2.光の干渉実験の検証(光の2重スリット実験とマッハ-ツェンダー干渉実験)
光の干渉のほとんどは波として考えると説明できることが多いが、そこに光子を登場させるととんでもなく変なことになる
図2-1.ヤングの干渉実験 左:光の波が干渉しスクリーン上に明暗の模様ができる。
右:光の強度を非常に弱くした場合、一個一個の光子が写真乾板上に点として表示される。
図2-1の左の絵は光が干渉してスクリーン上に干渉縞が見られることを示したものであり、光は波であることがわかる。しかし、光源の強度を非常に弱くし装置内にたかだか一個の光子しかないような状況にすると(右図)、一個一個の光子が点となって写真乾板上に写るようになるが、長時間感光させると次第に干渉模様があらわれる。様々な教科書で出てくるおなじみの図である。これを見ると、光は波であり粒子であることがわかるが、光子が装置内にたかだか一個しかない場合でも干渉縞が現れるのは不思議としか言いようがない。量子力学は、観測する前は波動関数で表されるところの波のようなものであるが、観測すると波束が収束し、波動関数から導かれる粒子の存在確率密度に従って光が粒子として観測されると説明している。さらに、コペンハーゲン解釈では、観測する前は粒子に関する実在はなく、観測する前の粒子性を想像することはできないことになる。しかし、コペンハーゲン解釈に逆らってあえて粒子の実在を考えると、一個の光子が2つのスリットを同時に通過したことになり、たいへん奇妙な話になる。光はいったいどのような物理的描像をもっているのか、様々な実験や議論がなされ今日に至っているが、この不思議さはさらに深まっているように思われる。
一つの考えとして、光は波であり、観測されるときのみ粒子化するという、光の波としての性質を主とする考え方がある。しかし、実はこの考え方はどこかで破綻する。コンプトン散乱や光電子効果などの実験においては、光は粒子でなければならない。また、基本的に波であれば、遠く離れたところで同時に粒子化することも起こり、光子の数が流動的になってしまうが、そのような現象は観測されていない。とすると、やはり光は粒子である。エネルギー量に比例した光子の数は決まっており、光子が空間を飛び、原子や分子に吸収されたり、放出されたりすると考えるものである。しかし、観測しなければ、その実在を示すことができず、波として空間の中で広がっていくような何かの状態になっていると言うしかない。
(光の波が同時に異なる場所で観測されるかどうかの研究が比較的近年行われていた。水銀灯の場合同時計測確率を示す指標値は2であり、レーザー光の場合は1、パラメトリックダウンコンバージョンの場合は0という結果であったようである。つまり、水銀灯のような場合は、光は塊として行動し、レーザー光線もいくらかその傾向があるが、エンタングルした光子の計測の場合は真逆ということである。もっと詳しく調査しないと・・・・2015/02/20追加補足)
一時期、ウェーブパケット(wave packet : 波束と訳されるが、上述の波束とは意味が異なるのでカタカナ表記とする。)が粒子を表すとしてもてはやされた時期があった。(下図参照)
図2-2. ウェーブパケット(左) と 電子と電場の波との相互作用(右)
電子は電場の変化と一緒に振動する
局所的波であり、粒子は小さな波の塊として運動するというものである。この考えは実は私は気に入っていた。なので、独断と偏見ではあるかもしれないが、すべての粒子はウェーブパケットで記述されると考えてみようと思う。この波はド・ブロイ波的要素が高いが、点として表される粒子の近傍で波が実際に存在していると考える。光子の場合は、電場とそれに直交する磁場で表される実在の波が、量子化され、小さな局所的空間の中に閉じ込められていると考える。しかし、これでは2つのスリットを通り抜けられないので、空間的に広がった波がもう一つ必要である。量子力学で取り扱う波はこの広がった波の方である。このように、局所的波と大域的波の両方が存在していると考えると、うまくいくような気がしている。
・・・・これから先は、私の独断と偏見の内容である。そのつもりで読んでいただきたい。正しいかどうかは保証できない。・・・・・・・
さて、局所的波は電場や磁場の波が閉じ込められている波であるが、大域的波は何の波であろう。実はこの波が波動関数であり、絶対値の二乗が粒子の存在確率を表す波であると考える。光が観測されるときは、原子や分子の中の電子と光との相互作用が物質の状態変化を引き起こし、それが観測される。これは、光の実在の波である電場や磁場の変化が電子を揺さぶり(図2-2右を参照)、物質の状態変化を引き起こしているので、局所的反応であり、実際に一個の光子が一個の原子や分子に吸収される。つまり、実際の観測における反応は局所的波によって引き起こされる。そして、大域的波は化学的または物理的反応を引き起こす波とは別のものと考えるのである。
図2-3.1つの光子が2つのスリットを通って干渉する
図2-3は、1つの光子が2つのスリットを通って干渉する様子を示したものであり、1個の光の粒子が装置内のあらゆる空間を通ってスクリーン上に干渉稿を作る。ファインマンの経路積分法の考えから、このように解釈できそうであるが、ここで表されている干渉を引き起こす波を大域的波と呼ぶことにしよう。空間的に広がった波である。光子の絵の中に描かれている波は局所的波を表したものである。
さて、多世界解釈で考えてみることする。多世界の中の1つ世界には光子は1つだけ存在すると仮定しよう。しかも、1個の粒子として空間内の特定の位置を特定の運動量と特定の方向を持って運動していると考えることにする。すべての可能性を考えると無限の多世界を導入しないといけないが、空間そのものが量子化されているとすると、つまり、ある小さな距離以下は位置の区別がつかなくなると考えれば、多世界の導入は有限個で済む。
解くべき方程式は量子力学の方程式であり、得られた時間発展解の波動関数を異なる粒子の直線運動の重ね合わせに分解し、それぞれの線形結合係数を多世界の共存度を表していると考えることにする。局所的波は現実の世界で原子や分子と相互作用する電場もしくは磁場の波である。これは1つの世界の中で起こる事象であり、多世界の中の異なる運動をしている粒子それぞれが、その運動方向に対応した局所的波を持つようにすれば1つの世界では必ず十分な大きさを持った電場の波を付随することになり、光と物質との瞬間的で明確な相互作用を保証できる。
光を取り扱う方法として、古典的電磁場方程式(Maxwellの方程式)、量子力学、量子電磁気学や場の量子論などがあるが、まずは、普通の量子力学で数式化し、ファインマンの経路積分法と見比べながら検討したいと考えている。さらに、他の取り扱いと比較検討するのも必要であるが、少々時間を頂きたい。おそらく、数か月後・・・
光の干渉は、マイケルソン-モーレーの干渉実験やマッハ-ツェンダー干渉実験で行うと、より顕著にみることができる。2重スリット実験の場合、光の通る空間が重なっているので疑問の入る余地があるが、マッハ-ツェンダー型の場合、完全に独立した2つの通路を通って光が干渉するので、粒子の不思議な干渉は劇的である。下図は、マッハ-ツェンダー干渉実験である。
図2-4.マッハツェンダー干渉実験
図2-4のmirrorの位置を微妙に調節すると、detector1には2方向からくる光の波の山と山、谷と谷が一致するように、detector2には山と谷がちょうど重なるようにすることができる。その結果、detector1には光子が検出され、detector2では全く光子が検出されないようになる。half
mirrorは半分の確率で光子を透過させ、半分の確率で反射する。光源の強度を非常に弱くし、装置内にたかだか1個の光子しかないような状況にしても、必ずdetector1で光子が検出され、detector2では光子は全く検出されない。1個の光子が最初のhalf
mirrorで2つに分かれ、片方はAへもう片方はBへ分かれて進み、最後のhalf
mirrorで合流して干渉を起こすと考えなければ説明がつかない。AもしくはBの通路のどちらかに障害物を置くと、光子はdetector2でも観測されるようになる。逆に、もしdetector2で光子が観測されたら、AかBの通路のどちらかに障害物があることになる。
この場合の多世界解釈は2スリット実験より楽である。1個の光子がAへ行った世界とBへ行った世界が最後のhalf
mirrorで合流し、干渉を起こすと考えるだけでよい。