いろいろな機会に小論文を書くことがあります。先日、大学のオープンキャンパスがあり、もうじき公募推薦の試験ですから、この時期に訪れる高校生はたいてい推薦入試の受験者で、小論文の書き方を教えてくださいといいます。大学側も、わざわざ小論文の書き方講座を設定していて、親切な対応をしています。その資料があとで配布されたが、教育学部のある先生が行なったもので、丁寧な注意ポイントがたくさん書かれています。それをきちんと守れば、いい小論文がかけそうです。

 しかし、そういうわけにはいきません。ルールをしっかり頭にいれれば、スポーツでいい結果を残せるわけではないのと同じです。何を注意しなければいけないかということと、実際にいい小論文を書けることとの間には、かなり遠い距離があるのです。スポーツで勝つためには、ルールを知っていることはもちろんですが、そのスポーツの技術が高いことが必要です。小論文でも同じことで、スポーツで上手になる為に必要なことと、小論文を上手に書けるようになるために必要なことは、けっこう似ています。
 オープンキャンパスに来た高校生に話したことを、思い出しながら、再度整理してみましょう。

 高校の先生はたいてい、「起承転結」が必要だというようなことを生徒に教えるようです。そして、主張を明確にし、具体例を書き、できたら、その具体例は自分に則したことがいい。メリハリが効いた文章を書くことが大切だ。等々。
 教育学部の先生が行なった指導プリントには、更に、こんなことはやってはいけないという禁止事項も大分でていました。

 しかし、どうしたらそういう文章が書けるようになるのか、スポーツでいえばどんな練習をすればいいのか、そういうことは、あまり教えてくれません。
 やってきた高校生は、テニスをしていると言っていました。そこで、「テニスには、ボレーとか、サーブ、サーブレシーブ、グランドストローク」などの基本技がある。それを別々の練習として、繰り返し行なうように、文章を書くときにも、同じことが言えるのです。自分の主張だけを書いてみる。また、具体例としてあげることを箇条書きにしてみる。また、別の主張を書いてみる。その反論のポイントを書いてみる。
 そして、大切なことは次のことです。
 文章というのは、それぞれの要素だけではなく、その組み合わせ、流れが大切なのです。要素から組み合わせに発展する練習するためには、字数を変えて書くことが有効なのです。100字~200字くらいだと、主張だけになります。ですから、200字以内程度で主張だけを書きます。もちろん、それも明確になるまでじっくりと書きます。
 次に、500字程度の文章を書きます。そこに具体例を盛り込むわけです。500字程度だと、主張とそれを裏付ける具体例という単純な構成になります。
 そして、次第に字数を増やして、対立する論点を紹介したり、その批判をしたりする文章を書きますが、このときには、求められる字数の2倍から3倍程度書くことが有効です。
 そして、それを規定の字数まで縮めるのです。

 いろいろな教え、明瞭に、あいまいでなく、修飾語の関係を正確に、前後に矛盾がないように、等々といっても、実際に、明瞭であるかどうかを、自分で判断できなければ意味がありません。つまり、原則を知っていても、実際にそれを適用できなければ、いい小論文は書けないのです。「自分で判断できる力」を養う必要があります。
 そのために有効なのが、長く書いて、無駄な部分を切り詰めていくという「作業」なのです。倍かけば、半分にしなければなりません。半分にするためには、「ここは必要」「ここは無駄」「ここはもっと簡潔に書ける」「ここは、こうすればもっと引き締まった表現になる」などと考えざるをえません。そうして、よい文章を書くための考える能力が次第に形成されるのです。どんなことでも、実際にやってみる必要があるのですが、あまりこのことは教えてくれません。

 もう一度、整理してみましょう。できたら、様々な字数で書いてみることがよいでしょう。しかし、それが難しいなら、規定の2倍以上の長い文章を書いて、それを縮めて規定の字数にすることです。そうしてできた文章は、普段いきなり規定の字数で書いた文章より、ずっと読みやすく、伝わりやすい文章になっていることがほとんどです。そして、大切なことは、そうした作業によって、文章の善し悪しを判断する能力が知らない間に、身についていくということです。
 平凡なことですが、確実に力がつく方法です。できるだけ機会をつくって、練習してみましょう。

最終更新:2008年10月29日 22:44