大きな門の前で唖然とする初芽。
藤林はそれを気にもとめずスタスタと先へ進む。
「坊ちゃま、お帰りなさいませ」
年配の守衛らしき人物が素早く立ち上がり、藤林に向かって最敬礼する。
「宮本さん悪いんだけど、あれちょくちょく来ると思うから通してやって」
親指で硬直している初芽を指さす藤林。
「坊ちゃんの彼女ですか?」
「そんなんじゃねぇよ」
「坊ちゃんも世話におけないでやんすねぇ」
「違うって言ってるだろ?殺すぞ」
数々の不良を潰し学園で鬼と謳われる藤林が凄むも、全く気にしていない様子の宮本。
「これまた優等生っぽい子ですなぁ?名前はなんていうんでっせ?
あっしは坊ちゃんが育ちの悪い連中と手を切ったようで安心したでさ」
「だから違うって言ってるだろう……」
「奥様達には内緒にしておくんですな?」
黙って頷く藤林。
ヒヒヒヒと笑う宮本。
「それじゃぁお嬢さん、登録するからこっちに来てくんさい」
宮本に連れられ門の横のゲートをくぐる初芽。
『指紋・網膜認証、声紋認証中。声を出してください』
機械のアナウンスが無機質に流れる。
初芽は首を傾げながら適当に声を出す。
(藤林君って何者なんでしょう?)
ゲートをくぐると、宮本が出迎える。
「次回からはこのカードで門が開きますんで」
三枚のカードを受け取る初芽。
「カードは正門で一枚、坊ちゃんの住む離れの入口で一枚、坊ちゃんの部屋で一枚使いますです」
「どうして、そんなに厳重なんですか?」
「何しろ旦那様は世界政府の総帥、奥様は軍需財閥の……」
クラクションの音でかき消される宮本の声。
「乗れよ!」
真っ赤な高級スポーツカーの運転席に座っている藤林。
屋敷の中を車で移動する二人。
「参考までに聞いておきますけど、藤林君免許の方は?」
「持ってないぜ?でもここ私道だから問題ないだろ」
「そういえば、さっき守衛さんに聞きましたけど藤林君のご両親って……」
アクセルを強く踏み込む藤林。
急発進する車。
「親の話はするな。俺には関係無い!!!」
「キャー」
突然声を荒げる藤林に驚く初芽。
「悪い!」
「私の方こそ……」
車の窓から見える広大な敷地。
庭には牧場もあり、牛や馬が放し飼いになっている。
「どこに向かってるんですか?」
「もうすぐだから待ってろって」
ベルサイユ宮殿のような建物を通り過ぎ、江戸城のような建物が前方に見える。
「あのぉ~、あれが藤林君の家ですか?」
「家っていうか、部屋だな。家族全員別々に暮らしてるから」
「お金持ちなんですね、そんなお金持ちが何で不良なんですか?」
車を降りた二人が城の中に入る。
「一応言っておくが、学校では誰にも言うなよ?」
フフフと笑う初芽。
「藤林君の家に行ったなんて話したら、私の真面目で清純なイメージが崩れちゃいますからね。
誰にも言うわけないじゃないですか」
「随分な言われようだなぁ」
高速エレベーターに乗る2人。
一気に天守閣へと向かうエレベーター。
「この前のあれなんだけどさぁ、あれって何だったんだ?」
フウとため息をつく初芽。
藤林は先日の一件が気になって仕方が無かったのである。
ハアと大きくため息をつく初芽。
「スッカリ諦めたのかと思ったら、そうじゃなかったんですね」
エレベーターが天守閣に到着する。
床の間には鎧甲冑が飾られ、壁には高級そうな掛け軸が掛かった和室。
畳に座る二人。
「ここなら誰にも聞かれないし、話してくれても良いだろう?」
「誰にも聞かれない?」
障子を見つめる初芽。
「ん?」
ゆっくりと襖が開き、おぼんを持った長い栗毛の若い女性が入ってくる。
「藤崎さんは俺の部屋のお手伝いだから気にしなくて良い」
ペコリとお辞儀をしてから、お茶を初芽の手元に置く春恵。
「藤林君の部屋のってことは……」
「そ!親父とお袋、2人の兄貴と姉貴の部屋にもそれぞれ居るんだよ」
「随分お金持ちなんですね……」
初芽は春恵に軽く会釈してから、湯飲みに手を伸ばす。
「俺は別に金持ちじゃねぇよ、
まぁ……、警察沙汰になったのを金で揉み消したことはあるけど」
ジロリと藤林を見る初芽。
「別に俺が頼んだわけじゃねぇよ。自分らの経歴に傷が付くのが嫌なんだよ。
一応、藤林は名家で通ってるからな……」
初芽が寂しそうに呟く。
「良いですね、家族が居るっていうのは……」
首を傾げる藤林。
「甲賀んとこの親はどんな感じなんだ?
意外とお嬢だったりしてな」
無表情な初芽。
「私には家族は居ません。
チェンジリング・デイの時にまだ生まれたばかりだった私を一人だけ残して死にましたから」
「悪い。嫌なこと聞いちまったな」
初芽が慌てて首を横に振る。
「気にしないでください。私にも家族は居ますから」
「施設の寮母とかか?」
「ちょっと違うかなぁ」
初芽がゆっくりと湯飲みを置きながらニコリと笑う。
「仲良いのか?」
「色々ですね。15人も居るんで……」
苦笑する初芽。
「ウチは年に一回会うか会わないかくらいだな。
俺の様子はガキの頃から、藤崎さんに聞いてるみたいだけどな」
初芽がポンと手を叩く。
「それでグレちゃったんですね!」
フンと鼻で笑う藤林。
「親に構って欲しくてってか?」
ウンウンと頷く初芽。
「ちげぇよ……」
初芽がウウンと唸り声をあげる。
「じゃぁ、優秀なご家族にコンプレックスを……」
頭をポリポリと掻く藤林。
「家(ウチ)がこんなだからさ、ガキの頃から護身術とか色々叩き込まれててな。
中学ん時だったかなぁ。それまでいじめられっ子だったんだが、
成長期ってやつだったんだろうな。急に身長が伸びてそしたら横が増えてな」
意外だといいたげな様子の初芽。
「いじめられっ子だったんですか?」
「そう、さっき霧隠の言ったとおり、落ちこぼれだったからな」
お茶菓子に舌鼓をうつ初芽。
「それで?」
「ある日、いつものようにカツアゲをされて、ついつい思わず手が出ちまった……
俺としては加減したつもりだったんだが、体重がこれだろう?病院送りにしちまってな。
次の日そいつの兄貴が仕返しに来て、それを返り討ちにして……」
藤林の前に置かれたお茶菓子に手を伸ばす初芽。
「めくるめくる不良のシンデレラストーリーってわけですか」
クスクスと笑う初芽。
「俺としてもな、そろそろ馬鹿は卒業したいわけだ……」
「卒業と言いますと?」
「
バフ課にはどうやったら入れる?」
初芽が目を細め、茶菓子を口に頬張る。
続く
登場キャラクター
最終更新:2010年10月03日 22:05