3.地球の赤外観測データ その3
その1の衛星からの観測データだけでは不足なので、他の文献:
R. A. Hanel, B. J. Conrath, V. G. Kunde, C. Prabhakara, I. Revah, V. V. Salomonson, G. Wolford, The Nimbus 4 infrared spectroscopy experiment: 1. Calibrated thermal emission spectra, J. Geophys. Res. 2629-2641, 77, 1972
を読んでみることにしたい。しかし、この文献は著作権があり、そのまま公開することはできないが、最初のアブストラクトまでは発行元でも公開されているので、まず、そこまで訳してみようと思う。
「The Nimbus 4 Infrared Spectroscopy Experiment : 1. Calibrated Thermal Emission Spectra」
The infrared interferometer spectrometer carried on the Nimbus 4 meteorological satellite measures the infrared spectrum of the earth and atmosphere between 400 and 1600 cm―1. The instrument is similar to one flown on Nimbus 3, but a number of improvements have been implemented, including higher spectral resolution (2.8 cm―1), higher spatial resolution (5 degree field of view), and a lower noise equivalent radiance (0.5 to 1.0 erg-sec―1-cm―2-ster―1/cm―1). In an effort to obtain spectra with high absolute accuracy, it was necessary to incorporate many factors into the calibration, including small departures from unity in the emissivity of the on-board calibration source, imbalance between cold and warm calibration ports, and effects due to orbital variations in instrument temperature. The inclusion of such higher order corrections, along with careful data screening processes, has ensured a high quality data set that can be used in a variety of geophysical and meteorological investigations. This set is available to qualified investigators. Representative samples of data are presented that illustrate the behavior of the thermal emission spectra under a variety of conditions encountered in a typical orbit, including extremes in temperature, surface reststrahlen effects, and various types of cloud conditions. The data are being used currently in a number of investigations that include a study of radiative transfer processes in the atmosphere, examinations of vertical sounding techniques, studies of the statistical properties of the spectra, and the study of global fields of temperature and ozone.
ニンバス4気象衛星に搭載されている赤外干渉スペクトル分光計は地球と大気の400から1600cm―1の間の赤外スペクトルを測定する。装備はニンバス3で飛んだものと似ているが、いくつかの改良がなされ、より高いスペクトル解像度(2.81600cm―1)、より高い空間解像度(5度の視界)、そして、放射輝度 (0.5 to 1.0 erg-sec―1-cm―2-ster―1/cm―1)に相当するより低いノイズが実現されている。高い絶対的精度のスペクトルを得るための努力の中で、多くの因子を較正(訳者:校正でもよい、観測装置の補正のこと)に組み込む必要があった。その因子とは、一緒に搭載されている較正用線源(訳者:観測結果を補正するための基準となる発光装置のこと)の放射率における一様性からの小さなズレ、較正用ポート(訳者:較正用線源の観測装置本体もしくはコンピュータとの接続部分のことだろうが、詳しいことは不明)における寒暖の不均衡、そして、装置温度の衛星軌道変化による効果などである。このような高い次元の補正の取り込みは、注意深いデータの事前観測調査過程(訳者:スクリーニング:事前に調査すること)を通して、様々な分野の地質学的、気象学的調査に使用できる高い品質のデータを保証している。このデータは専門の研究者のために利用可能である。代表的データのサンプルが提示されている。これらは、衛星軌道が出会う様々な状況下、極限の温度、表面の残留放射線の効果、そして、様々なタイプの雲の状態の熱放射スペクトルの様子を描写している。このデータは、現在、いくつかの研究で利用されている。大気中の放射移動過程の研究、鉛直探査技術の検証、スペクトルの統計的性質の研究、温度とオゾンの大域的領域(訳者:global fields の具体的内容は不明)の研究、などである。
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関係するスペクトルのみ載せた。Fig.12は極近くのスペクトルであるが、(d)を見ると明らかにCO2の発光が確認できる。真ん中にピークがあり、その周りが窪み、そしてさらに両側が盛り上がっている。おそらく、上空へ行くほど気圧が下がり線幅が狭くなる、また、温度が低下しスペクトルの形状が変化するためと思われるが、吸収と発光が連続的に起こる場合のスペクトルの変化をシミュレートしてみれば確認できるであろう。吸光度の高いところは早く吸収され、吸光度の低いところはなかなか吸収されないので、そのズレがある。しかし、放射は常に温度が律速となって、熱平衡状態からの発光なので、温度と気圧でスペクトルの形状が決定される。しかし、常に同時に同じ場所で吸収と発光が起きる。このシミュレートはかなり難しそうである。吸収と発光が完全に同じではないことも考慮しなければならない。吸収は熱平衡状態にある回転準位の零点振動モードから変角振動モードへの遷移であり、発光は熱平衡状態にある回転準位が重なった変角振動モードから零点振動モードへの遷移である。遷移が起きるときの熱平衡分布が両者で異なり、スペクトルの形状がかなり異なっているはずである。しかも温度と圧力で変化する。(キルヒホッフの法則から吸収と発光は等しいらしい。スペクトルの形状は違ってないのが本当のようである。分光学の世界では吸収と発光が同じかどうか気にしている人はあまりいなかったように思う。通常、レーザー励起で特定の励起状態を狙い撃ちして発光させることが多く、吸収スペクトルとは全く違うものが得られるのが普通だからである。)
*CO2からの発光が667cm-1付近で観測されているが、いつも220K(約-50℃)付近の温度の発光となっている。雲の上でも同じであるので、対流圏上層部から成層圏にあるCO2の発光と思われるが、実際の温度は220Kよりもっと高いと思われる。しかし、CO2の吸光度は濃度が低くても相当高いので、発光も同じぐらい高い。やはり220K付近かもしれない。CO2濃度が低いと発光も小さくなり、CO2濃度が増えると発光も大きくなるのが普通であるが、成層圏の温度低下が観測されているとかなんとかの話があり、上空でのCO2濃度が増えるとそこからの発光が増え、地球温暖化の逆になるような気がするがどうであろうか? 温度が低下すると発光強度も下がるが、濃度が増えて発光強度が増えたことが原因であるから、平衡状態は発光強度が増える方向に働き、地球寒冷化の方向へシフトするという逆の現象も起きるように思ってしまう。CO2が成層圏から上の熱圏やもっと上のところから発光している可能性もあるが、その希薄なところのCO2の挙動が宇宙から見たCO2の発光にどのように影響するのか、もっと詳しく調べてみたほうがよいように思う。CO2の大気上層部での地上からくる放射熱を吸収して放射平衡になったとき、地球表面へどれだけ返し、宇宙へどれだけ放出するのかは、かなり簡単に見積もれるのではないであろうか? どうもその辺の詳しい説明資料が欠けているように思う。 私の調査不足だとは思うが・・・
*CO2からの発光はもっと大気圏上層部の熱圏や中間圏の可能性もある。衛星からの観測はCO2は大気圏全体にわたって濃度が増大しているようである。宇宙の外から見て667㎝-1の赤外線がどこまで通っているのか見れるのではないか?
*CO2濃度が上昇すると吸収や発光が増大するが、その増加は比例関係にはなく、濃度が二倍になっても発光や吸収は少ししか増加しないように思うが、きちんと計算してみようと思う。
*人工衛星から677㎝-1付近のCO2吸収領域のレーザー光を地球大気へ向けて照射し、同じ波長の発光をもう一つ別の衛星から違う角度から観測するともっと詳しいことがわかるのではないであろうか? 誰かそのような研究をしていないであろうか?
*なぜ、667㎝-1(15μm)付近のCO2発光にこだわるのか、であるが、CO2濃度が増えるとその発光が減るために地球温暖化が起きていると考える人と、濃度が増えてもその発光はそれほど変化しない、もしくは逆のことが起きるかもしれないと考えている人がいるということのように思える。つまり、地球温暖化は、この大気圏外から観測されるCO2の発光が減少するかどうかで決定される。この問題が解明されれば、温暖化問題は明確になり、CO2の温暖化への寄与がより一層明確になるであろう。
もう一つは、大気から地上への熱放射がかなりあり、その効果がCO2濃度が増えると増大するかどうかである。地上付近では対流の効果と熱伝導が大きく、この見積もりはかなり複雑である。地形や水の影響が大きく、場所によって大きく変化する。地球温暖化問題は非常に難しい問題であり、大きな論争があっても不思議ではない。