「で、時雨師匠。今日はどんな特訓をするか聞く前に聞きたい事がある」
時雨に
弟子入りして以来続くようになった特訓という名の運動。
いつものように準備体操をしつつ、陽太は目の前で同じように準備体操をしている時雨に疑問をぶつける。
「なにかしら。陽太君」
いつものように肉体年齢12才の小さな体を前後に振りつつ、
ついでに二本の三つ編みお下げも合わせて揺らして準備運動をしつつ答える時雨。
その時雨に、陽太は若干半目になった視線を向け続きを言う。
「なんで今日は体操着なんだ?」
「気分」
そう、時雨は何故か白の体操服に紺のブルマと言う、
なおさら小学生にしか見えない格好をしていたのだ。
しかもブルマの中に体操服をいれていないので、
時折体の動きに合わせてへそまで見えている始末である。
もし、彼女を見ているのがロリコンなら大歓喜状態なのだろうが、
あいにく見ている男は陽太だけなので、何も問題がなかったりした。
ついでにもう一人、
樹下楓も二人を座って見ているが、こちらも半目になりつつあったりした。
「しかもブルマって古いですよね。今はどこ行っても短パンですよ」
横から楓も呆れたような口調で声を出すが、時雨は意にも返さない。
「いや、私が小学生の頃はブルマだったしね。今着てるの当時の物よ」
「年代物過ぎるだろ! それ!?」
「物持ちはいい方なのよね」
思わず陽太をして突っ込みを入れてしまうが、やはりどこ吹く風だったり。
準備体操を続ける時雨の動作は幼い少女特有のやわらかい物で
これで時雨の実年齢さえ知らなければ微笑ましい光景だったはずである。
――あくまで実年齢さえ知らなければであるが。
「……まあ、その格好に突っ込みを入れるのはもういいか。それで今回はどうする?」
やっと準備体操が終わり、陽太は本題に入ることにする。
その問いにお下げをいじりながら考えるように一瞬沈黙する。
そして、視線を陽太に向けつつ、問いに答える。
「そうね。今日は実践っぽく私に打ち込んでみなさい。
陽太君の攻撃に私が反撃するからそれを一回でも避けられればいいわよ。ただし能力の使用は禁止」
「やっと本番っぽい事ができるのか! 今まで基礎訓練ばっかだったからなぁ。
俺の実力を見せてやるぜ!」
「ああ、それで動きやすい体操服なんだ……」
ようやく本番っぽい練習と言うことでがぜん燃える陽太に、二人を見ながらぽつりと呟く楓。
悠々と立っている時雨は一拍の間を置き、頷くと宣言した。
「さ、いつでもいいわよ。どこからでも掛かってきなさい」
「せあ!!」
瞬間、陽太は走り込み、まずは小手調べとばかりに真正面から拳を突き出す。
その単純な陽太の動きに合わせるかのように時雨も同時に拳を出し――
結果、カウンターのように小さな時雨の拳が陽太の鳩尾に突き刺さる。
「ぐぇ!!!」
小さな悲鳴の後、悶絶する陽太に時雨は余裕の笑みを浮かべ、悠然と立っている。
「体格差があるからってカウンターを警戒しないのはまずいわよ。
ちゃんと相手の動きを見てなさい」
その声をちゃんと聞いたのか、しばらく悶絶していた陽太はやがて立ち上がると、
今度はじりじりと間合いを測るかのように動く。
しばし静かな時間が流れると、時雨の瞼が閉じた瞬間を狙って陽太は掴みにかかる。
その動きに対し、時雨は逆に腕を絡め捕ると、一瞬にして陽太の態勢を崩す。
そして陽太は尻餅をつくかのように転がり――
「!?―――いててててえええええ!!!!」
「あー、完全に決まってるよね。これって」
楓の呟き通り、時雨は一瞬にして両足で相手の右腕を挟み、伸ばしながら後方に転がる。
最後に一気に時雨に右腕を伸ばされ終了した。
俗にいう腕ひしぎ十字固めである。
「こ、こんどこそ――」
しばらくして解放された陽太はその声と共に攻勢を掛け――
「いててててえええええ!!!!」
――悲鳴と共に終了した。
今度の決まり手は横四方固めだったそうな。
「ま、こんな所よね。今日はお終いにするわ」
「……結局一本も取れなかったな」
「いえ、一回、避けることができたじゃない。十分合格点よ」
「でもなあ。攻撃当てられなかったしなぁ」
すでに夕暮れが近づいていた。かなりの時間実践っぽい訓練が行われた。
その結果、疲れ果てた様に座りこむ陽太に仁王立ちするかのよな時雨。
その時雨は諭すかのように右腕を上げ、人差し指を軽く振った。
「まだまだこれからよ。今、私に勝てないのは当たり前よ。何せ年季が違うわよ。20年位」
「そりゃそうだけどなー」
「でも、陽太ならもっと強くなれる……気がするわよ」
「気がするは余計だ!」
思わず突っ込む陽太に苦笑を浮かべ、しかし時雨の表情は微笑みになる。
「ま、少しは力もついたみたいだし、今度からもう少し内容変えるわよ。ついて来れるかしら?」
「……当然だ。俺は岬月下だからな!」
「うん。その調子よ。頑張りなさい」
ようやく元気になった陽太に頷くと家の方を向く。
一階が喫茶店になっているその家の裏口から、楓が顔を出し、二人を呼んだ。
「そろそろ夜ごはんだってー」
「はい。今行きますよ」
「腹減ったー。今日はお代わりするからな!」
二人とも元気よく返事を返し、そして二人は家の中に入っていく。
なんとも普通の日常がそこにはあった――
終わり。
登場キャラクター
最終更新:2011年08月19日 02:16