あかつきが金星の周回軌道に入り、金星の観測を続けている。下図左はあかつきが撮影した金星の紫外線写真。
図1. あかつきとマリナー10号が撮影した金星の写真(出典:JAXAおよびWikipedia)
上図中央はあかつきが撮影した金星の赤外線写真。ちなみに上図右はマリナー10号が撮影したカラー写真。どちらの写真からも金星が分厚い雲(硫酸の雲)で覆われていることがわかる。
金星の地表温度は467℃、96.5%のCO2と3.5%のN2からなる大気の地表付近の気圧は約90気圧(平均92bar)ということが、これまでの探査衛星による調査からわかっている(出典:Wikipedia Atomosphere
of
Venus)。金星の温度が、太陽により近い水星の表面温度169℃よりも高温であるため、その原因はCO2の温室効果であると一般的に考えられている。WikipediaやNASAの関係資料からもこのような見解が多く見られ、世界的に流布された一般的解釈と思われる。
しかし、本当に金星の高温はCO2の温室効果が原因なのであろうか? Wikipediaの英語版でもその他の関係資料からも、もちろんJAXAの公式ページにもこの効果の記述があり、世界的共通認識になっている感があるが、そうではないという意見も数多くある。
金星に降り注ぐ太陽光の78%は厚い雲によって反射され、22%が金星内部に吸収される。吸収されたエネルギーは全て宇宙へ放出されなければ、金星はどんどん熱くなってしまうので、吸収されたエネルギー量は金星が放出する熱エネルギー量に等しい。この熱量は、金星の平均表面温度が224K(約-49℃)のときの熱放射量と一致する。つまり、金星の表面温度は、-49℃の非常に低温でなければならないことになる。
図2.金星の温度と高度および気圧の関係
上図はWikipediaからの参照であるが、-49℃は50㎞~80㎞付近の硫酸の雲(Sulfuric acid cloud layers)の真ん中付近に相当することがわかる。熱放射の主要成分は赤外線領域にあるので、金星の赤外線写真が熱放射の源を指し示していると思われるが、その写真はちょうど分厚い雲の写真である。つまり、-49℃の平均表面温度が示す平均表面とは分厚い硫酸の雲のちょうど真ん中付近のことであると結論付けられる。金星の大気には強い対流があることが観測されている。その対流により、地球の対流による対流圏の温度変化と同じような温度変化をしていることが予想され、高度が低く気圧が高くなると断熱圧縮効果により気温が上昇する。そのことは上の図が指し示している。地表付近の高温による熱放射は雲との間のCO2大気にかなり吸収されるであろうが、上空の分厚い硫酸の雲により完全に吸収され、激しい対流により熱エネルギーは地表へと戻される。このように考えれば十分に説明でき、CO2でなく地球の大気でも金星と同じような分厚い硫酸の雲と地表付近の90気圧であれば、地表付近は高温になっているであろう。
図3. 温度と熱放射の関係(出典:ビジョンセンシング(株))
あかつきの赤外線写真は波長10μm付近の中間赤外線カメラの写真である。
-50℃付近の熱放射のピークは10から15μmの間にあることがわかる。
では、なぜそのような地表付近の高温が維持されているのであろうか? それは、熱平衡バランスの問題である。 仮に、上空の分厚い雲の状況は全く変わらないとし、金星の地表付近が何かの突発的原因(たとえば、突然、地中から水が噴き出し地表温度が下がったなど)で少し温度低下が起きたとする。地表温度が下がると、地表と熱平衡状態にある大気の温度が下がる。また、硫酸の雲の温度も大気と熱平衡状態にあるので、その温度も下がることになる。そして、硫酸の雲から宇宙空間への熱放射の量が減ることになり、太陽光の吸収量は変わらないので熱収支が合わなくなり、金星全体の温度上昇が起きることになる。そして、金星の地表温度は、熱収支が合うまで、つまり、もとの温度になるまで上昇し続けることになる。金星は、長い年月をかけて分厚い雲の下に太陽エネルギーを溜め込んだ結果、地表の温度がおよそ500℃となったと理解できる。もしかすると、火山活動から放出される熱エネルギーを溜め込んだのかもしれないが、どちらにしろ、地表の温度を決定しているのは、分厚い硫酸の雲であると言える。この硫酸の雲の高度が上がれば、地表の温度は上がり、雲の高度が下がれば、地表の温度は下がることになる。雲が地表近くになり、地表の温度と同じくらいになれば、地表温度-49℃の極寒の金星が誕生することになる。(CO2の赤外線吸収があるので、その効果を考えると、雲より上空のCO2の影響がかなり大きくなるであろうが、)
つまり、どう考えても、CO2の温室効果というより、分厚い硫酸の雲と地表付近の90気圧が原因としか思えないのである。
窒素N2や酸素O2には赤外線領域の吸収がないので、地表から放出された熱放射の赤外線領域部分はほぼ素通りしてしまうが、大気の中にCO2や他の温室効果ガスがあると、赤外線領域の吸収があるので、地表から放出された熱放射のいくらかは大気に吸収される。宇宙から見ると、その吸収された部分の光は観測されず、吸収されずに残った光のみが観測されている。これが大気の窓と呼ばれる。この大気に吸収された熱エネルギーは再び熱放射で宇宙空間へ逃げていくのであろうか? 温室効果ガスが吸収した赤外線エネルギーのほとんどは分子の熱運動に変化してしまうが、宇宙から観測される赤外スペクトルには吸収線が観測されるのみで、その発光はほとんど観測されていないように見える。上層大気の熱運動は、大気の循環による断熱圧縮効果により地表の温度上昇に寄与すると考えると、温室効果ガスの温室効果のメカニズムが理解できる。
今まさに、あかつきが金星の周りを回りながら観測を続けている。金星から放出される赤外線スペクトルを観測し、そのスペクトルが硫酸の雲からのもので雲の下の金星の地表付近から放出されたものが漏れ出たものでないことが観測されれば、(少しは漏れ出てくるであろうが、)上記の話はほとんど証明されたことになると思われるが、どうであろうか? もしかすると、もう証明されているのであろうか?
金星の地表が約500℃の高温で鉛やスズがドロドロに溶ける温度であったことが金星探査衛星の調査でわかったことは、世界中の驚きであった。そして、金星の表面が約80%の太陽光を反射し、残りの約20%太陽エネルギーでの平衡表面温度が計算上-49℃になることから、金星の地表はかなり低温であろうと予想していた多くの科学者にとっても全くの驚きであったと思われる。当時、地球温暖化対策CO2削減が国際政治の場で話し合われていた時期でもあり、CO2の温室効果がそんなにあるのという驚きの表現となり、あっという間にCO2主犯説が世界中で信じられるようになってしまった。というのが、私の感想である。しかし、金星の高温はCO2の温室効果が原因ではない。人々に危険性を説き、地球温暖化対策を成功させようと思う気持もわからないではないが、それによって真実が歪曲され、正しい判断を見誤ることの方が心配である。
金星の温室効果については、Wikipediaの「暴走温室効果」のところに詳しい解説があり、金星の今の状況は暴走温室効果ではないと明記されている。また、高温の原因もCO2の温室効果ではないことが明記されている。金星でのCO2の温室効果はせいぜい27.3~91℃の範囲の温度上昇しか引き起こさないと見積もられている。地表温度は水などによる冷却効果が大きく、金星ではその機能がないが、地球ではその機能が働いていることが、金星と地球の大きな違いになっている。もし、地球に大量の水がなければ金星のように高温化したかもしれない。また、もし金星に大量の水が存在していれば、地球のようになったかもしれない。
正直言って、暴走温室効果(runaway greenhouse effect)にかなり振り回されてしまった。Wikipediaのこの項に正しい解説があり、胸をなで下ろした気分である。しかし、同じWikipediaの「金星」の項ではCO2の温室効果が原因で高温になったと記述がある。書いた人が違うのであろうが、風評に惑わされない良識ある人がいることに感謝の念を表したい。