「さあ~、よしっ!!」
そんな気合と共に、隠しきれないのんびり声。
軽くウェーブの掛かった黒髪もしっかり手入れされ、
普段はしない化粧まで軽くした少女。
縁なしメガネを掛け直し、安アパートのある一室へ通じる扉をまさに叩こうをしていた。
左手にはお弁当を持つその少女の名を
春日居美柑と言う。
どうやら緊張しているようで、何度も深呼吸を繰り返ししていた。
そのアパートの一室の主の名は
三浦春都。
俗に言う駄目人間なフリーターの男で、美柑と同じレストランで働いていた。
なぜそんな駄目人間の部屋に彼女が入ろうとしているのか。
彼女の中ではバイト中に助けられたお礼(ゴキブリ退治して貰った)である。
その他の気持ちも混ざっているのは間違いないが。
でもその気持ち自体は本人の中では否定していたり。
ともかくもう一度美柑は気合を入れると扉を叩く。
「ハイ!」
その奥から聞こえてきたのはハスキーな少女の声だった。
「……あれっ?」
美柑はその声に疑問を思う。三浦春都は独り暮らしと聞いていたはずなのに
中から聞こえてきたのは女の声。
疑問の表情のまま、しかし無情にも目の前の扉は開いてしまった。
「三浦春都の家ですよー。どうしました?」
目の前にいたのは銀髪の外人さんの少女だった。年齢はおそらく美柑と同年齢程度。
こぼれんばかりの大きな碧色の瞳。とりあえず可愛らしいと言えば間違いない容姿だろう。
銀色の髪を腰まで伸ばし、ただ残念なことに寝ぐせっぽくあちこち跳ねていた。
ぶかぶかな白のTシャツにチェックの赤いミニスカートという非常にラフな格好でそこにいた。
「……えっと、春都さんいませんか?」
戸惑いつつも美柑はとりあえず聞いてみた。
「あ、いますよ。師匠ー! お客さんですよー」
「あ? なんだー」
そう言って奥からずりずりと這い出して来たのは同じく白のTシャツにパンツ一丁で出てきた春都だった。
その姿は限りなくだらしない。しかしその格好にも関わらず少女と一緒にいたりするのだ。
目の前に状況に頭がついていかず、とりあえず美柑は頭に浮かんだ疑問を口に出す。
「えーと、三浦さん、一人暮らしじゃなかったんでしたっけ?」
その疑問に春都は頷く。
「ああ、そうだ。こいつは近所に住んでるガキなんだが……」
「ネットで師匠と話してるうちに近所だって分かったんで遊びにきているのです。
私はウラ・トゥサクって言います」
「春日居美柑です~」
流れに流されるまま美柑も名乗る。
その美柑に春都は、単純に疑問の声をあげた。
「それで春日居、どうしたんだ?」
「あ、こないだのお礼にお昼ごはん持ってきたんです。どうぞ~」
「お、サンキュ。久しぶりのカップラーメン以外の昼食だ」
「はい……では、私はこれで、さようなら~」
「お、おう」
そのまま踵を返し帰る美柑。それはまるで逃げ帰る様に見えて。
美柑の様子を春都は茫然と見ていた。
美柑が見えなくなってから春都にトゥサクは意地の悪い笑顔を浮かべ、告げる。
「師匠ー。せっかくのフラグがブレイクしたっぽいですねー」
「……ま、めんどいからまあいっか。バイトの時でも弁当の礼は改めて言っとこう」
「師匠、その面倒臭がりはどうにかしたほうがいいですよー。追いかけてみたらどうです?」
「メンドイ。それにウラ、テメーも似たような面倒くさがりだろうが」
「ですよねー」
そう言って、春都は貰った弁当を机に置きに戻る。
その後ろを追いかけながらトゥサクも部屋に戻る。
「さて、今度こそ○コミに向け完成させましょう。ハル○シュラー×倉○作の調教物とか」
「止めとけ、面倒くさいことになる。それにお前の能力じゃ完成できないだろ」
「だからこそ今度こそなんじゃないですかー」
「俺たちに完成できると思うか? 俺は思わん」
「ですよねー。……あっ、忘れてた」
そう呟いてウラ・トゥサクは扉まで戻り、
「ちゃんと閉めないとね。バイバイ」
誰にともなく呟いて、扉を閉めた。
外から見えるそこは普通の安アパート。普通の人が普通に暮らしている場所だった。
――ええ、普通のはずなんです。
終わり。
登場キャラクター
最終更新:2011年02月19日 20:51