殺風景な控え室だった。床のタイルは灰色で、その上には横長の机が整然と配置されて
いる。漆喰により白で被われた壁が唯一、開放的な印象だがそれも病室のものと似ていた。
ふだんは能力鑑定専門学校の教室として利用されている一室だ。
ホワイトボードから一番遠く離れた席に一人の青年が腰掛けていた。やや、実年齢より
も若く見え少年の印象を強く残している。宙を泳いでいる目線は彼が現実から離れ、自分
一人の思索に入れ込んでいる事を示していた。
「能力鑑定の技能は、主に三種類存在する」
一つは他人の能力を調べる能力によって、鑑定対象の能力を知る事。
二つ目は高い洞察力で相手の能力を観察し、鑑定対象の能力を調べる事。
三つ目は特異な感性によって、鑑定対象の能力が分かってしまう事。
基本的に確実性は能力、感性、洞察力の順だが、いずれにも欠点があり……
そこまで
三島代樹が思い起こした時、誰かが彼の後頭部をこづいた。
「しろき~、ペーパーテストはとっくに終わってるでしょ?」
「ああ、口に出してたか」
黒い髪をなでつつも代樹は一年年上の女性を見返した。
吉津桜花、活動的な印象の女性で能力鑑定士の護衛者、守護の仮面見習いという立場に
ある。他の人間がどう思うかはともかく、少しずうずうしい面がある、というのが代樹の
認識だった。代樹とは学校での繋がりで知り合い、それなら何かと先輩、あるいは保護者
面をして世話を焼いている。年上とはいえ、たったの一年で身長も代樹より低く、世話を
焼かれている本人としてはいまいち納得できない。
桜花に言わせれば、たびたび前後不覚になる方が悪い、という事になるのだろうが。
「こうやって、何かを思い起こしていた方が落ち着くんだよ。この状態は能力のおかげで
慣れているからね」
「それで、そのまま現実の事を忘れちゃうんだ」
「忘れてない!」
いささかむきになって代樹は言い返す。実の所、物覚えが良くない事は自覚していたが、
いくらなんでも人生を左右する日を忘れる事はない。
能力鑑定実技試験。この試験には筆記試験の合格者のみが駒を進めることができる。
一人前の鑑定士と同様の条件で、三名の能力を鑑定する事に成功すれば晴れて本物の鑑
定士として世に出られるというわけだ。
戦闘訓練や筆記試験で一定の成績を示した守護の仮面見習いも同様に、鑑定士候補のそ
ばに立ち試験が行われる。
試験を受ける二名の組み合わせには、縁がある二人が揃えられる傾向があり、慣れや気
兼ねのなさが影響するのかそのまま専属関係になる例もある。
「それはともかく、そろそろ準備してもいい頃合じゃない?」
「まだ少しは時間があると思うけど、まあ練習でもして潰せばいいか」
代樹は鑑定士の証でもある、不透能力素材のローブと手袋を身につけ、桜花は守護者の
証である怪しげなデザインの仮面で素顔を隠した。
いずれも試験用に貸し出されたものだが、合格すれば近いうちに同様のものが支給され
る事になるだろう。