2015-02-20
ピケティの「21世紀の資本」が最近人気のようだ。どのような内容か詳しくは知らないが、貧富の格差を是正するためにはどうしたらよいかを考えさせる本のようである。現代の巨大資本が世界をリードする社会において、これを是とするか非とするかなど、様々な論争を呼び起こす問題作(悪い意味ではなく、良い意味で人々の心を強く揺さぶる書物という意味の問題作)のように思われる。「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」平等な社会とは何かを考えなければならないのであろうか? 興味津々であり、人々がどのようにこの本に対して反応しているのかについても興味のあるところである。
最近、税金のない社会は構築できないのか、と考えてみたりしている。日銀は莫大な貨幣を準備し民間銀行に貸し付けを行う。企業または個人は民間銀行から融資を受け、様々な商業活動を通して利益を得、紙幣を獲得する。そして税金を払い、その税金で政府は活動し、公務員は生活している。日銀が紙幣を多めに印刷し、その余分に印刷した紙幣で政府が活動し公務員が生活するようにすれば、税金は必要ないのではなかろうか? 勿論、余分に印刷した分、紙幣の価値は下がる。それが税金なのだ。(出口なき入り口だけの理論は破たんする。紙幣を印刷するだけではだめなことは自明の理であり、何らかの形で回収し、消滅させるメカニズムが必要である。今のところそれが税金である。印刷した紙幣をどのようにして回収するのかは、税金をどこから徴収するのかと同じようなことかもしれないが、発想そのものが大きく異なる。発想の転換は新たな税制の創出に繋がる。)
しかし、こんなことをすれば、貨幣の価値は暴落し、世界的批判を受けながら国は滅ぶかもしれない。お金に対する絶対的信頼がなければこのようなことはできないであろう。しかし、何かの世界共通のコンセンサスを模索し、税金のない社会を構築することは、近未来のどこかで実現されるように思われる。資本主義社会が熟成し、多くの人々が幸福になるためのメカニズムがあるはずである。ピケティの本をこれから読んでみようと思っているが、人々が幸せになる権利をどのようにして守っていくことができるのか、考えていくべきであろう。
ところで、どうもピケティの理論は「反アベノミクス」と日本の一部のマスコミは思っているようである。本当に思っているとしたら、とんだ茶番である。アベノミクスは富めるものをより富めるものにするものではない。単に日本経済の活性化を最大限に行うためのいま日本がとるべき処方箋であり、より多くの人を豊かにするためのものである。ピケティの理論に従って、ないパイ(富)をどのように再配分するというのであろうか? 富を確実に増やす仕組みがなければ、分配される富もない。
( 2015-02-20 )
2015-03-06
ピケティの本を少し読んだ。最初に「16章公的債務の問題」を斜め読みした。本の最後の方から読むなんてと思われるであろうが、ピケティがアベノミクスをどう評価しているのか気になったためである。一部抜粋しながら、掻い摘んで見てみることにする。(p568から、)
「今日のヨーロッパほど巨大な公的債務を大幅に減らすにはどうすればいいだろう?手法は三つあり、・・・資本税、インフレ、緊縮財政だ。民間資本に対する例外的な課税が、最も公正で効率的な解決策だ。それがだめなら、インフレが有益な役割を果たせる。歴史的には、ほとんどの巨大公的債務はインフレで解決されてきた。公正の面でも効率性の面でも最悪の解決策は、緊縮財政を長引かせることだ―それなのに、ヨーロッパは現在、まさにこの手法を採っている。」
ピケティは公的債務(赤字国債に相当する)を削減するためには、3つの方法があると言っている。(1)資本税、(2)インフレ、(3)緊縮財政である。ピケティは、(1)の資本税が最も良い解決策であると言っている。これは累進課税であり、最も富める者から税を取るようにすれば公的債務は短期間で解消できるとその後の文章で述べている。しかし、日本ではこれは当てはまらないように私は思う。なぜなら、長引く不況のせいで世界長者番付のトップ付近に日本人の名前がほとんど無い状況からもわかるように、富そのものが国内にない。回収できる富がほとんど外国に行ってしまっている実情がある。その次の方法は(2)インフレである。これは現在アベノミクスが行おうとしていることであり、(1)がだめなら(2)とピケティも言っている。つまり、ピケティはアベノミクスを肯定しているのであり、決して否定していない。(3)の緊縮財政は、ピケティ自身最悪の解決策と言っている。このように、ピケティは決してアベノミクスを否定していないことがこの文章からわかる。さらに、付け加えて言うなら、緊縮財政をするよりもインフレの方が良いと言っているのである。
p572の「インフレは富を再分配するか?」を見てみることにする。
「・・・インフレ率が年2パーセントから5パーセントになったら、公的債務の実質価値は、対GDP比で見ると15パーセント以上も下がる。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この解決策を圧倒的に嫌うECBを除けば、他のあらゆる主要中央銀行―米国のFRB、日本銀行、イングランド銀行―は現在インフレ目標をおおむね明示的に引き上げようとしているし、各種の非伝統的な金融政策なるものも試している。かれらが成功すれば・・・・・・・こうした諸国はユーロ圏諸国に比べ、債務危機からずっとすばやく脱出できる。」
p574「 たしかに、インフレ支持の議論はひとつ残っている。・・・・・これに対してインフレは(少なくとも理想的な形では)主に自分のお金をどうしていいかわからない人々に損失を与える。そういう人とはつまり、預金口座に大金を寝かせてある人や、タンス預金をしている人々だ。手持ちのすべてを実物経済資産(不動産や事業資産)に投資した人やすべて使った人は影響を受けないし、もっといいことだが、借金をしている人々にも害を与えない(インフレは名目負債を減らし、おかげで借金を背負っている人々はもっとはやく立ち直れ、新しい投資ができるようになる)。この理想的なバージョンだと、インフレはある意味で遊休資本に対する課税であり、動的な資本を奨励するものとなる。」
これらの文章からは、今世界的に、債務危機を脱するために、ECBを除き、アメリカ、日本、イギリスはインフレ政策をとっている。インフレ政策(日本ではアベノミクスと呼ばれている)が成功すればピケティはEUよりも早く債務危機を脱するであろうと述べている。また、インフレ支持の理由も述べ、債務危機を脱するための処方箋としては、うまくいけばという条件付きであるが、景気を好転させるための働きがあることも認めている。ピケティご本人は(1)の資本税(累進課税)を一生懸命推奨し、インフレ政策より資本税がよいことの理由を述べようとし、インフレ政策の欠点をいろいろと述べ、インフレ政策の不安定さを強調してはいる。しかし、(3)の緊縮財政よりはインフレの方が良いと言っているので、効果的な資本税の導入ができないのであればインフレ政策が次善の策と言っていることからもわかるように、インフレ政策は緊縮財政よりも効果的であることをピケティ自身が述べているのである。このことから察すると、ピケティは典型的なリフレ派のように思われる。
「インフレはかなり粗雑で厳密さに欠くツールだ・・・・・」と述べている。とても不安定なので、上手に操作しなければ、1923年のドイツでのハイパーインフレを引き起こした事件があり、その二の舞になる。優秀な日本の頭脳を駆使してインフレ政策を制御しなければ、成功は難しいであろう。それほどインフレ政策は不安定要素を多く含んでいるので細心の注意が必要と、過去の歴史が告げていると、ピケティは忠告している。
アベノミクス=インフレ政策という前提の下で眺めたが、今のアベノミクスは少し違うかもしれない。アベノミクスの初心に戻り、ぜひともアベノミクスを成功してもらいたい。