06.彼方からの呼び声
――声が、聞こえた
魂、霊、思念、いずれとも似ていて、しかし絶対的に異なる声。
およそ三次元空間上では本来、成立しえない程の複雑な情報が絡み合い、婉曲的に声らしきものを形作っている。
それは一種の神託であったのかも知れない。
奇妙な声に魅入られたかのように、彼女は夜間の街を出歩いていた。
川端輪、S大学生に通う学生で、パーマがかったセミロングが印象的な容貌だ。
出歩く場所によっては、一度か二度のナンパはあったかも知れない。
夜の能力は、霊視。現世に留まった死者の未練を幽霊と認識し、見聞きできる能力だ。
彼女もまた"異変"発症者であり、その症状は徐々に重くなり、夜間は奇妙な声が耳を離れない程になっていた。
「東……の方ね、きっと。歩いていけない程、遠いのかな」
声が聞こえる方向へと歩き続けたものの、そろそろ帰りが心配になる程度の距離に達しつつあった。
加えてもう遅い時間帯、さすがに理性が勝り、足が止まる。
よくよく考えれば、気軽に行けるような場所ではないかも知れない。
先にネットで情報を集めたり、超能力学部の同級生や教師に相談した方がいいに決まってる。
そう結論を出し、踵を返そうとした瞬間だった。
一瞬、輪は心臓が跳ねるような思いをしていた。
声に気を取られていた、というのもあるが、いきなり自分の名前を呼ばれたのだ。
慌てて向き直れば、やや頬がこけた神経質そうな男が、挨拶代わりか軽く手を持ち上げていた。
明るいグレーのスーツを着こなし、社交的な雰囲気を作ってたものの、当人の印象は覆せていない。
輪はためらいながらも、彼の素性を尋ねていた。
「……あなたは?」
「警戒させて申し訳ありません。私は日本政府の依頼を受け、ILS(国際学会)より"異変"調査の為に遣わされた者です。
派遣調査員……フォースリーと申します。
本日は"異変"による症状について、お話を伺いたく、そのために参りました」
謝罪から述べると、フォースリーは学会発行の身分証を差し出した。
全ての項目が英語で記されていたものの、英語圏での活動が長いナオミ教授の影響もあって、
大半が輪の語彙に存在する単語だった。
「あまり時間は取らせませんので、よろしければご協力をお願いします」
輪は身分証から学会での地位と、平時に所属している大学を読み取り、食い違いがない事を確認。
調査員を派遣したというのは、初耳だったものの、"異変"調査の進捗がすべて輪の耳に入る訳ではない。
身分からしても、"異変"発症者の情報を持っている事は、不自然ではないだろう。
「えっと、まず私の能力はいわゆる『霊視』で。この世に留まった、死者の霊と会話する事ができます。
でも、その"異変"? というのが起きてから、ものすごく遠くから声が聞こえるというか……
それは幽霊の声とはまた、別の感じで」
一抹の不安を覚えながらも、輪は語り始めていた。
常人とは異なる感覚を持つ、という類の能力は他者への説明が難しい。
だが、それでもフォースリーは関心にその双眸を光らせ、重ねて質問を発していた。
「声、ですか。一体、それはどのような? 何を話しているのか分かりますか?」
「いえ、説明は難しいのですが……まるで澄んだ歌声のような。内容はよく分かりませんが」
ごくありふれた、曖昧な回答だと思われたかもしれない。
おおまかにこんな症状はある、でも具体的な所は言語化できない。情報を集めている調査員なら聞き飽きているだろう。
しかし、フォースリーの反応は想定と違っていた。
ますます熱意を滾らせて一歩、二歩と距離を詰めてきたのだ。思わず、後ずさる。
こうなって、輪は初めて気が付いた。声を追って自分は、知らず知らずの内に人通りがない路地に入り込んでいた。
「そこまでの深度なら……いえ、そんな事はないはずですよ。よく集中して聞いてみてください。
あなたなら聞くことができるはずだ。"彼女"の声を」
ぞくり、とした。今度は驚いたのではなく、輪は恐怖を感じていた。
いきなり無遠慮に肩を掴まれ、まるで瞳を覗き込むように、顔を近づけてきたのだ。
フォースリーの両目は飛び出るかと思う程に見開いており、また興奮からか血走っている。
明らかに尋常な様子ではない。まるでホラーの怪物のような狂気が覗いていた。
「お前、何をやっている!?」
まるで計ったようなタイミングで、輪の聞きなれた声が響いていた。
静岡幸広。茶髪のS大学生で、輪とは数年の付き合いになる。
今日は友人との付き合いで、出歩いていたのだが、その帰りに能力の影響もあって、この場面に遭遇していた。
その能力とは、無意識に恋愛の切っ掛けを作るというもの。
もちろん恋愛の切っ掛けがある事と、実際に恋愛に発展する事とは、大きな隔たりはあるのだが。
こうして、たまたま異性の友人のピンチに駆けつける事ができるという点では、ありがたい能力だった。
(まず、一発!)
幸広がどうしたかといえば、行為を咎めたと見せかけて、すでに拳を作って殴りかかっていた。
喧嘩は先手必勝、腕っぷしに自信がある訳でもないが、それだけに不意打ちで逃げる機会を作る事には慣れていた。
昼夜ともに、不良の恐喝などには遭遇しやすい体質なのだ。
しかし、今回ばかりは相手が悪すぎた。
「目撃者とは……これはこれは。さて、どうしたものか」
フォースリーは相手など眼中にない様子で、つぶやいていた。
完全に不意は打った、まちがいなく拳は真横から顔面を打ち抜く――と確信した直後に。
一瞬で、幸広は腕を取られ、そのまま捻りあげられていた。
幸広は痛みに思わず眉をしかめたが、悪くない展開だった。これで自分を拘束している限り、相手も動けない。
「輪、逃げろ! こいつ、普通じゃない!」
幸い、輪がためらう事はなかった。小さく首肯すると、さっとこの場を走り去っていく。
相手は不良の場合が大半だが、こういう状況は初めてではない。
足手まとい無しの一人なら、幸広にも立ち回り様があるのだと、分かっているのだ。
「判断は悪くない……相手が有象無象だったら、の話だが」
幸広の腕を捻ったまま、フォースリーは逃げ去ろうとする輪に手の平を向ける。
能力、と幸広は察したが止める術はない。
次の瞬間、まるでペンキのような原色の青が飛び散り、空中に弧を描いた。
輪に直撃はしない。が、その頭上を越えて、逃げ道となる道路が瞬く間に、青一色へと塗り潰されていく。
能力の正体が掴めず、輪の足が止まる。結果から言えば、その判断は正しかった。
急激に冷気が噴き出し、周辺には霜が降り始めたのだ。
「え……そんな!?」
喉奥から、悲鳴が漏れ出ていた。後ずさり、それを見上げる。
青一色に染められた足場からは、一瞬で巨大な氷塊が形成されていた。
路地を完全に封鎖する大質量、氷の障壁。
まるで南極海に浮かぶ流氷のようだったが、ここは街中であり寒冷地ですらない。
地形変動レベルの氷生成――まちがいなく、戦場やテロでも通じる、強力なエグザだった。
「がっ……!?」
輪の動きが止まると同時に、幸広もいとも簡単に引き倒され、地面に叩きつけられていた。
相手はプロ、であるらしい。腕力にしても技量にしても、差があり過ぎる。
意識を奪うつもりか、それとも完全に止めを刺す気か。
フォースリーは無感動にブーツを履いた足を持ち上げると、幸広の身体目掛けて鋭く踏み下ろそうとしていた。
「カード・リリース! 【poltergeist】!」
再び、第三者の声が路地に響いていた。
詳細は知れないが、明らかに何らかの能力発動を告げる声。
咄嗟にフォースリーは飛び退き、自身の位置を変えると、声が聞こえた方角を注視する。
一撃で戦闘を決する類の能力を警戒するなら、幸広の始末は優先順位は低かった。
だが、目前で発動した能力は、必殺級のものではなかった。
路地に転がる砂利や石ころ、そういったものが浮かび上がり、無秩序にフォースリー目掛けて飛来したのだ。
舌打ちすると最低限、危険そうなサイズの石だけ打ち払うと後退、腕で庇いつつ顔を背ける。
「おいオッサン! 街中で派手に能力ぶっぱなしやがって……ここ大丈夫かよ!」
挑発的な台詞と共に、自分の頭をつつて見せたのは、いかにも喧嘩慣れした風袋の少年だった。
どうやら、派手に能力で氷の壁が作られた結果、この状況に気が付いて駆けつけたらしい。
一瞬、幸広と輪は通りがかりの不良かと思い、直後に彼の制服に気が付いた。
夜見坂高校、良くも悪くも噂の絶えない学校だが、はっきりと世間に認知されているのが、
日本全国でも有数、能力開発に相当な比重を置いている学校、という事だった。
フォースリーは明らかに暴力の専門家だったが、あの学校の生徒なら、ひょっとすると対抗できるかも知れない。
夜見坂高校1年、上守琢己(かみもり たくみ)はわずかな期待を背負って、フォースリーと対峙していた。
「これで邪魔者が二人か。殺さずに無力化するのも手間、となると。仕方ないな」
業務上の手間が増えた、という程度の冷淡さでフォースリーは呟くと、
とくに躊躇う事もなく、衣服の下に隠れたベルトから軍用のコンバットナイフを抜き放っていた。
素人目に見ても、チンピラが喧嘩に使うような物より肉厚な刃が鈍い輝きを放つ。
そして、獲物と捉えた爬虫類のような目付きで、倒れた
静岡幸広を見やった。
(げっ、まずは数を減らすってか)
ぞっとしつつも、上守琢己の判断は素早かった。
「うおおおおおお! カード・リリース! 【knife】」
雄たけびを挙げて突撃、これで相手の注意を引き付けつつも、素早くカードを発動させる。
上守琢己の能力はコピー能力、《イミテーション》。
一度、視認した、あるいは体験した能力をカードとして生成して、一度限り行使できる。
使用済みの能力は使えなくなるが、再び視認か体験すれば、カード生成が可能となる。
今回、上守琢己は使用したのは、夜見坂高校の不良が行使していた、ナイフを生成する能力だ。
フォースリーが使うナイフと同じものを、両手に二本具現する。
「ちぃ……」
装備面で互角になったと悟り、フォースリーは飛び道具での決着を図る。
液状の青いオーラを放出、琢己自身を青く染めようと襲い掛かった。
しかし、琢己も喧嘩慣れしているだけあって、これを読んでいた。そも挑発した時点で、これは彼が作った流れなのだ。
咄嗟に横に飛び退いて、姿勢を崩したものの青いオーラを回避する。
姿勢を崩した隙に、とフォースリーが肉食獣のように駆けだそうとした瞬間。
「これを使え!」
崩れて膝を付いた状態を利用して、地面にナイフの片方を滑らせる。
その先に居たのは、どうにか起き上がっていた
静岡幸広だった。この為に二つ生成していたのだ。
「お……っと」
ナイフを投げられては困るが、地面を滑らせたのなら、素人でも拾うのは簡単だ。
喧嘩で刃物を使った経験などないが、素早くナイフを拾い上げると、幸広は構えていた。
「なるほど、手間取らせてくれる」
足を止める。ここで容易に処理できない相手だと、フォースリーは悟っていた。
刃物持ちが二人に増えてしまった。仮にもプロが遅れを取ることはないが、常に万が一を意識せざるを得ない。
しかし、慎重になれば、相手に逃げられる可能性が高くなる。
琢己は態度悪く笑うと、ジレンマを煽るように、刃物を持った二人が同時に視界に入らないように動いていた。
彼は喧嘩を売るにも買うにも、天賦の才があるらしい。
「気を付けてくれ! あの青いペンキみたいなのから、氷の壁が出てきたんだ!」
「マジかよ。軽く人殺せる系の能力じゃねーか……あんた達も逃げる事を念頭においてくれ。
ああまで、イカれた奴とやりあうなんて、何の得にもならねーからな!」
ここでようやく状況が膠着し、大声で情報交換を行う。
さらにフォースリーは冷静さを保ちにくくなるが、これが吉と出るか凶と出るか。
(これで残り三枚……行けるか!?)
手元に残るカード枚数を意識する。
カード生成はあくまで昼の能力、現在は日が沈んでいるため新たに生成する事は不可能。
そして、琢己は夜の能力は未発現であるため、現在は無能力者だ。
一度、生成したカードは昼夜問わず使えるのだが、喧嘩の絶えない生活をしている事もあって、
紛失や破損を避けるために、常備しているカードは限定されていた。
「かなり不完全だが、コピー系の能力者とみた。強力ではあるが……」
フォースリーは冷静に見抜くと、獲物を慎重に値踏みしていた。
そもそも、他人の能力を使う事は難しい。把握ですら、専門家の助けを必要とする。
ストックにある能力で積極的に攻めてこない事を見ると、制限があるか、条件的に攻撃能力が少ないのか。
上守琢己にとっては幸運な事に、昼にしかコピーは行えず、夜は消費のみ、という点は見抜けなかった。
自分の能力を奪われる、という最悪の自体をフォースリーは警戒せざるを得ない。
故に、フォースリーの攻め手は強大な能力による圧殺ではなく、近接戦。
姿勢を低くし、剽悍に地を蹴り、コンバットナイフを片手に飛び掛かっていた。
(っ……速えぇ!?)
刃物を相手に喧嘩した事もある琢己だったが、フォースリーは今までとは別格の敵だった。
瞬く間に距離を詰め、踏み込みにフェイントを交えつつ、ナイフ一閃。金属光が迸っていた。
それをリスク承知でスウェー、上体を逸らして回避。目前を刃が通り過ぎる。
あるいは専門家でも、目を見張る攻防であったかも知れない。
ほぼ体勢を変えず、相手を殴り飛ばせる姿勢のまま回避した。琢己の拳がより強く固められる。
「こっちだって、刃物相手ぐらいは……ぐあっ!?」
半瞬だけ遅れて中段蹴りが、咄嗟のガードの上から琢己を打ち抜いていた。
みしり、と身を庇う姿勢にフォースリーの足が食い込み、そのまま蹴り飛ばす。
ナイフの一撃から蹴りによる追撃までが、一連の動作であったらしい。
地を転がる事になった琢己は、感触から相手が衣服の下にプロテクターを着用する事を察していた。
今ので骨を砕かれなかったのは、幸運だったからだろう。
結局は、はったりにしか使えず、琢己の手からナイフが滑り落ちていた。
「ああ、子供の喧嘩なら勢いに任せて振り回す事もあるだろう。刃物は恐ろしい。
だからこそ、素人は他を警戒できなくなる」
元からフォースリーは、刃物に対応できる相手に即した訓練も受けている、という事だった。
この差は喧嘩慣れという程度では埋められない。
「カード・リ……」
「遅い」
では能力、という最後の頼みすらも容赦なく潰される。
手の平が撃ち出された氷刃が、カードを真っ二つに切り裂いていた。
これも《イミテーション》の弱点。一度、カード使用を知られたのなら、相手は簡単に見逃してはくれない。
琢己はその瞬間、フォースリーの手の平が青く塗られている事に気が付いた。
戦闘中、見られないように手を染めれば、そこから氷を撃ち出せるという一種の応用技らしい。
「そいつから、離れろ!」
万事休す、諦めがよぎった所で助けの手が入っていた。
静岡幸広が震えながらも、フォースリーにナイフを投げつけたのだ。
所詮は素人、威力は大した事がなく、回転している以上は刃が当たる保証もない。
フォースリーは冷静に、スーツの袖を利用して叩き落していた。
「逃げればよかったものを……」
フォースリーは冷たく呟くが、わずかな、しかし決定的な時間を稼げたのも事実だった。
「カタギじゃねえなら、遠慮なく使わせてもらうぜ。カードリリース! 【arachne】!」
上守琢己は流れるような動作で、ポケットからカードを抜き出していた。
恐ろしい強敵に、決死の助け。ここでためらう理由はない。最大最強の切り札が、ここで選ばれていた。
その瞬間、出現した大重量に路地が震撼した。軽度の地震と錯覚しかねない程に。
路地を叩き割るような規模で、巨大な鋼鉄蜘蛛が出現していた。
胴体から脚までもが鋼鉄製で、胴部半ばからは人型のユニットが接続されている。
地獄の鋼鉄蜘蛛。現代科学ですら再現できない、未知の機動兵器。
三上静、夜見坂最強の女とは逸話から誇張の混じる物言いだったが、その彼女を強者たらしめる能力だ。
どこか友人が面倒みている少女の、夜の姿に似ている、というのが幸広と輪の感想だったが。
あまりにも強大な生成能力に、フォースリーの攻勢も止まっていた。
「この規模の具現型能力を有しているとは……! こんなものが街中に転がっているのだから、この世界は度し難い」
「ごちゃごちゃ、うるせえぞ。どうした? やるか、それともやらないのか」
自分の知る限り最強の能力ですら、フォースリーには届かないかも知れない。
だが、ここでナメられれば本当にお終いだ。だからこそ、いかにも使い慣れた、無敵の能力を装う。
不安を持ちながらも一切、弱みは見せずに、琢己は言い切っていた。
膠着する。たがいに沈黙し、琢己や幸広は心臓が凍るような一瞬、一瞬を過ごしていた。
しばらくして、といっても数秒後……その膠着を破ったのは、フォースリーのため息だった。
「ああ、退かせてもらおう。最低限、深度の確認が出来た。これ以上、能力を晒すほどの目的はない。
それに、その蜘蛛と争えば、闖入者は一人や二人では済まなそうだ」
聞いた瞬間に、琢己は判断を切り替えた。人払いが完璧でないなら、戦えばこちらが有利だ。
「そうかよ。アラクネー、行け! あいつをぶちのめせ!」
せいぜい派手に暴れて、到着した警察でも味方に付けて、イカれた奴をひっ捕らえる。
そこからは、もう警察の仕事だろう。完璧なプランだ。
「なんだ? 動かない?」
しかし、直後には異変が起きていた。妙に鋼鉄蜘蛛の反応が鈍い、というよりも、これは……
鋼鉄蜘蛛が凍り付いている。
張り付くような氷に包まれ、蜘蛛は完全に拘束されていた。
「――命拾いしたな少年。その能力の持ち主に感謝するといい」
一度、退くと決めたが故に、フォースリーは戦闘には応じなかった。踵を返して、歩み去っていく。
やがて彼が、ぱちんと指を鳴らすと、同時に鋼鉄蜘蛛は氷もろとも木っ端微塵に砕け散った。
「いずれ、彼女の声は逃れようもなく、聴く者全てを捉えるだろう。全ては時間の問題でしかない」
無数と氷片と、破損が飛び散る騒音の中に入り混じって。
しかし、琢己と幸広、距離を置いて様子を窺っていた輪にも、はっきりと声は届いていた。
一瞬でこちらを皆殺しにできるだけの能力。謎めいた言葉。
あらためて実感し、幸広は思わず震え、そして輪はなんとも言えない不気味さを感じ取っていた。
偶然にも巻き込まれる事になった琢己も、一つ残った治療用のカードを握ったまま佇んでいる。
やがて、警察や人が集まってくる。
結末から語れば、この事件は通り魔的な犯行として処理された。
幸広や輪は"異変"との関連を証言したものの、それを警察側が真に受けたかは怪しい所だ。
事件に関わった三人は、各自の生活に戻ったものの、決して不吉な予感が消える事はなかった。
すでに、暗雲は漂っているのだ。自分たちの頭上に、あるいは想像もできない程に広い規模で。
登場キャラクター
最終更新:2019年02月24日 00:57