2章. 水素分子イオン 現在工事中
1章の水素原子で波束の収束問題や多世界解釈を議論しようとしたが、全くの徒労であったような気がする。実のある議論がほとんどできなかった。そこで、水素分子イオンの問題を再度取り上げ、議論してはどうかと考えている。ここでは、まず、水素分子イオンの電子状態について概観し、解離と生成の問題をもう少し掘り下げてみたい。
水素分子イオンH2+の電子のハミルトニアン は、(2つの原子核は静止しているという前提で、)
である。ここで、rAは電子の原子核Aからの距離、rBは原子核Bからの距離、Rは原子核間距離である。( ここでも、陽子と電子のスピンと相対論効果は無視している。重原子になると相対論効果は無視できなくなり、重原子効果と言われる補正が必要になるが、水素のような軽原子の場合、その効果は非常に小さい。) 藤永1)は様々な原子核間距離Rに対してシュレーディンガー方程式を正確に解いている。
安定状態の水素分子イオンは、1sσg と記述される状態であり、その次に安定な電子状態は2pσuである。それぞれの分子軌道の形を図1に示す。(この図はフリーハンドで描いたので、実際とはいくらか異なっている。参考図書1)の原図を参照してもらいたい。ただ、おおまかには合っていると思う。)
a) 1sσg b)2pσu
図1.H2+ の1sσgと2pσu分子軌道 ( R = 2.0 a.u. )1)
上図 a) のように、最安定状態の分子軌道1sσgは左右対称の形で、2つの原子核付近で最も電子密度が高いが、2つの原子核の中間点にも電子の分布が広がっていることがわかる。b)の2番目に安定は分子起動2pσuは、左右反対称であり、右と左で波動関数の+-が反転している。真ん中の縦線は、波動関数の値が0となっているところを表している。これは反結合性軌道と呼ばれ、化学結合には寄与しない。図2は、およそ4Åぐらいまで水素原子核を引き離したときの分子軌道を示している。
a) 1sσg
b) 2pσu
図2.H2+ の1sσgと2pσu分子軌道
( R = 8.0 a.u.
)1)
図2のa),b)ともに水素原子の波動関数が離れて存在するような形になっている。b)の波動関数は左右が+-反転しているため、電子の存在確率が0となるところに縦線が引かれている。このように異なる二つの分子軌道が解離した状態になると、同じ水素原子の1s軌道へ収束していくことがわかる。ただし、電子は半分ずつ左右の原子核に分配されている状態となっている。図3(下図)はこれらの分子軌道の核間距離Rに対するエネルギー変化を示したものである。藤永の著書から読み取ってプロットしたので、少しいびつになってしまったが、1sσg軌道のエネルギーは2 a.u.のところで最も安定になっている。2pσu軌道は安定状態がなく、解離性の軌道であることがわかる。Rが大きくなると、この2つの軌道エネルギーは一致し、そのエネルギーは-0.5 a.u. の水素原子のエネルギーと同じになる。
図3.H2+ 1sσgと2pσu分子軌道 エネルギーのR依存性
左側の原子核をA、右側の原子核をBとし、それぞれの原子核によって形成される水素原子1s軌道の波動関数をΨ1sAおよびΨ1sBとすると、図2のa)とb)の波動関数は、
と近似的に書ける。右辺の最初の係数は規格化定数であり、Ψ1sAおよびΨ1sBの重なり積分<Ψ1sA|Ψ1sB>が0の場合1/√2 となり、そうでない場合は補正が必要になるが、大雑把に上の近似式を使って議論してみることにする。
・・・・ 休憩中