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刹那

作者:◆KazZxBP5Rc

奴と出会ったのは、夜、いつもの“パトロール”をしているときだ。
奴は学生服姿で、ガードレールに腰掛けて月を眺めていた。
その姿に俺はある感覚を抱く。だから俺は奴の目の前に立ってこう言った。
「貴様から俺と同じ匂いを感じる。」
そう、俺と同じ、このくだらぬ俗世から切り離された存在としての“匂い”が。
奴は一寸目を強くつぶってゆっくりと開いた。そしてガードレールから飛び降りて叫ぶ。
「はっ! 何者かは知らねえが、俺は神に叛く男、岬月下。かかってくるならかかって来やがれ!」
「神に叛く男……か。俺の前でその肩書きを名乗ったことを後悔するんだな。」

雲が月を覆っていく。
奴は未だ気付いていない。俺が既に能力を発動していることに。
「俺は神の使者。名は……刹那。」
「上等だ、神の使者! あの世に帰って神に伝えな、俺を倒すならてめえで来いってな!」
そう言って奴は虚空から大根を取り出した。
俺が驚きのポーズを取ってみせると、奴は得意げに大根を振りかざす。全く、くだらない。
奴は足を上げようとして、だが、その場でひざをついた。
「な……!?」
「世界の基本は“美しさ”から成る。物理法則、数学の公式などは皆美しい。」
ビルの窓に映る自分の姿を見た奴は愕然としていた。
奴の耳には入っていないかもしれないが、俺は解説を続ける。
「俺は神に叛く者への罰として、貴様の“美しさ”を奪った。」
俺が奴にした事、それは奴の体内の脂肪を増加させる事。
大量の脂肪を蓄えた奴は、太った人間というよりは肉塊と呼ぶに相応しい醜い姿へと変化していた。
奴は浅く早く息をしている。これだけの細胞に酸素を行き渡らせるには呼吸が足りないのだろう。
「残りの時間でせいぜい自分の過ちを後悔するんだな。」
俺は奴から背を向けた。もはや直接手を下すまでもない。

だが、それからわずか二秒後、背後から奴の声が聞こえた。
「感謝するぜ、“弾”を増やしてくれて。」
振り返ると、すっかり元に戻った奴と、その周りに転がる大量のスイカが目に入った。
「貴様……!」
野菜を出すと体重が減る、といったところか。しかしこれはまずい、非常にまずい。
俺のあの能力“ゴッズ・ラブ・セヴェランス”は、一度使うと四時間は空けないと再び使うことが出来ない。
奴はスイカをひとつ拾ってぽんぽんと叩いた。
たしか“弾”とか言っていたな。まさか……投げるつもりか?
まさかこの俺が……。頭は逃げろと命令するのに、足がすくんで動かない。
「これで……終わりだっ!」
緑と黒の縞が目の前に迫る。何を突っ立ってるんだ俺は! 動けっ! 動けっ!
もう駄目だ、と覚悟した瞬間、スイカが跡形もなく消え去った。

「フトシー、何してたでやんすか?」
「くっ、ゼロか……。」
突然現れたのは、この俗世で俺の兄ということになっている男、刹那零
零は坊主頭にボロボロの野球服という出で立ちでだった。
ちなみにフトシ……太志というのは、俺の世を忍ぶ仮の名だ。
「まーた天使ごっこでもしていたでやんすか?」
「ごっこではない。俺は……」
「はいはい。帰るでやんすよ。」
「おい待てよ!」
奴がもう一個スイカをぶん投げてくる。
「無駄でやんす。オラはフトシと帰るでやんす。」
零がそう宣告した途端、奴の周りに落ちているものも含め全てのスイカが消滅した。
「オラはなんでも消せるでやんす。カーチャンが怒ると怖いからさっさとおいとまするでやんす。」
零は台詞通りさっさと先に帰ってしまった。
「次に会った時こそ、貴様を罰せさせてもらうぞ。」
俺は、口をぽかんと開けたままの奴にそう告げて、ビル街を後にした。
空を見ると、月が再び雲間から顔を覗かせていた。

おわり

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最終更新:2010年07月16日 08:46
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