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運命の交差路~遭遇~ > 3

作者:◆W20/vpg05I


「ここか」

俺は今、樹下楓が活動しているだろう中学校の前に立っていた。
時はすでに下校時刻を過ぎ、おそらく部活動も終わる頃。
辺りは夕焼けで黄金色に染まり、もうすぐ俺の本来の役割を発揮する時間帯に迫ろうとしていた。

「こうやってると、ドクトルJを思い出すな」

目的の人物が現れるまではむやみに中に入ることは躊躇われた。
ガードレールに腰掛けながら、暇つぶしを兼ねて少し前を思い出す。
突然再び現れた来訪者達、そしてその後に起こった事を懐かしむ。
色々あったな……

「……月下君?」

意外と深く思いふけっていたのだろう、横から声を掛けられるまで気付くことができなかった。
慌てて振り向くと、そこには茶の混じった黒髪を風で靡かせつつ、釣り目がちな目を真っすぐに向けた少女が立っていた。
両手で学生鞄を抱えつつ、不思議そうな表情を浮かべている。
その少女に俺は片手を挙げ、答える。

「よう。会いに来たぜ。樹下楓」


*          *



「やっぱり君なら見つけらると思ったんだ。ウチたちのホームページ」
「いや、あれだけわかり易ければ誰でもわかるぞ」
「そう? 君に与えた情報は二つだけ。それでわかるのは才能よね」

目の前を歩きつつ、校舎内を案内する楓の話を聞く。
一見何の変哲もない校舎。リノリウムの廊下を歩く音は二人分。
他には誰もいない。
外ではまだ運動部が活動しているのだろう、歓声が聞こえてくるが文系の部活は終わっているようだ。

今向かっているのは世界EIYU協会の活動拠点。その一室だった。
俺みたいな部外者を通すにはどうなんだと思うが、そこは楓のお眼鏡に叶ったとのことだ。
協力する気はないと言っているのに、俺に対し彼女は何を期待しているのだろうか。

「ついたよ」

何の変哲のない部室の扉。そこには世界EIYU協会と堂々と立て看板がかかっていた。

「……秘密結社じゃなかったのか?」
「ウチたちの活動は地域密着型よ。秘密にしてどうするのよ」

俺の呟きが聴こえたのだろう。そう楓は答えを返す。
はて、ここまでオープンであると言うことは本当にただのボランティアサークルだったのか?
そんな疑問を抱きつつ、俺は楓の行動を待つ。

そして、楓はあっさり扉を開け、無言で部屋へと入る。
俺もそれに続き、中に入った。


「特に何も変わった所のない、普通の部屋だな」
「当たり前じゃない。ボランティアサークルよ。ウチたち」

そこにはスコップやら、軍手やら、野外活動をするためだろう様々な雑貨が置いてあった。
しかし、特に怪しい物はなく、本当にただのボランティアサークルだったのだろうか? と疑問が浮かぶ。

周りの様子に気を配っていると、人の気配を感じた。警戒の意味を込めてその方向を見る。

そこには一人の少女が座っていた。お茶が入っているだろう湯のみを机に置きながら、黙々と本を読んでいる。
外見は中学1年か、下手すれば小学生位。黒髪を三つ編みお下げにしている。
動かなければ人形と間違えそうになる位、生きている感じのしない少女だった。
俺はその姿を見、放心と共に一瞬でも後ろに下がりたい衝動を感じる。

……何故かはわからないが、何かがおかしい。
本当なないはずのものがある感覚と言うのか、作り上げられている姿が真実を表していないような錯覚。
これは俺が創造を司る能力を有しているが故なのか。

思い、思わず立ち止まってしまっていると、楓はやすやすとその少女に近づき話しかける。
何故かびしっと敬礼までしていた。

「総統! 前に話した少年、岬月下君を連れてきました!!」
「総統なのか! その子!? 人は見た目によらないな!」

思わず突っ込みを入れてしまった。
……やっぱり何かおかしい、この組織。
そう思っていると、人形のような少女をページをめくる動作を止め、こちらを向いた。
途端に生気が戻ったかのように感じる。なんというか“人”を感じる動作だった。

「あら珍しい。お客さん? ああ……君が楓が話してた月下君ね」

その俺よりも年下と思われる少女から掛けられた言葉は、しかし俺よりも年上に感じられた。
なんというか非常に落ち着いた感じがする。

「ああ、岬月下だ」
「よろしくね、月下君。あ、後、楓、総統は止めてっていつも言っているでしょう?」
「えー。いーじゃないですか。総統ですよ総統。ヒーローには指令が必要なんですから!」
「まったく……人前であんまりそういう事は言わないのよ。変な子だと思われるわよ」
「いいですもん!」

なんか急に楓が子供っぽくなった気がする……
いや、この少女が大人っぽ過ぎるのか?
そう思いながら俺は眺めていると、三つ編み少女はこっちに改めて顔を向けた。

「あ、ごめんなさいね。そこにお掛けになって。楓の友達なら奮発しようかしら。玉露入りにしましょうか」
そう言ってその少女は器用に片手でティーバッグを取り出すと、お湯を注ぐ。

進められるままに俺は椅子に座り、出てきたお茶を飲む。
……うーん苦い。
それを飲んでいると、ふと少女と目があった。彼女は軽く会釈して、

「あらあら、そういえば私の名前言ってなかったわね。私は加藤時雨、よろしくね」

自己紹介し、その少女は俺に向けて微笑みかけた。


*          *



テーブルの上には様々なお菓子の山。
完全におやつタイムになってしまったが、俺の昼の能力を底上げできると考えれば悪くない。

「おっ。これ旨いな」
「それはクグロフっていってフランスのお菓子ね。中に入ってるフルーツがいい感じでしょ?」
「あ、月下君、ほっぺにお菓子ついてるよ。取ってあげる」
「って、おい! いきなり舐めてくるなんなよ。びっくりするだろうが!」
「月下君も男の子ねぇ。でも楓も少しは気を使いなさい」
「ねぇねぇ総統。ウチはこれ貰っていい?」
「話を聞いてない……はいはい、わかったわよ」

……あ、しまった。腹も満たされて満足する所だった。
ここに来た目的を忘れてどうするんだ。

「そういえばこのサークルはどんな活動をしてるんだ?」

念のため確認を取るために聞いておく。その質問に答えたのは楓だった。

「ボランティア。ゴミ拾いしたりとか。とにかく環境に優しい事ならなんでもやるのが特徴ね」
「私はここで本読んでるだけよ。そういう活動してるのは楓だけね。部員なんて全部で3人しかいないんだし」
「総統も一緒にやりましょうよ。私も昼の能力のせいで昼の間は満足に動けないんだから」
「私は静かに本を読めるから入っただけよ」

横から口を挟んだ時雨さんに対し、楓は文句を言うように返している。
なるほど、本当にボランティアサークルだったんだな。しかも環境関係。
あの大仰なサークル名は何だったんだ。

「ん? 楓、お前昼間は満足に動けないってどういうことだ」

なんとなく気になったことを口に出す。その問いに楓は「ああ」と頷き答えを返した。

「えっとね。私の昼の能力は『英雄養成ギブス』っていって昼間は日常をぎりぎり普通に過ごせる程度の力しかでないの。
視力まで落ちちゃうから普段はメガネなのよ。今日はたまたま掛けてないけどね」
「それはまた厳しい能力だな」
「本当に困っちゃうわよ。いっつも体育じゃビリだし、すぐ疲れるし」

そう言って困ったように笑う楓に俺も一応苦笑で返す。
昼間は全く力を発揮できないか。ある意味俺よりもキツイ能力かもしれないな。

「大変だな。……そういやドクトルJが言ってたな。能力は必ず人を幸福にする訳ではないって」

あえてさりげない形でドクトルJと言う名前を出す。
その反応で裏を知っているかどうかある程度判断できるはず。
多少危険な賭けではではあるが、二人の俺への警戒は薄いと判断。ここは勝負どころだろう。
その言葉に始めに喰いついたのは楓の方だった。

「ドクトルJ?! それって悪のマッドサイエンティストとか。君の敵対組織とか!?
ウチが力貸せる所ない!?」

うわぁ。めっちゃ目を輝かせて言ってるな。
しかしドクトルのことを知っているという反応ではない。
これは白か……?

「まったく、楓はいっつもそういう系統の事になると首突っ込もうとするわね。止めときなさいな危ないから」
「むー。ヒーローになるには、事件に首突っ込んでこそだとウチは思うわ」
「それで危険になるのは楓よ。最近の猛犬注意程度なら楓でも大丈夫でしょうけど、
こういうことは何倍も危険なんだから、もう少し注意なさい」

その楓に対し、やんわりと止めるのは時雨だった。
これも子供をたしなめる大人と言った雰囲気以外は特に問題は……ん?

「いや、ドクトルJ って俺が呼んでるだけだから。その人は普通の人だな」
「ちぇー。残念」
「残念じゃないでしょ」

真実を隠し、否定しておいた。どうやら楓が白である以上、俺の闘いに巻き込む訳にもいかないだろう。

……それよりも気になるのは時雨の方だ。先ほどと雰囲気こそ全く変わらないが、何か気になる。
彼女の態度は、普通に見えるが微かな違和感を感じた。
しばらくその違和感の正体へと考えを巡らし、ふと気付いた。

彼女は猛犬と同等以上にドクトルJを樹下楓と関わらせる事、それ自体を危険と見ていた。

俺が言う程度なら近所の妙なあだ名をつけられた人程度に思うことだろう。実際にそう説明している。
だが、彼女の判断基準にドクトルJが一般人という考えがない。

つまり、彼女はドクトルJを知っている。

――こっちが当たりか。

予想外だったが収穫はあったと言うことだろう。
後は彼女が敵かどうかだが……

「あら、もうこんな時間ね。そろそろお開きにしましょうか」
「あ、本当だ。はーい」

そこまで考えを巡らした所で時雨がお開きの宣言をした。
時雨の言葉に楓も返事し、てきぱきとかたし始める。
時雨はぴょんと椅子から降り、さっさと扉に向かって言った。

「私は月下君を送るから。後頼んだわね」
「はーい」

何気ない言葉。その中に込められた意味を感じ、俺も頷いた。
つまり話があるということか。

「じゃあな。楓」
「さよなら。月下君」

楓に挨拶をし、廊下に出る。
リノリウムの廊下を歩く音は二人分。他には誰もいない。
外からは運動部の声も聞こえない。
さっきから妙な緊張感を感じている。自分よりも年下のはずの少女へ警戒感は高まっていく。

前を歩く時雨から不意に声がかかった。

「月下君、そんなに警戒しなくてもいいわよ」
「……ばれたか」
「そりゃそんなに筋肉を硬直させてればね」

やはり黒だったか。場合によっては戦う必要もあるか?
そんな俺の考えを気にした風もなく、時雨は歩き、俺もその後ろに続く。

「そうね、一つだけいい?」
「なんだ?」
「ドクトルJを知ってるの?」

やはり、そういうことか。思い、言葉を口にする。
今度は嘘を吐く必要はないだろう。

「ああ、会ったこともある」
「そう……なら、一言いっておくわね。楓は何も知らないわよ。だから、彼女をそちら側につれてかないでね」

口調こそゆったりと、なんでもない頼みごとをする時の物。
だが、その時雨の雰囲気は、俺をしてたじろいでしまうほどの威圧感を纏っていた。

……これが、闇の深き所にいる者の気配か。
だが、俺も闇を生きる者。この程度で負ける訳にはいかない。

「ああ、約束する」
「なら、いいわ。楓の事、友達としてよろしくね。あの子もあんな感じだから友達少なくてね」
「……いいだろう」

それが闇の物としての最後の会話だった。
それから俺たちは他愛のない会話をしながら家路につく。



――そのはずだった。






*          *


「ふう。これでよし。さっさと帰らないとね」

部室の掃除片づけは終わった。
楓はそう呟き、背伸びをする。そこでからりと扉が開く音を聞き、楓は振り向いた。

「おかえりなさい。総と……」

言葉は続かない。そこにいたのは、この間警察に突き出したはずの相手。
その男は暗い笑みを浮かべると楓へと言葉を掛ける。

「ただいま。かわい子ちゃん」

瞬間、男の拳が楓のみぞおちに突き刺さる。
声も挙げられず倒れた楓に、男は馬乗りになり無造作に首を絞めた。

「ガッ……クヘ……」
「大丈夫。今ここで殺したりはしないよ。
ゆっくり、しっかり恐怖を味わってもらいながら切り刻んであげるからね」


それが楓がその場で聞いた、男の最後の言葉だった。


続く。


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最終更新:2010年12月26日 17:58
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