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避難所1スレ目127

作者:◆W20/vpg05I

「いらっしゃいませ~。お客様は3名様ですか~?
はい、それではこちらの席にどうぞ~」

妙に間延びした声が店内に響く。
割と栄えた駅前のデパートにあるレストラン。
時間は遅めの昼ごはん帯でそんなに人が入ってくるわけでもない。
そこで働く一人の少女。
ピンクのチェック柄を基調としたワンピースにフリルがふんだんについた真っ白のエプロンといった、
近所では可愛らしい制服と言われている服を着こなし、常に笑顔で対応している。

そのバイト少女――[[春日居美柑]]は混雑時を過ぎ、やっと余裕のできた時間もくるくると働いている。
そんな中入ってきた、ちょっと変わった3人組。美柑は親子かなぁと思いながら注文を取りに行く。

「復唱します~。チーズインハンバーグデミグラスソースのセットが1つ。
黒毛和牛ステーキランチセットが1つ。ホットコーヒーが一つですね」
「……はい」
「ご注文ありがとうございます。しばらくお待ちください~」

真黒なゴスロリ服を着た少女はじーっとメニューを見つめている傍ら、
隣の中学生くらいの男の子はなぜかしかめっ面でいる。
ちなみに30代後半っぽいおじさんが妙に肩を落としているのは気のせい……には見えない。

(うーん。これはご機嫌損ねてしまったお父さんの苦肉の策ってところかな?)

厨房へと注文を伝えながら、そう思う美柑だった。


*        *        *


流石に3時を過ぎてくるとお店自体も暇になる。
がらがらになった店内でお客を待つ、大体の仕事が終わってしまってちょっとできた暇な時間。
そういう時間に美柑は少し前、自身が巻き込まれた誘拐事件の事をつい思いだしてしまう。

それは、できれば忘れたい恐怖の記憶。

美柑はある意味トラウマといってもいい状態を抱えていた。

忙しくしているときはいい。ただ今の時間のようにぽっかりと時間が空くとき、
フラッシュバックのように思い出す。今でこそ表面上には現れないようにできるようになったが、
誘拐事件が終わった直後はどんなときでも一人でいることすらできなかった。
体の震えが止まらず、息が苦しくなることも少なくなかった。
だけど、香織が傍にいてくれたから、今はなんとかバイトもできるようにまで回復した。

ただ香織についても美柑には一つ疑問があった。
一緒に捕まったはずの香織は、何故かその誘拐事件に巻き込まれてないことになっている。
美柑が目を覚ました時には隣で気絶していたはずなのに。
最近は陸君とかいう男といっしょにいる時間が多くなっている気がする。
何か大変なことに巻き込まれてないか。それも心配だった。

とりあえず妙な疑問を頭から追い出すため、なんとかやることがないかときょろきょろとする。
すると、随分長い時間いるあの3人組が目に止まった。

なにやらお父さんの方が延々としゃべっている。
ゴスロリ少女の方はまったく興味がないようだし、男の子の方も一応聞いているようだが良くは理解していない様子。

(何を話しているのかな? ちょっと気になるかも)

マナー違反とはわかっていても、そこはそれ。トラウマ体験から逃げるようにそっと近づき話を聞く。
その話の中身を理解し、少年少女がなぜそんな状態か理解した。

(随分と難しい話をしてる……内容は面白いけど普通は理解できないよね)

先輩が何回か舌打ちしているのを見ながら、結局美柑は良い暇つぶしができたとばかりにその講義に聞き入っていた。



*        *        *



その三人組も帰り、夜の忙しい時間も過ぎ、そろそろ店じまいの時間。

そんなぽっかり空いた時間にちょっとした事件が起こった。

それは、美柑がふと何かが動いた気がして視線を床の一点にうつしたときに見つけてしまった。

そう――その視線の先、ある床の一点に黒光りするあいつがいた。

細くて長い触手をせわしなく動かし、それに対して鋭い棘を幾重にも纏った強靭な足はしっかりと床をつかんでいる。
思わず美柑は体を硬直させる。店にお客様がいないのは幸いだったが、それは美柑にとって大の苦手だった。
その黒い物体も威嚇するように前傾姿勢を保ちつつ動かない。
美柑の方もじっと見つめ、しかし動けない時間が過ぎる。

そして、美柑の目の前でそれはゆっくりと動き出した。

――黒光りする体を広げ、薄い半透明の翅をさらに広げていく。
――なんとなくその物体が前傾姿勢になっている気がする。

そして美柑に向かってそれが飛び出そうとし――


――目の前でその物体が消えた。




その現象が起きた後もしばらく美柑は動けない。
その美柑に声を掛ける者がいた。

「おい、美柑、大丈夫か? 体中が硬直しているな」
「三浦先輩。ありがとうございます」
「あれの対処なら任せろ。それ以外に俺の能力は使いようないからな」

口の端で笑って三浦と呼ばれた男性バイトは厨房に戻っていく。
その後ろ姿を見ながら、彼に今度は何か奢らないといけないかもと考えつつ美柑も仕事に戻っていく。



*        *        *



そして、今日も一日が無事に終わった。


――明日も、明後日も、これから先もずっと、この平穏が続きますように。





終わり。

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最終更新:2010年07月08日 03:27
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