「西暦2000年2月21日、世界は隕石の恐怖にさらされた!!
大地は裂け、上空を塵芥が覆い、あらゆる生命体は絶滅したかに見えた。
しかし、人類は死に絶えてはいなかった!
そして世は再び暴力が支配する時代へと移り変わひでぶ!」
迫真の演技でナレーションをしていた秋山 幸助(27)を、どこからか飛んできた衝撃波が吹き飛ばした。いくばくか遅れて、三つ編みの少女が鼻を摩りながら歩いてくる。
「ごめんこーちゃん、暴発した」
彼女の名前は吉野 小春(よしの こはる)、兄貴代わりの幸助を慕う、ピチピチの高校二年生だ――――外見はもっと小さいが。
「おまえ……バッフの制御くらいいい加減できるようになれよ」
2000年2月21日のチェンジリング・デイ以降、人類は“バッフ”とか“エグザ”とか呼ばれる、昼と夜で別々の超能力を発動する事ができるようになった。
ちなみに小春は、朝は“衝撃波を発生させる能力”、夜は“あらゆる物を飛行させる能力”を持っている。だが本人は好戦的なタイプじゃないし、高い所も苦手なので宝の持ち腐れだ。
「こーちゃんなんか、まだどんなバッフかもわかってないじゃん」
「う、うるせぇ! もしかするとバッフがないのが俺のバッフなのかもしれないじゃねぇか! ジムカスタムみたいな!」
そう、そうなのだ。幸助はまだ自分自身のバッフが何なのかわかっていない。
「ごめん、こーちゃんが何言ってるのかわかんない。鑑定士に見てもらえばいいじゃん」
「駄目だ、貴重な休日を無駄にしたくないし、金もかけたくない」
「うわー、こーちゃんったらなんて守銭奴なのかし……くちゅん!」
小春がくしゃみをすると同時に地面が刔れた。バッフの暴発だ。冷や汗をかきながら幸助は思う。
――――こいつが花粉症だったら色々終わってたな。
「ういー、ちっくしょーい」
「オヤジかおまえは」
「あ! じゃあ、適当に踏ん張ってみるとか!」
手をぽむ、と叩いて小春が言う。
「何を言ってるんだおまえは」
「なんか発動するかも?」
なんで疑問系? と思いつつ、渋々踏ん張ってみる。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
そして幸助は驚愕する。本当に何かが沸き上がってきたからだ。
「どう? みなぎってきた? みなぎってきた?」
「うおぉぉぉぉ、なんだこの身体の内から込み上げてくる力はー!」
今なら何か、いつもはできない事ができそうな気がした。
「これが、俺の、バッフだぁぁぁぁぁぁ!」
ぽんっ。
「え?」
「わあ、素敵」
気の抜けるような音を立てて手の中に現れたのは、花束だった。それも薔薇の。
「なんだこれ」
「薔薇だね」
ちょんちょん、と幸助が持つ赤いそれをつつきながら、小春。
「そりゃ見ればわかるっつの! なんだこのガッカリバッフは!?」
「私に聞かれても困ります」
何故か小春が無い胸を張る。
「でも、もしかすると夜は凄いバッフが使えるかもしれないよ?」
♪ ♪ ♪
というわけで、夜。
「今度こそ俺のバッフでおまえをギャフンと言わせてやるからな!」
「こーちゃんがんばれー」
血走った目で小春を指差す幸助と、気のない声援を送る小春。
「よっしゃあ、やぁってやるぜ!」
昼の時のように気張ってみると、また似たような感覚に襲われた。
「きたきたきたきたぁぁぁぁ! これがッ、俺のッ、夜のバッフだぁぁぁぁぁぁ!」
ぽんっ。
「あ?」
「まあ、かわいい」
気の抜けるような音を立てて――――今度は手の中には何も出現していないようだ。
「なあハル、俺なんか変わった?」
「うん、変わった」
そう言って携帯で写真を撮って見せる。携帯の画面には、不精髭を生やしたネコミミのお成人男性が写っていた。
「ね? 変わったでしょ?」
「いや、まあ、確かに、変わったけどもよ……」
もう一度小春の携帯を引ったくって写真を見る。
うん、確かにネコミミだ……って、
「なんじゃあこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
登場キャラクター
最終更新:2011年10月17日 22:33