長期国内不況に苦しむ日本、長年積み重ねてきた貿易黒字はいったいどこへ行ったのだろうか? ここ20年の貿易黒字の収支を鳥瞰してみることにした。そして、【2017年】日本の貿易収支の推移をグラフ化(1996年~)というタイトルの財務省HPを参考にして作成されたものを見つけた。そこでわかったのは、2011年から2015年の間だけ貿易赤字で、それ以外はずっと黒字であったことである。1996年からの累計は150兆7070億円の黒字であった。これはバブル崩壊後のことである。少子高齢化で人口構造が逆ピラミッドになっているため、お年寄りが老後のことを考えお金を貯めこみ、働き盛りの若い人の人口が減少したことから消費が少なくなったため、国内景気は低迷しているという意見が主流のようであるが、はたしてそうであろうか? 2011年のネット上の書き込みで、「少子高齢化は先進国共通の問題です。隣の韓国も少子高齢化していますが、景気は悪くありません。その他の国について調べてみても、少子高齢化と景気は関係ありません。確かに少子高齢化は内需悪化要因ですが、もっと大きな要因が景気を悪化させています。それは日銀の間違った金融政策です。」というものがあった。最後の「日銀の間違った金融政策」というところはほんの少し引っかかるが、私もそう思う。バブル崩壊後、日本国内の景気は一気に悪化した。そして、そこからずっと日本景気は低迷し続けている。今現在も労働環境は悪化し続け、低賃金・過重労働が常態化している。政府は好景気と評しているようであるが、労働環境は悪化し続けている。そこから言えることは、明らかに、日本政府の行ったバブル崩壊後の対応が大失敗であったことである。様々な銀行や企業が倒産に追い込まれ、大した救済策も講じられないまま迷走し続けた。景気は一気に悪化しているのにも関わらず日銀が景気引き締め策を行ったことも、景気後退を長引かせる要因となったと思われる。その後の政府の出す政策はことごとく失敗に終わり、現在に至っている。政府関係者ではいまだに景気引き締めを言っている人が多く、学者関係(御用学者?)でそのことに追随する人も多いように見えるが、そもそもお金が市場に回っていない現状をどう考えているのかとても疑問である。
*労働環境は、平均給与の観点から2009頃の極小から少しずつ改善(参考:時事ドットコム【図解・経済】平均給与の推移 参考図)しているようである。(2018-04-14)
さて、長年にわたって蓄積された富はどこへ行ってしまったのであろうか? 貿易収支よりも経常収支で見た方がよいのかもしれないが、とりあえず考えてみることにする。景気低迷が続く日本において、様々な企業は生き残りを懸けて海外進出を繰り返している現状がある。大企業だけではなく中小企業も追随して海外進出をしているところが多い。多くの場合、現地の安い労働力に頼ることになり、いわゆる、産業の空洞化が起こっている。当然、日本国内の求人は減少し、若い世代の就職は低賃金・過重労働の職ばかりとなり、国内景気に悪影響を及ぼしているのは明らかである。日本における長期景気低迷は、企業の海外進出や海外投資を加速し、国内投資を減速させることになっていると思われる。たとえ私が企業の経営者であったとしても、国内で非常に苦しんで利益を出すことに労力を割くことよりも、海外進出で容易に利益を出せるのであればそうするであろう。蓄積された富のほとんどは企業の海外進出や海外投資に使われてしまった、と言えるのではないであろうか? 日本の現状は、
景気低迷→企業の海外進出・海外投資の加速→産業の空洞化→求人の減少→平均賃金の低下→購買力の低下→内需の縮小→景気低迷
の悪循環が続いていると考えるのが、最も正しい考えだと思われる。この悪循環をどこかで断ち切り景気回復を図ることが必要なわけであるが、この問題の解決はたいへん難しい。
ほんの少し調べた程度であるが、企業の内部留保は海外資産や投資も含まれているという話である。何人かの政治家は、内部留保を従業員の給料に回して賃金の低下を食い止めようと働きかけしているようであるが、国内景気が回復しないまま内部留保を取り崩すことは難しいであろう。企業マインドとして内部留保を取り崩すことは国際競争力を失うことにつながり、企業そのものの死活につながると考えらるからである。国内景気が上昇し需要が増えれば、企業心理として国内に投資しようとする機運が高まり、従業員の給料上昇につながると思われるが、長年の景気低迷の経験は企業マインドを著しく後退させ、重くしているであろう。
国内の富は、高齢者の老後の蓄え以外はあまり残っていないと思われる。小さなパイに多くの会社が群がり、過当競争を繰り返している現状が見えてくる。低賃金・過重労働を余儀なくされ、ブラック企業化する会社が後を絶たない。ここにメスを入れブラック企業をなくそうとしても、生き残るためにはブラック化せざるを得ない現状があり、新たなブラック企業が生まれるだけであろう。
景気低迷の悪循環を断ち切るためには、多くのことをワンセットで行う必要があると思われる。
① 海外進出・海外投資をしている企業に国内投資を促す。
② 産業の空洞化を埋めるために、ITを主とするベンチャー企業創成を強力に後押しする。
③ 最低賃金の引き上げと平均賃金底上げのための助成金を充実させる。
④ 国内需要の喚起と地方再生のため、東京一極集中を問題視し、官庁の地方分散を進める。
⑤ 公務員の拡大・充実(先進国の中で日本は公務員の割合が少ないらしい。民営化しすぎ?)
小さな政府ではなく大きな政府を目指す。雇用回復のため。
⑥ 年金、医療、介護、保育、教育のより一層の充実。
などが挙げられる。年金に関しては財源不足は明らかであるが、国債を発行して未来に託す以外に手はない。もともと年金制度は未来の子供たちが負担することになっていたと思うので、いまさら財源不足と言われても多くの国民は納得しないであろう。遠い将来この問題は無事解決するであろうと思われるので、問題が解決するまで先送りしていけばよいと思われる。遠い将来、もしかすると、お金の概念がなくなり、誰でも最先端の科学技術の恩恵を無料で受けられるようになっているかもしれない。そうであれば、借金の問題も自然消滅していくであろう。または、有効な景気回復の努力の甲斐あって、緩やかなインフレと共に好景気となり、税収も増え、50年後か100年後には借金の問題は小さくなっているであろう。今必要なことは、我々の子供たちが将来の不安を残さずすくすくと育っていける環境を構築することである。現在の若者を取り巻く状況は以前よりもますます悪くなっている。このことを一刻も早く改善し、就職の不安をなくし、若い人たちが元気に活躍できる場を供給することが急がれる。
少子高齢化は、いくらかは景気に影響があるのかもしれないが、景気低迷の本質的原因ではない。多くの高齢者は老後のことを考え貯蓄しているが、いつかは財産は若い世代に引き継がれ、高い相続税もあるが、お金は回っていくことになる。最近起きた若者による犯罪「老人狩り」は、景気低迷の原因は少子高齢化と高齢者の貯蓄割合が高いこととする考え方に起因しているようであり、大問題である。一部の若者の間に老人は忌むべき存在と映っているようであり、ネット上での心無い老人バッシングが数多くみられるようになった。老人になると怒りっぽくなり、感情のコントロールが難しくなるのは昔からであり、今に始まったことではない。お年寄りに対していたわる心がなくなることは、日本そのものの崩壊を招き、お年寄りをいたわらない日本ということで世界中からバッシングを受けることになるであろう。
2010年頃に藻谷浩介著「デフレの正体」を初めて読んだときは、なるほどと感心したが、後になって、この内容には重大な問題があることに気づいた。お年寄りが貯蓄して使わないため景気が悪くなっていると述べているため、老人に対する犯罪を誘発することが危惧されたためである。そこで、ネット上のこのことに対する論評調査をすると、少子高齢化はヨーロッパを中心とする他国でも既に起こったことであり、それによって景気が著しく後退した前例はないとのことであった。つまり、少子高齢化の問題はあったがきちんとした対応が取れていたのである。それに対する日本国内の後から出てきた論評は、未曽有の前例のない少子高齢化であり、景気に重大な悪影響を与えているとするものが数多く出てくるようになった。少子高齢化を景気低迷の原因とする考え方は、はっきり言って捨て去らなければならない考え方ではなかろうか。多少、景気悪化の要因になっているとしても、そこに理由を求めてはいけない。日本政府は景気低迷の原因は少子高齢化が原因ではないことを明言する必要があると思われる。そうしなければ、老人たちは命の危険を感じて国外逃亡するであろう。しかも、莫大な資産を抱えて。