「もって一ヶ月でしょう」
医者がそう告げた時、私たちの心には空虚が支配していた


「余命一ヶ月のハーレム」

〜数時間前〜

「思い出は胸に刻む物なのよ」
会長がいつものように小さな胸を張りながらどこかの本の受け売りを偉そうに語っていた
「というわけで、今日は皆にこの一年間の思い出を語ってもらおうと思います」
「やれやれ、まためんどうくさそうな」
「真冬、そろそろ〆切が忙しいのですが」
「キー君が止めるわよ」
「会長!」
「何?杉崎」
「それは俺との愛について語り合うということで間違いないですよね」
「あるよ!ていうか、間違いだらけだよ」
「私が言ってるのはこの一年間の生徒会活動について皆で語り合おうっていうこと」
「語り合おうって、別に語り合う程の事何もしてないじゃん」
「そうですね。基本的に駄弁ってばっかりですもんね」
「別に語り合う事もないわね」 

グサッ グサッ グサッ 

深夏、真冬ちゃん、知弦さんの三連攻撃に会長は涙目になった

「杉崎!」
「キー君!」
「鍵!」
「杉崎先輩!」
あまりの唐突な出来事に私達は声を上げた
突然キー君7が吐血して倒れたのだ
「おい!しっかりしろ!鍵」
深夏が慌ててキー君を揺さぶる。そこで私はハッと気づき
「駄目よ、深夏そんなに揺らしちゃ、とにかく今は救急車を呼ばなきゃ」
「あ、あぁ」
そう言って深夏はキー君から少し離れた。私はそれを見て携帯を取り出し近くの病院に電話した


〜翌日〜
私が連絡してから30して救急車が到着、キー君は病院へと搬送された。
私達も同行しようとしたが真儀瑠先生に「今日のところは、お前達はもう帰れ」と言われ、半ば強制的に帰宅させられた
そして翌日私達はキー君の検査結果を聞くため病院に向かった

〜病院内〜

「先生!鍵は!鍵は!無事なのかよ?」
深夏が医者の体を揺らす。医者はバツ悪そうな顔をして黙っていた
「お姉ちゃん!落ち着いて」
「ハッ!わ、悪りぃ」真冬ちゃんの静止で深夏は我に戻り、医者から離れた
「それで先生、キーく^いや、杉崎鍵君の容態はどうなんですか?」
私が皆を代表して医者に問うた。
「・・・・・実は」
しばらくの沈黙の後、医者はようやくその重い口を開いた。しかしそれは私達の予想を超えたものだった
「杉崎さんの脳に腫瘍が見つかったんです」
「「腫瘍!!!」」
私達は驚きを隠せなかった。医者は続ける
「しかもかなり症状が進行していて、その、我々も、最善を尽くしたのですが・・・・・・」
医者が歯切れ悪く言い淀む
「もうそれ程長くないという事ですか?」(ここから冒頭に戻ります)
「はい。もって一ヶ月でしょう」
医者がそう告げた時、私達の心は空虚が支配していた

〜杉崎の病室内〜
あれから私達はキー君の病室を訪れた。キー君はまだ眠っている。アカちゃんは泣き続け、深夏は壁を殴り続けた
「う、うぅ」
キー君が目を覚ました
「杉崎!」
「キー君!」
「鍵!」
「杉崎先輩!」
私達はキー君に駆け寄った
「杉崎!大丈夫?」
「あ、あれ!会長!それに皆、どうしたんですか?」
「キー君、あなた覚えてないの?急に血を吐いて倒れたんじゃない」
「え!そうだったんでえすか?すみません。心配かけて」
「いいのよ。それは、それより」
「ん?」
私は言い淀まった。キー君が怪訝そうな顔をしてる。
「えっと、その」
「杉崎、あのね」
「「!」」
私達は驚きを隠せなかった。今まで泣いていたアカちゃんが恐ろしく冷静な声で言った
「ちょっ!会長さん」深夏が慌てて静止をかける
「このまま黙ってても、どうせ誰かが言うよ」
「「!」」アカちゃんがまたも冷静な声で言う
アカちゃんはいつもは子供っぽいけど、こういう時は誰よりも冷静になる。それがアカちゃんの凄いところでもある
「皆?」キー君がまたも怪訝そうな顔をしている
「杉崎」
「はい?」
「実はね、お医者さんが告げたんだけど」
「はい」キー君も深刻な顔になる。そして深呼吸をし、告げた


「杉崎は、あと一ヶ月の命なの」

「鍵・・・・」
「すまない。皆、しばらく一人にしてくれ」
俺はそう呟いた
「・・・・分かった。じゃあ、私達はもう帰るから またね、杉崎」
そう言って会長は退室していった。それに続いて他の皆も出て行った
「・・・・・ふぅ」
皆が出て行った後、しばらくしてため息を吐いた。そして考える
(なぜ俺は会長から余命一ヶ月を宣告されたときあんなに満足していたんだ?)
ふと、俺は近くにあったカレンダーを見た。今日は2月10日・・・今年の生徒会も残り僅か、そう俺のハーレムも後僅か・・・
「ハッ!」
その時、俺はあの妙な満足感の正体を理解した


・・・その頃、くりむ達は各々自宅に・・・・・・・・・・・
・・・・・・・帰宅していた・・・・・・・・


〜くりむ〜
「ヒック、ヒック、お母さ〜ん」
「よしよし、くりむちゃんもう泣かないの」
くりむは母親に慰めてもらっていた

〜深夏&真冬〜
「ヒック、ヒック、お姉ちゃん」
「真冬・・・・・」
深夏が真冬ちゃんを慰めていた

〜知弦〜
「グスッ」
知弦は自分の部屋で一人寂しく涙を流していた

〜翌日〜

ガラッ

くりむ達は一向に浮かんだ気持ちのまま生徒会室の扉を開いた


「よっ!遅かったな、俺のハーレム達よ」

「「!?」」

そこにはなぜか入院しているはずの鍵がいた
「す、杉崎!あんたなんでここに?」

「なんでって、ここは俺のハーレムなんだから、俺がいるのは当たり前じゃないですか」

「そういう事じゃねぇよ!お前・・・病院はどうしたんだよ!?」

「あぁ!その事か、その事ならご心配なく。ちゃんと許可は取ってありますから」

「それに後一ヶ月の命だからこそ、最後くらい皆と一緒にいたいんです」

「キー君」

「「・・・・・」」

しばしの沈黙。そして会長が口を開く

「そ、じゃあ、今日も生徒会を始めましょう」

「はい」

こうして今日もいつも通りの生徒会が始まるのだった


「杉崎先輩」
真冬ちゃんが俺の目の前で、真っ赤になってモジモジしている
「(やべぇ、萌える///)ど、どうしたの?真冬ちゃん」
俺はKO寸前ながらも、真冬ちゃんに聞いた
「先輩・・・・・//// これ」
そう言って真冬ちゃんが差し出し物、それは可愛らしいピンクのリボンに赤い包装紙に包まれた箱だった
「真冬ちゃん、これ・・・」

「はい、バレンタインのチョコです」
やっぱり
「ありがとう。真冬ちゃん」

「いえ。好きな人にチョコを送るのは当然ですから」
と、ニコッと笑う真冬ちゃん
そうして彼女はいつも通り、自分の席に戻った

今日は2月14日、バレンタインデーである
それは女子が好きな男子にチョコを上げる日

なのに・・・・・

「深夏、その袋は一体?」
俺は深夏の席に目をやる。席の横わらには大量のチョコが入った袋があった
「あぁ、これか?毎年送られてくるんだよ。あたしそんなに甘い物好きじゃないのにな」

「深夏・・・・お前やっぱり百合だったのか?」

「ちげーよ!!っていうか、今の言葉から何でそんな返しが来るんだよ」

「じゃあ、その大量のチョコは何だよ?俺だってそんなに貰った事ないぞ」

「あら!それって、今までキー君がチョコ貰ったことあるみたいな言い方ね」

「てっきり、林檎ちゃんや松原さんにしか貰ってないと思ってたのに」

「ヒドッ!っていうか、これでも俺昔は結構モテテたんですよ」

「「えー!!!!」」

そこまで驚くことか?

「あ!でもそれって、今はモテテないというのを認めていると言う事ですか?」
真冬ちゃんが痛いところを指摘してきた。確かに碧陽に入ってからはチョコなんて一度も貰った事ない。 だ、だが
「俺にはこの生徒会がある。このハーレムさえいれば、他の女子のチョコなど」

「だから、ハーレムじゃなくて生徒会!!」

コンッ コンッ

俺達がいつものように生徒会室で駄弁っていると、唐突にノックされた
「はい?」
会長が答えると、扉が開き現れたのは

ガラッ

「こんにちはー」

「え、エリスちゃん!」
そう、藤堂リリシアの妹藤堂エリスちゃんだ
「エリスちゃん、どうしてここに?」

「今日はね、にーさまに会いに来たの」
そう言って、エリスちゃんは俺に抱きついてきた

ゾクッ!!!

その時、俺は背筋にゾクリとしたものを感じた
俺は咄嗟に辺りを見回した

会長はジーと俺の方を睨みつけ、真冬ちゃんはBLを書き込み、深夏はジャンプを引き千切り、知弦さんは不気味な作り笑顔を浮かべていた

「そうか、そうか、皆、嫉妬してくれているのか?いやー、嬉しいな」


「「違う!!!!」」

凄い剣幕で否定された。 しかし

「嫉妬って、見苦しいね。にーさま」

「「な////!!!!」」

エリスちゃんの発言に今度は皆、顔を真っ赤にする

「な!何言ってるのかな?エリスちゃんは。わ、私が嫉妬なんてするわけ」

「じゃあ何で、お顔真っ赤なの?」

「そ、それは///」
会長が口ごもる。皆も押し黙っている。流石に子供相手に怒鳴れないのだろう

「会長さん達が素直にならないなら、エリスがにーさまをお嫁に貰うもん」

「いや、エリスちゃん、それを言うならお婿」

ガラッ

「エリス!こんな所にいましたの?」
リリシアさんがやってきた。どうやらエリスちゃんを探してたようだ
「あっ!姉さま」

「全く、帰りますわよ。エリス」
エリスちゃんはリリシアさんに引っ張られ、生徒会室を後にした

「あっ!バイバイにーさま  それと・・・・」

「怖いおばさん達もね」
と、言い残して


ピキッ

再び世界にひびが入った

その日、俺は言い知れぬ恐怖を感じながら生徒会を過ごすのだった



「いつか別れはやってくるものなのよ」
会長がいつものように小さな胸を張っていつものように何かの本の受け売りを言っていた
いつもなら皆、軽く受け流すのだが

「・・・・・・・」

沈黙

ただ、ただ、重い空気が漂っていた
「ど、どうしたんですか?皆、元気ありませんね。俺のハーレムはもっと活き活きしてないと」
と、俺がボケても
「・・・・・」
返しなし

「もうすぐ卒業式ですね」
長い沈黙の中一人、真冬ちゃんが口を開いた
「そうだな」

「寂しくなりますね」

「大丈夫だって真冬ちゃん、寂しくなったら俺はいつでもどこでもかけつけるからさ」
そう言って俺はニコッと笑った


バンッ

「「!!!!」」
突然机を叩く音、皆一瞬ビクッとなり、会長の方を向く
「会長?」
俺が尋ねてみる。すると会長は今にも泣きそうな顔をして言った
「確かに卒業しても知弦や椎名姉妹とはいつか会えるけど・・・・」
そこで会長は一旦言葉を区切り、そして紡いだ
「杉崎とはもう会えなくなるじゃない!」
会長の言葉に場の空気はまた暗くなる
「会長・・・」

そう、俺杉崎鍵は卒業式の日にその人生に幕を閉じる

「ぅ、えっぐ、ぐすっ」

「よしよし、泣かないのアカちゃん」
泣く会長を知弦さんが慰める。しかし、彼女の表情もなんか冴えない
椎名姉妹の方を向くと、彼女らも悲しい顔をしていた

「皆、心配しなくても俺は死んでも天国で皆の事見守ってますから」

「いや、お前は確実に地獄だろ」
深夏が失礼なことを呟いた
「キー君は死ぬのが怖くないの?」

「・・・・・確かに死ぬのは怖いです。でも」
知弦さんの質問に俺は穏やかに答える
「皆が悲しい顔をするのはもっといやですから」

「キー君・・・」

「だから眠る時は皆の笑顔を見ながら眠りたいです」

「杉崎・・・」
会長が涙を拭い俺に向き直る
「・・・・・そうね。杉崎の言うとおり私達の別れに涙は似合わないわね」
と言って、会長は満面の笑みを俺に向けてくれた
それに俺も笑顔で返す

「じゃ、今日の会議はこれでおしまい。皆、雑業にかかるよ〜」
会長がいつもの調子で言った
「「は〜い」」
と、俺達も会長に合わせ目一杯元気よく返事した

〜碧陽学園卒業式〜

「それではこれより第54回碧陽学園卒業式を行います」
進行役の教師の言葉で辺りが静まり返る
そして、卒業式が始まった

今日の卒業式には飛鳥や林檎、香澄さん、宮代奏さん(既に卒業式を済ませているらしい)まで参加していた

そんな中、淡々と授与式が行われ最後に会長と知弦さんが卒業表彰を受け取り授与式が終わった

「続いて生徒会副会長杉崎鍵の追悼式を始めます。杉崎鍵君、表彰台に来てください」

「!」
その言葉に俺は驚いた。しかし淡々と階段を上がり台に立った

「「・・・・・・・」」

しばしの沈黙の後、俺はゆっくり口を開いた

「えー、ただいまご紹介に預かりました。生徒会副会長杉崎鍵です」

「皆さんも既に知っている事だと思いますが、俺・・・・杉崎鍵今日、天命を全うします」
俺がそう言うと会場全体を悲観な空気が包む。しかし俺はあえて明るく告げる
「でも俺は後悔してません。そりゃ、最初余命一ヶ月と宣告された時は、正直ショックでした。
でも、それと同時に俺の心には満足感が満ちていました」

「その時、俺はとことんこの学園に意中してるなと、ここに骨を埋めようと、無意識に思っていたのかもしれません」
俺はそこで一旦言葉を切り、深呼吸をして再び口を開く
「これもほとんどの人が知ってる事だと思いますが、4年前俺はある二人の女性を傷つけてしまい、俺自身も結構荒れてました」
その言葉に、飛鳥と林檎が若干俯く
「でも、そんな絶望の底にいた俺を救ってくれたのが、会長、いえ、桜野くりむでした。感謝してます」

「俺は桜野さんのおかげで前を向くことができ、深夏に渇を入れられたから俺は俺らしくいられ、折れそうな心を知弦さんに受け止めてもらい、そして真冬ちゃんに助けられ俺は本当の強さを知った。
その他にも数多くの人々に支えられ俺はここまで来ることができました」
そこで再び言葉を切り、大きく息を吸い込んで
「好きです、超好きです、皆ありがとう、俺も愛してる」
と、叫んだ途端、体育館中から歓声が沸き上がった

こうして俺の長いようで短い学園生活は幕を閉じたのであった

   ー杉崎鍵・享年17歳ー

最終更新:2010年04月15日 18:48