5.スピン
スピンの状況は偏光と似た部分があるように思われる。偏光は縦方向と横方向に分裂したが、スピンは上向きスピンと下向きスピンに分裂する。どちらも空間的方向性があり、観測方向に依存して2つに分裂する。偏光はベクトルで取り扱うことができたが、スピンはいくらか異なる。偏光のときと同じように多世界を導入できそうな気がするが、同じではない。偏光の場合、θの回転に対してcosθの依存性があったが、スピンの場合はcos(θ/2)の依存性であり、360°回転しても元には戻らないちょっと変わった性格である。スピノールと呼ばれ、ベクトルとは異なる規則が適用される。それゆえ、多世界をどのように導入したらよいのか慎重にならざるを得ない。そもそもスピンとは何ぞやである。古典的には粒子の自転によって引き起こされる角運動量を表すと言われているが、量子化によって2つの状態のみが許されている極めて特殊なものである。しかし、多くの実験においては、スピンとスピンの歳差運動は古典的に取り扱われるケースも多く、古典的な自転運動で理解しても良いように思われる。電子はスピン1/2、光子はスピン1、陽子はスピン1/2などである。光子のスピン方向は進行方向に対してどちらを向いているのであろうか?電子の場合は進行方向とは関係ないように思われるがそれでよいのであろうか?スピンの問題は光の偏光とは比べ物にならないほど難しそうである。最初は簡単かと思ったが、少し考えるととても難しい。しかし、この問題は多世界解釈の量子力学を考える場合、避けて通るわけにはいかないであろう。また、暇なときにじっくりと腰を落ち着けて考えることにしよう。それゆえ、この問題は数か月後か、はたまた数年後で・・・・・・
6.電子の運動の多世界解釈
電子線などの真空に放出された電子の流れは、電子線干渉と呼ばれる現象がおきる。電子は光と同じように干渉する。光の場合に導入した広域的波と局所的波を電子の場合にも適用することを考えてみよう。波動関数は広域的波とすると、局所的波は何であろうか?局所化した電子の実在を表すものと考えるべきであろうか? 負の電荷とスピンは電子の実在する属性を表すので局所的波の属性と考えよう。しかし、局所的波の波の部分は何であろう、ウェーブパケットなのであろうか?ウェーブパケットは波動関数の一種と考えられているが、広域的波で波動関数の波を帰属させてしまった。波動関数としてのウェーブパケットを局所的波とするわけにもいかない。とても判断に迷う問題である。
水素原子の中の電子はクーロンポテンシャルの中で運動する系として取り扱われる。1章の水素原子のところで概説したように、古典的運動ではあり得ない領域に電子の存在確率があることを多世界解釈でどのように取り扱うべきか考えなければならない。古典的な考え方で運動する電子を多世界に導入してもだめであることはわかっている。ファインマンの経路積分法と矛盾しないように、一つの電子の運動を多世界の中の1つの世界で記述する方法を考えなければならない。ある瞬間、すべての多世界の電子は共存度を考慮すると雲のように広がった分布になり、その密度分布が電子の存在確率を与えるようにする必要がある。結局、波動関数を量子力学で求めてから考えるということになるのであろうか?
多世界解釈の量子力学があればよいなあと思うが、観測問題のときしか有効でないような気もする。観測問題が問題にならないのであれば、普通の量子力学で十分なのかもしれない。現在、量子コンピュータが登場しつつある。観測問題に対する解釈はそれぞれであるが、どの解釈も実用上は大差ないのかもしれない。