仮現運動(apparent movement)

「仮現運動」とはものが動いて見える4つの種類のうちの一つの現象である。

ものが動いて見える4つの種類

  • 「実際運動」:実際に動いているものが、「動いて見える」、当たり前の現象のことである。
  • 「誘導運動」:物理的には実際には動いていないけれども、「動いているように見える」現象の一つ。
EX 《月と雲》
誰しもが経験するように、夜空を見上げると、雲の合間をぬって月がどんどん一方の方向に移動して動いて見える。雲は大空に止まったままである。雲は静止し、月が動いているように見える。しかし、実際は物理的には全く反対である。当然のことながら、動いているのは、雲である。
動いているものが静止し、静止しているものが、動いて見える経験は、列車の離合などでも経験するものである。
  • 「自動運動」:真っ暗闇の中にほのかな光が実際には動いていないものが、「動いて見える」という現象。これは知覚の不安定さのために起こると呼ばれるものである。
  • 「仮現運動」:これは、心理学的にはもっとも重要な現象である。物理的にある感覚をもって静止している二つの棒を暗闇の中である一定の時間的間隔で相互に提示すると、棒が二つの間隔の間を移動するような運動が見られることをいう。
EX 映画の原理
動いていないフィルムの連続を一定の時間的順序で流せば、「動いているように見える」。映画の原理はまさしくこの「仮現運動」の原理を応用したものである。

「仮現運動」が心理学的に重要なのは、人間の複雑な心理現象は、それを構成している部分あるいは要素の総和ではない、ということをあらわすものがあるからである。複雑な心理現象は、それを構成していると思われる要素にどんなに分解しても、また、それらを足してみても、その複雑な心理現象を明らかにすることは、出来ないということを明確にするものであるからである。いってみれば、「仮現運動」という単なるひとつの心理現象が「人間の心とはなにか」「心の本質」についての総括的な説明をするものと考えられるからである。そして、それはまさしく、「心」は今日でいう「全体は部分の総和以上ものである」という「複雑系」の特質を有するものであるということを実証的に証明するものであるからだ。


りえ
最終更新:2007年12月02日 23:55