「こちらシルスク。何?また民間人に危害?いい加減にしてくれよ……」
俺はシルスク、と名付けられている。肩書きはバ課第2班の隊長だ。バ課つうのは通称で、ほんとは長ったらしい名前があるんだが、この課にいるのは出撃時の命令すら忘れるようなバカばかりなので、バ課で十分だ。
今も部下の一人が民間人に襲いかかったらしい。一応副長が止めたので殺されはしなかったものの、また記憶処理班への書類が増えたかと思うとこっちが死にそうだ。
現在俺ら2班と、5班が
フェイヴ・オブ・グールと呼ばれる犯罪者を追っている。何の能力か詳しくは分かっていないが、報告によると、どうやら不死身らしい。
不死身って勝てんのかよ、と思うが、バ課の連中はバカだから勝ち目のあるなし関係なく突っ込んで行ってくれる。その点では臆病な奴らより使いやすい。
っと、また報告か。
「こちらシルスク。おう、見つかったか。なら今から向かう」
どうやら奴さんが見つかったらしい。走って現場へ向かう。
現場では既に戦闘が始まっていた。どうせ敵を目の前にして、ブカどもを止められる訳がないことは分かっているので、初めから止めていない。
先に到着していた副長に問う。
「既にひとり、ああ、たった今二人やられたとこっスね」
部下の死亡は、民間人の死より手続きが面倒だ。まあそれも慣れてきたから、5人までなら俺の精神も持つがな。6人を超えてくると、余りの書類の多さに発狂しそうになる。ラヴィヨンは頑として手伝わねえし。
「隊長?」
「ん、ああ、すまん。それで、敵の方はどうなんだ?」
「んー、それがですね、分かんねえんですわ」
「何が?」
「能力が。ホラ、今氷槍出したっしょ。でもあれ出したのは今回が初めてッス。さっきは炎だったし……」
「まさか……何でもあり、ってやつか?」
「そうかもしんねッス。」
ああ、くそ、頭痛が……
「まあ、能力に関しては、未だ殆どが解明されていない。【どんなことでも出来る能力】があってもおかしくないだろうな」
最悪の場合はそうなるだろう。だが、その可能性は低い。なぜなら、どんなことでも無制限に出来る、のであれば、最強の攻撃をし続ければいいからだ。すると、自ずと出る攻撃は限られてくる。
奴の能力、どこかに穴があるはずだ。
「ブハッ、おやおやァ、もう終わりカな?」
フェイヴ・オブ・グールが醜く笑う。……それにしても、フェイヴ・オブ・グールって長いな、ええと、Fave Of Ghoul、FOG、フォグ。うん、今度からそう呼ぶことにしよう。
「
リンドウチャン、こイつらテイクアウトで」
「ちゃん付け気持ち悪いです。はあ、なんで私ばっかりこんな役回り……」
ブツブツ言いながら、フォグの近くにいた女が何かをする。すると絶命した俺の部下3人は瞬時に消え去った。おいおい、マジかよ……
「なあ、ラヴィ」
「なんスか、隊長」
「……これ、勝ち目あると思うか?」
「今のとこはなさそっスね」
「だよなあ……」
はあ、多少は怒られるだろうが、ここは一旦帰るか。
「おい、フォグ……じゃなかった、フェイヴ・オブ・グール」
フォグは振り向いた。
「おぅフ、なァんだ?新手カイ?」
「いや、今回はお前の勝ちにしておいてやる。だから見逃してください、お願いします」
とりあえず超丁寧に言ってみた。
「オーケーオウケイ、見逃してやラないであ・げ・る」
うっわ、キモチワル。今のは鳥肌ベスト8入りだったな。
「いやはや、ありがたい。じゃあおやすみ」
最早言葉のドッヂボールだが、そんなことは気にしない。言うだけ言って俺は逃げ出した。生き残った部下たちは既に退避させてある。
「ハハッ、おセェおせェ!止まッて見えるゼ!!」
「実際止まってます、おじさま」
「んァ?」
そう、本物の俺は既に逃げた後だった。フォグと話していたのは、ラヴィヨンの能力による人形だ。
「察するに、遠隔操作可能な人形みたいですね」
「マヂかよ……」
「ふう、撒けたか」
「もう追ってこないみたいス」
ようやく一息付けた。いや、これからが本番だな。今のうちに腕をほぐしておかないと。
「さあて、本部に戻るか」
「了解っス」
「一風呂浴びるとするかな」
「あ、お背中流しますよ」
「……ヤメテくれ、吐き気がする」
「酷いっス!」
半泣きのホモい副長は放っておいて、俺は本部へ歩き出した。
これからの事を考えると頭痛が絶えないが、今は歩きながら心身を休めるとするか。
登場キャラクター
最終更新:2010年06月15日 21:26