※ 後半グロテスク注意
そこで俺はただそこに立ち尽くす事しか出来なかった。
あの少女の無邪気な笑顔はどこへ行ったのだろうか。
俺には結局ハーレムなど作れなかったのだろうか。
あぁ、もう・・・ハーレムなど、どうでもよくなってきた。
だって、俺の目にはそこにいる1人の少女しか映っていないのだから。
そして、俺にはその少女が言ったある一言だけが脳裏に浮かんだ。
俺はいつも通りの朝を向かえ、いつも通り家を出て、学校へ向かった。
「おはようございます。先輩。」
背後から俺を呼ぶ声がした。
「あ、おはよう、真冬ちゃん、深夏。」
そこには真冬ちゃんと深夏が居た。
「おはよ、鍵。」
「いや~朝から二人の好感度が上がるなんて感激だな~」
俺がそう言うと深夏はすかさず、
「いや!普通に挨拶してやっただけだからな!好感度とか関係ないからな!」
フッ、まったくツンツンしやがって・・・
まぁデレになる日もそう遠くないな。
「デレになんかなんねーよ!」
「ぬぉ!こっちの思考まで読んできたか、これで深夏ルートも近・・・」
「近くなんかねーよ!」
そんな朝のやり取りを見ながら真冬ちゃんは笑っていた。
放課後、俺はいつも通り生徒会室へと向かった。
「待たせたな!俺のハーレム達!」
俺が勢い良くドアを開けると、
「あ、先輩。」
真冬ちゃんだけが1人、椅子に座ってBLと思われる小説を読んでいた。
「あれ・・・」
真冬ちゃんだけしか居ない・・・
「お、俺のハーレムは!?」
まさか他の3人が来てないとは・・・
すると真冬ちゃんは口を開き、
「えっとお姉ちゃんは野球部に行ってからこっちに来るそうです。会長さんたちは真儀瑠先生に呼ばれてました。」
「そ、そうだったんだ・・・」
焦った。俺に愛想つかされて逃げられたのかと思った。
「所で先輩。」
真冬ちゃんが俺に話しかける。
「今週の金曜日の放課後、暇ですか?」
「お、デートの誘い?テンション上がってきたー!」
俺は笑いをとろうと思ってそういった。
ところが彼女の返事は俺の予想していた答えとは違っていた。
「あ、はい。そんなところです。」
そう真冬ちゃんは言った。
「え・・・ホントに!?」
思わず素で聞いてしまう。
「え~と金曜日の夜に夜光バスに乗って次の土曜日に帰る予定です。」
夜光バスで行くとは・・・どこに行く気なのだろうか・・・
「へぇ・・・どこに行くの?」
「秘密です。」
真冬ちゃんは片目でウインクしながら言う。
うぅ・・・可愛いよ。その顔・・・
そして金曜日の夜。
俺はある程度準備を整え真冬ちゃんに指定された待ち合わせ場所に来ていた。
すると、
「あ、杉崎君~」
やってきたのは真冬ちゃんではなく、中目黒だった。
「ぬぉ!な、中目黒!何でお前がここに・・・」
俺が中目黒に聞こうとすると、
「先輩!中目黒先輩!」
真冬ちゃんが姿を現した。
「あ、真冬ちゃん。」
「あ、ウインタ・・・じゃなかった、真冬さん!」
「で、なんで中目黒がここにいるんだ?」
俺が中目黒に聞こうとすると、
「あ、真冬が呼びました。」
と、真冬ちゃんが答えた。
「先輩と中目黒先輩のBLな展開を期待して呼んじゃいました。」
「おかしいよ!なんでそんな理由で中目黒呼んじゃうの!」
すると、真冬ちゃんは、
「駄目ですか?」
と、小動物のような顔で上目遣いで言ってきた。
か・・・可愛い!
「ま、まぁ呼んじゃったんだから仕方ないね。」
結局俺は中目黒の同行を許可してしまった。
まぁ、美少女の頼みだ。断るのも後味が悪いしな。
「では、行きましょう!」
そう言った真冬ちゃんに着いていき、俺達は夜光バスに乗った。
「所で真冬ちゃん?」
俺はバスに乗り、真冬ちゃんに話しかけた。
「どうしましたか?先輩?」
「なんでさ、席順がこうなってんの?」
そう席順。これが俺は不満だった。
窓際から俺、中目黒、真冬ちゃんのと、
何故か俺と真冬ちゃんが離れているのだ。
・・・嫌われている?
「えっと・・・それはですね・・・やっぱり男の人の隣に座るのがちょっと抵抗があるっていうか・・・」
「やぱり男駄目何じゃん!てかなんで俺は駄目で中目黒はいいの!?」
「真冬は中目黒×杉崎のカップリングのためなら少しは我慢します!」
「まったく理由になってないよ!てかまだそのBL諦めてなかったんだね!」
「離れててもLOVEですよ~先輩。」
そんなやりとりを見ながら中目黒は自然ともう寝ていて、
その頭を俺の肩に預けていた。
その光景を真冬ちゃんは興奮しながら見ていた。
「ふぉぉぉぉぉ!やっぱり真冬の目に狂いはありませんでした!中目黒×杉崎・・・最高です!」
頼む・・・中目黒・・・起きてくれ。
俺は心の中でそう願うも、その願いは通じなかった。
「では真冬はもう寝ますね。」
「え・・・・」
「いや、到着するのは明日の朝なんで真冬はもう寝ます。」
朝までバスに乗るほどの目的先なのか・・・
「えと・・・いいの?俺の前で寝て・・・?襲われちゃうかもよ。俺に。」
最後の「俺に」を強調しながら半ば冗談で言う。すると、
「え、先輩が中目黒先輩を襲うんですか!?」
と、言った。
「そんなこと言ってないよ!てか何で俺が中目黒襲うんだよ!」
「で、でも先輩の前で寝ている人(中目黒)を襲うって・・・」
そして真冬ちゃんは頬を朱に染めて、
「べ、別に真冬は杉崎×中目黒も真冬的にはオーケーですけど・・・その・・・周りを気にしてくださいね。」
と、言う。
「違ーう!!」
俺は力一杯否定した。
そして俺達は自然と夢の中へと飛び立った。
気づけば日は昇っていて、真冬ちゃんは先に起きていた。
「あ、先輩。おはようございます。」
「ん?あ、真冬ちゃん。おはよう。」
半ばまだ寝ぼけているが、その美少女からの挨拶により、俺は目が覚めた。
「所で先輩。中目黒先輩を起こしてもらえますか?」
よし、真冬ちゃんの頼みだ。起こそうじゃないか。
そう思い、俺は中目黒の肩を揺さぶる。
・・・起きない。
「あれ・・・なんで起きないんだ?」
「さっきからずっと起きないんですよ。」
「むぅ、困ったな。」
すると、真冬ちゃんは何か思いついたのか、
「先輩!真冬に1つお願いがあるんですが・・・」
「ん、何?真冬ちゃん。美少女の頼みなら何でも聞くよ。俺。」
「えぇ!それでは先輩が中目黒先輩をお姫様抱っこしていくのはどうでしょう?」
キツイお願いだね・・・ハハハ・・・
そんな俺の意思に関係なく俺の体は自然と動いた。
体は自然と真冬ちゃんの頼みを聞き入れるつもりらしい。なんとも素直な体なんだ。俺の体よ。
そして・・・
「わぁ・・・ナイスです!先輩!」
俺は、中目黒をお姫様抱っこして、バスを降りた。
あぁ、なんか周りの視線痛いよ。てか早く起きてくれ。中目黒。
バスを降りたときに広がっていた光景は普段、町で見る光景とは違ったものだった。
ていうか、ここどこ?
「えっと、ここはどこなの真冬ちゃん?」
一応俺は真冬ちゃんに聞いてみた。すると、
「池袋ですよ先輩☆」
と、可愛らしく☆までつけて言った。
・・・池袋?
それってアレだよな。よく女性のアニメファンの皆様が訪れるいわゆる・・・
「乙女ロードで有名な池袋ですよ!先輩!!」
すごく興奮してるよ。真冬ちゃん・・・てかホント好きだね。
てか、夜光バスまで使ってここまで来ることになるとは・・・ビックリだな。
「ていうか、これってデートなんだよね。」
「? 一応そうですけど・・・」
「一応かよ・・・」
そして真冬ちゃんはヒラリと1回転し、
「さ、デートしましょ!先輩!」
と、笑顔で告げる。
その笑顔はとても・・・愛しかった。
「あ・・・れ・・・ここどこぉ?」
若干寝ぼけながらも中目黒は目を覚ました。
「あ、杉崎君、おはよぉ・・・」
まだ、寝ぼけてるな。中目黒・・・
「ってあれ?なんでボク、杉崎君に抱っこされてるの!?」
「あ~落ち着け中目黒。お前が起きなかったから俺がバスからここまでつれてきたんだ。」
「あ、そうだったんだ。」
そして、周りを見回した後中目黒は、
「す、杉崎君、ここどこ!?」
自分の見慣れない景色に戸惑っているようだ。
「あ・・・えっとな。」
なんて説明しようか、ホントのことを言うべきか・・・
そう思っているうちに真冬ちゃんが割り込んできて、
「隣町です。」
と、言った。
「え・・・」
「あ、ここが隣町だったんだ。」
俺の腕から降りた中目黒はここを隣町だと思い込んだまま納得した。
そして、
「ここまで連れてきてくれてありがとう。杉崎君、真冬さん。」
と、俺達に笑顔を送った。
それに何の穢れもなく、純粋な笑顔。
不意に心がキュンと・・・
って違ーう!
中目黒は男なんだ。落ち着け俺。これじゃ真冬ちゃんの思い通りじゃないか。
チラっと真冬ちゃんの表情を伺うと、俺の心を見透かすかのようにニヤニヤと俺と中目黒を見ていた。
そして俺の耳元で真冬ちゃんは、
「大丈夫ですよ。いずれ中目黒×杉崎のカップリングは実現されますよ。」
笑顔で怖いことをさらっと言った。
俺達3人がまず最初に訪れたのは同人ショップ。
俺1人が入るなら男性向けに行くところだが、流石にこのメンバーだ。真冬ちゃんに合わせることにした。
が、その前に、
「中目黒、お前はここで待ってくれないか?」
中目黒を同人ショップに連れて行くには抵抗がある。
「え・・・いいけど、なんで?」
・・・理由なんて言えるわけないじゃないか。
「え~と・・・そ、それじゃすぐに済ませてくるから!」
そう言って、俺は逃げた。
真冬ちゃんの手をとり、俺と真冬ちゃんは店の中へ消えていった。
俺が真冬ちゃんと店の中に入ると、真冬ちゃんは真っ先に女性向け同人誌のコーナーへと向かっていった。
同人誌を手に取る真冬ちゃんを俺は少し離れたところから見守ることにした。
すると、真冬ちゃんが俺の元へ駆けてきた。
「ん?どうしたの、真冬ちゃん?」
真冬ちゃんは手に持っている同人誌を見ながら、
「せ、先輩・・・お願いがあるんですけど・・・」
「え~とその同人誌は・・・」
普通のBLの同人誌ならまだいい。
だが、俺の目にはR指定という文字を捉えていた。
俺は小声で、
「ど・・・どうしたいの?」
なんとなく返ってくる返事は予想できているが聞いてみた。
「買ってきてください!!」
彼女は万円の笑顔ではっきりと言った。
ほらね!予想通り。
「一応聞くけど、なんでR指定の本を・・・」
「え?欲しいからですけど・・・・」
そして、
「でも、真冬だとレジに持っていくと店員さんが意地悪して売ってくれないのですよ。だから先輩、買ってきてください!!」
それ、意地悪してるんじゃないよ。
そう言いたい所だが、彼女のその笑顔は今までで一番可愛らしいものだった。
気づけば、何冊かのR指定までついてる同人誌を真冬ちゃんから渡されていた。
気づけば、レジで、店員に同人誌を渡していた。
気づけば、レジでお金を払っていた。
気づけば、レジで店員から袋に包装された同人誌を渡されていた。
気づけば、買った同人誌を真冬ちゃんに渡していた。
あぁ、そうか、何やってんの、俺!
そして、真冬ちゃんは、
「ありがとうございます!先輩!」
ハハハ・・・やっちまったな。俺。
とりあえず、中目黒を待たせるわけには行かないので、俺達は店を出ることにした。
そして、俺の視界に真っ先に入ったのは、見た目の悪い奴らに囲まれている中目黒だった。
「中目黒!」
俺は思わず、中目黒の元へと駆け出していた。
「おやおや、兄ちゃん、この子は俺達が声を掛けてるんだよ・・・」
一人がそう言う。
どうやら、中目黒を女の子と勘違いして話しかけているようだ。
そして俺は、一人を押しのけて、中目黒の手を掴み、
「残念だったな。こいつは・・・俺の大事な奴なんだよ!!」
そう叫び、俺は中目黒を連れ出す。
そして、店を出口付近に居る真冬ちゃんを一緒に連れて、その場を去ることにした。
俺達3人は、公園で休むことにした。
「中目黒、大丈夫だったか?」
俺が中目黒に聞くと、
「す、杉崎君・・・こ、怖かったよぉ~」
と、言って俺に抱きついた。
「!! な、中目黒!?」
まぁ、仕方ないか・・・中目黒には・・・怖かったんだろう。本人もこういうのは辛いんだろうし・・・
「もう大丈夫だ。お前を泣かせる奴は俺がなんとかしてやる。俺がちゃんとお前を守ってやるから。」
それは、中目黒を安心させたいという一心から出た言葉だった。
だが、その光景を真冬ちゃんは興奮しながら見ていた。
「さて、気を取り直して、買い物の続きをするか!」
中目黒が落ち着いたところで、俺は再び3人で買い物をするように促した。
2人も賛成してくれたので、俺達はアニメイトへと向かった。
店に入ると真冬ちゃんは真っ先に一人で階段を早足で上がっていった。
「速いね・・・真冬ちゃん・・・」
「うん・・・そうだね・・・」
取り残された俺と中目黒は真冬ちゃんの駆けていく背中を見守りながら、
「さて、とりあえず俺達も見て回るか!」
「うん!」
あれ・・・気がついたら俺もしかして中目黒の好感度上げすぎてるんじゃないか・・・・?
それから俺と中目黒は無難に少年漫画を一通り見た後、真冬ちゃんと合流することにした。
二手に分かれて探そうという中目黒の意見に賛同し、俺は一人、あるBLの本やら同人誌やらがある聖域に足を踏み入れた。
入るとすぐに俺の目は真冬ちゃんを捕らえた。
確かに真冬ちゃんなのだが、大量の本を持っていて、顔がほとんど見えていない。
あんなに持って大丈夫なのだろうか?
そう思った俺は真冬ちゃんに声を掛ける事にした。
「本、持とうか?」
「わっ、先輩いたんですか?」
驚いて、体勢を崩しそうになったが、なんとか支えた。
「大丈夫?やっぱ俺が、持つよ。」
「え・・・いいんですか・・・」
「いいって、いいって。じゃぁこの本レジに持っていくよ。」
「あ、はい。じゃぁお願いします。」
そう言って彼女は手に持っていた本を俺に渡す。
う・・・結構重いぞ。これ。こんな量をあんな小さな体で持っていたのか・・・
そして俺はレジで会計を済ませる。もちろん支払いは俺。
美少女のためならどんな金も惜しまないさ!
そのあと中目黒と合流し、俺達は店を出た。
店を出て、俺は一つ、とある店があることに気づいた。
「あ、ちょっと2人ともここで、待ってて。」
俺は2人の了承も得ずにその店に赴く。
そこで、俺はある物を買うと、2人の所へ戻る。
「おまたせ。」
「? 何を買ってきたんですか、先輩?」
「あぁ、これ。」
そう言って俺は2人に小袋を押し付ける。
「? 何ですか、これ?」
「まぁ、あけてごらん。」
そして2人はその袋を開ける。
「す、鈴?」
「ブレスレッド・・・」
中目黒には鈴のキーホルダー。
真冬ちゃんにはブレスレッド。
俺はそれをさっき買ってきたのだ。
「ありがとう、杉崎君!」
「あぁ。なんか、また変な奴が絡んできたらその鈴を鳴らせば俺が助けに駆けつける。それで・・・いいよな。」
「うん!」
中目黒は笑顔で頷いた。
「えっと、先輩・・・このブレスレッド・・・高いものじゃないんですか?」
そう言って、真冬ちゃんはブレスレッドを貰うのを躊躇おうとしていたが、
「ほんの安物だよ。俺は真冬ちゃんがつけたら似合うなって思って買ったんだ。だから俺はプレゼントしたんだよ。」
「そ、そうですか・・・大事にしますね。」
そう言って、真冬ちゃんはそのブレスレッドを手首にはめた。
ブレスレッドをつけて、少し彼女は恥ずかしがっていた。
その姿が・・・なんとも愛しかった。
その後、俺達は自然と帰ることになった。
帰りのバスでまた中目黒が完全に熟睡していたが、もう気にしない。
彼の寝顔はどんなことも許せる可愛らしいものだったから。
それから俺と真冬ちゃんは自然と眠り、気がついたら、もう町に着いていた。
バスを降りるとき、またも中目黒が起きないから、俺がおぶっていくことになったが、もう気にしない。
俺は真冬ちゃんの家の近くまで中目黒をおぶりながらも、
彼女のBLの同人誌や漫画などを持ちながら送っていくことにした。
「では、ここでいいですよ。先輩。」
真冬ちゃんはそう言って、俺の手にある袋をとる。
「では、今日と昨日はありがとうございました。」
そう言って、頭をペコリと下げ、彼女は家の中へタッタッタと消えていった。
「へ?ここどこ!?」
俺の背中で眠っていた中目黒が目を覚ました。
「あぁ、中目黒、やっと起きたか、俺達はもう隣町から帰ってきたぞ。真冬ちゃんは先に帰っちゃったけど。」
俺は中目黒の中では隣町に行っていたことになっていたことを思い出しながら言った。
「あ・・・そうだったんだ・・・待っててくれてありがとう!杉崎君!!」
何の穢れもない笑顔で彼は言う。
「ま、まぁ、起きてくれたんならそれでいいんだ。1人で帰れるよな。」
「うん!大丈夫!じゃあね、杉崎君!」
そういって中目黒は元気に自分の家を目指し駆けて行った。
「さてと・・・」
俺も自分の家を目指し、1歩踏み出した。
3人でデートに行ってから3日が経った。
俺はいつも通り、学校へ行き、席に着く。
すると、
「おっす、鍵。」
深夏が話しかけてきた。
「おはよ、深夏。今日もカワイ・・・ゴフッ!」
最後まで言おうとしたら・・・殴られてしまった。
まったく、ツンツンしやがって・・・そこが可愛いんだけどな。
「と、所でさ、鍵?」
「どうした?愛の告白ならいつでも受け付けてるぜ。」
「いや!そーゆーのじゃねーからな!そ、そのさ・・・これ・・・」
そう言って深夏が差し出したのは、金色の鍵の形をしたキーホルダーだった。
「ん?キーホルダー?俺にか?」
俺が聞くと、深夏は、
「べ、別に勘違いすんなよ!あたしはただ、間違えて買って、返品するのが勿体無いからお前にあげるだけだからな!」
と、顔を真っ赤にしながら言った。
なんと、深夏からプレゼントを貰えるとは・・・
思わず俺の顔から笑みがこぼれる。
「だ、大事にしろよな!」
そして、
「あぁ、大事にする。任せておけ。」
この上なく安心ことの出来るであろう笑顔で俺は言った。
―――真冬side―――
放課後、いつも通り、真冬達は生徒会の集まりも解散し帰ると、お姉ちゃんと2人きりになった時、お姉ちゃんは言いました。
「なぁ・・・真冬・・・」
「? どうしたの、お姉ちゃん?」
「あ、あのさ・・・今日、鍵にさ、プレゼントしたんだ。」
何故、真冬にそんなことを言ったのかが分からない。
でも・・・
「そ、そう・・・喜んでもらえた?」
すると、お姉ちゃんは、
「ま、まぁな。」
と、言いました。
「よかったね・・・・・・・」
何故だろう、心から喜べない。
何故だろう、先輩を彼女にとられてしまいそうな気がする。
何故だろう、こんなにも・・・・彼女を憎く思ってしまうのだろう・・・・・・・・
―――杉崎side―――
次の日、俺は、いつも通り、放課後、生徒会室に足を運んだ。
「あ、先輩、こんにちわ。」
真冬ちゃんが、1人、生徒会室に居た。
・・・何、このデジャブ・・・前にも同じことあったような・・・
「あれ、他のメンバーは?」
「まだ来てないみたいですよ。所で、先輩・・・」
「ん?どうしたの、真冬ちゃん?」
「そ、その・・・携帯についているストラップ・・・お姉ちゃんからですか?」
「あ、うん。そうだよ。」
「そうですか・・・」
そう言って、少し真冬ちゃんは黙り込む・・・
そして、俺が話題を振ろうとしたとき、
「私、ようやく参上!!」
会長が勢いよく、知弦さんと深夏を連れて入ってきた。
そして、俺のハーレムは完成する。
だが、
不安げな表情の真冬ちゃんはその日、笑顔を見せることはなかった。
―――真冬side―――
土日が過ぎて、月曜日、その放課後。
真冬はお姉ちゃんと一緒に生徒会室へと足を運びました。
すると、お姉ちゃんは、
「な、なぁ、真冬?」
2人きりの生徒会室。そこで、話しかけてきました。
「? 何、お姉ちゃん?」
「あ、あのさ・・・あたしさ・・・」
なんとなく・・・お姉ちゃんが、歯切れ悪く言っているところから・・・
聞きたくないことを言いそうだと分かる・・・・・・
「け・・・鍵のことがさ・・・・・・」
そう言い切る前にお姉ちゃんは倒れました。
いえ、押し倒された。というほうが正しいでしょう。
だって・・・押し倒したのは真冬なんですから。
「な・・・ま、真冬!?」
突然の真冬の行動に驚いているお姉ちゃん。
真冬は、お姉ちゃんに馬乗りしている状態になりました。
そして、真冬が手にしたのは、1つのカッターナイフ。
鞄の中に入れておいた、カッター。
そして、カッターを持つ手に力を込めて、
狙うのは・・・・・・その右目。
真冬は振り上げた腕を振り落としました。
狙い通り、その目に、カッターは突き刺さりました。
「あぁぁぁぁぁ!!ま、真冬ぅ!!ぁぁぁぁああああ!!!」
お姉ちゃんは泣きながら痛みを訴えます。
ですが、
その目で先輩を写すのが嫌だから、もう片方の目を抉りました。
その手で先輩に触れて欲しくないからその手を切り落としました。
その足で先輩に近づいて欲しくないから、その足を切り落としました。
そして・・・
先輩との記憶を持っているのが・・・『嫌』なのでその脳を抉る事にしました。
半ば意識が消えているお姉ちゃんの頭を目掛けて、
真冬はカッターを振り下ろしました。
そして、真冬がすべての工程を終了すると、
「私、参上!」
「ちょっと遅れちゃったわね・・・」
会長さんと紅葉先輩が入ってきました。
そして、姿からは誰か分からない『ソレ』を見て、会長さんは、
「な、何よ・・・これ・・・」
酷いですね。『ソレ』、真冬のお姉ちゃんなのに・・・
あぁ・・・そういえばこの人達も真冬の『敵』でしたね・・・
だから・・・殺さなきゃ・・・いけないですよね。
狙うのは、会長さん達の首筋。
真冬はカッターを持つ手に力を込めて、駆け出しました。
―――杉崎side―――
俺が、いつも通り、ハーレム・・・もとい、生徒会室へと足を運んだ。
だが、その扉を前にして、違和感を感じた。
―――何か・・・おかしい。
そんな気がした。
とにかく中に入らなければ何も始まらない。
俺はそのドアノブに手を掛ける。
そこは別次元の世界と化していた。
会長が倒れている・・・その制服を紅に染めて・・・
知弦さんが倒れている・・・会長を覆うように・・・その背中を・・・制服を・・・朱に染めて・・・
会長と知弦さんから少し離れたところで、誰かが1人居た。
・・・でも、『ソレ』は人の姿を曖昧にしている。
だって・・・腕がない。
だって・・・足がない。
だって・・・目がない。
それに頭から剥き出しになっているのは・・・
だが、俺はその体型から『ソレ』が誰か気づいてしまった。いや気づかされてしまった。
そう・・・『ソレ』は・・・
あぁ・・・ああ・・・ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
そう・・・・・・・・・深夏だ。
「先輩。」
そして、生徒会室で、ただ1人、立っている少女・・・真冬ちゃんは俺に話しかける。
「先輩・・・どうですか?ぜぇんぶ、真冬がやったんですよ。」
真冬ちゃんは平然と言う。
「先輩に近づいてくる人はみぃんな、真冬が殺しました。」
「な、なんで・・・」
「あ、そうそう、これ先輩にプレゼントです。」
そう言って俺の言うことを無視しながら、彼女は自分の鞄を開ける。
その鞄に入っているのは・・・
鍵の形をしたキーホルダー。
それは、深夏が俺にプレゼントしたものと同じデザインのものだった。
だが、それは1つではない。
鞄の中・・・そのすべてが、鍵のキーホルダーで埋め尽くされていた。
正直、その光景を見ていて、気持ちが悪かった。
だが、
「えへへ・・・キレイですよね。先輩。」
真冬ちゃんは笑顔のまま俺にキーホルダーを鞄ごと押し付けた。
「先輩はお姉ちゃんにプレゼントされたって言ってますけど、違いますよね。
ただ、お姉ちゃんが押し付けただけですよね。そうですよね・・・
そうですよね!!!」
最後、彼女の口から出たとは思えないほどの声量で、彼女は言う。
そこで、俺はただ、その場に立ち尽くすことしか出来なかった。
あの少女の無邪気な笑顔はどこへ行ったのだろうか。
俺には結局ハーレムなど作れなかったのだろうか。
あぁ、もう・・・ハーレムなど、どうでもよくなってきた。
だって、俺の目にはそこにいる1人の少女しか映っていないのだから。
そして、俺にはその少女がかつて言ったある一言だけが脳裏に浮かんだ。
『恋に正解とかないんですよ、先輩!』
今なら、理解が出来る。
それは歪んでいるんじゃない。一途なんだ。
そこに、自分が好きな人がいて・・・
好きな人のために頑張る人がいて・・・
ただ、それだけでいいじゃないか。
ハ・・・ハハハ・・・・
思わず笑ってしまう。
変だと思っていた彼女の一言がこの状況でやっと理解できたんだから。
それに・・・俺が彼女を守らなければ、彼女の味方がいなくなる。
そんなの・・・理不尽だ。
俺が・・・真冬ちゃんを守る。
「真冬ちゃん。」
俺は彼女の名を口にする。
「? どうしました、先輩?」
彼女は返り血に染まりながらも平然と返す。
「俺はさ、多分、真冬ちゃんが・・・真冬ちゃん1人だけが好きだったんだ。きっと自然と。この間のデートの時からきっと俺の・・・
この気持ちは偏り始めていたんだ。真冬ちゃんに。」
「先輩・・・」
「だから・・・」
俺は少し、間を空けて、
「俺が真冬ちゃんを守る。これから、ずっと。どんな奴だろうと。真冬ちゃんに手を出す奴からも。俺が守る。
俺はずっと真冬ちゃんの味方だよ。」
それは彼女を守りたいという思いから生まれた言葉。
それは彼女の味方でいたいという気持ちから生まれた言葉。
それは・・・揺ぎ無い覚悟。
それは彼女のためならどんな手段も選ばない決意。彼女が手段を選ばず、俺のために頑張ったように・・・
きっと・・・この選択を選んだ俺を多くの人は「間違っている」と、言うのだろう。
だが、
俺はこの少女を一人にしたくない。
だから・・・
「俺とずっと・・・一緒にいよう。真冬ちゃん。」
俺は狂ってなど無い。
真冬ちゃんは狂ってなどない。
だって、互いにこんなにも好きでいるのだから。
もしも狂っているというならば、それは世界のほうだ。