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運命の交差路~遭遇~ > 4

作者:◆W20/vpg05I


ぽたり……ぽたり……

液体が落ちる音を感じて意識がもどる。

ぽたり……ぽたり……

体はまだ動かない。人工的な光が周囲を照らしている。だけど霞んだようにはっきり見えない。

ぽたり……ぽたり……

「――起きた――しま――血を抜きす――」

ぽたり……ぽたり……

近くで男の声が聞こえるが、はっきりしない。

ぽたり……ぽたり……

「これじゃ――だな。痛みも――感じてなさそうだ」

ぽたり……ぽたり……

確かこの男に誘拐されたっけ。ぼやけた頭で考えるがはっきりしない。

ぽたり……ぽたり……

「両手両足に――のは、やり過ぎたか。ま、――血抜きもいいか――まそうだ」

ぽたり……ぽたり……

やっと今の自分の状態を認識できた。

ぽたり……ぽたり……

なのに痛みも感じない。

ぽたり……ぽたり……

だから――

ぽたり……ぽたり……

かすかに残る意識を繋ぎ止めながら、思う。

ぽたり……ぽたり……







――タ ス ケ テ




*           *



時雨と学校の入り口で別れ、帰ろうと俺は外に出る。
結構長話をしてしまった。とはいえ色々収穫もあった事だし首尾は上々と言った所だろう。

太陽が完全に落ち、今は夜の世界に変わっている。
そう、今の時間は俺の、月下としての力が完全に使える時。
本来なら後一時間もすれば夕飯なのだが、お菓子を食べ過ぎたのか夕飯を食べられる気がしない。
そう、今なら如何なく能力を使えるだろう。
練習しながら帰るとするか。


――タ ス ケ テ


ふと声が聴こえた。
一瞬その声が幻聴かと思う。しかし、余りにはっきり脳内に響いたその声。
そのきき憶えのある声に、そしてその内容に戸惑う。

……楓の身になにかあったのか?

その声が楓の能力である可能性に思い当たり、その声に答えるべく意思を表す。

「当たり前だろ」





――瞬間、視界が切り替わった。

何が起こったか判断が追いつかない。
まず見えたのはだだっ広い余り物がない部屋と、同じように俺を見て怪訝な顔をした男だった。
しkしその男の顔は見覚えがある。

始めて楓にあった時、彼女を追っていた男だ……!?

認識した瞬間、横に跳べたのは運が良かったとしかいいようがない。

たった今自分がいた場所には、数本の鉄線が突き刺さっていた。
あのまま立っていれば俺に突き刺さっていただろう。
冷や汗をかきつつ、俺は自身の動きを横に、前に、後ろに、不規則に継続する。
同時に、サイレントシールドとれ魔剣レイディッシュを創造。
敵の攻撃から身を守りつつ、今の状況について思考を巡らせる。

この男に捕まり、楓は助けを求めたのだろう。なんとも執念深い男だ。

助けを求めるに当たり使ったのは楓の能力。おそらく空間転移の類だろう。
助けを求め、その対象として無意識に俺を選択したのだろうか。
始めて会った時にいつの間にか装備していた手甲や取りだした縄も、
彼女がこの能力を使い引き寄せたと言うことなのだろう。
しかし、人間を一人、引き寄せることができるほどの能力だったとは。

ともかく、ほぼ無策でいきなり敵の陣地に入ってしまった状況だ。
せめて、ある程度の策をたてさせて欲しかった。
正直、あの男に正攻法で勝てる気がしない。

その部屋はかなり広い。その上鉄製の扉が一つしかなく、窓もない所を考えるとここはおそらく地下室なのだろう。
そんな地下室の中央。その机の色に、そこにある光景を見た時、今まで考えていた小さいことは全て吹き飛んだ。

――赤黒く染まった机がそこにあった。

ぽたり……ぽたり……とその赤は流れ、机の下へと伸びていく。
その流れの源泉。そこに一人の少女が無造作に乗せられていた。
その少女が楓であると気づいた時、俺の中で何かが切れた。

両肩、両の手の平、両腿、両脚、それぞれに直径2cmくらいの鉄管が貫通し、突き刺さる。
その管から赤の液体が流れ、少しずつ、しかし確実に楓の中の血液を奪っていく。
そして、その楓の頭が揺れ、こっちを見た。
目は開いている。しかし、何も認識していない、焦点の合わない瞳が目に入った。

「―――――!!」

声にならない咆哮をあげ、俺は男へ突進する。
だが、同時に、俺の思考は深く、冷静さを取り戻していた。
男は俺の行動に一瞬驚きに目を見張るが、暗い笑みを浮かべ直し、刃を向けてくる。

一発目はサイレントシールドで受け止める。だが、その衝撃は重く、突き破られるのを感じ即座に手放す。
前とは威力が段違いだ。おそらく奴の金属を伸縮する能力は、使用する素材の強度や重量の総量は変化しないのだろう。
ナイフのような小さな物体では、伸ばす距離が長くなると、薄く、弱くなりほとんど攻撃力を持たなくなる。
それゆえにサイレントシールドで十分防げた。
だが、今、奴が使用しているのは日本刀だった。重量も強度も段違いなわけだ。
それでも一発目は凌ぎきった。すでに魔剣レイディッシュの射程距離。

「喰らえ!!」

狙いは奴の鳩尾だ。一番避けづらく、一瞬でも怯めば連続攻撃を決められる。
だが、振り切った魔剣レイディッシュから抵抗をまるで感じられない。

――外れた!?

悪寒を感じ、転がるように後に跳ぶ。
今度は無数の針金のような金属が連続して突き刺さる。
地面を転がりながら移動し続け、三回転目でようやく立ち上がる。
相手が俺のことを舐めきっているいる今だから何とか避けられている。
いや、そもそも敵は当てるつもりもない。俺が逃げまどうのを楽しんでいるだけだ。
それでも避けようとしなければ確実に死ぬ。
今は男の思惑に乗るしか道がない。


男の嘲笑が聴こえた。

「だれかと思えばあの大根野郎か! くくく……ちょうどいい。あの子を斬り刻んで喰った後はお前を殺すつもりだったんだ」

俺は男の言葉に答えない。だが、男の言葉は勝手に続く。

「ま、あの子ももうす失血死さ。どっちが早くに死ぬかなぁ!!」

こいつ、頭が完全にトリップしている。だが、魔剣レイディッシュではこいつには勝てないのも確かだ。
耐久力が足りない。

耐久力か……あれを、使うしかないか。キメラとの戦いで不足を感じ、新たに創造した魔剣。
だが、俺にあれが使いこなせるだろうか?
俺は覚悟を決める。あれならあいつの攻撃にも耐えられるはずだ。
はやく敵を倒さなければならない。そうしなければ楓の命が失われてしまう。
助けられなければ、なんのためにここに来たのかわからなくなる。

「……こい。魔剣スモークブレード……」

全力で創造する。黒色の魔剣を。俺は2振りの短刀を作り出す。長さ30cm程度の小振りの刃を両手に握りしめた。
まだ、俺の力では完全に扱い切るには難しい魔剣を手に、俺は再び敵と対峙する。

「なんだそれは?」

男はせせら笑いながら無造作に能力を使用する。

ラディッシュソードでは耐えられなかった一撃。
その一撃をこの武器は完璧に受け流した。
よし、今度は壊れない――

「んなぁ!? 日本刀の一撃だぞ!なぜあれを受け止められる!」

その言葉は無視し、驚きで隙だらけの敵へと肉薄する。
鰹節――世界一硬いと称されるこの武器に生半可な攻撃が通用するわけがない。

いっきに振上げ、敵の頭上を狙う。

――今度こそ確かな手ごたえが返ってきた。

「がっ!!」

男の呻きが聞こえ、動きが止まる。このチャンスを逃す訳にはいかない。
今、ここで決めなければこちらの負けだ。
これは敵が油断しているからこそできた勝機。
そう念じ、続け様に刃を振るう。眉間、鳩尾、胸部――続け様に打撃した。

「ぐ! げ 、が!! ご!!」

男が完全に棒立ちになった。
俺はその隙を見逃すほど甘くはない。全力を持って男の横腹にスモークブレード叩きこむ――

「いてぇじゃねえか……」

しかし、その全力の一撃を受け止められていた。

敵の手はそこにあったスチール棚に触れ、
敵の能力により引き延ばされたスチール棚の一撃が俺の手から魔剣をもぎ取っていた。

――まずい

一瞬の思考も遅かった。敵に首を掴まれ持ちあげられる。
その握力は強く、引き離そうともがくが剥がれない。完全に形成が逆転していた。

男は嗤い、反対の手で日本刀を握りしめる。

「くくっ、先に死んどけ。あのかわい子ちゃんにすぐに後を追わせてやるよ。どうだ、男として本望だろう?」

能力を使うほどの集中力を出すこともできない。
この……! 俺は、俺の力では、女性一人助けることができないのか……?




*           *


ぽたり……ぽたり……と音がする。
かすれた視界から、歪んだ情報が入ってくる。
朦朧とした頭が微かに今起こっていることを考えようとしている。


――月下君が助けに来てくれた


そのことを楓は嬉しいと思う。
彼女は一人だった。チェンジリングデイのあの日、彼女の全ては奪われた。
父も母も兄弟も。そして彼女の親戚は彼女の両親の財産を奪い尽くし、彼女自身をあっさり捨てた。
しかし彼女は親戚に対し恨みを持たなかった。
役に立たなければ、捨てられるのは当たり前のことなんだと。そう認識し、自分を責めた。
しばらく路上で過ごし、病気になり、死にかけた彼女を助けたのは時雨の兄と名乗る男だった。
実際の世話と、仲良くなったのは時雨だった。そして、彼女達の援助でようやく中学校に通えるようになった。
普通の人としての生活を取り戻した。

それでも失い、捨てられた記憶は彼女のトラウマとなって残り続ける。
いつしか彼女は思うようになる。もう失いたくはないと。
どんな人からも役に立つ存在になれば捨てられないのだと。
だから、彼女は英雄になることを望むようになる。
だれからも捨てられず、何も失わない力を持った英雄にと。


――月下君が助けに来てくれた


だが、死にかけた体で、何も役に立たない状態になった彼女を岬陽太は助けに来る。
なにも打算もなく、命がけで助けようと戦っている。
彼女にとってそれは心の中で凝り固まり蝕んでいた心の闇を削るに足る行動だった。

その陽太が、今、まさに彼女の目の前で殺されようとしている。


――月下君が危ない


また、何も役に立たずに失うのか。両親の時のように。その想いが彼女の心の中を占める。


――嫌だ

その答えは激しい拒絶。だからこそ彼女は思う。


――助けないと 今度は 私が 月下君を




*           *


突然自分の体が床に投げ出され、受身もできずに転がり落ちた。
激痛が走るがそれでも無理やり体を起こす。危険な状態はまだ続いている。安堵してはならない。

「げほっ! がはっ!!」

大きくせき込みながら、何が起きたか確認しようと視線を男に向ける。

そこには腕を抑える男の姿と、上半身を起こし、机の上に座った状態の楓がいた。

「楓!?」

無茶だ。その怪我でなぜ起き上がれる? 思わず頭が混乱の局地になることを認識するが、抑えることができない。
楓の体に刺さった鉄管からはまだ赤色の液体が流れ続けている。……いや、左肩の鉄管がなくなっている?
その理由はすぐにわかった。楓は右肩に刺さった、鉄管を無造作に抜いてしまった。
抜いた傷口から血がさらに溢れるように出てくるが痛みを感じないのか、楓は焦点の合わない視線のまま、鉄管を投擲した。

鉄管の動きを目で追うことはできなかった。

気付いた時には鉄管は甲高い音を奏で壁に突き刺さり、男は右肩を抑えていた。
男の肩からはすぐに血が溢れだす。

「がああああ!!!」

男の悲鳴が木霊する。俺は今の状況に反応することもできず、ただ、茫然と見続けるしかなかった。

「何が起きている?」

ぽつりと呟く。すでに目の前では今度は右肩から鉄管を引き抜く楓の姿を確認し、次の瞬間男が蹲った。
今度は男の腿を貫いたようだった。

ふと、楓の視線が俺に向いた気がする。彼女は微かに微笑んだ気がする。
楓は左肩から鉄管を引き抜き、4投目を投げる動作を見せた所で、体が傾いた。

「楓!!」

何も考えられないまま俺は動いた。机から落ちる楓の下に走り込み、その体を支えた。
驚くほど軽いその体は全身が真っ赤に染まり、俺の服へと染み込んでいく。
口の中にも入ったのか、鉄さびの味が広がる。
……そんなこと、知ったことじゃない。

「楓! しっかりしろ!!」

なんの力も感じない。呼吸だけはまだかろうじてできる。そんな状態の楓に呼び掛ける。
……反応なし。極めて危険な状態。一刻も早く医者に見せなければならない。

だが、それをあの敵は許さない。
憎悪の視線をこちらに向けてくる。

「いてぇ、お前ら……もういい。まとめて死ね!」
「言ってろ!! 俺はおまえなんかに負けるかよ!」

勝算なんてない。それでも叫ぶように言い返す。ただ、これは俺の意地だ。

「ああそうかい、生言って死ね」

男は取り落とした日本刀を拾う。その矛先をこちらに向ける。
俺の能力で、今の楓を抱えているこの態勢で、あれを防ぐ手段がない。
それでも打開するための手段を必死で探す。
だが、それでも見つからない。


敵の能力が発現された――



――金属が擦れる音が響き、その一撃は何かに受け止められていた。



目の前の光景が信じられず、見開いてしまうがそれはしかたないだろう。
そこにいたのは、学校で別れたはずの加藤時雨だったのだから。

その少女は声も出さない。が、そのうちに宿る激情ははっきり理解する。


       怒り


そのたった一言だが、強烈な感情を内に秘め、彼女は行動する。

「な、なんだ!? なんだって言うんだお前はよ!!」

男が何かに怯えた表情を見せる。その表情のまま、まるで癇癪を起すように彼女へありったけの能力を解放する。

しかし無数の針は彼女を捉えず、日本刀の一撃は柔らかに受け流され、そして恐ろしいほど簡単に男の懐まで入りきる。

「お前、その動き、まさかサギ……」

男の言葉は最後まで続かなかった。
少女の両腕がひらめき、同時に男の手首があっさり斬り払われた。
吹き飛ぶ両腕。痛みで男は声も上げられず転がり悶絶する。

しかし、その少女、加藤時雨はそれ以上転がる男に見向きもせず、楓を抱えるこちらへと近づいた。

「行くわよ。一刻も早く病院へ」

その言葉で俺は我に返る。いままで見ているだけでなにも行動ができないほど呆けていた自分を認識する。
慌てて頷くと、楓を抱えて時雨の後を追った。

体の痛みなど気にしてられなかった。今は、ただ、動くことに集中する。
一瞬、白夜がキメラに喰われかけた出来事が脳内にフラッシュバックした。
あの時は白夜は無事だった。
だが、今度は……?


「楓……絶対、助けるからな!」

誰にでもなく、自分へと言い聞かし、走る速度を上げた――


続く


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最終更新:2010年12月26日 18:05
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