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ファイア&スモーク

作者:◆1m8GVnU0JM

 暗い夜道を、並んで歩く影二つ。片やくわえた煙草の煙を操り、片や口から火を吹いて。
「暗いね、はーたん☆」
「ドキドキするね、みーたん★」
 煙草をくわえた眼鏡の男――――川芝 鉄哉が、煙で形作った猫のような謎の生命体で腹話術をして遊びだした。どうやら右がはーたん、左がみーたんらしい。
「鉄っちゃん、よっぽど暇なのね……」
 呆れた顔で、溜息と一緒にボッと火を吹いたのが八地 月野だ。歩調に合わせて長いツインテールが揺れる。
「いや、これでけっこう楽しいんだぞ……あ、やべ、煙草切れそう」
「もうお別れだね、鉄っちゃん☆」
「今までありがとう、鉄っちゃん★」
「ああ……先にヴァルハラで待っててくれ、みーたん、はーたん」
「あーれー」
 みーたんとはーたんごと、煙草は吸い殻入れに消えていった。鉄哉は懐から新しい煙草を取り出して、くわえる。
「ツキ、火ィくれ」
「……どうせまた腹話術するんでしょ。煙草ばっかり吸って、寿命縮んじゃうよ?」
 月野はツン、と突っぱねる。鉄哉の健康を考えての事だ、別に嫌がらせとかそういうのではない。
「じゃあ他に何を吸えばいいんだ?」
「線香は?」
「……本気で言ってるのか?」
「駄目なの?」
 そりゃいかんだろう、と鉄哉が言おうとした時、前方から二人を呼ぶ声がしたので立ち止まる。
「あ、ヤッチーだ」
「おう、鉄っちゃんじゃねーか」
 自転車を引いている三つ編み少女と、パーカー姿の青年。吉野 小春と秋山 幸助だ。
「ハルちゃん、こーちゃん、こんばんは」
「よう、こーちゃん」
 まずは取り敢えず適当に挨拶を交わし、ひとつ質問を。
「なんでこんな時間に出歩いてるんだ、おまえら」
「こーちゃんの夜のバッフが何なのか確かめてたの」
 へぇ、と鉄哉と月野が同時に幸助を見やる。その目はまるで、獲物を見つけたハンターのよう。
「で、何だったの?」
「それはね、ネコ――――もがが」
 能天気な顔で説明しようとした小春の口を、幸助が赤面しながら塞いだ。素晴らしい反応速度だ。
「ネコ?」
「ねこ?」
「いや、何でもない、おまえらは何も聞かなかった。ところでおまえらは何でこんな時間にブラブラしてるんだ? 人の事は言えんが、ヤッチーなんか補導されるぞ」
 ひた隠しにするあたりかーなーり怪しいが、今は触れないでおく。どうせすぐにわかるだろう、と、幸助の傍らで自転車を引く三つ編み少女を見ながら思う。
「ああ、この辺に猛犬が出るって聞いて、一目見てみようかと思って」
「中学生が襲われてファミチキで逃げたというアレですな?」
「鈴本さんと桂木くんも襲われたらしいね……鈴本さんが撃退したらしいけど」
 わー鈴本さんスゴーイ……なんて学校での出来事に話題がシフトしていってる女子高生ズを尻目に成人男性二人は、

「最近どうよ?」
 幸助が煙草を取り出して火をつけ、くわえた。肺まで煙を充満させてから、ふぅっと吐き出す。
「どうもこうも、競馬がないと生活に刺激がなくて困る」
 同じように鉄哉も煙草を吸い始めた。
「だよなぁ、仕事ばっかじゃ疲れちまう」
 男二人で大きな溜息。一方、女子高生ズは、
「こーちゃん、鉄っちゃん、見て見て! ET!」
 小春のバッフで自転車を飛ばして遊んでいた。ちなみに小春は高い所が駄目なので、にこやかに見てるだけ。
「子供はいいなぁ」
「あの頃に戻りたいよなぁ」
 男二人、便所座りで大きな溜息。なんとも女々しい野郎共である。
 さて、本来の目的を忘れてしばらくくっちゃべって、そろそろ帰ろうと重い腰を上げた時だ。
 ガルルルルル……。
 今更になって、目的の猛犬が現れたのは。
 ベースはシェパード。虚な瞳と額に埋め込まれた紅の宝石が、なんとも言えない気味の悪さを醸し出していた。
「オーゥ、これが件の猛犬か」
「気持ち悪いね、はーたん☆」
「そうだね、みーたん★」
 いつの間にやらヴァルハラから帰ってきていたみーたんはーたんが顔を見合わせて言った。
「何やってんだ鉄っちゃん、帰るぞ」
「いや猛犬に気付けよこーちゃん」
「うわ、何あれ気持ち悪い」
「あれも誰かのバッフなのかな?」
 次々と飛び出す緊張感のかけらもない言葉は、あたかも波状攻撃の如し。
 一方の猛犬は、低く唸りながら攻撃の構えをとる。その身体から、機械の駆動音。
「おい、あのワンちゃん戦る気満々だぞ」
「よし、ツキ、撒くぞ」
「あいあいさー」
 目線でタイミングを合わせる。三、二、一……今!

 月野が猛犬に向かって火を放つ。火は動物にとって本能的な畏怖の対象だ、怯まないはずはない。続いて鉄哉が、
「行け、みーたんはーたん!」
「さー、あいあいさー」
 みーたんとはーたんをけしかけた。鉄哉のバッフによってあたかも生き物のように動くそれらは、確実に猛犬の視覚と嗅覚を麻痺させる。
「よし、光の早さで明日へダッシュだ!」
 全員一斉にとんずら。顔見知りだけあって息はピッタリである……が。
「……暗くて前が見えない」
 夜分遅いからだろうか、民家の電気はついてないし、電灯もまばらだ。
「火ィ出せ、火!」
「足元くらいしか照らせないよ!」
 全力疾走する一行に、内ゲバムードが漂い始める。
「そんな時は、こーちゃんにお任せ! ね?」
「いや『ね?』って何だよ!?」
「バッフがあるじゃん」
「マジで!?」
 小春は迷う事なく頷いた。どうやらマジもマジの大マジのようだ。幸助は一度舌打ちをして、
「しゃーねーな……おまえら笑うなよ!? 絶対笑うなよ!?」
 バッフ発動、ついでに笑われるフラグも発動、キュートなネコミミが頭部から顔を出す。するとどうだろう、幸助の視界が、だんだんと鮮明になっていくではないか。
「おお、すげぇ、ちゃんと見える!」
 どうやら幸助のバッフは、“ネコミミを生やす能力”ではなく“ネコの能力を宿す事ができる能力”のようだ。
「わあ、凄いねこーちゃん」
「やるじゃねぇかこーちゃん!」
「流石こーちゃん!」
「まあ、そうでもあるがな! よし、おまえら俺の身体しっかり掴んでろよ!」


 ♪  ♪  ♪


 その後、猛犬が追い掛けてくる様子もなく、全ては事なきを得た。
 猛犬のたけしくん(命名:小春)については警察に報告するという事に決定し、四人はそれぞれ家路につく。

 ――――余談だが、逃げ切った後に幸助が各々から爆笑されたのは言うまでもない。

 どっとはらい。

登場キャラクター



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  • 八地月野
  • 川芝鉄哉
  • 吉野小春
  • 秋山幸助
最終更新:2011年10月17日 22:34
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