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神の寵愛を受けし者

作者:名無し



「おバまああああ!!!」


時は何処かの世界の夜遅く、音をも呑み込む深い闇の中、一人の小男が珍妙な悲鳴を上げた。
男は後ろを時折振り返りながら必死に足をバタつかせて逃げている。
汚く履きこなされた黒い運動靴が、男が地面を踏みつける度にゴムの嫌な音を立てた。
キュッキュッと足を踏み込む度に闇の向こうから炎の弾丸が飛来し、男の周囲の地面を焼く。

路地裏を抜け大通りに出ると、その小男の風貌が月明かりの下、露わになる。
目にかかる迄伸びた髪が吹き上がってニキビが点々と付いた額が月光に晒された。
そして珍妙な柄の服が風を受ける度にヒラヒラと翻る。率直に言うと非常にダサい。擁護の出来ない程にダサい。
顔貌も2.95枚目といったところ、決してイイ男とは言えない。

その後ろを水も滴るいい大人達が鬼の様な形相で必死に追い縋る。
その出で立ちはまさにRPGに登場する主役達の様に格好良く、しかし現代においては余りに浮いた出で立ちだった。
「待て貴様!!よくも俺たち〝月光白狼騎士団〟を笑ったな!!絶対に許さん!!」

その怒鳴り声を聞いた小男はゲラゲラ笑いながら口を動かす。
「いい年した大人がそんなアホな事言ってるから笑われんだよ!自覚を持て自覚を!!
 そういって陶酔に墜ちていいのは、高校入学4ヶ月目の三日後までだ!
 考えても見ろよ!矢鱈イカれた能力の公務員がやたら居るっていうのに、ちょっと火やら電気やらを出せるだけで〝騎士団〟だって!?
 親が見たら泣くぞ?泣いちまうぞ??」

「き…貴様何を言うか…!我らが親を引き合いに出すとは断じて許さん!!!」
それを聞いた集団のリーダーは更に激昂するが、その後ろに居る男達には深く刺さる言葉だったようで、何人かの男が目を伏せ、俯いた。
畳み掛ける様に小男は休まず口を動かす、もちらんそれ以上の速さで足を動かしながら。

「それに今までお前等が仕留めて来た〝悪党?〟達の金品やらはどうしたんだよ?お巡りは何も知らないってよ!」
それを聞き、今度はメンバー全体が沈黙に包まれる。勿論足はさっき以上に動かしながらである。

その様子をチラチラと見ながら、トドメとばかりに小男はブチ撒けた。
「まさか…お前等のイカした車のトランクの中って言わねえだろうな?車体番号1342の紅いスポーツカーのトランクの中とかよ!!!」
それを言った瞬間、先ほどとは比べものにならない程の数の火球が、小男の背中を襲った。
「おひゃあ!!?」

慌てて身を翻し、ギャグマンガ宜しく器用且つ不自然に全弾避け、小男は怒鳴り散らす。
「図星か?図星なんだな!!?正義の味方を気取って結局はそれかよ!?」

思いも寄らぬ強硬手段に、小男は焦った。
このままでは埒が開かないと壁に手を触れながら角を曲がり、再び路地裏へ身を潜めようとするが、小男を不運が襲った。
逃げ込んだ路地は真逆の行き止まりだったのである。右左前方、何処を見ても白い壁が聳え立つばかり。

「あぁ!行き止まりだん!どうしよう!!!」
小男は壁に手を着き、壮絶に狼狽えた。
そのままマゴマゴしていると、ザッと路地にブーツが一斉に地面を踏み締める音が響く。小男はゆっくりと背後を向き直った。
そこには今まで小男を追い回していた男達がいた。だがその表情は先ほど迄態とらしく浮かべていた青臭い物では無く、正真正銘外道の面であった。

「ハハハ、色々囀ってくれたが…もはやココまでだな?」
リーダー格の男はそう言うと、大見得を切って手を前方に差し出した。
その途端、手の平から大袈裟な魔方陣が発生し、その周りを沢山の火の玉が彩る。
「君のような悪人はこの世にいた所で役に立ちはしない!ここで天誅を下してくれる!!」
誇るように、リーダー格の男は叫んだ。

だが小男は、その場にいた男全員が思いもよらぬ反応をしめした。
天誅という言葉を聞いた瞬間、浮かべていた必死の形相を瞬時に消し、途轍もなく不機嫌な顔をしたのである。
「……悪ねえ…、自分達が聞くに堪えない物が悪たぁ…随分な正義の味方もいたモンだな。」

その表情に気圧されながらも、リーダー格は負けじと声を張り上げた。
「何とでも言え!貴様はここで骨すら残らず燃え尽きるのだからな!貴様の安否を気にする人間等何処にもいまい。
 追い詰められたからってヤケクソで物を言ってんじゃねーよ!オッサン!!」

黙ってそれを聞く小男。
しばらくの沈黙の後、意地悪な笑顔を作りながら小男は声を張り上げた。
「誰が追い詰めたって?詰んでるのはテメエらだよ!弩阿呆共!!!」

小男はそう言って、指を鳴らした。その瞬間、静寂に包まれた路地裏に突如轟音が響いた。
〝騎士団〟の連中の両脇に聳え立っていた壁が盛大に崩れだしたのである。
「ぁ…ァア!!…ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
突然の出来事に慌てふためく男達。逃げる暇など在りはしなかった。
男達は抗う術も無く忽ち生き埋めとなってしまった。
一瞬早く気付き、子分を見捨てて逃げようとしたリーダー格も、部下を自力で押しのける事が出来ず一緒に瓦礫に巻き込まれていった。



もうもうと砂煙が立ち、ピシッと音を立てながらコンクリートの欠片がアスファルトの地面を跳ねる。
苦しげに瓦礫の山から顔を出すリーダー格の男。全身の骨が砕け、苦しげに呻き声を上げながらも小男に向かい怒鳴った。
「何だ!?何だってんだよお前!!悪は除かれるんだよ!正義が悪に負ける筈が無いんだよ!!!」
餓鬼の様に錯乱し、世迷い事を抜かすリーダー格。

その反省無しの態度に小男は機嫌を損ね、足下に転がって来た鉄芯を握り、リーダー格の頬へ向かいフルスイングした。
「おぎゃおおあああ!!!」
端麗な顔立ちが忽ち醜い馬鈴薯の様にメコリッと変形する。リーダー格は漸く大人しくなり、怯えた瞳で小男を見た。

其処には先ほどまで見せていた何処か飄々とした雰囲気は、無かった。
其処に佇んでいたのは、一人の修羅だった。

修羅は、一言一言噛み締めるように口を開く。それは途轍もなく憎悪に充ち満ちた物だった。
「貴様先ほど天誅だと言ったが……それは何よりも神を侮辱する言葉だ!!」
そう言って再び鉄芯を振るう、今度は綺麗に顔面へと向かい、鼻を躊躇無く潰した。
「ピギャアアアアおおああああ!!!」
まさに豚の様な悲鳴を上げる正義の味方。

その姿をしばしの間修羅は見ていたが、やがて飽きたのか、吐き捨てる様に怒鳴りつけた。
「俺は神に愛されし男!!〝昼間〟貴様等が俺を殺すと決めたその時から!!テメエらの敗北は既に決まってたんだよ!間抜け共!!」
小男はそう言って、踏みしているアスファルトに軽く触れ、その後指を鳴らした。
その瞬間、男達を生き埋めにしている瓦礫を乗せていたアスファルトが陥没し、墜ちて行く。

「ギャアアアアア!!!」
見苦しい断末魔を上げながら、偽善者達は深淵へと姿を消した。

「じゃあな自称性技の味方共……。」
その姿を見届けながら、小男はボソリと呟いた。そして振り返る事無く路地裏を這い出る小男。
その小男を迎えたのは、昇ったばかりの暖かい朝日だった。

それと共に小男の視界へと凄まじい数の情報が流れ込んで来る。
その大多数の下らない情報を反吐が出るとばかりに睨み付けながら小男は呟いた。
「…また腐った世の明けが始まる……か。」

そう言って男は、別の路地へと姿を消した

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最終更新:2010年07月17日 17:15
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