ドルの流通量はリーマンショック後どのようになったのであろうか?
円およびユーロの流通量はどのようになったのであろうか?
改めて、2013.6.14の段階で調査し直した。
(図を最新にリニューアルし、文章の一部を少し書き換えたが、文章のほとんどは2月時のときと同じである。)
リーマンショック後のドル、ユーロおよび円の流通量
下図左は、Jhon
WilliamsのShadowstats.comにより発表されているアメリカのM3である。2006年よりアメリカはM3を発表しなくなったので、Jhon
Williamsが個人的に集計したものがこのグラフのほとんどを占めている。単位はbillions(10億ドル)で途方もない金額の年次推移が2006年から現在までの範囲で表示してある。2006年をリーマンショックの始まりと考えれば(アメリカ政府は2006年ごろからサブプライムローン問題に気づき対策を開始したと推測すれば)、ちょうど10,000billionsから現在の15,000billionsにM3は増加しているので、約1.5倍のM3の増加が起こっている。FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が不良債権を大幅に購入するなどの形で通貨を供給したことがわかる。M3は2009年頃ピークになり、その後下降し、2010年半ば頃最低となった後、また増大局面になっている。不良債権処理は2009年ごろまで行われ、その後はほとんど行われていないように見える。下図右は、Monetary
Baseの年次推移である。2008年の終わり頃まで、Monetary Baseの変動は起きていない。
ちょうどM3がピークに達しようとする直前に不良債権処理は終了したが、その後は景気高揚のために、貸し渋りがおきないよう、Monetary
Baseの増額を行ったと読み解くことができる。(もしくは、反対に不良債権処理が一段落して民間銀行に余裕ができたため、中央銀行の当座預金に余剰金を回したと見る、全く真逆の見方もできるが、どちらの解釈が正しいかは現在の私には判断できない。)現時点のMonetary
Baseの総額が、約3,000billionsとM3の約1/5に達する莫大な金額となっているのは注意すべき点かもしれない。また、この数カ月の間に約500billionsもの増額がなされている。
ちなみに、上図左は、M2の年次推移である。ほぼ直線的に増大していることがわかる。上図右は、ユーロのM3である。ECBのWebページよりデータを抽出し作図した。2006年1月時7121billions、2013年4月時9860billionsである。(図中の単位millionsになっているが、billionsの間違い。) 約1.38倍になっている。興味深いのは、ドルとユーロのM3年次変化がほぼ同じ形をしていることである。互いに協調していることがよく分かる。
上図は日銀の時系列統計データ検索サイトでM3を描画したものである。縦軸はM3の金額(単位は億円)である。2006年始めは約1025兆円、2013年5月はおおよそ1153兆円ぐらいと見て取れる。約1.12倍となっている。グラフでは大きく増えているよう見えるが、アメリカの1.5倍と比較するとほとんど増えていない。通貨の供給量の観点からすれば、ドルが下落し円が高騰するのは当然といえる。
(3月から4月にかけて約10兆円ほど伸びているように見えるが、5月はなぜか横ばいとなっている。黒田総裁の異次元緩和でどのように変化するのかは6月以降のデータを見ないと何とも言えないが、M3の増加率が白川総裁のときの増加率とたいして変わっていないように見えるのは気のせいであろうか?5月のデータが発表されたのが6月12日であったが、この少し前から円と株が乱高下している。緩和の効果があまりなかったのか、一方で緩和しながら、一方では引き締めを行っているのか、疑問が残る結果である。)
それでは、景気や物価などの指標は一切考えないとし、通貨の供給量(M3基準)のみで貨幣価値が変動するという仮定のもとで計算を行ってみる。2006年から現在までの間にドルの価値が単純に1/1.5になったと考えてみることにする。もちろん円の価値も単純に1/1.12になったとして考える。円/ドル換算レートは、2006年1月時約116円ぐらい、現在は95円ぐらいなので、その比は116/95=1.22である。単純に供給量で貨幣価値が決まるとすると、比は1.5/1.12=1.34であるべきであるが、より小さい値となっている。116/86=1.35なので、現在の供給量から判断できるドル/円レートは約86円が単純にM3による通貨流通量の比較から適正と言える。この値より円が下落してしまったので、円の信用はドルより下落してしまっていると考えるのが妥当であろう。つまり、風評が先行しすぎている状態であると判断できる。2006年時の円/ドル為替レートを基準にした場合の判断なので、2006年時のレートが適正ではなかったと考えることもできるし、日本の長期デフレ不況で経済が低迷しているため、円の価値が下がっているという見方もできる。しかし、それでは昨年末の為替レート78円の円高であった時の説明がつかない。円が安定した通貨としてたまたま人気がでたため、円高に振れてしまったのが原因でその後アベノミクスがなくても円安傾向になったという意見もある。ただ言えることは、単純に通貨の供給量(M3)で基準値を出してみると、基準値86円を中心に昨年末から現在の間に円高から円安へと為替が変動していることがわかる。現在の95円付近は基準値86円を大きく超えていることは明らかである。
それでは、アベノミクスが始まる前の2011年10月から2012年10月頃までの1年間はどうであったか。対ドル為替レートは1ドル76円の円高から徐々に円安になり、2012年3月は83円の円安ピークとなったが、その後円高へと推移し、1ドル78円の円高局面となっていた。この1年間の平均値はおおよそ78円ぐらいであった。このころの貨幣供給量が今とあまり変わらないとすると、基準値86円から大きく円高へシフトしていた状態であったと言える。しかし、Shadowstats.comの発表が正しいとする前提のうえでの議論なので、実際はもっとM3の値は大きいとすると、基準値はもっと円高へとシフトし78円前後が妥当という結果になるかもしれない。正直、アメリカ政府がM3を発表していないので、アメリカドルの実際の通貨供給量を素人の私には知るすべがない。このことに対する日本の専門家の正しい見解を聞きたいところである。下図は、日銀が発表しているマネタリーベースの年次推移である。(マネタリーベース平均残高季節調整済のデータからグラフ化した。)この数カ月急激な増加傾向であることがわかる。
黒田総裁の異次元緩和の効果がM3に直接表れているようにも見えるが、増加額がまだ小さいので、今後の経過を追う必要があろう。現在の円安・株高は外国人投資家の先行的大規模な円売り・株買いの結果であり、アベノミクスの世界におけるインパクトがとても大きかったと言えよう。しかし、ドルの流通量の増加に対し、円の流通量の増加はまだ始まったばかりである。急激な円安はともかく、急激に株高になったのは思わぬうれしい誤算であった。しかし、急激な円安は、流通量から想定される価格よりも大きく円安に振れている。このことは円ベースの総資産価値そのものの低下につながっているので、このことは十分注意しておかなければならない。現在、円の下落傾向にストップがかかり、乱高下している。適正な円の価格に戻ろうとする勢力とアベノミクスや日銀の政策に対する期待先行の円安勢力が激しくぶつかり合っているかのようである。しかし、もう一つの勢力、円の価値を棄損したいと願っているか、これまでは必要以上に円の価値を高く評価しすぎていたと考えている勢力である。この勢力とアベノミクス期待の勢力のベクトルが一致していることは不安要素である。日本国民としてアベノミクスに期待するのはもっともであるが、急激な円安≠アベノミクスである。アベノミクスによる金融緩和=緩やかな円安 でなければならない。(こう考えると、アベノミクスは世界中に知らせることなく、日本国民だけにこっそり言ってくれればよかったのに、と思ってしまう。)