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(4スレ目324~325)


しげるは木の治療道具が積んであるバンを止めた駐車場に向かっていた。
向かっていたのだが。
「滅びの未来が見えるよ、しげさん」

こんなことを言われたから、ついばあさんちの玄関先で足を止めた。
しげるに声を掛けたのは、ばあさんの孫のさっちゃんこと絲乃 運命(にいとの さだめ)15歳♀だ。
女子ソフトボール部みたいなウルフヘアに近いショートカットと日に焼けた小麦色の肌が活発な印象を与えるが、
実は運動オンチで読書が趣味の文系少女だ。
目が弱視で天気が良い日は外で本を読むため日焼けしている。
コンタクトや眼鏡で矯正できないタイプの弱視であるため、眼鏡は身につけていないし目付きが凶悪だ。
ちなみにさっちゃんは浜田正利が勝又邦和をかっちゃんと呼ぶときと同じイントネーションである。
また、中学の制服のスカートの下に体育ジャージを着ているのがなんとも微妙なセンスである。
しげるはさっちゃんの何倍も日に焼けたしわだらけの顔面に笑顔を浮かべてはなしかけた。
「よぉ、さっちゃん。また漫画の話か?たまには友達と遊べよ」
「……しげさん、私の読んでる本は漫画じゃないんだよ?ライトノベルっていうんだ。今日は早川SFだけど」
不服そうなさっちゃんの顔がガキっぽくて、しげるはガハハと笑った。
それに反してさっちゃんは真剣な顔だ。
「しげさん。今から私真面目に忠告してあげるから、そっちも真剣に聞いて」
さっちゃんは頭一つ以上背の高いしげるに向けて下から笑うせいるすまんみたいに指を突き付けた。
笑うせいるすまんがわからない場合は「お逝きなさい」の釈由美子でもよい。これも古いか。


「あん?忠告てなぁ何だよ?」
しげるは片眉を吊り上げて「あん?忠告てなぁ何だよ?」って顔をした。
さっちゃんは質問には答えず「ドーン!」かつ「お逝きなさい」の指先をクルクル回した。
しげるの目線もクルクル。
しげるはトンボではないが、もしトンボだったら間違いなく捕獲されるパターンだった。
さっちゃんは喋り始める。
「隕石がもたらした能力について、しげさんも知ってるでしょ。
私の昼の力は【ルージュ】、運命の赤い糸を見る力。
目の錐体細胞の一部と引き換えに、運命の帰結を糸として見ることが出来るんだ。
なかなかすごい力なんだけどペナルティで色覚細胞とられちゃうから、見すぎると色盲になっちゃうんだよね。
それでさ……しげさんの運命を見ると、数十年後の"全人類の運命と繋がってる"んだよね……。
これがどういう意味かわかる?」
しげるは目を回して膝を付いた姿勢のままえづきながら返事した。
「オエッぷ……全然わかんねぇ。さっちゃんの言ってるこたぁジジイにゃ難しすぎんぜ」
しげるはハテナマークをほとばしらせて首を傾げた。
しかし全体的には酔いを抑えるのに必死だ。
「簡単に教えてあげる。しげさん、地球はね、繊細なんだよ。優しくしてあげてね」
「うーむ……よくわかんねぇがさっちゃんの頼みだからな。この真緑、肝に銘じておくぜ」
任しとけ、なんて言いながら、酔いから醒めて胸を張るしげるを見つめ、さっちゃんはニッコリ微笑んだ。
「……しげさんて、子供の言うことでもちゃんと信じてくれるよね。なんかカッチョ良いおっさまだ」
「ワハハ、惚れちゃ火傷すっぜ。カカアがあの世から人魂んなって飛んでくるかもしれんからな!」
しげるはさっちゃんのウルフヘアっぽい頭をわしわし撫でた。
迷惑そうに頭を揺さぶられながら、さっちゃんは昼の力でしげるを見る。
全人類と繋がる赤い糸が、細くて頼りない糸になっていた。
さっちゃんが最初にしげるを見た時はもっと太かった。
しげるがさっちゃんの言葉を聞き入れた結果、運命が変わりかけているのだ。
さっちゃんはしげるの手から逃げ、玄関に半分入って言った。
「子供の言うこと、マジに聞いちゃってくれて、ありがと。ほんと、カッチョ良いおっさまだ、しげさん」
さっちゃんはカラカラ鳴る玄関の引き戸を締めながら言った。
「運命は変えられるんだよ。まだ安心できないけどさ」
さっちゃんは、コレあげる、と言ってしげるに一冊の文庫本を投げ寄越し、扉を締めた。
「……ははっ、不思議な嬢ちゃんだねぇ」
しげるは言いながら本を眺めた。
タイトルは【人間以上】。
サイキックが新たな世界を造るというようなストーリーであり、さっちゃんからの最大の警句であったのだが。
「字がちいせぇな……」
老眼のしげるにはよく見えなかった。
庭からばあさんの急かす声が聞こえてきて、しげるは仕事道具を取りにバンへ向かった。
終わり

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最終更新:2010年11月21日 12:44
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