哀れ蚊すらも減ってきた秋の昼下がり。
「うーむ、枝振りが良くねぇな」
白髪混じりの角刈り頭、庭師御用達の藍染めはっぴ、足元には地下足袋、手には長ーいオオバサミ。
あからさまなくらい庭師然とした恰好のおっさん━━しげるは木を切っていた。
地球に隕石が降ろうとも、庭に植わった木々達は成長をやめない。
そんなわけで、庭師の仕事は今もって変わらず、伸び過ぎた木を剪定したり害虫を駆除したり、
庭の手入れを頼んでくれたばあさんの茶飲みに付き合ったり。
相も変わらずなんとも牧歌的なのだった。
「しげしゃん、茶でも飲みんや」
ふがふがと締まりのない喋りをするばあさんが、丸盆に茶と菓子を乗せて縁側にやってきた。
しげるはありがとよばあさんとか言いながらどっかりと縁側に座った。
茶菓子の練り切りをひとかじりで半分以上食い、アッツアツの緑茶をぐびぐびと飲む。
気持ち良いくらいのおっさんぷりを発揮しながら、しげるは木について説明を始めた。
「あすこの松なんだが、幹に【す】が、つまりヒビが入っちまっててよ、そっから虫も入ってる。多分そのうち枯れっちまう」
「ほうかえ……なんとかでけんかねぇ。じいしゃんの形見みたいん木やけ」
「残念だけど伐った方が良いな。すが深すぎて、虫殺して養生する事もできねぇ。虫が他の木に移る前にばっさりやっちまうべきだ」
「ほうか……しゃあないかねぇ」
心底残念そうなばあさんを横目に、がぶがぶ茶菓子と茶を流し込み、しげるは木に目線を戻した。
「せめてもう少し幹が太けりゃ養生のしようもあったんだがな。こう、ヒビの辺りがもう少ししっかり……」
しげるが、もう少ししっかり、のジェスチャーをしたその時。
━━ミシ。
「……ありゃ?」
しげるは目頭を揉んだ。
何故かと言えば、さっきまで痩せ細って見えていた老木が、とんでもなくしっかりした幹になっていたからだ。
全盛期の小錦の腹回りくらいある。
「どうにか伐らんで済ませれんもんやろか」
ばあさんはいたって普通にしている。
しげるは自分の目が悪くなっていたんだなと一人ごち、ばあさんに言った。
「ばあさん、すまねぇ、間違えた。よくみりゃ随分太い木だ。あれなら、すを削って傷を埋めときゃ大丈夫だ」
「おお、そうかえ、えかったわぁ」
「じゃあ俺、ちっと漆とノミとナグリ持ってくらぁ」
しげるが木の治療道具を取りに行った後、ばあさんは木を見て言った。
「……はて、あんなに太い木だったかいねぇ?」
真緑 繁(まみどり しげる)58歳、職業は庭師。
昼の能力【超濃緑】が開花した瞬間であった。
終わり
登場キャラクター
最終更新:2010年11月21日 12:41