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月下の魔剣~Like a Phoenix~ > 2



水野晶は混乱していた。

自室でいつものように眠りについた。よく覚えてはいないが酷い悪夢にうなされていた気がする。
そんな自分が幼馴染の陽太に叩き起こされた、その場所は屋外。月明かりが照らす深夜の住宅街だったのだ。
状況がまるで掴めないまま陽太に無理矢理手を引かれ走り出すと、背後から聞こえてくる地響き。
振り向いた先、走る自分たちを追いかけるそれは、なんと巨大な象であった。

悪夢の続きと見紛いかねない状況だが、当人にとっては深夜の空気や地を踏みしめる感触はあまりにリアルで
これが現実ということは嫌でもわかってしまう。
前を走る陽太も隣の虫人鎌田も、どうしてこんな状況になっているのかわからないと言う。とにかく今は逃げるしかないと。

せめて少しでも状況を掴もうと、晶はもう一度振り向いて気付く。
象の額で鈍い光を放つ、忌まわしき赤。象のサイズに合わせたものか、手の平ほどもありそうな巨大な宝石。

「あれってキメラの………!?」
「ああ、恐らくその一種だね。結局あの宝石を壊せばいいんだろうけど、あの大きさが突進してくるとなるとさすがに……」

鎌田は前を向いたまま背後まで拡がる視界で、象を観察しながら答えるのだが。
その声が聞こえていないかのように、晶は茫然と象の姿を凝視していた。

「……晶君?」

鎌田の言葉は耳に入ってこなかった。晶は自分の目を疑う。そんな馬鹿な。ありえない。だって、あの象は……。


「ライダー! 閃光玉まだあるか!?」
「ごめん陽太君、今持ってたのはあれだけなんだ」
「っだああくそっ! こうなったらもう仕方ねえ!」

しばらく黙って考え込んでいた陽太が声を上げた。その手に取り出すのは携帯電話。

「どうするの!?」
「正直言って癪だが国家権力に頼る。問題はこの状況をどう通報するかだが…」
「確かにそのまま言ったら悪戯扱いされそうだからね」
「そうだな…ヤクザっぽい集団に追っかけまわされてるとでも言うか…」

携帯の番号キーに親指がかかる。すると、それを横から押さえて止める手があった。

「陽太待って! 警察は止めて!」

晶である。突然の謎の行動に陽太と鎌田は驚いて反論する。

「なっ!? 何でだよ!」
「通報したら象が殺されちゃう!」
「何言ってんだ!? 敵の命なんざ気遣ってる場合じゃねえだろ!」
「違うの! あれは……あの象は……!」

「ハナなんだよ!!」
「ハナ!?」

晶の悲痛な叫びに、陽太は驚愕の声を上げた。


『ハナ』とは、晶の自宅から比較的近場の動物園に昔からいる、雌の老象である。
晶とは能力を介して会話ができる、非常に仲の良い間柄だ。晶にとって、まるで本物の祖母のように感じている象であった。

「ハナって…前のくそ暑い日に会ったハナ…?」
「そうだよそのハナ!」
「いやでも他象の空似ってことも……」

陽太と鎌田は、依然追いかけてくる象をまじまじと見つめる。二人も晶ほどではないにせよ、ハナの姿は見知っている。
やがて二人は茫然と口を開いた。

「………ハナじゃねえか」
「うん……ハナだね」
「でしょおお!」

違うのは額の宝石と、温厚だった瞳が今は虚ろに曇っている点。
雌でありながら平均より大きな身体も、全身に刻まれた年季も、少し欠けた牙も。全ての特徴が、この象がハナであることを示していた。

「となるとデコのあれで操られてるってことか…」
「止まってハナ僕だよ、晶だよ! わからないの!? もうじき十頭目の孫に会えるって言ってたじゃん! 目を覚ましてよハナぁ!!」

声を張り上げ、伝心能力もフルに使った晶の必死の呼びかけにも、ハナは一切動じる気配がない。

「晶の呼びかけで無理となりゃ、やっぱデコのあれを何とかするしかねえな」
「そうは言っても何が起こるかわからない以上、下手に壊すわけにもいかないよ」
「ああ、そもそも触れることすら難しいって話だ。いくつか手段は考えたが……正直どれも厳しい」

いつもと違う陽太の調子に晶は少し驚く。

「ちょっと陽太その弱気は何!? いつもの自信はどうしたのさ! まだ何にも試してないじゃん!」
「試したよ! お前が寝てるときにな!」
「だっ、だったら他の誰かの能力とかさ! なんだかんだで僕よりいっぱい知り合いいるでしょ!?」
「あの巨体をなんとかできる能力者なんざそうそういねえよ!」
「いないの!?」
「いたらお目にかかりたいわ!」
「本当に……?」
「……………」

「……あ」

額に指を当てしばし沈黙した後、陽太はポツリと呟く。

「あいつは盲点だったな。俺としたことが……」
「え……いるの!? 呼び出せる!?」
「ああ一応、一人な。でもあいつはなぁ、なんつーか……呼び出すと面倒なことになるのが目に見えてるっつーか……」
「でも可能性があるならその人にかけるしかないじゃん!」
「わかってるよ。ただ面倒なことになったら晶も責任取れよな!」
「う、うん、わかった」

晶にピシリと言い放つなり陽太は携帯を使い始める。時間が深夜なだけに電話に出ない心配もあったが、幸い数回のコールで相手に繋がったようだ。
呼び出そうとする相手は自分の知らない、陽太の知り合いの誰かだと思っていた。の、だが。

「おっさん! 今すぐあんたの能力が必要だ!」

最初の一言で、晶はその電話の相手を理解することになった。
確かにあの能力ならば象の巨体に対処できる。強力な能力者と考えれば盲点になるのもうなずける。
そしてあの男を呼び出せば非常に面倒臭いことになるのも、また事実だった。

「違えよ催促じゃねえよ! ……いやバイト代は払えよ!」

隣を走る二人の耳には、陽太の声だけが届く。

「今象に追っかけられてんだマジで! 物理的に押さえこむ能力がいるんだよ!」
「詳しい説明してる余裕ねえんだよ! とにかく来てくれ来たら状況わかるから! 礼は後でするから!」
「は? 何だよ条件って?」
「はあ!? ちょおまっふざけんな! んな条件飲めるか……っておいいいいい! ちょっと待て切るな切るな!」
「あああもうくそっ!! わかったよ! 条件は飲むから今すぐ来てくれ!」

それから落ちあう場所のやりとりをして、陽太は不機嫌に電話を切った。

「…はぁ…十分後に中央自然公園の東グラウンド。このまま真っ直ぐ向かうぞ」
「陽太君、その人って一体どんな能力者なの?」
「ああ、お前も知ってる奴だよライダー」
「陽太、条件って僕ができることなら代わるよ……?」
「違えんだよあの野郎俺だけに条件吹っかけてきやがった。嫌がらせかよチクショー」

ぶつくさと文句を言う陽太に、晶は内心でちょっぴり悪かったなと思うのだった。


そうこうしているうちに、逃げる三人と追う一頭は約束の場所へとたどり着く。
時間的に相手はもう着いているはずなのだが、月明かりに照らされただだっ広いスポーツグラウンドに人の姿は見えない。
シンと静まりかえったグラウンドに向け、陽太は声を張り上げる。

「おっさああん! どっかに来てんだろー! 出てこいおっさああああん!!」

だが、返答はない。困惑する陽太に晶が助言する。

「陽太、その呼び方じゃたぶん出てこないと思うんだ」
「あんの野郎この期に及んでまだこだわってやがんのか……」

陽太は、はあぁ……と大きく息を吐く。そして大きく吸って、叫んだ。

「ジェントール! 助けてジェントーーール!!」


「ふはははははは!!」


静かだったグラウンドに、突如として男の高笑いが響いた。

「 Like a Phoenix ! 如何なる逆境からも不死鳥の如く蘇る男!」

機械を通さない肉声ながら、よく通るその声はグラウンドの隅まで響き渡る。

「 Wonderful Gentleman ! そうとも! 我が名は……!」

パチン、と指を鳴らす音と同時に、テレビ撮影用大型スタンドライトの光が、グラウンド前方の表彰台を照らし出す。
その頂点に立つのは、芝居がかった手振りでポーズをとる白スーツの男。

「紳士ドウラク!!」

名乗りと同時になぜか湧き起こる拍手喝采。当然だが陽太一行は拍手などしていない。

「今! ここに参上おおおお! ふはははは!

ふはははははははは!

ふぅはははははははー!!」


万感の思いがつまったような高笑いは、真夜中の空へと高く高く響き渡っていくのだった。


この男の特異な能力は、この状況を打破する鍵。それには違いないのだが。

「……はああぁぁー……」

遂にこの場に来てしまった、異様にテンションの高い男の登場に、三人は揃って大きな溜息をつく。
下手をすれば陽太と同等以上に、極めて癖の強いこの男。特にツッコミ役の晶としては頭痛がする思いなのであった。


<続く>



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最終更新:2011年06月06日 23:15
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