言い返せないのが残念だ。
    「どう?杉崎もそう思うでしょ?」
    「え、ええ。そう思います。」
    「ふふん。杉崎に勝ったわ。ということで、杉崎お茶。」

    『アカちゃん(会長さん)。』
    会話を聞いていたハーレムメンバーが会長を窘めた。愛を感じるよ。
    「ヒ〇ブー、なんだよ深夏!!」
    「殴っとかなきゃいけない気がしたんだ。あたしは悪くない。それとその反応は危険だ。テリャー」
    「ゴフッ。」
    『深夏(お姉ちゃん)!!』
    「わりい。ついいつものノリで鍵を相手しちまったぜ。」
    「もう、キー君が怪我した時くらい手加減しなさい。ねぇ、キー君。」
    「はい、知弦さん…あの…足当たってます。足コツコツ突っついてません?」
    「あら、愛の鞭よ。刺激を与えた方が…」
    『知弦(知弦さん、紅葉先輩)!!』
    「皆さん、ちゃんと杉崎先輩を労りましょうよ。」
    真冬ちゃんは慈悲深い笑みを浮かべマジック片手に俺に近寄ってきた。
    「先輩!!真冬に先輩のギブスに落書きさせて下さい。」
    「それくらいなら言いよ。はい。」
    俺はイスをずらし、真冬ちゃんへと足を向けた。
    好きな女の子に足を向けるのは少し躊躇うが、真冬ちゃんの頼みを断れる俺ではない。
    「真冬ちゃん、杉崎ラブ位ならいつでも書いていいんだよ。」
    「はい、真冬はいつでもラブですよ。」
    「はははー。嬉しいなぁ。」

    なんか残念な視線を感じる。気のせいだよな。気のせいだ。
    「かけました。真冬の思いを受け取って下さい。」
    「どれどれ……」
    真白なギブスの裏側に黒の線が見えた。
    ベタな相合い傘に「杉崎鍵」その隣には……
    「残響死滅にいさあああああん!!!」
    「はい、今の真冬は一回りして残響死滅お兄さん受けで妄想を膨らませています。」
    「中目黒じゃないのを喜んでいいものか……」
    「ありがとうございます。」
    真冬ちゃんはゆっくりと自分の席に戻っていった。

    「で、今日の会議なんだけど…」
    同情を振り払うように会長が口を開いた。知弦さんとのアイコンタクトが飛び交う。
    「会長も落書きしますか?」
    「したいけど、後ででいいや。今日の議題は廊下を走らないようにするにはよ。」
    椅子に登り短い腕を懸命に伸ばしてホワイトボードに「ろう不は走らない」と書いた会長。
    廊は書けないと思っていたけど下も書けないなんて。
    みんなため息をしながら会長をみる。
    「さあ杉崎、怪我した原因をいいなさい。」
    「美少女のピンチだったんです。イタッ」
    深夏がわき腹を肘打ちした。
    「どうせ、お前が追いかけ回したんだろ。」
    「ちげえよ。会長が水遊びしてたんだよ。」
    「水遊びじゃないもん!!水道が悪いんだよ!!」
    「使用禁止って書いてありましたよね。」
    「解りにくいんだよ」
    「それで?」
    会長が何か言っていたが、知弦さんが話を促した。
    「全速力で駆け寄ったんですが、止まりきれず足首を捻ってしまいました。」
    「成る程ね、つまりそれはアカちゃんのせいでいいかしら?」
    「なんでそうなるのよ!!」
    「使用禁止が見えなかったのよね?」
    「そうだけど…」
    「ならアカちゃんのせいよ。」
    会長が下を向いた。泣いているのだろうか。
    「か、会長?」
    「ヒック、ヒック、すぎゅヒックさきー。うあああん」
    「俺は何ともないですから、ただ松葉杖使わなきゃ行けないだけなんで泣かないで下さい。」
    「ほんと?ヒック痛くないの?」
    「ええ。俺の不注意が原因何ですから会長は悪くないですよ。」
    「ふえ。なら良かった。私が悪い分けないんだよ。だって私は会長なんだから。」
    イラ…
    「杉崎も気をつけなよ。」
    イライラ!!
    「みんな何よ?」
    気がつくと俺達は会長を囲んでいた。
    『少しは反省しろー(して下さいです。して下さい。しなさい。)』

    また、会長が泣き出した。今度は慰める人がいないみたいだ。

    「それよりバイトは大丈夫何ですか?」
    真冬ちゃんがイスに座りながらすっかり忘れていたことを聞いてきた。
    「そういえばどうするかな。真冬ちゃんは何かいいお金を稼ぐ方法……知弦さん分かりますか?」
    「先輩!!どうして真冬から紅葉先輩に流れちゃうんですか!!」
    「だって真冬ちゃんに聞いてもアフィリエイトくらいしか…」
    「真冬を侮らないで下さい!!杉崎先輩楢ではの名案があります。」
    「え?俺ならでは?」
    「はい。真冬達ゲーマーの最終手段を杉崎先輩に伝授するです。」
    「師匠というと?」
    真冬ちゃんはない顎髭の先を撫で目を光らせた。
    「ヤフ○クでゲームをオークションに出します。」
    『それは名案ね(だ)。』
    他の三人も賛同して声を挙げた。いつの間に会長は復活したんだ?
    俺は真剣な眼差しを真冬ちゃんに向け……
    「却下。」
    と優しく微笑んで挙げた。
    「何でだよ。売ればいいじゃねえか。てか売れ。」
    「何で名作たちを売らなきゃいけないんだよ」
    「お前は命とエロゲどっちを取るんだ!!」
    深夏がテーブルを叩き真剣な目で俺を貫く。なんか熱い。
    「エロゲに決まってんだろ!!」
    俺がテーブルをたたき返すとため息が聞こえた。けして一つじゃない。
    「それより深夏はなんかいい方法知らないか?」
    「あたしも鍵にしか出来ない方法を知ってるぞ。」
    深夏が自重気味に笑い、鞄を漁り始めた。
    「これだああ!!今こそ鍵盤連合を立ち上げ、上納金を集めれば生活費くらい稼げるはずだ。」
    深夏がステッカーを掲げた。まだ残ってたか鍵盤連合。
    「なあ深夏?それ本気か?」
    「本気だとも。あたしはいつだって本気だ。」
    「なら聞くがこの足でどうする?」
    「またの機会にするか。」
    何か俺が残念な人みたいな気がしたけど気のせいだよな。
    「キー君。私が紹介するわよ?」
    深夏の夢が破れた所で真打ち登場。知弦さんならいいバイトを知っているはずさ。
    「知弦さん期待してます。」
    「そうね…これはどうかしら?」
    パソコンを出し、モニターをこっちに向ける。流石準備が早い。
    「臓器販売。」
    「殺す気ですか!!」
    「胃を売れば食べる量が少なくなっていいと思うの。」
    「普通にダメですよ!!そもそも海外じゃないですか。行くお金もないですから。」
    「いいと思ったの…これもいいわね」
    いきなりブラック過ぎでかなり疲れたが次のこそ大丈夫なはずだ。
    「モルモット(アン〇レラ社)」
    「俺に何ウィルスを植え付けるつもりだあ――――!!」
    「日払いで4万よ。好条件。」
    「4万のために命捧げてたまりますか!」「なら、私の執事をやらないか?」
    「どこの三○院!!」
    「やあね。私は紅葉よ。」
    「知ってますよ。執事いいかもしれませんね。どんなことするんですか?」
    「まずは、私を起こしてくれればいいわ。」
    「それなら簡単ですね。執事やりますよ。」
    「じゃあ明日から、6時に私の家に来てくれるかしら?」
    「住み込みじゃないんてすか?」
    「キー君なんかと一緒の家に居れるわけないじゃない。」
    「そんなのお断りだ!!」
    知弦さんひど過ぎるよ。松葉杖の人をこき使いすぎだよ。

    俺がしょんぼりしていると会長が肩をつついてきた。
    「私の肩もみ30分間なんと30円」
    「やってられるか―――――!!」
    会長に奈落まで落とされたとさ。
    奈落から這い上がると何か忘れているような気がした。
    何だろう。ホワイトボードがよく見えないや。
    知弦さんも気付いたのかアイコンタクト開始した。
    (あれどうしようかしら?)
    (今更ですが決めるんですか?)
    (しょうがないじゃない。議題でしょう。)
    アイコンタクトしていると椎名姉妹も気付いたのか焦り始めたのがわかった。
    しょうがない無難に行こう。
    「話が逸れましたが、廊下に『走るな』的な張り紙はればいいですか?会長。」
    「杉崎突然なによ。なんのこと?あっ6時だから今日は解散!!杉崎は気をつけて帰ること。またねー、」

    ………
    生徒会室が無音に包まれた。まるで時が止まったかのように静寂が支配する。

    「丈〇郎かDI〇か!」
    深夏は秘技『地の文破り』を使い、そして時が動き出す。

    「キー君それでいいから、今日は帰りなさい。」
    「まだ雑務が終わってないです。知弦さんこそ。」
    「雑務くらい私たちがやるから、任せて頂戴。」
    「雑務は俺の仕事です。それに美少女に暗い夜道を歩かせるわけには行きません。」
    「おい、今日くらい良いだろ。」
    「深夏有り難いけど、帰ってくれ。」
    「先輩それなら真冬たち手伝います。それならいいですよね?」
    みんなの視線が集まる。なんていい女たちなんだ。
    仕方ない今日くらいは許してやるか…
    「俺が心配なら素直に言っていいんだぜ?」

    「お姉ちゃん次のバス何時?」
    「後30分後だな。ゆっくり行くか。」
    「それじゃ帰りましょう。キー君鍵は任せたわよ。」
    あれ?いい女たちなんだよな?
    ちょっとみんな?
    「待ってえええ!!」

    俺は全速力で松葉杖を使い追いかけたが学校には誰もいなかった。
    虚しさと寒さを感じた杉崎鍵でした。

    END

最終更新:2010年04月15日 18:47